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「故繊維」という言葉をご存知でしょうか。着古した服や十分使った布などの廃繊維製品類を指し、これらを回収し原料として供給する事業のことを「故繊維業」と呼んでいます。

アップサイクルやサステナブルといった言葉が一般化する前から、日本で育まれてきた故繊維業。
その現場から、単に原料として卸すだけではなく、自社発信でものづくりをしていこうとする動きが見られます。それが今回ご紹介する「TONITO(トニト)」。

なぜこの取り組みをスタートしたのか、ファッション業界の課題や、ものづくりの大切さについてなどお話しいただきました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

廃棄するしかない秋冬ものの衣類をどうにかしたいという想いから

―「TONITO」はどのようなブランドでしょうか。

東谷氏:回収した衣類の中からリサイクルできず焼却処分するしかなかった衣類を主原料としたプロダクトを作り上げるブランドです。
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TONITOは「新しい価値を持ったプロダクト」をコンセプトに、原料調達から分別、素材開発から製品企画までを一貫して行います。現在はリサイクルウール糸を使用したラグやブランケット、雑多な繊維をフェルトにした多機能ポットトートやメガネケースなど、インテリア雑貨を中心にラインナップしています。

「TONITO(トニト)」という名前は「雷・雷鳴」を表すラテン語の”tonitrus(トニトルス)”を由来とし、ブランドの想いから生まれるリサイクル、アップサイクルなクリエイティブの数々で、お客様や繊維業界にも稲妻のような衝撃を与えたいと願い、名付けました。近年、廃棄衣料の量がすさまじく増加しているなか、モノの価値に対する考えを再定義していきたいと考えています。

―立ち上げのきっかけを教えていただけますか。

東谷氏:故繊維が年々多くなっていっているという現状と、リユースできない衣類や複合繊維でリサイクルできない衣類が30~40%ほど占めるなか、まずは秋冬の衣類をどうにかしないといけないという思いですね。

ーというと?

東谷氏:というのも故繊維の多くは東南アジアへ輸出されているのですが、向こうは暑いので、暖かい衣類は必要ないんですよ。それで、どうしてもゴミとして捨てることになってしまっていました。
毎年大量に出るウールを再生できないだろうかと考え始め、例えば廃棄ウールから糸を作り、新しい製品を生み出すようなことができたらいいなと思ったんです。

といっても僕はアパレルの人間でもないですし、糸がどうできているか全然わからない。ですので、まずはいろんな工場に出向いてイチから教わるところからスタートしました。セーターをワタにする反毛工場、ワタから糸にする紡績工場、そして糸から製品にする工場、一軒一軒足を運び教えてもらいながら始まっていきました。

―喜多さんはこのプロジェクトのディレクションにどのように関っているのですか?

喜多氏:前職時代でのアップサイクルプロジェクトにご協力いただいた頃から、東谷さんとは交流があったので、「TONITO」の立ち上げ当初から関わらせていただいています。ものづくりの進行部分は東谷さんにお任せして、当社はプロダクトやブランドのデザインや、業界にどう伝えていくのかという部分をサポートしています。

エシカルを当たり前にするために、素直に「かっこいい」と思えるものづくり

―「TONITO」のブランディングに関してはどのようにお考えでしょうか

喜多氏:まず「廃棄衣料で作られたものである」というストーリーを前面に出して語ることはしないでおこうと思いました。能書きよりもビジュアル訴求、ブランドデザインなどの直球的なアウトプットを重視した設計や打ち出し方をしていきたいのです。まず「センスがいい」とか「おしゃれだ」と感じないと、所有していただけないと思いますので。

それは前職のプロジェクトをやっていたときから思っていたことなんです。エシカルであることが当たり前の世の中を目指している立場として、説明的なことはあえて排除し「かっこいいな」と手に取ったときに、実はそういう背景のあるプロダクトだったんだと思ってもらえる、そんな見せ方をすごく考えています。

―現在はウールのブランケットやフェルトのバッグなどを展開されていらっしゃいますね。主にどういった方に販売されているのですか?

喜多氏:オンラインで販売しているほか、お取り扱いいただいているのはセレクトショップさんやインテリアショップさんが多いですね。
あと「TONITO」はブランドでもあるけれど、共同のプラットフォームのようにもなれればいいなと思っていて。ブランドが手がけるプロダクトもありながら「TONITO」と何か一緒に作りたいという人が集まってものづくりをする、器的なブランドになっていくとより良いのかなと思っています。

東谷氏:そのためには、ものづくりをされる方々に「故繊維業」という、古着を回収してリサイクルしている現場があるんだということを知っていただきたいですね。
その上で「かっこよく」も見せたい。両輪で表現できたらいいなと思っています。
これまでアパレル業の方々をはじめ一般の方々も、我々の現場にあまり興味を示されなかったのですが、今少しずつ認知も広まってきていて、これからはさまざまな交流が生まれてくるのではないかなと感じています。

同じテーブルに座って知ること、学ぶことの大切さ

―実際に衣類の仕分けをされている現場や、仕分け後の衣類の行き先を知ることができ、とても勉強になりました。それと同時に、廃棄されるしかないお洋服もこれだけたくさんあるんだということにも驚きました。

喜多氏:インターネットで調べるだけではなくて、実際に見ることで新たな課題が発見できますよね。アパレル業界の方々も、自分たちが扱っているお洋服がどういう道を辿って廃棄されているのかを、もっと知ったほうがいいのではと思います。というのも「環境を考えたものづくりをしている」と謳いながらも、実際は環境に対して無意識的に悪影響を与えている場合もあったりしますので。

もちろん新たな研究レポートやさまざまな要因が関連してくる課題なので、完璧な正解を導き出すのは難しいし、アップデートも必須になると思います。でも、個人としても企業としても、実際に目で見て考えることで、選択に責任を持つことが大切だと思います。自分も実際に故繊維業の現場に来てみて気付かされたし、それが「TONITO」をはじめとした当社のプロジェクトに続いているのかなと思います。

―どう学んでいいのかわからない、というアパレルの方々もいるのかもしれませんね。先ほどプラットフォーム化していきたいというお話もありましたが、環境に対してアプローチしたい方々と「TONITO」が一緒に向上していく未来があるのかなとも思いました。

東谷氏:そうですよね。よく企業同士は事業の「パートナー」という言われ方をしますけれど、実際のものづくりの現場を見てみると、あくまで「発注する側」と「受注する側」になっていて、現場の意見はあまり尊重されず、建設的な話し合いはされていないように感じます。
反毛や紡績の工場の職人さんも「とりあえずこれでやれと言われたからやるしかない」という感じで、せっかくの技術があっても活かしきれていない。
同じテーブルに座ってきちんと話ができるような取り組みが、もっとできたらいいのかなと思いますね。

喜多氏:部門や分野の垣根を越えて、共働でプロジェクトを進めていくことがもっと加速しないといけないですよね。トレーサビリティの部分でもそうだし、お互いをリスペクトしつつ課題に向き合い、ポジティブな結果に導いていくというか。ただ、自分たちの利益を減らしてでもそういった選択に向かえるかというと、今の日本ではなかなか難しい部分もあるとは思っていて。

だからこそ小手先ではなくて、本質的にイノベーティブな仕組みに転換しないといけない。
一度立ち止まって、自分たちの業界や地球の未来について考えて、ファッションの仕組みも変えていく。大手企業になるほど、このような「自分事化」が社員に浸透するのは難しいと思いますので、会社としても社員一人ひとりが環境課題に対してアプローチできる機会をもっと増やすべきなんじゃないのかなと思います。

―「TONITO」は雑誌「FRaU」が主催するエシカルアワードも受賞されていますね。そのように結果として残っていくことも大事なのかなと思うのですが。

喜多氏:ありがとうございます。東谷商店さんは、東谷さんのお父様の代からいろいろ目を向けておられて、京都工芸繊維大学の研究室とも共働されています。そういった長い知識と経験に基づいてものづくりがなされているのも、受賞の大きな要因だったと思います。自分事化できた人だからこそ、しっかりとしたプロダクトができるのかなと思いますね。

東谷氏:僕だけではなく、製品作りの職人さんと一緒にやり取りしながら作るのもすごく大事です。ウールひとつ取っても仕上がりが全然違いますし。うわべだけの情報ではなかなかここまでの仕上がりにはならないと思います。ただ、日本の職人さんは後継者不足が本当に深刻で、僕がお世話になっている工場でも60歳以下の人はほぼいない。この現状もなんとかしないといけないですよね。

現場からブランドを作り上げる時代

―ブランケットに占める再生材の比率はどのぐらいなのですか?

東谷氏:当初約70%だったものが、100%に近づいてきました。ブランケット1枚だと糸の量は600gほど必要で、セーターに換算するとだいたい2枚分ぐらいになります。

―製品になる前の、再生糸の段階で原材料として引き受けてくれるようなメーカーはあるのでしょうか。

喜多氏:まだまだ少ないのではないかと思いますね。私がディレクターを務めたGreen Down Projectでも、始めはそうでした。日本のアパレル製品には品質基準の高いハードルがあり、リサイクル素材の再流通には、技術や品質向上と並行して、買い手側の考え方や解釈も変わっていく必要があると思います。サプライチェーン全体や消費者も含めて。

商社さんが素材見本を持って営業するときに「この原料はこういうストーリーで、誰が作っていて……」などと、この分野の川上のストーリーまで語って、価格という基準以外で課題解決や情熱を広めていけるような段階ではまだないかもしれません。
回収スキームはある程度整ってきていると感じてはいますが、集まる量に対して、再流通として捌けていく循環率にはまだまだ課題がありそうです。

―フィンランドなどでは国をあげて再生繊維を使っていこうという政策も始まっていますが、日本ではなかなか同じようにはいかないでしょうか?

喜多氏:いい風潮ですよね。日本でも官民連携で発信に力を入れてきてはいますが、まだまだ縛りは緩く、民間や消費者に委ねる側面は大きいですよね。
回収事業などにおいてはスケール感を出そうと新規参入されている企業もたくさんありますが、「モノを売る」ということに関連する環境課題は、市場の競争原理と反比例する側面が強いですよね。例えば回収=物流ですので、乱立するより連携して一元化したり、地域で完結するほうが理にかなっていることも。

東谷商店さんのように故繊維に携わってきた既存の業者さんが、新規事業として新たなソリューションに関わっていくことも大切だと思います。
例えば牧場を経営しながら、採れた牛乳でチーズを作ってブランド化するみたいな、そちらのほうが既存の生業をベースに発展していけますし、トレーサビリティの面でもポジティブな気がしますね。

―実際に手を動かしている現場の方が、ブランドも運営すると。確かにそれならほかの事業者さんでも「自分の会社ならどうアプローチできるだろうか」と考えやすい気がします。

東谷氏:そうですよね。故繊維を材料として仕入れている企業はあるかもしれないけれど、僕たちみたいな現場からプロダクトを作っているケースって現状ほとんどないと思います。そういった企業がもっと増えていったらいいのかなと思いますね。

取材協力:TONITO
https://tonito.theshop.jp/