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素材や製品が社会を経由し役割を終えた後、ごみとして捨てられるのが一般的な流れの中で、「素材としてまだ使えるものはたくさんある。回収、再利用の流れを作り出そう」と立ち上がった人物がいます。
約2週間で捨てられる運命にあった屋外広告の再利用を進めるプロジェクト「openmaterial(オープンマテリアル)」発起人である、株式会社ペーパーパレードの守田氏と、一般社団法人530の中村氏です。
今どんなことが起こっているのか、そしてどうこの問題を解決していくのか、おふたりに話を伺いました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

掲載が終了した屋外広告の行く先とは

守田篤史(右)/ 株式会社ペーパーパレード代表。2014年から東京都墨田区のファクトリーブランディング・プロジェクトにおいてアートディレクションを担当。作り手とユーザーのより良い関係をつなぐモノ・コトのデザインを企てる。
中村元気(左)/ 一般社団法人530代表。2013年から原宿のキャットストリートで地域コミュニティCATsをスタート。ゼロウェイストをコンセプトに530を立ち上げ、人や団体をつなげながら環境インパクトを生み出す活動を実践。
株式会社ペーパーパレードの社内にて取材を実施

―本日はよろしくお願いします。まずopenmaterial(オープンマテリアル)の誕生のきっかけから教えていただけますでしょうか。

守田 グラフィックデザイナーとして屋外広告のデザインにも携わっている中で、「広告掲載が終了した分の生地をいただけませんか?」と聞いてみたことがあったんです。すると「知的財産権の部分で難しい」という回答をいただきました。確かに、広告にはさまざまな人や企業が介入しているので、“知財”の部分をクリアにしなければ次に進めないということに、そこで初めて気づいたんですね。

そこで掲載終了した広告は一体どうなっているのか調べてみたら、ほとんど焼却処分か埋め立てになっていると。しかも屋外広告は2週間で入れ替わることが多く、これはあくまで自社調べではありますが、渋谷駅前エリアだけで年間20〜30トンもの屋外広告が捨てられているという事実に行き当たって。屋外広告は、雨風に耐えられるよう、いろんな繊維が混ざり込んだ特別な生地を使用しているので、メーカー保証としては6年、実際には10年以上は問題なく使えるものなのに、躊躇なく捨てられているということに愕然としてしまいました。使えるのにどんどん捨てられているものを生かしていくべきではないか、そんな思いにかられプロジェクト立ち上げを決意しました。

知的財産権を守るための印刷技術を開発

―屋外広告から、どのようにして“生地”にしていくのですか?

守田 最初はパートナーになっていただける工場を探し、屋外広告を回収して洗浄し、縫製をかけてプロダクトにするという仕組みづくりからスタートしました。その部分のスキームはできあがったのですが、一方で回収業者さんの秘密保持の部分や知財の関係でなかなか実行ができない状況だったんです。そのため、広告企画の段階から入り、掲載終了後に我々の手元に届くような仕組みを作らなければいけないと、知財の部分に本格的に入っていくことになりました。

どのようにしたら知財が守れるのか、最初は手探り状態で。印刷部分を削ったり溶かしたりすれば消えるのでは、などいろんなアイデアが出てきた中で、上から新たにパターンを印刷すれば、元からあった広告を“わからなくする”ことができるんじゃないかと思いついて。銀行などから届く封筒を思い浮かべていただいたらわかりやすいのですが、中が見えないようにパターン印刷がされていますよね、いわゆるあの考え方です。

実際やってみたところ、白ベタやスミベタで隠すよりも元の広告デザインがわかりにくく、これならいけると。しっかり知財も守れるようになったので、企業さんにも「知財の部分は解決できるので回収させてください」と提案できるようになりました。このシステムを「openmaterial(オープンマテリアル)」と名づけ、屋外広告のみならず廃棄ルールの決められていない素材を回収し、新たな価値の発見と創造を行うべく着々と動いています。

知財をクリアにするパターン印刷

守田 現状、屋外広告としては2,000平米ぐらいのテニスコート8〜10個分ぐらいの面積は回収し、素材として活用できています。ただ、これでもまだまだ氷山の一角なので、少なくとも年間10トン程度は回収して活用していきたいと考えています。

―openmaterialとしては、あくまで廃棄物を再利用できるように素材化するプロジェクトであって、御社で何かプロダクトを作る、というわけではないのですね。

守田 そうですね。僕自身デザイナーなので「プロダクトを作る」という行為にはすごく魅力があるのですが(笑)、ゼロウェイストな社会の実現を第一に掲げているので、あえてそこには行かず、素材にしてみんなに使ってもらうこと、それがいちばん大事なのかなと。こういった問題があることを認識していただき、それをみんなで解決して使っていきましょう、というご提案が主軸になります。

認知を広めるためにプロジェクトを拡大

―一方で中村さんは一般社団法人530(ごみゼロ)の代表理事をされていらっしゃいます。openmaterialとの関わりや主な事業について教えていただけますか。

中村 守田さんが広告を回収し再利用する、というサーキュラー型のモデルを立ち上げようとされていたのは知っていました。そんな中で、私のほうでもアップサイクル(※)の企業との取り組みと悩みの多さに直面していて、私のところにご相談にこられてもすぐに形にならない場合も多くあったんです。
openmaterialはプラットフォーム化が目的とのことを伺い、それならより多くの人の目に留まるようにできるのではないかと。認知を広めるための取り組みとしてご一緒できそうだと感じたので、私がプロジェクトにジョインする形になりました。

530自体は3年目で、ゼロウェイストを掲げながらさまざまなアプローチをするコミュニティメンバーで成り立っています。私自身のアプローチとしては、いかに回収し再利用できる形まで持っていくかという部分で、まさにopenmaterialでの取り組みと一致しています。

―再利用するために、プラットフォーム化が必要なのですか?

中村 古紙の回収に関してはすでに効率的に集めるためのシステムができていますが、それ以外のものは知らないうちに燃えるごみになってしまっています。「回収する」と言い始める人がいないと回収が始まらないし、なぜ回収が進まないのかに関して疑問を持つためにはまず光を当てることが必要だと思っていて。

捨てられていく素材は何か、どのぐらいの規模で存在しているのか、なぜ課題なのかを知らせていくのはもちろん、回収する際の課題もさまざまなパートナーとともに解決していく。一つひとつの素材の行き先を決めてあげるようなプラットフォームをイメージしています。

廃棄まで考えたものづくりが重要ではないか

渋谷ヒカリエの屋外広告がバッグに

―openmaterialを立ち上げられて、さまざまな場所にご相談に行かれたと思いますが、企業の問題意識としてはいかがでしょうか?

守田 すごく持たれている印象ですね。何十年も同じやり方で屋外広告を出し続けていたけれど、こんな実情があったのかと。「それならぜひ協力したい」とおっしゃっていただけます。施工・処分を担当する業者さんにお話を聞いた際にも、「これだけたくさん捨てていることはすごく気になってたし、全面的に応援したい」とおっしゃってくださいました。

こういった活動をする際に、施工業者さんや回収業者さんに迷惑がかかるのはいけないなと思っていたんですが、「捨てるという部分に関して協力できることがあるなら、ぜひ一緒にやりたい」と言っていただけることも多くて。すごくポジティブに進めていけています。

―従来のやり方だと、民間の業者さんが回収されているのですか?

守田 そうですね。施工業者さんと回収業者さんが一緒で、ある程度溜まったら産廃業者さんに事業ごみとして出すという流れが一般的だと思います。中でも、とくに知財に関して厳しくルールが定められている屋外広告に関しては、社員総出で、手作業で細かく切ってからごみとして出していることもあるそうです。毎回のことではないので機械を導入するまでもないけれど、非常に面倒だという。そういった部分も、我々のプロジェクトの中で解決できるのかなと思っています。

―私たちがメディアを立ち上げたのも、そういった産廃の現場を目の当たりにしたときにやるせなかったというのがあります。外からはうまく回っているように見えても、実際のところ人や環境に負荷がかかっていて。焼却処分をしなければならないものがたくさんある中で、ものを作る側にこそ働きかけていく必要があるなと思って。

守田 そうなんですよね。ものづくりをする際に廃棄の仕方まで考える企業って、あまり多くないのが現状だと思います。けれど、リサイクルしやすい素材でものづくりをすることって、実はちょっとした考え方次第で可能だったりしますよね。
そんな中で大事になるのが、デザインのカッコよさかなと思っていて。今の価値観に合わせたカッコよさを提示できたら、若い子たちも胸を張ってこの問題に取り組めるよねって。結果的に地球にも環境にもやさしいものづくりが、大きな視点でできるんじゃないかなって思うんです。

さまざまな素材を回収、再利用して循環させていく

―屋外広告の素材は基本的には同じなのですか?

守田 いえ一律ではないんです。例えば、丸の内で使われているものだとビル風が吹くからメッシュ素材だったりしますし、商店街フラッグは人に近い場所にあるので落ちても危なくない素材が使われていたり、一方でしっかり布っぽい素材もあったりします

―ということは、素材によって流すラインが違っていて、地紋を印刷するやり方も異なるわけですか。

守田 そうですね、素材ごとに変えなければなりません。だから意外と細かくて大変な作業なんですよ。でも誰かがやらないとごみは増え続けますから。
今は屋外広告を中心に行っていますが、基本的には屋外広告以外にもさまざまな素材をopenmaterialとして扱っていきたいと考えています。今は木材加工のメーカーさんから「木工で出た切れ端を素材として活用するにはどうしたらいいか」とご相談をいただき、取り組んでいたりもします。

中村 素材ごとにかなり時間がかかるので、増やしていこうという意志で進めてはいるものの水面下で動いているものばかりでなかなか表立っては発言できなくて。ただ新しいことを始めるという非常に有意義な取り組みではあるので、一つひとつ時間をかけながら丁寧に進めている現状です。

守田 素材を作る上でごみを作っちゃったら意味がないので、最終的に出来上がったものが売れるものかどうか、というところまで考えていかないといけません。もちろん我々だけの知恵ではどうしようもない部分も出てくるので、随時協力をお願いしつつ、事業を独占しようという気持ちもありませんし。ただ、知的財産権が絡んでくる場合には、業者さんを守る必要もあるのでプラットフォームがないと責任が取れない。その部分は大事にしつつ、丁寧に進めていきたいですね。

取材日:2022/6/6
取材協力:openmaterial