昨年10月に創業したエナウム株式会社。同社が社会実装を目指すWTE(Waste to Energy)システムは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で描かれた「ゴミを燃料に変える未来技術」を現実のものにする技術です。
分別不要で投入できる廃棄物から高品質な航空燃料(SAF)や電力を生成するこのシステムは、持続可能なエネルギー循環と廃棄物削減を同時に実現するものです。株式会社マイクロ・エナジー社の代表取締役である橋本芳郎氏が25年にわたる研究開発の集大成となるこの技術を社会実装すべく、研究を通じて出会ってきたメンバーとともに2025年10月に設立したのがエナウム株式会社。

「社会実装していくにはバトンを受け継いでくれる若い力が必要だと思った」という橋本氏の思いを受けて同社の代表取締役/CEOに就任した早川昇氏と最高価値責任者/CVOの深萱正人氏にシステムの現在地と展望を伺いました。

映画の創造を現実に——ゴミから高品質燃料を生み出す技術
—エナウムのWTEシステムで生成できるSAF(再生航空燃料)の特徴を教えて下さい。
政府は航空業界の脱炭素化に向けて2030年までに国内の航空会社が使用する燃料の10%、およそ170万キロリットルをSAFに置き換える目標を掲げています。航空機は自動車のように電化するのが難しいというのが理由です。
現在主流となっているのは廃食油などを原料とするHEFA方式なんですが、世界的なSAFの需要増で廃油価格が高騰し、化石由来の燃料よりも高いものになってしまっています。
日本ではバイオエタノールを原料したATJ方式の開発も進んでいますがこれでもまだ10%には届かない。
私共が取り組んでいるFT合成方式の最大の特徴は、原料を選ばないことです。廃プラスチック、廃タイヤ、太陽光パネル、食品残渣、都市ゴミ、さらには下水汚泥まで、多様な廃棄物から燃料を生成できます。
従来の技術では処理が難しかった素材も受け入れることができるのも特徴です。たとえば、樹皮や海水に浸かってしまった災害廃棄物の木材など、塩分が設備にダメージを与えるからと従来のバイオマスでは引き受けてもらえなかったものでも、我々のシステムでは処理することができます。

―製造コストの方はいかがですが?
成熟した技術であるHEFA方式に比べれば初期投資は高いですが、原料となる廃棄物は通常処理コストがかかるものです。我々のシステムでは、原料となる廃棄物の処理費用をいただきながらSAFを生成して販売することができる。処理するのにコストが掛かる厄介モノを価値ある燃料に変えられることがコストの相殺にもつながると思います。
理想的なシンガス生成技術——25年間の研究開発の集大成
—御社のシステムはどのように開発されたのでしょうか?
エナウムの最高技術責任者/CTOである橋本芳郎が2003年に創業したマイクロ・エナジー社で25年かけて開発してきたWTEシステムがベースになっています。
バイオマス及び有機性廃棄物を熱分解によりガス化して発電したり、FT合成で液体燃料を生成したりする技術なんですが、従来のバイオマスは原料を選ぶんですね。しかも平地に森がある欧州などと違って山岳地帯から原料を運んで来なければならない日本では輸送コストも掛かる。ならば木材にかかわらず身近にある様々なものを原料にできれば、もっと言えば処理するのに困っているものを原料に付加価値の高いものを生み出せればという思いで25年間かけて開発、バイオマスタウンのひとつである徳島県那珂町を始め、各地で実証事業を行ってきた技術なんです。

大きな特徴はガス化において世界最高水準の水素濃度60%を出力できる技術です。FT合成で液体燃料を生成するには水素と一酸化炭素が2:1のシンガスを使うのが最適とされているんですが、その理想的な比率でシンガスを組成するという難易度の高いハードルをクリアできる技術で特許を取得したこと。そこにFT合成・触媒技術を専門とする深萱がCVOとしてジョインしたこと。この2点でより高品質な液体燃料を生成できるようになりました。
―御社のシステムで廃棄物からSAFを生成するまでのプロセスを教えて下さい。
まず廃棄物を適度な大きさに粉砕し、無酸素状態で加熱して炭化します。その炭に過熱水蒸気を入れることで、シンガスと言われる水素と一酸化炭素のガスに合成していくんですが、ここで特許技術により制御して2:1の理想的な状態にしていきます。これを合成触媒で直鎖状の炭化水素に変えていくというプロセスです。

―技術的な側面についてCVOの深萱さんに伺いたいんですが投入できないものはないんですか?

このシステムが効率よく機能するためには、有機物のカーボン(C)が含まれていることが重要です。カーボン自体を使ってシンガスを作りますので、プラスチックやゴムなど有機物であるカーボン(C)が含まれているものほど効率よくガスを組成できます。一方で、砂や金属、ガラスなどの産業廃棄物など無機質なものは効率が悪いです。かといって今までのように分別していれば手間もコストもかかる。ですので、たとえば廃棄物となった太陽光パネルなどは分別せずに投入してSAFを生成した後にその残渣からガラスや希少金属などの都市鉱山を回収して別の形で再資源化するプロセスを考えています。
従来の燃料よりも安価で高品質——経済性を備えた革新燃料
—生成されるSAFの価格はどれくらいになるのでしょうか?
現在のSAF市場価格は300〜500円/L、場合によっては1,000円/Lと高止まりしていますが、廃棄物の処理費用をいただくことを込みにすると我々のシステムで生産されるSAFの製造原価は50〜100円/L、化石由来の燃料(80円~100円/L)と同等、あるいはそれ以下のコストで生産できる可能性もあります。あまり大々的に言うと問題になるかもしれませんが、内部試算ではゆくゆくは30〜50円/Lが技術的に可能なのではないかとも話しています。
―深萱さん、品質は化石燃料由来のものと比べていかがですか?
私どもの合成燃料はコストが安いだけでなく、原油から作るものよりも高品質だという自負があります。現在、認証を受けているSAFは従来のジェット燃料に最大50%までしか混ぜることができませんが、将来的に混合比率の上限が上がれば、航空業界の脱炭素化に大きく貢献できると考えています。
オンサイトで分散型エネルギー生産——40ftコンテナに収まるシステム
—早川さん、この夢のようなシステムをどのように社会実装していかれるんですか?
私どものシステムの大きな特徴は、40フィートコンテナサイズで設置できるコンパクトなものなんです。

一番小さいものでいえば1日あたり1トンから数十トンの処理能力を持つ設備を、廃棄物が発生する現場の近くに設置。たとえば離島や遠隔地など、これまでエネルギー供給やゴミ処理コストに課題を抱えていた地域でも効率的なシステムの運用が可能です。
たとえば、実装場所として考えているもののひとつに建設現場があります。現場で出る廃材を処理してディーゼル燃料を生成し、それを建設機械に供給する。建設現場のCO2排出量の約75%は建機の燃料に由来していますので、大幅な環境負荷低減に貢献できるのではないかと考えています。
また、下水処理場に設置すれば、下水汚泥から燃料を生成することも可能です。従来は処分に困っていた下水汚泥が、エネルギー源として価値を持つようになる。最近問題になっているPFAS(有機フッ素化合物)の処理にも対応できますので、カーボンニュートラルに限らない様々な問題を解決できるのではないかと思っています。
―廃棄物の削減率としてはどのくらいの試算をされているのでしょうか?
廃棄物の種類にもよりますが、炭化水素系のゴミであれば、残渣は投入量の約3%程度まで減量します。つまり、97%が資源化されるということです。これによりどれだけの廃棄物処理費用をいただけるかが生成コストをどれだけ下げられるかの課題になります。
法規制の壁と社会実装への挑戦
—社会実装に向けて他にはどんな課題がありますか?
自治体などへのシステム導入でいえば、実績がないのが最大の課題です。導入を検討していただく場合、「どこでどう稼働していますか?」という質問を必ずいただくんですが、廃棄物を燃やして発電しているところはありますが、廃棄物を処理してSAFを生成している自治体はまだ世界のどこにも存在していません。
ただ、私どもは昨年の10月に創業したばかりですので、これに関しては実績を積み上げることで社会実装を進めていければと考えているんですが、自分たちの努力だけではどうにもならないのが3つの法規制です。
「廃棄物処理法」では複数市町村からの廃棄物収集が難しい。
「高圧ガス保安法」では保安係員の24時間常駐義務がある。
「消防法」には危険物保安監督者の立会・監督義務があります。

特に「高圧ガス保安法」の常駐義務というのが実用化の大きな障壁となっています。理由はそもそも「高圧ガス保安法」の免許を持っている人材が非常に少ないこと。また、24時間体制で稼働させるには3人から5人でローテーションを組まなければなりません。これが生成コストを大きく押し上げることになります。
これに関して弊社ではAIによる遠隔監視システムの開発を進めていて、安全を脅かさない形での遠隔監視を認めていただけるよう働きかけていきたいと考えています。
40年前に世界中をワクワクさせた未来を現実に
―最後に早川さんから意気込みをお願いします。
弊社のWTEシステムは、単なる廃棄物処理技術ではなく、未来のエネルギー循環を実現する革新的な技術です。この技術が社会実装されれば、廃棄物処理コストの削減、高品質なSAFの安定供給、CO2排出量の大幅削減という三つの大きな社会的価値をもたらすと考えています。
「廃棄物は『ごみ』ではなく『資源』という認識を広めていきたい」です。
―深萱さんはいかがですか?
広島にいる私の知人がデロリアンのEVを作ったんですけど、40年前に映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンが、バナナの皮やウイスキーでタイムトラベルできたように、私たちは廃棄物から高品質なエネルギーを生み出す夢の技術でワクワクするような現実を作っていきたいと思っています。
