50回以上訪れた日本が、次なる挑戦の舞台
「日本市場は、我々の技術にとって非常に適していると思います」。そう語るのは、香港を拠点に食品廃棄物の再資源化を手がける革新的なスタートアップの創業者、Jude氏です。彼は過去10年の間に50回以上日本を訪れており、その都度、日本社会の環境意識の高さと生活インフラの整備に感銘を受けてきたといいます。
特に東日本大震災後、日本では分散型エネルギーや再生可能エネルギーへの関心が高まっており、地方自治体による導入事例も増えています。
「東京や大阪のような大都市では、スペースが限られており、作業員の確保も難しい。だからこそ、小型で自動化された我々の技術が役立つはず。香港でも人材確保が難しい業種は多い。特に清掃や食品処理の現場では、若年層のなり手が少なくなってきている。我々のように運用が簡単で、省力化できる機器のニーズは、日本でも確実にあると感じています。」
人手不足という点でも、香港と日本の課題は非常に似ているとJude氏は語ってくれました。

食品廃棄物を価値に変える、ゼロ排出テクノロジー
Jude氏の会社が開発した装置は、食品廃棄物を液状化(スラリー化)し、それをバイオガスやバイオディーゼルに変換することができます。さらに特徴的なのは、タンパク質や使用済み油など、素材に含まれる価値ある成分を抽出する特許技術です。
「肉や魚などのタンパク源は、飼料やバイオ製品の原材料としても活用できます。生ごみをただ処理するのではなく、再び社会に循環させるところまで設計されているのです。」
従来型の処理装置は堆肥化が多く、投入できる廃棄物の基準が厳しかったり、処理に時間がかかることから扱いが難しかった一方で、同社の機器は全量リサイクルを目指し、液状化という一次処理を行うことで最終的にゼロ排出を実現を目指しています。
「我々は排出ゼロの思想で設計しています。装置内で適切な微生物環境を保ち、外部から菌を追加せずに安定運用できる点も、他社との大きな違いです。」
すでに大学との共同研究や、EV充電用バイオガスの導入実証もスタートし、特に日本では、既存のガスプラントと連携可能な移動式バイオガスユニットの導入を進めており、実証実験が複数進行しているとのことです。

香港と日本の差異が示す、制度と教育の重要性
香港では、廃棄物の処理は見えない存在であるとJude氏は、自国の廃棄物処理事情をそう語ってくれました。家庭ゴミを出しても、誰が、どのように処理しているのかを意識する機会がほとんどなく、分別に関する教育も小中高すべての段階でほぼ行われていないとのこと。
一方、日本では、自治体によっては有料のゴミ袋制度や細かな分別ルールが存在し、住民のリテラシーも高い。
「日本は政策的にも文化的にも環境意識が高いと感じます。これは非常に大きな違いであり、我々が学ぶべき点です。」
香港では今ようやく、政府や企業が循環型社会の重要性に気づき始めた段階であるが、政策と教育、この2つがセットで進まないと、いくら技術があっても社会に根付かなく、これは日本が既に乗り越えてきた課題であり、香港でも今それを追いかけている状況であると語ってくれました。
ドイツでの出会いから始まった挑戦と、アジアに広がる展望
Jude氏の原点は、2005年に訪れたドイツのバイオガスプラントだったそうです。父親のエンジニアリング会社で働いていた頃、初めて目にした廃棄物処理施設が、彼の人生を変えました。「ごみがエネルギーになる。その仕組みに感動しました。同時に、これは誰でも使える技術にすべきだと思ったんです。」
以来、彼は一貫して「小さくても持続可能な装置」を目指して開発を重ねてきました。コロナ禍で製造現場とのやりとりが難しくなるなど、困難も多かったが、それらを乗り越えて、現在では香港、シンガポール、インドネシア、そして日本市場での展開を視野に入れています。
「アジア全体が2050年のカーボンニュートラルに向けて動き出していますが、実際にはまだ制度やインセンティブが整っていない国も多い。だからこそ、企業が先んじて動くことが重要。日本企業はその点で非常に先進的です。日本は環境技術の蓄積も豊富で、実践例も多い。どうかそれを近隣国に共有し、アジア全体の底上げに協力してほしい。文化や言語の違いはあれど、環境を守るという目的は皆同じです。」
とメッセージをいただきました。
