服一着を作るために、浴槽約11杯分の水を消費し、500mlペットボトル約255本を製造するCO2が排出される*一方、手放された服は、約6割が可燃ごみ・不燃ごみとして廃棄されています。
服の「手放し方」に変化が求められるなか、energy closetが手がけるのは、手放すことに着目した循環型のファッションビジネスです。「CLOSETtoCLOSET」は、一枚3千円の参加チケット購入で、自宅に眠る3着の服を新たな3着に交換できる仕組みを採用。個人が不用品を売買するフリマアプリや古着屋といったリユースショップとは一線を画す新しい形態のビジネスです。
この異色の循環型ファッションが受け入れられる理由は、どこにあるのでしょうか?創業から約7年、挑戦を続けてきたenergy closet 代表 三和沙友里さんにお聞きします。
服を売らない「CLOSETtoCLOSET」。物々交換をサービスに変える
「CLOSETtoCLOSET」は、ひと月に数回、ポップアップショップとして、東京・千葉をメインに開催されています。参加者は、3千円の参加チケットを事前に購入。開催日に、自宅のクローゼットから不要な3着の服を店に持ち込み、新たに好きな3着を選んで持ち帰ることができます。1着ずつ服を販売するのではなく、物々交換を有料化したことが大きな特徴です。

会場には、ベーシックなシャツからカラフルで個性的なアウターまで400着以上の服が並び、スタイリングを相談できるクルー(販売員)も常に立っています。「CLOSETtoCLOSET」のサービスは持ち込んだ服を交換するサービス。洋服に値段はついておらず、すべての服の中から気に入った服を自由に選べるのです。
ユーザーは20〜30代をメイン層としながらも、10〜70代までの幅広い層が足を運び、リピーターは半分以上を占めるといいます。
また一度の開催でのチケット販売枚数はタイミングによりばらつきがありますが、会場によっては100枚を超えたこともあるほど。2018年の起業以来、多くの人から支持を集める「CLOSETtoCLOSET」がこの7年間で循環させた服は、約5トンにのぼります。
どんな服も循環できる。廃棄を生まない仕組みとは?
ーおもしろい形態のビジネスですね。立ち上げた経緯を教えてください。
私自身、服が好きなのに、楽しめなかった時期がありました。もともとファッションが好きで、いろいろな新作の服を着て可愛く着飾りたいと思う一方で、クローゼットが着ない服で溢れたり、洋服と財布が見合わなかったりというモヤモヤした気持ちを抱えてたんです。
ファッション産業に目を向けると、莫大な地球環境汚染や途上国の過酷な労働環境で成り立っている事実も知りました。スローファッションを試したものの、自分にはあわなくて。もっといろいろなファッションを試したい気持ちを、あらためて実感したんです。服が好きなのに孤独を感じたこの時期が、起業に至る大きなきっかけにつながりました。
ー手放すと同時に、新しく服を手に入れる仕組みにしたのは、どんなきっかけからですか?
服を手放すことは、単なる処分とは違うと思うんです。服はただのモノではなくて、作り手の想いが込められているし、着る人の気持ちが込められています。むしろ誰かの着たい気持ちへとバトンを渡す、大切な瞬間だと考えています。「CLOSETtoCLOSET」で、服を手放すことと着たい気持ちが交わる瞬間をつくり出したいという思いから仕組み化しました。

ー「CLOSETtoCLOSET」のサービスは、初めから受け入れられたのでしょうか?
立ち上げ当初は、「CLOSETtoCLOSET」の新たな仕組みをお客様に受け入れてもらう難しさがありました。まず、受け入れてもらうために、「CLOSETtoCLOSET」の仕組みをシンプルに打ち出しました。3千円のチケットで3着の服が手放せ、新たに3着の服が手に入る。それ以上のことは発信しなかったんです。
お客様が持ってくる洋服にルールをつけたり、「CLOSETtoCLOSET」のファッションテイストを打ち出したりせず、場所もまずは渋谷で、その後はできるだけ出向けるようにしました。仕組みが特徴的だからこそ、ほかを削ぎ落としてシンプル化し、印象に残るようにしました。
ーどんな服も引き取ってしまうと、売れない服が生じ、廃棄や不要な在庫につながらないでしょうか?
あらゆる服を受け入れられることが、私たちの一番の強みです。「CLOSETtoCLOSET」には私を含めてファッションを楽しみ提案できるクルーばかり。クタクタになってる可愛いさや、シンプルなデザインなどそれぞれのよさを活かせば、どんな服もスタイリングできると思っています。
どの服にも必ず、似合う人がいて、シンデレラがいるという感覚ですね。だからどんな服が着ても大丈夫、と自信を持っています。「CLOSETtoCLOSET」に持ち込まれたあらゆる服は循環・再生され、これまで廃棄を生んでいません。
こうしたクルーが持っているファッションへの熱意や、お客様が似合う服を提案する接客などは、アパレルブランドの本質的なところでもあり、「CLOSETtoCLOSET」がこれまで続いてきた理由だと思っています。
ーファストファッションも多く普及しています。手放された服は、品質面で見るとどうでしょうか?
ファストファッションを普段から購入される方たちの利用は少ないですね。「洋服を捨てずに大切にしたい」というコンセプトに共感してくださる方が、多く利用してくれていると感じます。
とはいえ、ファストファッションも少なからずあります。ファストファッションはトレンドが大きな特徴なので、状態のいいものは流行が変わる前に早めに売り切り、状態のよくないものは「upHAND」というもうひとつの事業で、洋服以外にリメイク・販売する方法もとっています。
廃棄ゼロを後押し。「upHAND」で取り組むアップサイクル
ー3年前からアップサイクルブランド「upHAND」が始まりました。どんな取り組みですか?
「upHAND」では「CLOSETtoCLOSET」でお預かりした服のうち、品質など状態がよくないものを、「リメイク古着」「古着からできた枯れないお花」「upcycle 刺繍ワッペン」の大きく3つにアップサイクルしています。いずれもクリエーターがデザインし、「CLOSETtoCLOSET」とは別店舗を構えて販売しています。
ー「upHAND」でのアップサイクルに対する姿勢や考え方を教えてください。
私たちはアップサイクルの大前提として、ゼロから洋服を作る方たちへのリスペクトを込めて、洋服を最後まで使い切るよう心がけています。著作権の問題も取り上げられていますが、リスペクトする気持ちがあれば、問題は生じないと思っています。
またリーガルチェックは必須です。チェックを細かく行ったうえで、クリエーターが制作しています。

ー「CLOSETtoCLOSET」とは別事業として、アップサイクルに取り組むメリットは何ですか?
ひとつは、「CLOSETtoCLOSET」でリユースできない服をリメイクし、「upHAND」で販売すれば収益化できることです。リユース(CLOSETtoCLOSET)とリメイク(upHAND)事業を持った大きなメリットだと思っています。これにより「CLOSETtoCLOSET」でお預かりした服は1枚も捨てずに循環できています。
また、「upHAND」の原材料は「CLOSETtoCLOSET」の在庫なので原価はほぼかかりません。直接販売しているため、仲介手数料を抑え、利益が出る形をとれています。
等身大の想いが共感を広げていく
ーユーザーからはどんな反応ですか?
「CLOSETtoCLOSET」に共感してもらえていると感じます。好きなものを大事にする気持ちは、みんな当たり前のように持っていますよね。洋服を好きな人も同じで、大事にしたいんです。でも、洋服はお財布と相談するし、TPOを考えると好きな服をいつでも着れるわけではなく、意外といろいろな障壁があります。
ファッションのサステナビリティを考えても、ファストファッションはいけないとか、洋服は捨てたらいけないとか、やってはいけないほうが先に出てきてしまいますよね。共感はするけど、100%の共感はできない。そう感じている方が多いのではないでしょうか。
低賃金で働かざるを得ない途上国の人たちを考えると、正当な価格を払い購入しなければいけないと分かってはいるけど、毎日必死で働いて生活していて余裕がない方も多いと思います。そんな人たちが、「CLOSETtoCLOSET」の、服が好きだという姿勢や作っている人にリスペクトを示し捨てずに誰かに服を届ける取り組みに、気持ちよさを感じて共感してくれたのだと思います。
私が発信する言葉に感化されたというより、「共感」に近い感覚ですね。みんなの中にあったモヤモヤ、ちぐはぐな気持ちが私の言葉でつながり心の底から共感してくれたと思っています。
ー三和さんの等身大の想いが共感を広げたのだと感じました。現状の課題、今後の展望をお聞かせください。
以前の孤独を抱えていた私のように、服が好きだけど楽しめない人たちはまだまだいるはず。そんな人たちともっと出会っていきたいと思います。
今は渋谷が中心ですが、いろいろな場所に出向きたいですね。「CLOSETtoCLOSET」の認知度はある程度あがりましたが、初めて知ってもらう人に、「CLOSETtoCLOSET」の個性的なビジネスと世界観をどう伝えるかは、模索しているところです。事業規模の拡大というよりは、隠れ家のようなお店を目指して活動を続けていきます。

■参考URL:energy closet公式サイト