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北欧流の持続可能な施設再活用〜解体せずに用途変更して人気になったスポット4選【コペンハーゲン】

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現在、世界のCO2排出量の約40%は建設・建築から発生しています。「環境先進国」、また、優れたデザインを生み出す「デザイン王国」といわれる北欧諸国では、住み心地がよく、環境への負荷が少ない建物作りに積極的に取り組んでいます。

今夏、デンマークの首都コペンハーゲンで、そうしたエコ・フレンドリーな建築をたくさん見学しました。見た目も魅力的で雰囲気もよく、とても印象的でした。コペンハーゲンは、2023年、ユネスコとUIA(国際建築家協会)が選ぶ「世界建築首都*」にも指定され、建築分野のデザインでも世界的に注目を浴びています。

環境に配慮した建築の方法は様々ですが、今回は既存の建物を解体することなく、新しい施設として生まれ変わらせた4つのスポットをご紹介します。どこも居心地がよく、コペンハーゲン市民にも観光客にも人気の場所です。

(*選定された国では、持続可能な都市作りに欠かせない建築や都市デザインについてのイベントが開かれる。第1回目の2020年はブラジルのリオデジャネイロ、第3回目の2026年はスペインのバルセロナが選出された)

教会⇒夕食が有名な「市民センター」

私が訪れた晩の「共同の食事」は、ナスがメインディッシュだった。私の周りには、他に7人(デンマーク人、スウェーデン人、アメリカ人)が座った(トップ画を含め、すべて著者撮影)

中央駅から徒歩で約20分(電車を使うと10分)のフォルケフーセ・アブサロン(Folkehuset Absalon)は、以前は教会でした。1934年に建てられ、2013年に閉鎖が決まり、地元の起業家が買い取りました。その後の改修を経て、2015年夏、コミュニティセンターとしてオープンしました。

中に入ると、多色使いの壁やテーブルに驚かされます。エントランスや階段、ホールや元は聖壇だったステージ、地下にあるトイレまでカラフルです。家具は教会の椅子を使ったり、蚤の市で見つけたものだそうです。教会特有の強い残響音は、天井の吸音パネルや長いカーテンによって解消されました。

くつろげる雰囲気のホール(ステージから玄関側までの眺め)。2階も自由に座れる

年中無休、朝7時半から夜遅くまで開いています。低料金で飲食ができ、ヨガやダンス、陶芸や絵画、コーラス、ゲーム、リペアカフェといった多彩な催しが毎日行われ、誰もが歓迎されます。

「共同の食事」と名付けられたここでの夕食はとりわけ有名で、互いに面識のない150人以上がホールのテーブルに集まり、一緒に食べます。「人々と出会い、交流することを大切にする」のが狙いです。家族や友人5、6人などグループで参加する人もいますが、当日の受付で、他人が必ず同席するように配置してくれます。メニューは日変わりでベジタリアン食が多く、1人60~100デンマーククローネ(1400~2300円)と、デンマークの物価を考えるととてもお得です。定員に達することが多いので、オンラインでの早めの予約がおすすめ。私が訪れた晩も満席でした。

食肉工場⇒「食事街」や「イベントホール」

茶色い建物のエリア。屋根にガラス窓が並ぶ左手の建物は、イベントホールのØksnehallen。120年以上前に、1600頭の肉牛を収容する場所として建てられた

中央駅近くの「食肉加工地区(英語でmeatpacking district))と呼ばれる一帯には、茶色や白の古い建物が並んでいます。ここは、コペンハーゲン市が安全な食肉を人々に供給するために作りました(この集約化された施設から各地の精肉店に肉が流通した)。現在も食肉加工は行われていますが、もはや工業地区ではなく、レストラン、バー、アートギャラリー、クリエイターのスタジオなどが集まる文化的なスポットに生まれ変わっています。コペンハーゲン市はこの地区の保護や発展に引き続き取り組んでいます。

白い建物のエリア。ある日の午後、たくさんの人たちが飲食を楽しんでいた

1番古い部分は、140年以上の歴史を持つレンガ造りの茶色い建物のエリアです。その後、灰色の建物群が増築され、さらに、平らな屋根が特徴的な白い建物のエリア(築90年以上)が作られました。この地区が楽しく活気ある場所へと変貌を遂げ始めたのは、食肉業の衰退が始まった20年ほど前です。茶色と白の建物群は、国の産業遺産として保護されています。

地下貯水槽⇒「地下の美術館」

Cisternerneの玄関と館内。公園からは、地下に美術館があるとはまったくわからない

ヨーロッパの美術館は多数訪れましたが、システルネン(Cisternerne)のような場所は稀です。この美術館は公園の芝生の地下に広がり、ガラス屋根の出入口と階段でアクセスできます。4320㎡の広大な地下空間は自然光が差し込まない、1850年代に建設された古い貯水池。約1600万ℓの水を貯め、コペンハーゲン市民に供給していました。1933年に貯水池としての役割を終えて以来、60年以上も使われていませんでした。

転機は、コペンハーゲンが1996年に欧州文化首都に選ばれたことでした。この時から文化活動が始まり、数年後には現代ガラス美術館へと発展。2013年に、フレデレクスベア美術館グループ(計4つの美術館)に加わりました。

Cisternerneは夢の世界のよう。2025年11月末まで、デンマーク生まれのビジュアルアーティスト、Jakob Kudsk Steensen氏の作品を展示。 糸を使った作品で知られる塩田千春さんも、ここで個展を開いた

システルネンの壁は花崗岩、天井と床はコンクリートで出来ており、柱はレンガ造りで、鍾乳石も見られます。常に水が浸み込むため、水が溜まる場所には通路が設置してあります(排水はされている)。真夏でも気温は16℃と涼しく、ゆっくりと建築や作品を鑑賞していると肌寒いくらいです。12月から3月までは厳寒のため休館します。

訪問時にキュレーターのTine Vindfeldさんと話したところ、毎年、国内外のアーティストに特別な作品制作を依頼しているとのことでした。気候変動に焦点を当てた展示も行われるそうです。

国鉄の倉庫⇒緑豊かな「憩いの場」

納屋の改修には再利用の建材や天然の建材を用いた。業務用キッチンも再利用品だという

バーネゴーデン(BaneGaarden)はサッカー場2.5面分もの敷地を誇る、隠れ家的な憩いの場です。自然、オーガニックフード、様々なイベントを1年中楽しめます。古く粋な風合いの茶色い建物には、カフェや屋台が入っています。これらは 1909年にデンマーク国鉄DSBによって建てられた納屋で、、何十年も放置されていました(屋根が崩壊するなど、劣化が激しかった)。それが「ここで持続可能性な活動を実践していこう」という理念をもった起業家たちのおかげで、徹底的に修復されたのでした。

私はイベントのない時間に訪れましたが、お喋りしたり、読書している人たちがたくさんいました。美しい緑の中で、リフレッシュできました。

左)建物内にあるお洒落なカフェ 右)植物園内の築 100 年の温室(解体予定だった)をここに移転し、レストランとしてオープンさせた

コペンハーゲンでの様々な施設跡地の再活用の事例を目の当たりにし、日本での「サステナビリティを軸にした、人と人とが交流する空間作り」のお手本にできるのではないかと思いました。