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群馬県を拠点に産業廃棄物処理を行う企業である「ナカダイ」が2016年に新会社「モノファクトリー」を創設しました。モノファクトリーは、「発想はモノから生まれる」をコンセプトに、廃棄物に新たな価値を見出して、ソーシャルマテリアルとして再利用を行う「リマーケティングビジネス」を展開しています。

気候変動やSDGsへ取り組む企業が増える中で、デザインやマーケティングの切り口で、廃棄物をリサイクルする前に、もっと別の使い方ができないか?と、企業や社会に問いかけています。この再利用の考え方はサーキュラーエコノミーのビジネスモデルの中でもエネルギー効率が良い手法とされています。

今回は、ナカダイがデザインへの取り組みを始めたきっかけや、モノファクトリーが提唱する「リマーケティングビジネス」や「ソーシャルマテリアル」という考え方について、モノファクトリー津藤さんにお話をお伺いしました。

※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。

「発想はモノから生まれる」というコンセプトに込めた想い

モノファクトリーさんがリマーケティングビジネスを行う「ソーシャルマテリアル」の数々とインタビューご協力者のモノファクトリー津藤さん。

―事業内容を教えてください

「発想はモノから生まれる」をコンセプトに、廃棄物に新たな価値を見出して、ソーシャルマテリアルとして再利用を行う「リマーケティングビジネス」を展開しています。

―「ソーシャルマテリアル」とは、どういう物を意味していますか?

現状は「廃棄物」とされている物を、社会全体の「素材」として再認識して、再利用していくことを指しいて「ソーシャルマテリアル」と表現しています。

―「リマーケティングビジネス」とは、具体的にどのようなことを行っていますか?

リマーケティングビジネスとは、循環を意味する「Re」と「マーケティング」と「ビジネス」を組み合わせた、モノファクトリーが生み出した造語です。例えば、使い終わった「ソーラーパネル」をアップサイクルして「テーブル」を作るように、廃棄物に新たな価値を見出して素材(マテリアル)として再流通させるビジネスのことを「リマーケティングビジネス」と呼んでいます。

―「リサイクル」というと再資源化することになると思いますが、「リマーケティングビジネス」はその前段階として、もう一度素材として使える方法を探しているんですね。

その通りです。リサイクルも「資源として再流通させる」という意味では、リマーケティングビジネスと同じですが、リサイクルでは「生まれてきた形を一度壊す」ことが前提となります。
しかし、モノファクトリーでは、まだ使える素材を壊してリサイクルする前に、そのままの形や特徴を生かして、モノの寿命を伸ばしたいと考えています。

―モノファクトリーさんの中では、再資源化の中でも優先順位が決められてるんですよね?

モノファクトリーが大事にしているのは「不要になった物を廃棄物にしないこと」です。つまり、最も優先すべきなのがリデュースで、その後に、リユース、アップサイクル、リサイクルの一連の流れで、素材の新しい使い道を考え、必要とする方につないでいます。

また、リサイクルの中でも、廃棄物を焼却して「熱回収」を行う「サーマルリサイクル」よりも、廃棄物からを新たな製品の素材に生まれ変わらせる「マテリアルリサイクル」を優先し、どうしてもリサイクルできない物に関しては、できる限り環境負荷の少ない方法で適切処理をします。

―モノファクトリーさんはいつから今の事業活動をやられていますか?

まず最初にグループ会社である「ナカダイ」の1つの取り組みとして2011年にスタートしました。その後、2016年に分社化し、「モノ:ファクトリー」として動き始めました。

―ナカダイさんは元々「リサイクル率99%」を実現していたと思いますが、その上で、さらに「リマーケティングビジネス」にも着手した背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

ナカダイは、事業を行っている廃棄物業界の売上は「廃棄物の量×処理単価」で決まります。これは、日本中で排出される廃棄物の量が増えれば、ナカダイの売上が上がる仕組みとも言えます。

一方で、世の中の流れとしては「廃棄物の量を減らす」必要がありました。つまり、ナカダイのビジネスモデルと世の中の動きに逆行が生じていたんです。

このことを当時の代表がずっと疑問視しており、廃棄物を集めるだけのビジネスモデルから脱却するために、ソーシャルマテリアルを集めるという切り口で、リマーケティングビジネス事業をスタートさせました。

リサイクル率99%を達成した秘訣は「手解体・手分別」

―ナカダイさんの「リサイクル率99%」という成果は、どのように実現されたのですか?

ナカダイでは「捨て方をデザインする」というコンセプトを掲げています。まず、ごちゃごちゃに混ざったごみを仕分けるのは困難です。なので、排出事業者の方々の方で、リサイクルしやすいように分別をして排出していただいているので、ナカダイではリサイクル率99%を達成できています。

―しっかりと分別をしているからこそ、リサイクル率99%を達成できているんですね。

排出事業者の方々にも分別排出の協力をしていただきつつ、ナカダイに入っていきた廃棄物は全て、手解体・手分別でさらに細かく分別を行って、さらにリサイクル率を高める工夫をしています。

手解体・手分別を行うためには、排出事業者の方々から頂く処分費を高くしなければならないこともあります。しかし、処分費が高くなっても、リサイクル率を高めたいという思いを持った企業からの依頼が増えているんです。

―具体的には、排出事業者側では、どのような分別が行われていますか?

ナカダイは製造業のお客様とのお取引が多いので、製造工場に複数の分別容器(ごみ箱)を設置していただき、製造過程で不要と判断されたモノを捨てる時に、それぞれ指定の分別容器に入れていただいています。『分別は面倒』というイメージを持っている方が多いと思いますが、捨てるごみ箱が違うだけであれば、排出事業者の方々の手間もそれほど多くなりません。

このような工夫をせずに、ごみがごちゃ混ぜになった状態で排出されてしまうと、そこから分別してリサイクル率を高めるには、手間もコストもかかるので、やれないことはないですが、あまり現実的ではありません。そのため、ごみになってしまう前に、しっかり分別を行い、素材として回収しやすい工夫が大切だと考えています。

排出事業者の方々にしっかりと分別をしていただくことで、その分、環境負荷の低減、CO2の削減、リサイクル率の向上につながり、さらに廃棄物の処理にかかるコストが下がる可能性もあるので、分別の提案をし続けています。

大手企業とのコラボレーションで大きなムーブメントを起こす

―廃棄物が発生する段階から関わることで、リサイクル率を高める結果に繋がっているんですね。

その通りです。最近では、製品の設計段階から関わらせていただき、動脈側にも入り込んでいくことで、そもそも分別しやすい構造にしつつ、リサイクル率を高めやすい素材を使う製品開発にもご協力させていただいています。

―企業の設計段階からサポートしている具体例を教えていただけますか?

ECサイトでスーツケースの販売をされている企業なのですが、「販売するだけではダメだ、SDGsの作る責任を全うする」という想いから、販売する際に不要になったスーツケースを下取りとして集める回収の仕組みを一緒に構築しました。

具体的な仕組みとしては、スーツケースをお客様に配達した時に、そのトラックで不要になったスーツケースを回収してリマーケティングセンターに集めます。その後、リユースできるものはリユースして、壊れて使えないものは、丁寧に分別・解体をして、それぞれリサイクル率を高めつつ、環境負荷の低いリサイクル処理を行っています。これらのリサイクルに関わる全ての費用を販売企業で負担しているんです。

―大手企業がそのような取り組みをしていると、業界全体の底上げが進みそうですね。

数年前まで、このようなサステナブルな取り組みは「コスト」として捉える企業が大半でした。しかし最近は、サステナブルな取り組みをしないと、将来的に業績が落ちると危機感を抱いている企業が増えていて、コストではなく「未来への投資」と捉える傾向が高まっています。

今はお金を生み出さなくても、今からやらないと間に合わないと考えてご相談いただくことが増えています。

OpenAとモノファクトリーがコラボしたアップサイクルプロジェクト「THROWBACK」の商品の数々。THROWBACKホームページより

―他にはどのような企業とコラボレーションしていますか?

OpenA様という建築設計やリノベーションを行う企業と共同で「THROWBACK」というアップサイクルプロジェクトを運営しています。

THROWBACKとは、その名の通り「投げ返す」という意味があり、不要になった物をもう一度社会に投げ返すというメッセージを込めています。先ほどお話ししたソーラーパネルをアップサイクルしたデスクや、消防ホースをアップサイクルしたベンチは、捨てられる物に新たな価値をつけて、社会に投げ返している一例です。

―THROWBACKでアップサイクルに使っている素材は、ナカダイで回収した物ですか?

はい、大半のモノはナカダイが回収したモノです。その中からTHROWBACKで利用できそうなマテリアルをピックアップし、排出事業者から使用の許可を得て、モノファクトリーが買取り、アップサイクルしています。

ーモノファクトリーさんの担当者が定期的にナカダイのヤードに行って、使えそうなものを探しているのでしょうか?

最初はモノファクトリーの担当者が、ナカダイで日々60tほど処理している廃棄物を定期的に行って確認していました。しかし現在は、ナカダイの現場で働く方々にも、モノファクトリーの取り組みがかなり浸透してきたので、変わった廃棄物が持ち込まれた際に、現場から我々に提案してくれる流れになっています。

捨てられるはずだったものから新しい商品に生まれ変わる素材を見つけることが、ナカダイの作業員の方々にとっても1つのモチベーションや楽しみになっています。

そのため、モノファクトリーの方で新しいアップサイクルの事例ができた際には、積極的にナカダイにも発信することで、より良い循環を生み出そうと努めています。

ナカダイが「廃棄物×デザイン」に取り組み始めた理由 10年の積み重ねが業界の当たり前を変える

―ナカダイさんのコンセプトは「捨て方をデザインする」だと思いますが、最初にデザインの分野に舵を切ったきっかけは何だったのでしょうか?

最初のきっかけは、代表がドイツで開催された音楽祭に行った時に受けたカルチャーショックでした。それをきっかけに廃棄物をより深く広く解釈しようとか、それをより相手に伝えたい、知ってほしいと強烈に思うようになり、廃棄物業者として初めてデザイン関連の展示会に出展しました。その後、ファッション関連の展示会にも出るようになり、ナカダイの取り組みを発信しつつ、自社のブランディングを開始しました。

―廃棄物業者と言えば、環境関連の展示会に出ることが一般的ですが、デザインやファッション関連の展示会に出るとは珍しいですね。

当時としては、右も左もわからず手探りでやっていましたね。展示会のブースには、モノファクトリーで集めたソーシャルマテリアルを内装として使い、もちろん全てリユースしています。

しかし、環境関連の展示会に出展して「エコ」を発信しているにも関わらず、ブースは使い捨てている企業も多いので、弊社としても、もっと本質的にエコに取り組める企業を増やすことに貢献したいと思っています。

ー異色の取り組みだと思いますが、ナカダイさんの社内からはどのような反応がありましたか?

ナカダイの中にも保守的な考え方の方もいらっしゃいますが、産業廃棄物の業界は法律に密接に関わるので、気軽に新しいことをすることにはリスクも伴うのです。そのため、新しく始めることが法律や制度に違反していないかをしっかりチェックする必要があります。

現在は、ナカダイとモノファクトリーが協力しながら、ナカダイが集めてきた面白い廃棄物を、モノファクトリーが色々なお客様にご提案し、その結果をナカダイに共有することで、グループ全体の意識改革を進めています。

ー排出事業者の方々は、ソーシャルマテリアルの提供に関して、すぐに理解を示してくれましたか?

リマーケティングビジネスの取り組みを始めた当初は、排出事業者の方々に、産業廃棄物としての処理ではなく、ソーシャルマテリアルとして使用させてほしいと相談しても、よくわからないという理由で断られることも多々ありましたね。

その中でも協力していただける企業の方々のおかげで、少しずつ実績が増えて、この10年間でようやく我々の活動も広まってきたという段階です。

―モノファクトリーさんのリマーケティングに関して、取引先はどのような反応をしていますか?

まだまだ想いを伝えきれていないという印象です。全く新しい取り組みをしているので、なかなか理解されないこともありますが、1つずつ丁寧にご説明するしかないと思っています。

―今後、モノファクトリーさんとして注力したい取り組みについて教えてください。

リマーケティングビジネスについて、さらに多くの方々に伝えていきたいですね。

時流で、企業にはサステナブルという考え方が広まってきたと思いますが、特に一般家庭では、ごみ箱に捨てたら終わりと考えている方が多い印象があります。企業に限らず、一般家庭におけるごみの捨て方のデザインもしていきたいと考えています。

新たに仕掛ける「サーキュラーパーク九州」とは?

サーキュラーパーク九州の将来像

―今後は「サーキュラーパーク九州」という新しい取り組みも始まるんですよね?

ナカダイホールディングスとして、九州電力様が所有する旧川内発電所跡地(鹿児島県薩摩川内市港町)で、九州電力様、薩摩川内市様、学校法人早稲田大学様、鹿児島銀行様による、産官学連携を中心とした5者での協定を締結し、「サーキュラーパーク九州」の実現に向けた準備を進めています。

「サーキュラーパーク九州」は、資源を再生する資源循環の拠点として、元々は火力発電所としてエネルギー資源を生み出し社会を支えていた場所を有効に活用し、次の時代を担う場所へと進化していきます。その第一弾として、ナカダイと同じように「資源循環」に重きを置いた中間処理施設の事業を2024年に開始する予定です。

これを皮切りに、モノファクトリーのリマーケティングセンターの仕組みも導入し、廃油のリサイクル施設などの誘致も予定されています。

―誘致する企業の選定基準についてはどうお考えですか?

特に今、九州で資源循環が進んでいない課題に着手するために、既存の企業と協力して、より良い資源循環の仕組みを構築したいと考えています。

「産業廃棄物」だけでなく「一般廃棄物」の処理も行う予定になっているので、薩摩川内市自体のリサイクル率向上にも繋げたいと考えています。

―サーキュラーパーク九州に廃棄物を集めるのは、どのエリアが対象になる予定ですか?

最初は、鹿児島県内からスタートする予定です。その後、運用が軌道に乗ったタイミングで、対応エリアを順次広げる計画で進んでいます。

薩摩川内市で「花王」との共同で分別回収の実証実験を開始

鹿児島県薩摩川内市で花王とナカダイが共同で回収を行うエリアの自治会に配布したチラシ

―サーキュラーパーク九州でも色々な企業とコラボレーションを実施する予定ですか?

 はい。その予定です。その第一弾として、薩摩川内市が公募した「薩摩川内市SDGsイノベーショントライアルサポート事業」における先端技術を活用した実証実験プロジェクトに採択されました。

花王様とナカダイが共同で、薩摩川内市で花王様をはじめとするトイレタリー製品の使用済み容器の分別回収モデルの実証実験を、2023年4月からスタートしています。

―花王さんと行うのは、具体的にはどのような実証実験ですか?

今は一般家庭から集められているシャンプーやボディーソープなどの容器の多くはサーマルリサイクルとして焼却されています。

この現状を改善するために、飲料ペットボトルを資源として分別回収しているように、トイレタリー製品の容器も指定の日に、指定の方法で回収する仕組みを構築するための実証実験を行っています。

この実証実験により、現状「サーマルリサイクル」になっているものを、今後「マテリアルリサイクル」に変える仕組みを増やしていきたいんです。

―この実証実験で集めた使用済み容器は、どのように活用する予定ですか?

 現状は、集めた容器がどの程度の品質で、「マテリアルリサイクル」に変えられるのか、その実現可能性を探るために使用しています。

そして将来的には「水平リサイクル」を視野に、集めた使用済み容器を使えるようにしていきたいと考えています。

 そして、循環型に適応した製品を選択してもらえるような社会を、私たちだけでなく、回収に協力いただいた市民のみなさまとともに創っていきたいと考えています。

―企業との実証実験を続けつつ、一般消費者向けの発信も必要ですよね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

2023.04.20
取材協力:株式会社モノファクトリー様
https://www.monofactory.com/