ホテル新設で求められたサステナブル建築の要件
―Hotel Jakartaが建設された背景について教えてください
Hotel Jakarta Amsterdamが建設されたアムステルダム市の北部に位置するジャワ島(Java-eiland)は、かつてオランダの植民地であったインドネシアとの貿易船が行き来する貿易港でした。
1990年代にアムステルダムの東部湾岸地区の再開発計画が始動し、港以外に何もなかったこの地に、ホテルを建設する募集がかかりました。しかし、アムステルダム市からの募集には 「非常にユニークなアイディアであること」「近隣住民のための機能を持つこと」「サステナブルな建築であること」など多くの要件が求められたため、手を挙げる企業がいませんでした。
そこでHotel Jakarta Amsterdamのチェーンであり、オランダ全土で15か所のホテルを経営する私たちWestCord Hotels社が、ここにホテルを建設することを決めました。
WestCord Hotelsl社の当時のディレクターが、オランダとインドネシアの歴史を残すという想いでホテルの建設を決めたため「ホテルジャカルタ」という名前が付けられました。
―サステナブル建築の観点で工夫したことについて教えてください
サステナブルな建築の要件を満たすため、建築プロセスにおいて多くの工夫がされています。
まず、設計と原料についてです。建物の外壁のほとんどを窓ガラスにして自然光が差し込むようにすることで、照明や電気を使う必要がないようにデザインされています。
また建物の材料の多くに竹を使用しました。施設内の目にするものはほとんど、天井も床も装飾も全て竹でできています。竹は伐採すると自動的に、かつ非常に速く成長する、持続可能な素材です。
さらに、階段を中心とした場所には再生コンクリートを使用しました。
基本的にはこの3つの要素が、建築プロセス全体において非常に持続可能なものになっています。
自然の力を利用した空調システムの仕組み
次に客室についてです。客室はすべて「プレハブ工法」によって、非常にサステナブルに造られています。
全200室のうちの176室の客室は、アムステルダムの近くのウォグナム(Wognum) という都市でプレハブ化された状態で運び込みました。その後はレゴブロックのようにスピーディーに構築され、エネルギーの削減に繋がりました。
客室の中は、空調がない代わりに部屋の天井部分から外気を吹き込んでいます。また、室内の温度は床から冷やしたり温めたりしています。
これらの温度調整システムは一般的な床暖房とは異なり、地下の大きな貯水池に蓄積される川の水の温度によって調整されています。冬には川から冷たい水を取り出し、夏のために蓄積しています。夏になると冬の冷たい水をホテルの床に汲み上げて部屋を冷やしているのです。
また、すべての客室にバルコニーが設置されています。バルコニーがあることで、ゲストが新鮮な空気を吸うことができると同時に、外側と内側の間の断熱材のような機能を持っています。
―窓が2段階あることによって、温度調節ができるんですね。
その通りです。独自の空調システムは客室だけでなく、施設内の庭園でも行われています。これらの植物や木々は、ホテル内の温度をコントロールして空調の機能を果たしているのです。さらに、植物が必要とする水はすべて貯留された雨水で賄われています。
また、天井全体についている太陽光パネルからホテルの一部の電力を賄うことができており、この庭園の天井は室内温度が23度を超えると自動で外気を取り込むために開くように設計されています。
―多くの工夫が施されていて感銘を受けました。このような施設を作るにあたって、どのような企業と協業されたのですか?
私たちには多くのパートナーがいます。例えば、客室に提供されているボトルです。ゲストはこのボトルを持ち運ぶことで、施設内に設置されているウォーターサーバーで給水することができます。
先ほどお話した空調システムや庭園も、建築家が設計し、庭師によって実装されています。
また、オペレーションの点でも工夫しており、複数日滞在されるゲストに対して通常は毎日新しいタオルを提供していますが、ゲストが客室の清掃を不要とした場合、ホテルから1泊につき1本の植林をしています。このアイデアによって、87%のゲストが新しいタオルを使わず、再利用することに協力してくださっています。
廃棄物量計測カメラ導入の効果
―素敵なアイデアですね。こちらに宿泊するゲストは、サステナビリティへの関心が高いと感じますか?
もちろんすべてのゲストではありません。しかし、チェックインカードが使い捨ての紙製ではなく、竹製で作られていることに気づくゲストも多いのです。
関心のあるゲストに対しては、施設内にある5つのQRコードをスマートフォンで読み込むと、私たちがサステナビリティの観点で行っているすべての情報を公開しています。このような工夫により、意識を醸成できていると感じます。
一方で、ゲストに無理強いはしたくないため、あくまで自分で選ぶことができるというスタイルをとっています。
―従業員の環境教育はどのように行っているのでしょうか?
基本的には「Learning by Doing(実践から学ぶ)」です。
レストランの洗い場には、食べ残しや生ごみが発生したとき、何グラム捨てているかを把握するためのカメラがあります。それを通じて、従業員もどれほどの廃棄物を捨てているかに気づいています。
また、入社の際にはホテルのマネージャーがツアーを行い、従業員のオンボーディングをしています。そこでこの施設のシステムに加えて、従業員の制服がジーンズをリサイクルして作られていること、その後使い古した制服が施設内の椅子の素材に使われていることなどを知り、自然と意識を持つようになっていると思います。
従業員がアンバサダーとなり、ホテルジャカルタが何であるか、私たちが働いている施設がどのような施設なのかを知ってもらいたいのです。
ホテルジャカルタが目指す「地産地消」
―現在抱えている課題や、今後より改善していきたい点はありますか?
そうですね。今後の課題だと感じていることは、やはり食品廃棄物です。
私たちが提供する朝食はビュッフェスタイルなので多くの料理の選択肢があり、選択肢が多いことでゲストはたくさんの料理を取ります。しかしすべて食べ切ることは難しく、どうしても食品廃棄物が出てしまうものです。しかし、私たちはゲストに滞在を楽しんでもらいたいので、無理強いをすることはしたくありません。
そのため、現在改善できるアイデアとしては、朝食で提供するものを地元で生産しているものに置き換えていくことです。
例えば、オランダの多くのホテルでは中国産のオレンジジュースを提供していますが、代替として地元で作っているリンゴジュースやその他のジュースに置き換えたらどうなるだろうかと考えています。
―なるほど。私もオランダでの滞在を通して、オランダでは「地産地消」を重要視していると感じました。
その通りです。
一方で難しいことは、私たちのレストランのモットーである「2つの世界はつながっている」というコンセプトに沿って、東洋料理(インドネシア)と西洋料理(オランダ)を組み合わせています。インドネシア産か東洋産の食材も仕入れており、それらをすべてオランダで生産することはできません。
―アジアにもホテルジャカルタのようなサーキュラーなホテルがあったらいいなと思います。WesrCord Hotels社の今後の計画について教えてください。
まず、ここホテルジャカルタについては、よりアジアからの旅行客に来ていただけるように惹きつけたいと考えています 。ここには東洋の文化がありますし、アジア出身の従業員も多いため、アジアからのゲストにとって素敵な場所を作りたいと思っています。
また、ロッテルダムに新しいホテルを建設する計画があります。ロッテルダムにはすでにホテルニューヨークとS.S.ロッテルダムという2つの象徴的なホテルがあります。ロッテルダムはアムステルダムと同様に、蒸気船にまつわる歴史があります。アムステルダムからは東のインドネシアへの航路だったのに対して、 ロッテルダムからは西のアメリカの航路です。
ホテルジャカルタと同じ、サステナビリティのアイデアを生かしたホテルを展開していく予定です。