2025年10月13日まで開催中の大阪‧関西万博。半年後の解体を前提に建設されたパビリオンはその多くがサーキュラーエコノミーの理念に則り、容易に解体と資材の再利用が可能な設計・施工となっています。閉幕後の資材の行方にも注目が集まる中、話題になっているのが「ルクセンブルクパビリオンの天井膜屋根素材」を"一生モノ"のバッグなどにアップサイクルするプロジェクト。手掛けるのは廃タイヤチューブを再利用したアパレル製品など"エコ×デザイン"を理念に事業を展開する株式会社モンドデザイン。「想定以上のご予約を頂いています」という代表取締役の堀池洋平さんに今回のプロジェクトの人気の秘密を伺いました。

建築資材をアパレル製品に
— 今回のプロジェクトのきっかけを教えてください。
昨年の3月にルクセンブルクの方からご相談をいただいたのがきっかけです。
大阪・関西万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、新しい技術や文化交流を促進し、世界共通の課題に取り組むことを目指して開催されています。ルクセンブルクでもパビリオンの「サーキュラー・バイ・デザイン(循環型経済の原則に従って解体を念頭において設計されていること)」に本格的に取り組む上にあたり、閉幕後の建築資材の再利用方法を探されていました。

—ルクセンブルクはなぜ建築資材のアップサイクルをアパレルブランドである御社に?
弊社は廃タイヤチューブをアップサイクルしたアパレル製品などを手がけているのですが、製造を担当して貰っている大阪の皮革製品工房「株式会社ふく江」さんと繋がりのあったパビリオンの施工関係者を通じてその取り組みを知り「天井の膜屋根素材を使った製品が作れないか」という今回の相談に至ったそうです。
—アップサイクルの相談を依頼された素材にはどんな印象を受けましたか?
天井の膜屋根に使われているのはフランスのフェラーリ社という産業用ファブリックメーカーが作っているポリエステルの複合素材です。丈夫で防水性の高い、半年で解体してしまうのは惜しいくらいの素材でした。そんな高品質な素材を使えるだけでも大いに価値のある製品になると感じました。

—屋外で風雨に晒されることによる素材劣化の懸念はなかったのですか?
実際に素材を選定された施工関係者にも問い合わせたところ、通常は数年から10年以上使用されるのが前提の素材なので、半年程度では劣化もほとんどないとのことでした。実際に弊社でも取り寄せた素材サンプルを半年ほど屋外で風雨に晒しましたが、ほぼ変化はありませんでした。
フランスの建築素材と日本の皮革製品職人の技術融合
—丈夫な素材ということは逆に縫製が難しいのはないですか?
サンプル素材で試作品を作ったのですが、確かに硬くて縫製は大変でした。
ですが、製造を依頼している大阪の皮革製品工房「株式会社ふく江」さんには弊社の廃タイヤチューブを10年以上加工して下さっている職人さんたちの高い技術があります。廃タイヤチューブでもゴム素材のために針が詰まったり、滑って縫いづらかったりする問題がありましたが技術力でクリアして頂いた実績がありました。
今回も硬い屋根膜を綺麗に縫えるよう、針と糸の設定を試行錯誤することで試作品を完成させてくれました。

—製品のラインナップを教えて下さい。
「ボストンバッグ Mサイズ」「ワンショルダーバッグ Spiral」「グラスケース」「ミニウォレット」の4点です。

廃タイヤチューブを再利用する「SEAL」ブランドで人気のバッグや小物を膜屋根素材用にカスタマイズしたデザインなんですが、素材が高品質であること、また白を活かしたことで、シンプルながら清潔感と高級感あふれる製品になったと感じています。
また、10年以上屋外で風雨に晒されることを想定して作られた耐久性の高い素材なので"生涯の愛用品"にして頂けるのではないかと思っています。
ご依頼頂いたルクセンブルクの期待にも応えられる取り組みになるのではないかと。
—実際の製品化においてはどんなことが課題になりそうですか?
ルクセンブルクパビリオンの屋根は有機的な形状をしているので、解体した後に素材がどうなるのか現時点ではわからない部分もあります。生地が重なっているところや金属が入っているところは使えませんし、パビリオンの形状によって使えない部分も出てくると思います。
解体前にドローンなどで上空から全体の汚れ具合や状態を確認し、使える部分と使えない部分を選別する予定です。屋根膜全体で約700平方メートルあり、そのうち6割程度は使用できる見込みなんですが、残りの3割も何らかの形で活用できればと考えています。

—生産スケジュールはどのようになっているのですか?
解体は万博終了後の11〜12月に行われます。1月から生産を始めて、2026年の5月中にはお客様の手に届けるスケジュールを見込んでいます。
また、すべてが終わった後、このプロジェクトでどれくらいのCO2削減ができたかを定量化しようと思っています。その部分もお客様にしっかりと伝えられるようにしたいですね。
最大の魅力は「万博で使われた」という素材の「物語性」
—製品の予約受付開始とともに大きな反響があったそうですね?
万博の会期中はルクセンブルクパビリオン内でも試作品の展示と予約を受け付けているんですが、すでに多数のご予約を頂いています。
これまで本田技研のシートや航空会社のシートベルトなど、様々な企業と廃材を利活用したコラボレーション製品も販売してきましたが、建築資材というのは弊社にとって初めてかつ、ユーザーにとっても身近なものではないので反響が予測できない部分もあったんです。
興味深いのは、廃タイヤチューブの製品は男性が8割を占めていたのに対して、今回の製品は女性が5割程度と多いことでした。白い素材が女性にも受け入れられやすい要因になっているようです。
—多くの反響には、他にどのような理由があると思われますか?
素材が高品質であること、かつ耐久性がある製品であるのももちろんですが、「万博という歴史に残るイベントで使われた」という"素材が持つ物語性"が最大の魅力であり、それをアップサイクルしたことが、新たな価値の創造と多くの反響に繋がっていると感じています。
平たい言葉でいうと記念品的な意味合いで購入頂いている方も多いのではないでしょうか。

—「物語性」というのもアップサイクルの素材選びの大きなポイントになるということですね。
その通りです。弊社では今後も、歴史に残るイベントや記憶に残るアーティストのコンサートなど、短期的なイベントで出た廃材を製品化していければと思っています。主催者の廃棄コストとCO2も削減できますし、お客様にも喜んで頂ける。
物語性のある廃材を製品として生まれ変わらせることが環境問題の解決だけでなく、新たな価値の創造に繋がっていく。
今回の万博という歴史に残るイベントの記憶を日常に持ち帰ることができる製品作りも、廃材の再利用を超えた、未来への記憶の継承になればと思っています。