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「カプセルトイのカプセルの存在価値ってなんだろう?」。確かに顧客が楽しむのはカプセルの中に入っている商品。環境負荷で考えればプラスチック製のカプセルはひとつの課題なのかもしれません。ですがカプセルは、蓋を開けてみるまでわからない"ドキドキ"と"ワクワク"を演出する体験価値の一部なのです。環境には配慮しながらも、その体験価値を未来に残したい。1977年の誕生から48年、世界に向けて日本の1つの文化として発信・進化し続ける「ガシャポンの持続可能性」を株式会社バンダイ ベンダー事業部 生産・仕入チーム マネージャーの遠藤恵一氏に伺いました。

ガシャポンにとってカプセルの存在価値とは

— ガシャポンの歴史について教えてください。

バンダイのオリジナルカプセルトイブランド「ガシャポン」は1977年にスタートしました。自販機のハンドルを「ガシャ」っと回すと、カプセルが「ポン」と出るのがネーミングの由来です。

自販機の多くが電力を必要としないのも特徴のひとつ

初期に一大ブームを築いた人気キャラクターのフィギュア等を始め、世の中のトレンドや人気キャラクターが時代とともに移り変わっていく中で、お客様のニーズに応える形で商品だけでなく、販売する自販機や売り場自体も進化させてきました。高品質にこだわり、バラエティ豊かな商品を展開しています。2021年以降は海外にもガシャポンバンダイオフィシャルショップを出店し、世界中で「ガシャポン」をお楽しみ頂ける環境づくりに取り組んでいます。

— ガシャポンにとってカプセルとはどのような存在であると捉えていますか?

ガシャポンにおいて、カプセルは単なる容器ではありません。カプセルを開ける時の「何が入っているかな?」という"ドキドキ"と"ワクワク"。それを演出する重要な体験の一部がカプセルなんです。

カプセルがあるからこそ、ガシャポンの体験価値をお客様に提供することができる。これは、ガシャポンの誕生から48年経った現在でも変わっていません。

また、好きな商品を通じて、お客様のコミュニケーションが生まれるのも「ガシャポンⓇ」の魅力です。

ガシャポンを持続可能な文化にするために

—一方で、プラスチックの使用削減と環境保全という社会課題とはどう向き合って来られましたか?

「ガシャポン」の商品展開が拡がっていくということは、それだけプラスチック製のカプセルを世の中に送り出していくことになります。これは社会にとっても、私たちにとっても1つの大きな課題であると認識しています。

これまでを振り返っても、商品を取り出した後のカプセルはお客様の視点では不要なものになることが多く、「ガシャポン」を世界中に拡げていくうえで、このカプセル自体の在り方や、持続可能なかたちについて、常に問題意識をもって検討を積み重ねてきています。

そして20年近く前のことになりますが、「ガシャポン」のサステナブルの第一歩として、2006年からは「空カプセルの回収」が始まりました。

—現在では回収した空カプセルのリサイクルにも取り組まれているんですよね?

2021年にカプセルトイ業界では初の取り組みとして、回収した空カプセルの一部をペレットと呼ばれる原料に再資材化して新しいカプセルを作る「ガシャポンカプセルリサイクル」を始動させました。

粉砕したカプセル(左)とペレット(右)

回収スキームをバンダイナムコグループ各社で連携しているのも特徴です。

バンダイが商品を開発・生産を、アミューズメント施設を運営するバンダイナムコアミューズメントが店舗での回収を、そして物流を担うバンダイロジパルが各店舗から集荷をと生産から回収までをグループ内で行っています。

このスキームにより、2024年度には年間47トンの空カプセルを回収、再資源化した原料で生産した「リサイクルエコカプセル」を市場に投入するというサイクルを確立しました。

リサイクルエコカプセル
回収・リサイクルしやすいようカプセルの上下が一体化している
 

プラスチック削減へのさらなる挑戦

—リサイクル以外にも環境に配慮したカプセルを開発されているんですよね?

ひとつは「カプセルレス商品」です。2015年に発売された『カプキャラ』が代表的な例なのですが、カプセル自体が商品の一部となっており、カプセルから出てきたものを組み立てると完成する仕組みになっています。他にもカプセルの状態でフィギュアとして変形するもの

ⒸBANDAI

商品を展示するケースとして活用できるカプセルなどの工夫が凝らされています。

ⒸBANDAI

これらはカプセルが不要なものとしてではなく、商品自体をさらに楽しむことができるようにと、これまでの企画・開発担当者たちの、知恵とアイディアから生まれてきました。こういったカプセルレスの商品が増えることも、プラスチックの使用の削減・環境保全に繋がっていくと考えています。

— 他にはどんなカプセルがあるんですか?

プラスチックの使用量を約半分に減らした「グリーンカプセル」です。原料の約半分は炭酸カルシウムでできています。

グリーンカプセル ⒸBANDAI

このグリーンカプセルは、リサイクルを前提としたものではありませんが、炭酸カルシウムを約半分配合することで可燃ゴミとして出せる(※自治体によって異なります)ようになっているのが特徴です。

カプセルの素材をどこまでプラスチック以外のものに置き換えていけるのかという取り組みも、ガシャポンを持続可能な文化にしていくためには不可欠だと考えています。

ガシャポンを環境教育の"はじめの一歩"に

— リサイクルを始めとする取り組みを実現するにはユーザーの協力も不可欠だと思いますが、子どもから大人まで幅広いユーザーに向けてどのように回収の呼びかけを行っていますか?

現在「ガシャポン」では、日本をはじめ海外においても「ガシャポンバンダイオフィシャルショップ」という

バンダイの「ガシャポン」商品の専門店の展開を拡大中です。これによりお客様にとって、より身近に「ガシャポン」を体験していただける機会が増え、同時にサステナブルの面からは、「ガシャポン」の取り組みについて発信や施策を実施できる機会も増えています。

例えば、お子様の視点ですと、「ガシャポンが初めて自分が参加するリサイクル体験になる可能性もある」と考えています。

 店舗に設置された空カプセル回収ボックス ⒸBANDAI

2025年6月には「ガシャポンサステナブルアクション」として、カプセルリサイクル強化キャンペーンを実施しました。たまごっちの人気キャラクターでバンダイの「かんきょうたいし」を務めるくちぱっちの景品を用意するなど、子供から大人まで楽しくリサイクルに参加できる施策です。回収されたカプセルがもう一度カプセルになるまでを解説するムービーを作って、分別と回収の呼びかけを行ったんです。

ガシャポンカプセルリサイクルの仕組み

売り上げが伸びる夏休み期間と違って、6月は通常、カプセルの回収量が多くない月なんですが、この取り組みの結果、2025年6月の回収量は前年同月比で上昇しました。

—ユーザーとのタッチポイントを増やしながら、協力を呼び掛けていくことも、ガシャポンを持続可能な文化にしていくためのポイントと考えているんですね。

「ガシャポン」は2027年に50年という節目を迎えます。「世界のガシャポン」を目指して世界中に「ガシャポン」体験を広げていくこと、そして文化として定着させていくことが、今の私たちの目標です。

そのためには、世界中で1人でも多くの方にファンになっていただき、その協力を得ながら持続可能なかたちを常に考え、アクションしていくことが必要だと思います。

私たちはカプセルを「ガシャポン」の体験価値の重要な一部だと考えています。

だからこそ、リサイクルの取り組みやカプセル自体の在り方、プラスチックに代わる素材の検討など、今できていること以外の視点を持ちつつ、より良い持続可能なかたちを検討し続けていきたいです。

世界中のお客様と一緒に、「ガシャポン」を世界に誇る持続可能な文化に育てていきたい。

これからも「ガシャポン」は、環境への配慮と商品の魅力を両立させながら進化と拡大を続けて参ります。

回収した約8270個のカプセルで作った"まめっち"と遠藤氏 ⒸBANDAI