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今年も連日猛暑が続いています。夏の気温の上昇は、年を追うごとに明らかに過酷さを増していますが、それは日本だけではありません。今年は特に欧州南部の被害がひどく、スペインでは46℃を観測しオリーブ栽培に影響が出始め、フランスでは原発が稼働停止するなど、経済損失も拡大しています。これからますますこの状況がひどくなっていくのでしょうか。地球温暖化の今後の予測が気になるところです。

そこで今回は、今年1月に発表された2024年度のEuropean Centre for Medium‑Range Weather Forecasts( ECMWFーヨーロッパ中期予報センター)のレポートのサマリーをお届けします。

1991~2020年の基準期間の平均と比較した2024年の地上気温

2024年の世界地上気温は前例のない水準に

2024年の欧州は記録的な暑さとなり、気候変動の影響がさまざまな形で顕著に現れました。レポートによると、平均気温は産業革命前と比較して1.5℃上昇し、欧州史上最も暑い年となりました。海洋温度も記録的な高さに達し、これに関連する異常気象も各地で発生しています。

特に中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ、南東ヨーロッパでは年間を通して平均より1℃以上高い気温が記録されました。欧州の日数の45%が平均よりも「かなり暖かい」日で、約12%が観測史上最も暖かい日でした。

強い熱ストレスの日数と熱帯夜(最低気温が22℃以上の夜)の数は記録的に多く、特に南東ヨーロッパでは夏季に顕著でした。7月には南東ヨーロッパで観測史上最長の熱波が記録され、連続28日間にわたって日平均気温が32℃を超えました。

一方で、2024年は「寒さのストレス」を感じる日数が観測史上最も少なくなりました。欧州の約69%の地域で霜が降りる日数が減少し、これは記録上最大の面積とのこと。

産業革命以前からの世界地表温度の推移

広範囲な洪水被害

温度上昇は洪水のリスクを高めます。2024年は2013年以降で最も広範囲な洪水が発生し、欧州の河川網の30%が「高洪水閾値」を超え、12%が「深刻」な洪水閾値を超えました。9月にはストーム・ボリスにより中央および東ヨーロッパで深刻な降雨が発生し、8,500km以上の河川で年間平均ピーク流量の2倍以上の流量が記録されました。

10月末にはスペインのバレンシア地方で記録的な降雨があり、24時間で最大771mmの雨量を記録し、少なくとも232人が命を落としました。欧州全体では、洪水によって推定413,000人が被災、経済損失は少なくとも180億ユーロに達し、洪水被害がいかに地域にダメージを与えているかがわかります。

南東欧州の熱波と干ばつ

次は「土」に対しての被害です。南東欧州では2024年夏、記録的な熱波と干ばつが発生しました。この地域では熱ストレスの日数と熱帯夜の数が記録的に多く、パルマー干ばつ重症度指数(PDSI)によると、バルカン半島の多くの地域で例外的な干ばつ状態が記録されました。

夏季の表層土壌水分は南東欧州のほとんどの地域で平均を大幅に下回り、これが森林火災の増加にもつながりました。また、夏季の降水日数の年々変動が増加しており、この地域の気候パターンが変化していることを示しています。

再生可能エネルギーの拡大〜過去最高の45%

一方で明るいニュースもあります。再生可能エネルギーです。

再生可能エネルギーの電力発電は、脱炭素化への移行に不可欠な要素ですが、特に風力と太陽光発電の導入拡大によって、2019年以降、再生可能エネルギーが化石燃料を上回って電力を供給するEU加盟国が12カ国から20カ国へと増加しました。

2024年には、欧州全体の電力の45%が再生可能エネルギーから供給され、これは過去最高記録です。その内訳は、風力が18%、太陽光が9%、水力が18%で、特に4月には風力と太陽光の合計で電力の約3分の1を占めています。

再生可能エネルギーは気象条件に大きく左右されます。2024年は全体として風況が平均を下回り、特に南ヨーロッパでは風力発電の潜在能力が低下しました。一方でイベリア半島やアルプス地域などでは平均以上の風況が観測され、地域差も顕著でした。北西ヨーロッパでは、記録的な暖冬によって暖房需要が減少した一方、夏の冷房需要や気温変動に応じて電力需要が増減するなど、気候要因が電力需要と発電に複雑な影響を与えています。特に2月から4月にかけては太陽光発電の潜在能力が最大で平均比38%下回るなどの大幅なマイナス異常が見られましたが、河川水力発電は降水量の多さを背景に平均を上回る結果となりました。

また、通常は秋冬に発電量が増す風力発電において、北西ヨーロッパでは10月下旬から11月にかけて風速が平均を大きく下回る「風力不足」が発生し、発電潜在量は75%まで低下しました。このような変動により、再生可能エネルギー源の相互補完性と、欧州各国間の送電網連携の重要性が改めて認識され、気候変動がエネルギー安定性に与える影響を緩和する上で、地域間の協調と柔軟なエネルギー運用の必要性が求められています。

さいごに

いかがでしたでしょうか。記録的な高温、広範囲な洪水、氷河の急速な融解など、気候変動が単なる理論上の問題ではなく、また欧州だけの問題ではなく、現実に私たちの生活に影響を及ぼしていることを明確に示しています。

これは2024年の報告ですが、2025年度も引き続きこの傾向が強まると考えられます。気候変動の影響に対応するためには、エネルギー転換や洪水対策や熱波対策など、適応策の強化が求められています。特に都市部では、ヒートアイランド現象と相まって熱ストレスが深刻化しており、緑地の拡大や建築物の断熱性向上などの対策が必要になります。

気候変動は地球規模の話ですが、リスクに対応するのは国、県、市町村などの地域のため、それぞれの地域特性を考慮した対策が求められています。国際的な傾向を理解するとともに、地域に根ざした適応策の実施が今後ますます重要になるのではないでしょうか。

ECMWFについて
欧州中期予報センター(ECMWF)は、35カ国から支援を受ける独立した政府間組織。研究機関であると同時に、24時間365日体制の運用サービスも提供しており、加盟国に数値気象予報を作成・提供している。
ECMWF www.ecmwf.int