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環境汚染の主要因の一つともされるファッション業界では、毎年9200万トンもの繊維が廃棄されています。このような廃棄物を新たな資源と捉え、再利用可能な紙を生み出す循環型社会の実現に挑んでいるのが、Circular Cotton Factory(サーキュラーコットンファクトリー)です。

日本でオーガニックコットンのパイオニアとしても知られている創業者の渡邊智惠子(わたなべ ちえこ)さんは、大量生産と廃棄の問題に正面から向き合い、不要になった繊維製品を再生するプロジェクトを行ってきました。このユニークな試みは、繊維ゴミを紙や建築材料に変えることで、持続可能な社会の発展を後押しする重要な役割を果たしています。

今回は渡邊さんに、本プロジェクトの立ち上げに至った背景やその想いについてお話を伺いました。繊維廃棄物がどのように未来を変えていくのか、その取り組みについて紹介します。

著書『女だからできたこと』 を手にする渡邊智惠子(わたなべ ちえこ) 氏

オーガニックコットンから始まる、繊維廃棄物再生への挑戦

渡邊さんは、オーガニックコットンのパイオニアとしても活躍されておりますが、この分野に携わることになったきっかけについてお聞かせください。

私がオーガニックコットンに出合ったのは1990年代のアメリカでのことでした。そのとき、オーガニックコットンの手触りや品質、そして生産過程で化学物質を使わず、土壌や水を守りながら育てられるという環境への配慮に心を動かされました。当時の日本でオーガニックコットンの認知度は低く、この魅力を広めたいという強い思いから日本への輸入の開始をしたのが原点です。それと同時に、衣服を通じてその価値を伝える、啓蒙活動にも取り組んでまいりました。

—不要になった綿製品を再生する取り組みはどのようにして始まったのでしょうか。

衣服を通じた啓蒙活動を続ける中で、繊維廃棄物という問題に直面したのが始まりです。衣類や布団、さらには漁網までもが大量の廃棄物として処分されていると知りました。この環境問題にどうにか取り組みたいという想いが、サーキュラーコットンファクトリーの設立へとつながったのです。

「捨てられているコットンで何か新しい価値を生み出せないか」

そこで、かつてアメリカでは、コットンを使った紙作りが主流であったことに着目しました。紙の原料がコットンから木材パルプへと移り変わり、大量の木材が切り出され、消費されるようになったのは近代のことです。このような近代の消費社会の流れを見直し、コットンを使った紙作りの可能性について考えたのをきっかけに、1995年より、脱脂綿を製造する過程で排出される「落ち綿」を活用した再生木綿紙づくりがスタートしました。

この取り組みにより、落ち綿20%、木材パルプ80%を使用した、印刷適性の高い洋紙の製造に成功しました。

サーキュラコットンファクトリーが材料として使用している繊維

現在、サーキュラーコットンファクトリーで製造を行っている紙にはどのような製品がありますか。

再生木綿紙づくりを通して、よりコットンの含有量が多い紙を作りたいという強い想いから、さまざまな企業様と紙作りの挑戦を重ねてきました。

その結果、4年前に富士共和製紙株式会社と新生紙パルプ商事株式会社の協力により、コットン50%、木材パルプ50%のバランスで製造され、優れた印刷特性を持つ紙の開発を成し遂げました。この紙は、サーキュラーコットンファクトリーの名刺やパンフレットにも採用されています。

さらに、土佐和紙の伝統を受け継ぐ株式会社モリシカでは、コットン100%の紙の製造にも成功し、持続可能で多様なニーズに応える紙製品を実現しています。

高品質なCCFサーキュラーコットンペーパー洋紙、CCFボード、CCFサーキュラーコットンペーパー和紙

環境も暮らしも豊かにする“一軒丸ごとショールーム”

本日お伺いしているこちらのお部屋の内装にも、サーキュラーコットンファクトリーの紙が使用されていると伺いました。

はい。こちらのショールームでは、建築材料の産業廃棄物課題への取り組みとして、一般的に使われるビニールクロスの代わりとなる新たな素材でのリノベーションを実施しました。壁や天井には、CCFサーキュラーコットン和紙や、CCFボードなど、廃棄物を資源とした素材を活用しています。これらの素材の貼り付けには、天然成分を主原料とした糊を使い、室内の空気環境にも配慮しています。

ビニールクロスは建築業界で広く使われる素材ですが、近年、その環境面および健康面でのリスクが懸念されています。具体的には、ビニールと紙が接着されているため分別が難しい点、化石資源を原料とするビニールの製造から廃棄までの環境負荷が大きいことに加え、廃棄時には高温焼却や埋め立て処分とされる点からです。

サーキュラーコットンファクトリーのショールーム

このようなリノベーションには、環境面だけでなく、他の側面での利点も期待できるということでしょうか。

はい。多くのメリットがございます。

実は、湿度と同じくらい室内湿度も健康に影響しますので、壁が呼吸できることも大切な要素です。その点、サーキュラーコットンファクトリーの紙を使うことで環境に優しいだけでなく、室内環境の改善にも大きく寄与しているため、居住者の心理的な快適性を高める効果も大いに期待できます。

今回のリノベーションでは、壁や天井の断熱材として、CCFボードの原料である廃棄繊維を粉砕したパウダーを使用しています。断熱をしっかり施すことで、夏も冬も一定程度の室内温度を維持することができるのも大きな特長といえます。また、この素材は吸音効果もあるので、都会のマンションでも騒音を気にせず生活を送ることが可能です。

私たちは、暮らしの空気の質を改善し、誰もが健康に、そして地球にやさしい暮らしを提案しています。

サーキュラーコットンファクトリーのショールーム
携帯から音楽を流しても外にはほとんど音が漏れない、高い吸音効果のサーキュラーコットンボード。

アーティストとサステナブルなコラボ企画

サーキュラーコットンファクトリーペーパーは、多彩な場面での活用が広がりを見せているとのことですが、直近での活用事例がありましたらお教えください。

最近では、アートの領域でサーキュラーコットンファクトリーの素材を使用していただく機会がございました。

2023年6月8日に木更津市内にオープンした「KISARAZU CONCEPT STORE」は、ファッション業界の課題解決を目指し、規格外品やデッドストック品に新たな価値を見出す取り組みを行う店舗ですが、障がい者アートの振興にも力を入れています。この障がい者アートの作品に、サーキュラーコットンファクトリーの紙が使用されております。

彼らが制作したアート作品を展示・販売し、その収益の一部をアーティストや関連団体に還元する仕組みを導入しており、これにより、障がいを抱える人々の社会参加と経済的自立を支援しています。

「KISARAZU CONCEPT STORE」で展示を行った障がい者アート作品の一部

また、世界中のアーティストと協力し、持続可能な社会の実現に向けた啓蒙活動も展開しています。昨年はインドネシアで開催されたアートフェスティバルにも作品を展示していただき、こちらは国際的にも高く評価を受けております。

今年は18名のアーティストにCCFの素材を使った作品を制作していただき、日本各地を巡回するということも行いました。

2023年 インドネシア・ジャカルタで開催されたアートフェスティバル

このような取り組みのアイデアや原動力は、渡邊さんの中でどのようにして湧き上がってくるのでしょうか?

私は、社会課題には非常に敏感で、それらが自然と目に入ってしまう性分です。

「社会が抱える問題をどのようにビジネスの力で解決するか」

これを考えることが私の原動力となっているのだと思います。自分自身にとって解決策を考えるだけではなく、まずは行動に移すことをとても大切にしており、行動した結果、それがうまく行かなくとも必ず得られるものがあると信じております。

環境とビジネスが共鳴する未来を目指して

—サーキュラーコットンペーパーの売り上げは、ここ数年右肩上がりですね。

2022年10月以降、売上を順調に伸ばしております。CCFサーキュラーコットンペーパー洋紙は、環境面と品質の両側面から評価をいただく機会が増えております。お陰様で、現在では100以上の企業や団体がパートナーとなって、さまざまな取り組みでご一緒させていただいております。

2022年10月以降のCCFサーキュラーコットンペーパー洋紙の売上推移(サーキュラーコットンファクトリー作成)

最近では、CCFサーキュラーコットンファクトリー和紙がCO2の削減にも寄与できることが、数字としても明確になりました。

「売り上げが伸びるたびに、地球の未来も明るくなる」

企業の成長を追い求める中で、CO2削減という社会的価値も同時に実現できるのは、私の中の大きなモチベーションです。

—削減できるCO2の量はどれくらいになるのでしょうか。

例えば、サーキュラーコットンペーパーだと合計「264kg」のCO2発生をなくすことができます。その仕組みを簡単に説明します。

まず、CCFサーキュラーコットンペーパー和紙の場合、廃棄衣料を原料として紙を製造する際に99kgのCO2が発生します。これは従来の製紙工程と比べて86kgの削減です。さらに、本来なら廃棄衣料を焼却する際に発生する178kgのCO2も、CCFサーキュラーコットンペーパー和紙はその衣料を資源として活用することで完全に回避します。これらを合算すると264kgのCO2排出を抑えることができるのです。

この数値は単なる製紙工程の改善にとどまらず、廃棄物削減と地球温暖化防止に大きく貢献していることを物語っています。

和紙の製造工程におけるCO2の発生量(サーキュラーコットンファクトリー作成)

今後の目標をお教えいただけますか。

社名の『ファクトリー』という言葉が示すように、私たちはアイデアを形にする力があり、どんな挑戦にも前向きに取り組めると信じています。

コットンの可能性は無限大です。プラスチックの代替素材として活用できるだけでなく、再び繊維に加工して車の内装材として利用することも可能です。

また、繊維ゴミを燃やすことなく削減し続ける挑戦を、これからも積極的に進めていくことも重要だと思います。カーボンニュートラルな社会の実現に向けた活動を、一層加速させていきたいと考えています。

「ビジネスを考える上で、環境問題を切り離して考えることができない時代である」

この概念を胸に、より多くの皆さまと共に、環境・社会問題に取り組んでいければと思います。