形がいびつというだけで市場に出回らない野菜や、香りや味を抽出されたあとのコーヒーかす――。私たちは、こうした食品廃棄物に対して「もう使い道はない」と考えがちです。
しかし、それらに新たな命を吹き込み、暮らしを彩るプロダクトへと生まれ変わらせているスタートアップ企業があります。「ゴミから感動をつくる」をビジョンに掲げるfabula(ファーブラ)株式会社です。
その取り組みの背景には、学生時代の研究経験や、研究成果を社会に実装したいという思い、そして廃棄物を“資源”として捉え直す柔軟な視点がありました。今回は共同創業者であり、代表取締役CEOの町田紘太氏に、fabulaのものづくりの舞台裏と、これから目指す未来についてお伺いしました。

研究から社会実装へ。fabula創業の背景とは
――まず、現在の事業がスタートした経緯について教えてください。
fabulaとしての創業は2023年11月ですが、その原点は学生時代にさかのぼります。私はもともと、東京大学生産技術研究所の研究室で、コンクリートに関する研究に取り組んでいました。
その中で、自分が開発した素材を社会実装するという視点を持ったとき、「これは面白そう」と思ったのが、スタートアップとしての第一歩でした。

環境問題だけに限定せず、もっと広く社会課題に対してどう関われるのかをずっと考えてきたんです。そこから、小・中学校時代の同級生に声をかけて、一緒に事業を立ち上げることにしました。結果的に、自分が持っていた経験やノウハウ、そして物事の捉え方が、環境というテーマとも自然につながっていた。それが今のfabulaの取り組みにも活かされています。
――食品廃棄物を100%原料にした新素材とは、具体的にどんなものですか?
原料は野菜や果物、コーヒーの抽出かす、コンビニのお弁当など、本当にいろいろです。いわゆる「フードロス」と呼ばれるものを乾燥させて粉末状にし、熱圧縮成形という手法で板状や立体の素材にしていきます。

ただし、それぞれの廃棄物によって性質が異なるので、必要な工程や手間もまちまちです。料理に近い感覚ですね。新鮮な素材ですぐに仕上げるものもあれば、時間をかけて熟成させるようなものもあるといったイメージがわかりやすいかなと思います。
スーパーの食材を片っ端から。印象的だった素材とは?
――これまで100種類以上の素材化に挑戦されていると聞きました。印象的だった素材や難しかったものはありますか?
研究を始めた当初は、スーパーで手に入るような食材を片っ端から試していました。中でも、最初に強度が出たなと感じたのは、オレンジでした。さまざまな方法や条件を試行錯誤する中で、手応えを感じたのがこのあたりですね。

あと面白いのは、同じ素材でも状態がまったく異なること。たとえばコーヒーの抽出かす一つとっても、使っているお店や豆の種類によって、香りも質感もまったく違うんです。そのバラつきをどうやって“素材”として成立させるかが、非常に重要なポイントでした。

感覚としては、限られた材料で最高の一皿を作る料理大会に近いかもしれません。決められた条件の中で、どう組み合わせて、どう引き出すか、毎回が実験であり、挑戦でしたね。
――素材はどんな用途で活用されているんでしょうか?
もともとは、食器や小物、アート作品などからスタートしていますが、建材としての活用も進めています。建材分野はマーケットも物量も大きい。つまり社会的なインパクトが大きいということです。

建材に必要な品質を安定して出せるようになってきたので、実装事例も少しずつ増えてきました。まだ数は多くありませんが、手応えは感じています。
1つの素材に込める「物語」。fabulaらしいアプローチ
――fabulaとして大切にしている価値観についても教えてください。
もちろん、素材そのものの性能も大切です。でもそれ以上に、私たちが重視しているのは「どんな物語を込められるか」という点なんです。
たとえば長野県で何かをつくる場合、この「この土地でやる意味とは?」「この土地が抱えている課題は何か?」「それを使ったプロダクトを通じて、購入者にどんなことを感じ取ってほしいか?」――そんな問いから、プロジェクトが始まります。

会社名のfabulaも、ラテン語で“物語”という意味を持っています。私たちが目指しているのは、単なるサステナブルな素材開発ではなく、その素材に触れたとき、人が何かを感じ、共感してくれるような設計まで含めたものづくり。プロダクトを通じて、心に残る体験を届けたいと考えています。
「こんな素材があるのか!」ワクワクの声が力になる
――これまでの取り組みに対する周囲の反応はどうでしたか?
素材を見た方からは「これもできるの?」「あれも作れるかも」と、アイデアが広がる感想をいただくことが多いです。あとは純粋に驚いてもらえるのが嬉しいですね。「え、これが白菜?」とか、普段触れている食材がまったく別の形になる。そのギャップが、気づきやワクワクにつながるのだと思います。
――今後挑戦してみたい分野やコラボの構想などはありますか?
最近はインテリアや家具など、プロダクトの幅をもっと広げていきたいと思っています。デザイナーさんとの協業にも力を入れていきたいですね。
また、企業とのコラボで子ども向けのワークショップも行っているのですが、これも引き続き続けていきたいです。子どもって純粋に感動してくれますし、素直なフィードバックがもらえる。説明する側の私たちにとっても学びになるんです。そして、自分たちの考え方を未来に伝えていけたらと思っています。
――最後に、fabulaが目指す未来について教えてください。
“ゴミから感動をつくる”というのが私たちのビジョンですが、扱う素材は食品廃棄物に限定しているわけではありません。木材やバイオプラスチックなど、さまざまな廃材にも目を向けて、もっと多様なものづくりに挑戦していけたら楽しいなと思っています。最近は、興味を持ってお声がけいただく機会も増えていて、そうした出会いを大切にしながら広げていければと。
海外展開についても、これから本格的に動き出すところです。スペインで開催された、フードテック関係の専門展示会「Food 4 Future 2025」や、日本の対外発信拠点として設立されたジャパン・ハウス サンパウロにて開催された「Japanese principles : design and resources」展にも出展しました。
また、海外の大学での登壇イベントなどにも参加していて、昨年から今年にかけては、そうした下地づくりのフェーズだったように感じています。今後は、現地パートナー探しや具体的なプロジェクトを進めていくことも視野に入れています。素材としての技術だけでなく、デザインやシステムの力、そして人と人とのつながりも大切にしながら、ひとつのムーブメントを起こしていけたらと願っています。
取材協力:fabula