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国内の一般廃棄物は、約8割が焼却処分されています。しかし、焼却処理は化石燃料の使用によるCO2排出、焼却炉の老朽化など、さまざまな問題を抱えているのが現状です。

そこで近年注目を集めているのが「バイオガス発電」。化石燃料が不要なだけでなく、廃棄物を処理する過程で再生可能エネルギーを生み出すこともできる、非常に環境価値の高い方法です。

※出典:環境省「一般廃棄物処理事業実態調査の結果」(令和3年度)

オリックス資源循環株式会社は、寄居バイオガスプラント(埼玉県寄居町)にて、この「乾式メタン発酵バイオガス発電」を実施。寄居バイオガスプラントは関東圏では初、全国最大級となる設備容量1.6MW、1日100トンの最大処理能力を有する大型設備であり、2022年4月から商業運転を開始しています。

プラントの設備、具体的な処理方法や稼働の状況、今後の展開などについて、バイオマス事業部の本多宗一郎氏にお話を伺いました。

バイオマス事業部の本多宗一郎氏

寄居バイオガスプラント・5つの設備と処理方法

―寄居バイオガスプラントの処理の概要と設備について教えてください。

寄居バイオガスプラントでは、廃棄物をメタン菌という微生物によって分解し、再生可能エネルギー(バイオガス)を生み出しています。

設備は大きく5つに分かれています。

①前処理設備

前処理施設

まずは「前処理設備」にて、受け入れた廃棄物を破砕します。その後選別装置を通し、発酵の原料になるものと、不適物、いわゆるプラスチック類など発酵しないものとを分別して、後者は取り除きます(場外搬出)。

②メタン発酵設備

メタン発酵槽 

分別した原料(廃棄物)は、メタン発酵設備に送られます。メタン発酵槽内部は酸素のない状態が保たれ、メタン菌による発酵が進み、バイオガスが生産されます。

③ガス利用設備

ガスフィルターとガスホルダー

発生したバイオガスは、ガス利用設備へと送られます。ガスフィルター、ガスホルダー、脱流塔の3工程を経て、ガスを発電に適したきれいな状態にします。

④発電設備

バイオガス発電機(左側)

バイオガスがバイオガス発電機に送り込まれます。発電機はコージェネレーションシステムになっており、電力だけでなく熱も回収することができます。電力はFIT制度により売電し、熱は下記⑤の乾燥機のエネルギーとして使用しています。

⑤発酵残渣処理設備

原料投入と並行して、発酵槽の下部から汚泥を引き抜いて汚泥脱水装置に投入します。脱水後は乾燥機にて乾燥を行い、バイオマス燃料を製造しています。

「乾式」は家庭ごみに対応 プラ混入でも処理できる

―乾式と湿式、具体的な処理方法の違いを教えてください。

当プラントが採用している「乾式メタン発酵」は、含水率が比較的低い廃棄物、具体的には紙類、草木や枝類なども処理できるという特徴があります。もちろん、生ごみなどの食品廃棄物も処理できますので、家庭からの廃棄物はもちろん、食品会社などから事業系の廃棄物も受け入れています。

一方、日本で多く採用されている「湿式」の処理範囲は、含水率が高い廃棄物に限られます。これは、メタン発酵槽に投入できる原料(廃棄物)がドロドロの状態(スラリー状)のものに限られているためです。液状にするために、生ごみなど固形状のものは希釈水を加える、可溶化槽を設けるなどの前処理を行う施設もあります。

また、当プラントではプラスチック類などの異物が混入している廃棄物も処理することができますが、湿式では投入前に厳密に取り除く必要があります。湿式では発酵槽内の均一化のために槽内に攪拌機構を設けており、プラスチックなどが混入すると、撹拌装置に絡まって故障の原因になってしまうからです。ここは乾式と湿式で大きく異なる点の一つです。

メタン発酵槽(寄居バイオガスプラント・施設設備図より抜粋)

当社の縦型乾式メタン発酵槽には撹拌装置がありません。発酵槽内部には2本の長い管が設置されており、この管の中をメタン発酵の原料となる廃棄物が通り、槽内に投入されます。

管から出た原料は発酵槽内に積み上がりますが、同時に下部から汚泥を引き抜いていますので、原料は発酵槽上部から下部へと流下します。これにより撹拌の必要がなく、プラスチックなどの発酵不適合物が一部混入してしまった場合でも、設備への影響はなく稼働することができるのです。

廃棄物受け入れ・ 分別状況は?

―現在の廃棄物の受け入れ状況を教えてください。

現状では、一般廃棄物が約8割、産業廃棄物が約2割の比率で受け入れています。最も受け入れ量が多いのは、小川地区衛生組合様からの一般廃棄物です。2022年4月より10年間の計画で、小川地区衛生組合様と可燃ごみ処理業務委託契約を締結しており、可燃ごみの全量を当プラントで処理しています。

※小川地区衛生組合は、埼玉県比企郡小川町、嵐山町、滑川町、ときがわ町および秩父郡東秩父村の4町1村で構成。

また、鎌倉市とも2022年6月から5年間の業務委託契約を締結し、事業系一般廃棄物を受け入れ、処理しています。その他先述しました通り、食品関連会社や倉庫などからも受け入れを行っています。

施設の仕組みや運転状況を解説する本多氏。

―廃棄物の分別状況はいかがですか。

受け入れ開始時には、小川地区衛生組合の構成町村にて、それまでの分別のルールを変更していただきました。定着するまでには多少時間がかかりましたが、自治体や住民の方々のご協力で、現在では安定しています。

また、自治体の担当者の方とは、定期的にミーティングの機会を持っています。回収したゴミの組成などを共有し、さらなる分別へのご協力を周知いただいています。

出典:滑川町の家庭ごみ分別パンフレット(一部抜粋)

高まる社会的ニーズに応え、環境価値を最大化するために

―商業運転開始3年が経過していますが、手応えはいかがですか。

この3年間で、運転に関するノウハウを積み上げてきました。受け入れ量の増加とともに処理量も増加し、現在では定格での運転ができるようになってきています。引き続き、安定的な操業を目指すとともに、今後は操業のさらなる効率化を図っていきたいと考えています。

そして、当プラントとしてはやはり、乾式メタン発酵による環境価値が非常に大きいと、改めて実感しています。水分を含んだ廃棄物を単純焼却せず、かつエネルギー生み出すことができきるのは大きなメリットです。社会的にも環境的にも意義深いと自負しています。

寄居バイオガスプラントの外観

また、既存の焼却炉の負担低減に貢献できるという面もあります。焼却する廃棄物の絶対量を減らすことができますし、含水率が低くカロリーの高いゴミの割合も増え、化石燃料の使用量低減にもつながります。

―今後の展望について教えてください。

寄居バイオマスプラントにおいては、まずは安定した運転を継続していくことが大きな目標です。その上で、現状ではまだ廃棄物の受け入れに余裕がありますので、さらに増やしていけるよう尽力していきたいです。

環境価値の高い当プラントの処理方法に興味を持ってくださる自治体や民間業者はいらっしゃるのですが、特に自治体の場合は分別のルールを変更する必要が出てくるため、どうしても住民の方に負担が生じることになります。

そうなると、やはり慎重に進める必要が出てきます。簡単ではありませんが、コミュニケーションを図りながら、受け入れ量を増やしていければと考えています。

一方で、小川地区衛生組合構成自治体の住民の方々は、当プラントに対しとても高い関心をお持ちだと感じます。定期的に一般住民向けのプラント見学会を実施しており、多くの方に参加いただいています。「自分の出したゴミがこんなふうにエネルギーに変わるのか」と実感していただけるようです。「これからも分別がんばらないとね!」とお話しくださる方も多く、大変うれしく思っています。

また、小学校の社会科見学の受け入れも行っています。「ごみでエネルギーが作れるなんてすごい!」と感動してもらえると、やりがいを感じます。

―地域に根づいた施設となっているのですね。

さらに、今後は寄居バイオマスプラントでの実績を踏まえて、2号機、3号機の建設・運転につなげていきたいと考えています。

乾式メタン発酵バイオガス発電は社会的な意義も大きく、今後さらに必要性が高まる設備だと考えています。こうした施設を増やしていくことで、CO排出量の削減、エネルギーの効率化をより促進していきたいです。

オリックス資源循環株式会社
https://www.orix.co.jp/resource/