食品ロス、食品廃棄物削減という社会課題について、競合の垣根を超えた複数の飲食事業者と自治体、教育機関が連携し、外食における食べ残しを持ち帰る「mottECO(モッテコ)」と呼ばれる取り組みが始まっています。
「mottECO」とは、環境省が提唱する、飲食店でどうしても食べきれなかった料理を「お客様の自己責任で」持ち帰る行為の愛称で、「もっとエコ」「持って帰ろう」という意味が込められています。
今回は、mottECO普及コンソーシアムに自治体として初めて参加した「杉並区」の取り組みを紹介します。環境部ごみ減量対策課 管理係主査 金子さやか氏、秋竹夏季氏にお話を伺いました。
一世帯あたり年間約6.7万円もの食品ロスが発生
ー杉並区として、食品ロスについてどのような課題がありますか?
他の地域の皆様と同じような課題だと思いますが、食品ロスについては「食べられるはずのものが捨てられてもったいない」だけでなく、発生した食品ロスを処理する過程でも大きな問題があります。生ごみは水分を多く含むため焼却にエネルギーを多く必要とし、処理費用がかかり、焼却時のCO2排出や焼却後の灰の処理にも課題が残ります。そのような環境面の課題からも食品ロスを削減することが大切だと考えています。
また、「経済面での損失」もあります。消費者庁の調査によると、推計の結果、令和4年度、日本における食品ロスによる経済損失の合計は4.0兆円で、世帯あたりでは年間6.7万円となり、世帯あたりの年間家計支出と比較すると、水道代の4.9万円よりも大きな金額になっています。
自治体として初めて参加した理由
ーmottECO普及コンソーシアムに自治体として初めて参加したきっかけや、理由を教えてください。
元々、食品ロスゼロを目指して「食べのこし0(ゼロ)応援店」という取り組みを平成30年12月から行なっていました。登録の店舗数は増加していたものの、お店側からは「登録したけれどあまりメリットを感じられない」という声がありました。応援店にステッカーを配布し、区のホームページで紹介するなどの広報を行いましたが、実際に食品ロス削減の成果がどれくらいあるのか見えない状態でした。

次にどうしていけばよいのか考えていた時、令和4年度に開催された環境省のmottECOに関するオンラインセミナーで「mottECO普及コンソーシアム」の取り組みを拝聴して、「これは区でも取り入れていけるのでは!」と思ったことがきっかけです。
コンソーシアムの代表である株式会社セブン&アイ・フードシステムズの中上さんに直接お話を伺いに行き、「食べのこし0(ゼロ)応援店」の活動で課題感を抱えていたタイミングで、中上さんからも取り組みをご一緒に、とお声かけいただいて、参加することになりました。

ーmottECOをどのように周知していったのでしょうか?
まずは、区が参加したコンソーシアムの取組が環境省のモデル事業に採択されたことについて、コンソーシアム合同でプレスリリースを行いました。その後、区が行うmottECO事業について、区の広報誌やホームページ、清掃情報紙、SNSなどを通して事業者さん側へ協力をお願いする発信を行いました。区民のみなさまにも庁内の掲示板や自治会の掲示板にポスター、チラシの掲示をしたり、イベントでブースを設けるなどでお知らせしました。
毎年開催している「杉並清掃工場 環境フェア」では約2,500名の来場者があり、mottECOのロゴを見せて「知ってる? 見たことあったらシールを貼ってね!」と呼びかけたところ子どもたちに人気で、お母さんはご存じなくてもお子さんがmottECOを見たことがある、というケースもありました。

庁内でもmottECOのポスターを掲示。
食品ロス削減量を数値で可視化
ー「mottECO普及推進モデル事業」として取り組まれているのですね。実際にどのような成果が出ていますか?
食品ロス削減量算出のため、暑い時期を避け、食品ロス削減月間である10月から12月までの3ヶ月間をmottECO普及推進モデル事業期間として設定しました。令和5年度の事業期間内では、協力店が61店舗、容器使用数から削減量を推計して約100kgの食品ロス削減となりました。続いて令和6年度は、協力店が127店舗、333kgという協力店全体の食品ロス削減量(推計)を算出しました。
大切なのは「美味しく食べきること」
ー協力店が2倍、食品ロス削減は3倍、素晴らしい成果ですね。
少しずつ事業者の皆様にはmottECOの取り組みが浸透してきているのかなと思います。削減量が3倍になったことがすごいということではなく、一番大切なのは「美味しく食べきること」です。もちろん、区としては数値が見えにくかった部分の食品ロス削減の成果を可視化できたことで、事業者の皆様にもmottECOの取り組みの有効性を感じてもらうきっかけを作ることができました。しかし、事業に積極的に協力しようとするあまり、「容器の使用量が少なくてすみません」とおっしゃるお店もありました。持ち帰り容器を使う必要がないくらい、食べ残しが無いことこそが成果で、そのことをしっかり伝えていきたいと思っています。
ー事業に参加された協力飲食店や、区民の反応はいかがですか?
協力店からいただいたアンケートでは、「持ち帰り容器や注意事項を説明したチラシ、ステッカーなどのツールが揃っているので取り組みやすい」「持ち帰りを希望されるお客様の要望に応えやすくなった」「以前は食べ残してしまいそうなお客様には店側から声がけしていたが、ステッカー掲示の後はお客様から申し出てくれるようになった」というケースもありました。また、事業者としても適量の食を提供する必要があるという自分たちの課題感として捉えてくださる方もいました。

mottECOを利用された区民の方々からは、試みが素晴らしい、欧米のようにもっと普及してほしい、自己責任で残したものを持って帰ることができるのは良いと思う、という声や、生ものなどは飲食店側からも注意喚起してお店の責任にならないようにする必要があるというご意見もいただきました。
ー取り組みの普及において、課題と感じた点はありますか?
はい、これは事業者さんからの「困ったこと」にも通じるのですが、どうしても食べきれなかった場合に持ち帰るのは自己責任で、容器へ詰めるのもお客様ご自身に行なっていただくのが基本ですが「自分で詰めるのは面倒だからいいや」「昔はやってくれたのに」と言われてしまったことも、たまにあったそうです。
区民からの声の中には「限りある食の事情をもっと発信すべき」というご意見もありました。消費者の行動変容へつなげていくためには、食べ残さない社会を目指すmottECOの本質的な理解を促し、もっと伝えていくことが重要と感じています。

自治体としてmottECOに参加するメリット
ー杉並区に続き、多摩市もmottECOに参加されたそうです。自治体として本事業に取り組むメリットをお聞かせください。
自治体の担当者同士で話をすると、杉並区の「食べのこし0(ゼロ)応援店」のような活動は、多くの自治体で行なっています。しかし、まだまだ具体的な成果が見えにくい状態です。mottECO普及推進モデル事業では、啓発用品や容器の提供など事業者にメリットになるだけでなく、自治体としても容器の使用数から食品ロス削減量を数値として可視化できるメリットは大きいと思います。
それからmottECO普及コンソーシアムは、産官学連携で、民間事業者さんや大学の学生さんたちとも意見交換や情報共有をすることができます。今までは自治体同士でしか繋がりがなかったところに、世界が広がりますし、世代も越えて生の声をコンソーシアムで聞けるのは貴重な財産です。それぞれ抱えている課題も異なり、多摩市さんとも自治体としての取り組みを共有でき、大変勉強になります。

ー杉並区としての今後の取り組みについて教えてください。
区民の方々はmottECOをまだご存じない方も多いと思います。例えば親子連れで参加できる地域のイベントなどでの周知は、事業者さんにはなかなかできない自治体側だからこその取り組みとして積極的に進めていく必要があります。
当面は、啓発用品を区からご提供する形で、事業者も区民も気軽に参加できる環境を整えていきたいと考えています。ゆくゆくは、小規模・個人飲食店でも、お店側で用意した容器をお客様が購入して利用する仕組みになっていくことが、今後の自走に繋がると期待しています。
本当に目指すのは、誰も食べ残さない社会であり、適量を美味しく残さず食べきること。どうしても食べきれない時には持ち帰って最後まで美味しくいただくという文化を皆さんと一緒に作っていけたらと思っています。
ーありがとうございました。