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外食産業における食品ロス削減は喫緊の課題です。ファミリーレストラン「デニーズ」の運営を行う株式会社セブン&アイ·フードシステムズは、この課題に対してmottECO(モッテコ)という、外食における食べ残し持ち帰りの取り組みを発案、飲食事業者を中心としたコンソーシアムを通じて業界全体に広がりを見せています。今回は、mottECOの発案者であり、同社 総務部サステナビリティ推進 環境部会長である中上冨之(なかうえ・ふゆき)氏にこの取り組みの背景や今後の展望について詳しく伺いました。中上氏は環境カウンセラーとして、第6回環境カウンセラー環境保全活動表彰にて循環型社会貢献賞を受賞されています。


外食産業が抱える食品ロスの課題

—外食産業における食品ロスの現状について教えてください。

事業系の食品ロスは、年間約236万トン(農林水産省·環境省令和4年度推計)が発生しています。これは家庭系の食品ロスとほぼ同量です。我々外食事業者にとって、この膨大な量の食品廃棄物をいかに削減するかが大きな課題となっています。

外食産業の市場規模は24兆円から25兆円と非常に大きいですが、個々の企業の規模でみると比較的小さいことが特徴です。そのため、業界全体で連携して取り組むことが重要だと考えています。


セブン&アイ·フードシステムズが運営するファミレスの代表格デニーズ。今回お話を伺った「保谷柳沢店」

ー店舗で排出される食品廃棄物にはどのようなものがあるのでしょうか。

デニーズで、食品廃棄物の組成分析をしたところ、重量ベースで大きく3つに分類できました。1つ目は調理場由来の廃棄物で、全体のおよそ3分の1を占めます。調理場由来の廃棄物は、事前準備のロスを減らすために客数予測精度の向上や、仕入れ、調理工程の工夫など経営努力で改善できる部分が多くあるため、社内での様々な取り組みを通じて削減を行ってきました。

2つ目はコーヒーかすです。全体の2割を超える大きなものですが、これについては削減ができませんのでリサイクルを行うしかありません。コーヒーかすを乳酸発酵させ、牛の飼料として資源循環させる取り組みを行なっています。

そして3つ目が客席由来の廃棄物です。これについては、安全衛生上の問題や、お客様の行動に直接関わるため、これまで削減が難しい部分でした。例えば調理前のレタスの外葉などは、味がついていないため、そのままリサイクルが可能ですが、一度お客様にお出しした食事には、ドレッシングが付いたり、爪楊枝が入ったりという状態になりますのでリサイクルが難しくなります。この部分を何とかできないか、という課題がありました。

「mottECO」サービスの誕生

—そこで生まれたのが「mottECO」なのですね。

はい、そうです。きっかけは、2019年に「食品ロス削減推進法」が施行されたことで、我々外食事業者にも食品廃棄物削減の努力義務が課せられました。そこで、先ほどご紹介した通り、デニーズの廃棄物の実態を分析し、客席由来のごみが全体の3分の1を占めているということがわかりました。これを減らすには、お客様に食べ残さないでいただくか、持ち帰っていただくしかありません。

しかし、持ち帰りに関しては、食品衛生上のリスクを考慮して、多くの飲食店では積極的に勧めていないという状況がありました。そこで、お客様ご自身の責任で、安全に食べ残しを持ち帰っていただく仕組みとして企画したのが「mottECO」です。これは当社一社だけの取り組みとして進めるのではなく、公的な応援が必要と感じたため、環境省に相談しました。するとタイミングよく、環境省でドギーバッグ(持ち帰り袋の通称)の新たな名称コンテストを行う企画があり、連携の機会をいただきました。


「mottECO(モッテコ)」は、飲食店における食べ残しの持ち帰りを、お客様とお店の相互理解のもとで身近な文化として広める目的で環境省が開催した「NEWドギーバッグアイデアコンテスト」にて大賞に輝いたネーミング。
mottECOの啓発ポスター(環境省より)

安全性と利便性の両立

—「mottECO」の具体的な仕組みを教えてください。

「mottECO」では、専用の容器を用意し、お客様からの要請があった場合にのみご提供します。容器は環境に配慮した素材を使用し、国が定めた食べ残し持ち帰りガイドラインをご説明したチラシもお渡ししています。


環境に配慮した素材で作られた持ち帰り専用パッケージ。

容器には『お客様ご自身の責任でお持ち帰りいただく』という注意書きを明記しています。また、チラシの裏面にはQRコードを付けて、お客様アンケートを取れるようにしました。これにより、持ち帰った食品がどのように消費されたかを追跡できるようになりました。

ーどのような効果があったのでしょうか。

4年間でmottECO普及コンソーシアム(後述)の各店舗から約4,000件のアンケート回答があり、99%の人が持ち帰った食品を実際に食べていたという結果となりました。1件あたり平均250gほどの食品が持ち帰られています。2024年にはデニーズだけで約9万2,000件の利用がありましたので、単純計算で年間22トン、コンソーシアム計では82トンほどの食品廃棄物削減につながったことになります。


アプリや店内ポスターでmottECOを告知。


各テーブルに置かれたメニューのタブレットでも表示され、必要に応じて気軽に容器を注文できる。

業界を超えた連携の広がり

—この取り組みは他の企業にも広がっていると伺いました。

個々の企業の取り組みだけでは限界がありますので、業界全体での連携を重視し「mottECO普及コンソーシアム」を作っています。現在、取り組みに賛同してくださる企業や団体が増えています。2024年11月時点で約30団体、1,250店舗以上に広がっています。ただし、数を追うことが目的ではありません。この取り組みの本質を理解し、食品ロス削減に真剣に取り組む仲間を増やしていくことが重要だと考えています。

ーmottECOコンソーシアムには競合他社のロイヤルホストも入っているのですね

ロイヤルホストとは、当初からこの取り組みを一緒に進めています。競合だからこそ、同じ運用で同じ容器※を使うことで、ニュース性とお客様にとっての一貫性が生まれ、mottECOの認知拡大につながると考えました。

mottECOコンソーシアムに参加いただくメリットは、様々な企業や団体の食品ロス削減の取り組みを共有し、勉強会などを通してお互いに取り入れていくことができることです。私たちは、食べ残しの持ち帰りを推奨しているわけではありません。推奨しているのはあくまで食べ切っていただくことです。注文した料理がどうしても食べ切れなかった時に、お客様ご自身の責任で持ち帰り、最後の一口まで美味しく召し上がっていただく。それが当たり前の世の中になるように、多くの仲間と発信していきたいと考えています。

※mottECOの取り組みは、同じ容器を使うことが条件ではなく、既に独自の持ち帰り容器を用意されている企業においてもガイドラインを共有することで実現しています。

「日本が昔から持っていた『もったいない』精神にも通じます」と中上氏。

消費者の行動変容を起こすきっかけに

—今後の展開についてお聞かせください。

「mottECO」の取り組みを単なる食品ロス削減の手段としてだけでなく、消費者の意識改革、行動変容を促すきっかけになればと考えています。日本の食品ロスの50%は家庭から出ていますが、原因として、セールなどによる買いすぎや、賞味期限が切れて処分する、といった無駄が各家庭で起きていることが考えられます。しかし、外食先で食べ残しを持ち帰る経験をした人は、家庭でも食品を無駄にしないよう意識するようになるでしょう。ファミリーレストランが事業者と家庭の間に位置するような存在だとすれば、外食での持ち帰りの経験が、家庭での食品ロス削減にもつながるのではと考えています。

ー今後の課題について教えてください。

日本には約80万の飲食店がありますが、そのうち全国規模のチェーン店は多くて8,000~9,000店舗程度です。残りの79万店舗は小規模・個人経営で、チェーン店と違って個々にアプローチをしなければならず、運動を広げていく上でハードルが高いのです。今後、この個人経営の店舗にいかに参加していただくかが大きな課題となっています。

ー確かに、一軒一軒回るのは現実的ではありません。

そこで、自治体との連携に可能性を見出しています。自治体が『mottECO』の取り組みに参加することで、地域の個人経営の飲食店にも広げやすくなります。例えば、自治体としての初の会員である杉並区さんでは120店舗以上が参加してくださっています。また地域のイベントでアンケートを行うことで、店舗では不可能だった広い範囲での意識調査も可能になります。今期からは多摩市さんにもご参加いただきましたが、食品ロス削減を目指すこの取り組みが、他の自治体にも波及していくことを期待しています。

—自治体だけでなく教育機関との連携も始まっているのですね。

現在、東京農業大学と、立命館大学食マネジメント学部にも参加していただいています。世代間の意識の違い、特にZ世代以下への普及促進には大学との連携も欠かせません。

私たちの目的は、単に「mottECO」の利用件数を増やすことではなく、食品ロス削減の重要性を多くの人に理解してもらい、一人ひとりの行動変容を促すことが真の目的です。そのために、地道に、しかし着実に取り組みを広げていきたいと考えています。

ーありがとうございました。

「mottECO」のデザインには、おいしくて笑顔、ムダがなくて笑顔、自分もエコに貢献できたことに笑顔、というメッセージが込められているそうです。食品ロス削減の架け橋となって、mottECOの取り組みにますます注目が集まっています。