記事を読む

環境負荷をかけず、維持費もかからず、さらに健康にもいい「自転車」は、エコな交通手段として、サーキュラーエコノミーにも貢献しています。そこで今回は、ヨーロッパ(オランダ、フィンランド)とアジア(台湾)で見つけた自転車のユニークなサービスについて、数回に分けてお届けします。

自転車再生のパイオニア「Roetz」

アムステルダムの街を歩いていて見つけた工場のような建物。敷地内には大量の自転車があります。どうやら、ここでは自転車の再生を行っているようです。

Roetz Fair Factoryの外観。
同じ型の自転車が大量に。

思い切って中に入ってみると、まず目に入るのはリペアの道具類でした。

道具類が並ぶリペアコーナー

ここは、自転車を再生して販売するRoetz。2011年に創業された社会企業です。廃棄された自転車を再生し、新たな命を吹き込むことをミッションとしています。「Roetz Fair Factory」と呼ばれるこの工場では、サーキュラーエコノミーの理念を体現しながら、労働市場から疎外されがちな人々に雇用機会を提供しています。

自転車大国の課題に挑む

オランダは自転車大国として知られていますが、その裏側では毎年約100万台もの自転車が廃棄されるという問題を抱えています。Roetzの創業者ティム・ルーエンは、この状況に疑問を感じました。自動車産業では再利用(中古市場)や再製造が一般的である一方、自転車産業ではそうした取り組みが不足していたのです。

「スクラップを有用な素材として、無能力を有望な才能として見る」というRoetzの理念は、まさにこの課題に対する解決策を示しています。

Roetzの理念:スクラップを宝に、人々の可能性を引き出す

循環率30〜40%を達成

Roetzの自転車は、慎重に選別された再生フレームを使用して製造されます。現在、Roetz Bike Collectionでは30〜40%の循環率を達成し、OV-fiets(オランダの公共交通機関が提供するレンタル自転車)では70%もの高い循環率を実現しています。

2016年には、この手法により20トンもの原材料を節約しました。さらに、2021年には1,600台以上の自転車を設計し、8,000台近くを修理しました。

Roetzの工場内部。再生自転車が整然と並ぶ

Roetzは単なる製造にとどまらず、「One Planet One Bike」キャンペーンを通じて、消費者の意識向上にも取り組んでいます。原材料の希少性や廃棄物削減の重要性を訴え、古い自転車の再利用方法を示しています。

社会的インパクトと経済性の両立

Roetzの特筆すべき点は、環境への配慮だけでなく、社会的インクルージョンにも重点を置いている点です。「Fair Factory Foundation」を通じて、就職困難な人々に雇用機会を提供し、2016年の設立以来70人以上が幸せな仕事を見つけています。

従業員の採用では、履歴書や推薦状ではなく、強い意志や誠実さ、細部への注意力といった特性を重視します。さらに、従業員は公認の「自転車技術者」資格を取得する機会も得られます。2021年には12人が有給の仕事に就くことができました。

経済面では、COVID-19パンデミック後の自転車需要増加を好機ととらえ、再製造を通じて市場ニーズに応えています。最近のSwapfiets(自転車のサブスクサービス)とのパートナーシップは、このビジネスモデルの可能性を示しています。

1058ユーロの値札をつけたRoetzの完成車

Roetzの取り組みは、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルが、環境保護、社会的包摂、そして経済的成功を同時に実現できることを示しています。使い捨て文化に代わる持続可能な選択肢として、Roetzの自転車は単なる移動手段以上の意味を持ち始めています。

自転車文化の深いオランダから生まれたこのイノベーションが、今後どのように世界に広がり、より大きな変革をもたらすのか。Roetzの挑戦に、今後も注目したいところです。

Roetz https://roetz-bikes.com/