サステナブルな社会の実現において、食品ロスはよく議題に上がるキーワードのひとつです。日本が1年間に出す食品ロスの量は約612万トン、なんと東京ドーム約5杯分にものぼり、早急に改善が必要だと論じられています。
株式会社WPSが推進する「再’de Dish Round(サイドディッシュラウンド)」は、大量の食べ物を廃棄する現状を打破すべく立ち上がった事業です。これまでの食品ロス対策とは少し異なる、新たな視点での取り組みをご紹介します。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
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食品の卸事業を主軸に、社会課題に立脚したスモールビジネス開発を担う。世の中に存在する課題へのアプローチを「食」の観点から行い、食品ロス対策事業をはじめ働き方や生き方の新たな選択肢を提案する店舗事業も展開。
実は食品ロスはどんどん増えている
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―食品ロスに関する事業をスタートさせようと思ったきっかけから教えていただけますでしょうか。
私どもは食品の卸をベースに事業展開をしている会社で、問屋界隈では「末端さん」と呼ばれる、いわゆるエンドユーザーの会社さんと取引をしております。そんな中で、滞留してしまった食品やキャンセル食品など、食品ロスになり得る商品を末端さん向けになんとか販売できないだろうか、との依頼をいただくことが増えてきたんです。その流れの中から、食品ロス事業に乗り出したわけです。
―お困りごと食品が増えてきているのはどうしてなのでしょう。
ひとつは、トレーサビリティが厳しくなってきたことは関係していると思います。「賞味期限が切れそう」「規格外である」といった商品の場合、かつては廉価販売を専門に行っている会社に丸投げして安く売るような仕組みが一般的でした。
しかし廉価販売業者にもさまざまな会社があって、販売したあとどのような経路で消費者の元へと届くのかまったく分からない、というケースも多いんですね。万が一自分たちの販売した商品が預かり知らぬところで問題を起こした場合、ブランドの棄損などの予期しないリスクを被る恐れがあります。そのリスクを抑えるために、“廃棄”という選択をする企業は増えてきたと考えています。
もうひとつ、昔に比べて商品の入れ替えサイクルがぐっと早くなっていることも要因として挙げられます。コンビニなどでは期間限定の商品がどんどん増えていて、それに伴って陳列サイクルも早くなっています。さらに企画商品の場合、発売1週間のうちに思ったより売れ行きが悪い、となると突然販売終了になることもあります。販売終了となっても、製造会社や食品の卸業者には、当初予定されていた期間分の食品の在庫はあるので、これが食品ロスに繋がってしまいます。
―コンビニやスーパーの意向が重視される業界なのですね。
そうなんです。もちろん、SDGsの観点から幾分緩和されつつあると推測はしますが、構造的にはまだまだ変わりにくい状況かなと。量販店さんとお話しをしていても、仕入れ部門とSDGsに取り組む部門が相反する姿勢を持っていることが窺えます。バイヤーさんとしてはその瞬間瞬間に売れるものを仕入れるのが正義ですが、一方でSDGsの観点からはその考え方は必ずしも良しとはいえない。ひとつの組織内で相反するニーズがあって、そのパワーバランスで物事が動いているのではないでしょうか。
そんな中で、どちらの意見も汲み取って新しい選択肢を提案する仕事は、とても意義があると感じました。
食品ロス削減を目指す再’de Dish Roundの誕生
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―食品ロス改善に向けて、どのようなスタートを切っていったのでしょうか。
最初は素朴で、100円の価値がある商品を10円で仕入れ12円で売るような、いわゆる転売屋さんと本質的には違わない事業展開でした。これはこれでニーズはあるし感謝もされるのですが、付加価値が生み出せていないので利幅が取れない。加えて継続性もないので、この事業を誰ともシェアできないんです。
そこから脱却しようという考えのもと、再’de Dish Roundが本格的に始まっていきます。
―再’de Dish Roundの“再”はリユースやリサイクルの意味ですよね。このネーミングに込めた思いも教えてください。
我々が扱う食品は、必ずしもメイン料理の材料として使うわけではありません。例えばブロッコリーのロスがたくさん出るとなった場合、ブロッコリーがメインのお料理を考える必要ってそれほどありませんよね。
そこで、飲食店の看板商品であるメイン料理に添えるイメージで、我々が扱う食品を使ったサイドディッシュを考案していただければ、メニューにも変化が付けられるのではと考えたのです。
それともうひとつ、飲食店はその場でご飯を食べてもらうのが主たる事業だと思うのですが、その他にもデリバリーや通販などのサイドビジネスもあります。これを“副菜”ととらえ、「御社で別のビジネスを作りませんか」という提案の意味もあります。
さらに“Round”と名付けたのは、この事業が単に飲食店さんと食品ロスとを結びつける一方向的なやり取りではないからです。メンバーである飲食店さんを中心に、アドバイザーとしてデザインや商品開発などのプロ集団を迎え、円卓を取り囲んでみんなで良いものを生み出していく、いわばコミュティとしての機能があります。
もったいない食品を独自コミュニティで効率的に活用
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―具体的にはどのような仕組みになるのでしょうか。
例えば、何かの野菜が月10tほど余るといった場合には、メール及びLINEグループでメンバーに価格等の情報を共有します。それに対し、活用できる人たちが手を上げていくイメージですね。メンバーだけでなく著名な料理人やメディア、投資家など多様なアドバイザーに意見を求める場合もあります。今はいろんなやり方を模索しているので、今後変わっていく可能性も大いにあります。
大手商社とも取引をしているので、取り扱う食品の量は膨大です。個人間の取引だと食品ロスとしてキログラム単位になりがちですが、我々なら1tや10tなどといった大量の食品が取り扱えるので、工場での大量生産も可能になります。
―さらに広く展開するための戦略などがあればぜひ教えていただきたいです。
再’de Dish Roundをブランド化したいと考えているので、その手始めとして「一食分の野菜ドレッシング」という商品を開発しました。今、カット野菜ってすごく需要があってさまざまな店舗で取り扱われているのですが、一方でどうしても商品にならない部分のロスが多くなってしまうんですね。そこで、ロスとなった野菜を使った地球にも体にもやさしい商品を、と開発しました。
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1パックのうち80%が野菜で、まるまる使えば1食分に必要な野菜の量を満たせるというものです。サラダのドレッシングにするのはもちろん、お肉や魚にかけて食べてもおいしいです。
これをベースに、例えば京野菜のみで作れば京都のお土産になりますし、人気店とのコラボならその店ならではの味にできます。これひとつがあれば、いろんな展開ができると考えました。
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先日は、牛肉にこのドレッシングをかけたお料理をキッチンカーのイベントで販売したのですが、かなり好評でしたね。そこで改めて感じたのは、我々がどれだけ「SDGsに根ざした商品です」と高尚なことを言っても、消費者が求めているのは値ごろ感とおいしそうであるかどうかだということでした。そういった時には生産者さんとは異なる、少し離れたところから価値やニーズを探索するような目線がとても重要です。今後も食品のジャンルや業種を横断したノウハウを蓄積しながら、売れるものを開発していきたいと考えています。
相反するニーズに対応するための仕組み作りが必要
―ここで改めて、日本における食品ロスの問題についても触れていきたいのですが、現場を直接見られるお立場として、現状どのように感じられていますか?
「食の安全性」を理由に、懸念される行為も認められている印象ですね。例えば、海外から食品が届いた際に段ボールが破れていた場合。ブロークンカートンと呼ばれるものですが、その取り扱い方法は企業によってまったく違うんです。ブロークンカートンであっても、中身には問題ないから通常商品として取り扱う企業もあれば、そうはいっても見栄えの観点で若干のリスクはあるから値下げして販売する企業もある。一方で、中が汚染されている可能性が0%ではないということから、全箱廃棄に至る企業もあります。このうち最後のパターンを選択する企業は、本当にたくさんあるんですね。
経営層においては、SDGsの観点からどうにか改善すべきとの考え方を持たれている場合も多いのですが、一方で、品質管理部門や法務部門はブロークンカートンなどの販売で万が一何かがあった場合、予期しないリスクが生じる恐れがあるとして、基本的には反対の姿勢なのですね。大手企業ほど社会から求められるものも多く、身動きがとりづらい状態に陥っているケースが多く見受けられます。
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―そういった企業に再’de Dish Roundを導入してもらうために、どのようなアプローチをお考えなのでしょうか。
法務部門や品質管理部門を納得させるための建て付けが必要です。我々が現在進めているのは、企業のブランドを守ることを第一に、お困りの商品を一度センターに集めて管理し、再’de Dish Roundのブランド名で販売していくやり方です。
このようにすれば理屈的な部分については割とご納得をいただけるのですが、次の段階としてこれをどう契約書に落とし込むかが問題になってくる。売買がいいのか、あるいはなんらかの業務を我々が受託して活用する、という建て付けにしたほうがいいのか。非常にテクニカルな部分にはなるのですが、でもここをきちんとさえしたら必ず物事は動きます。
食は資源。その利用効率を上げることが使命
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―食品ロス削減のためには大手との取引が必須で、それには安全基準や責任の所在などを一つひとつ丁寧に詰めていかなければならない。手間を惜しまないことで、誰にとっても納得できる方法があるというわけですね。
そうですね。我々が考えているのは、“食べる”という行為を守っていかなければならないということです。今100供給されている食品が、ある日突然50になるかもしれないという状況の中で、なるべくロスを少なくして多く食べられるような仕組みを作ることは、今後必須になってきます。我々は食品を“食資源”と言っているのですが、地球上で食をはじめさまざまな資源が限られてきている中で、使用する際にはその利用効率を上げ、より筋肉質な社会にしていく必要があります。
これまでだったら捨てられていたものを使って、世の中の人の飢えを防ぎ健康を守る。社会にとって非常に意義深いことをしていると誇りを持っています。
取材協力 株式会社WPS
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