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“オーガニック”という単語からは、意識の高さや都会的な価値観といったものが想起されます。そのせいで、「私にとっては関係のないもの」と距離を置いている人も多いのではないでしょうか。そんなオーガニック及びオーガニック農家を、サステナブルな観点から今一度見直し、新たな価値観で塗り替えようとしている人がいます。

京都オーガニックアクション発起人の鈴木健太郎さんに、オーガニックが抱える問題点と、それを解決していくための方法、そしてなぜオーガニックを広めるべきかについて伺いました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

鈴木健太郎 / 一般社団法人京都オーガニックアクション代表理事、369(みろく)商店代表
京都市内で仏像彫刻に携わり、2010年に「田舎暮らしがしたい」と南丹市へ移住。制作を続けながら野菜の配達事業に携わる中で、オーガニック野菜の流通システムに疑問を抱き、現在の活動へと繋がる。

従来の農業とオーガニック農業は流通方法が全く異なる

―鈴木さんがオーガニックに携わるようになったきっかけから教えていただけますか。

京都の南丹市に移住して畑仕事を始めたことですね。その中で、オーガニック農家さんや農作物を流通する業者さんとかかわりもでき、それまで知らなかった農業の基本的な仕組みも分かってきました。

ある地域のJAは、例えば「ほうれん草や春菊に特化する」とあらかじめ決まっているんですね。農家はJAに農作物を出荷する仕事なので、おのずと特化した野菜を作ることになるのですが、その際には種も農薬も全部JAが提供します。作物が出来上がれば何gのパックにし、何センチ以上伸びてしまったものはダメ、といったルールも用意され、それに従ってはじめて市場での流通が叶います。これってスムーズな流通のために高度に効率化された、すごいシステムではあるのですが、一方でオーガニックとは全く相容れません。

―どういうことでしょう?

まず、農家さんのマインドセットが違います。オーガニック野菜を作ろうとする人のだいたいが、僕らのような移住者です。彼らは基本的に「JAの規格に添った作物を作ってお金を稼ぎたい」という気持ちではないことが多いので、JAを通さないわけですよね。すると通常ルートでの市場流通が難しくなるので、結局、始めたはいいけれど売り先がない、ということになる。

大きな売り先を持っているオーガニック農家の師匠に弟子入りすると、売り先を紹介してもらえたりするわけですが、そうでもない限りは自分で一から開拓する必要があります。

売り先を獲得するためには、他とどう違うのか、どこがセールスポイントなのかなどの売り文句が必要になってきますよね。農作物なのに、いわゆる“作家性”みたいなものが求められるんです。

「オーガニック農家として暮らしていきたい」というのは一見ささやかな夢に思えますが、きちんと食べられるようになるには、技術力はもちろん、営業力やクリエイティブ力、経営能力などさまざまな能力が必要になります。

―オーガニックは一般的な市場流通が叶わないし、職業にするには実はかなりハードルが高い。これではなかなか広まりそうにないですし、なんとかならないか、という気持ちになってきます。

そうですよね。僕が京都オーガニックアクションを始めたのもその課題解決が大きくて。都会からやってきてスタートしたはいいけれど、数年やっても食べられず諦めて帰っちゃう人も多い。地域の人としても「またやめるんじゃないか」という偏見も出てくるわけで、そういう意味でも孤立することが多いんです。孤立すると、そこから新しい価値観ってなかなか生まれにくい。

だからこそ農家さん同士を繋ぎ、問題点を改善するための行動を起こしたいと考えて京都オーガニックアクションをスタートさせました。

地元産の野菜が地元で購入できない、その理由

―どのような取り組みを進めていく組織なのでしょうか。

大きく分けると2つあって、ひとつは「オーガニック野菜をその生産された地域内で流通させること」、もうひとつは「オーガニックという価値観を広めていくこと」です。

質問なのですが、近所のスーパーやオーガニック野菜を取り扱う八百屋に行ったとき、地元産のオーガニック野菜って売っていますか?

―いえ、全国各地の野菜が並んでいることが多いですね。

そうですよね。すぐ近くで生産しているのに近所のスーパーには売っていない。なぜなら、各地域で生産していても東京などオーガニック野菜の需要が集中している都市部に流れてしまうからです。

そんな中で、ある時「地元産のオーガニック野菜を買いたいけれどどこにも売っていない」という声を聞きまして。僕は野菜の配達に携わっていた関係で、地元の農家さんもよく知っていたので「じゃあ、農家さんから各家庭へ配達して回ろうか」と、野菜の移動販売を行う369商店を始めました。

369商店を続けていく中で、順調に取引先も増え、商売としてはある程度カタチになったと思います。だけど、世の中の仕組みとしては何も変わっていないんですよね。売り先が十分に提供できるわけでもなければ、農家さんの孤立を防ぐことも難しい。

ではどうするかと考えたときに、農家さんをはじめ、流通、小売り、料理人などさまざまな形でオーガニックに関わる人たちを繋げることならできるなと思って。それで、「一回みんなで集まって飲もう」と声をかけ、ちょっとした会を行ったんです。それが2014年に古民家を借り切って行った「百姓一喜(ひゃくしょういっき)」です。そのときは70名ほどの人たちが集まり、やっぱりみんなそういう場を求めていたんだと分かって。「ずっと会ってみたかったけれど会う機会がなかった」という人たち同士が繋がれて、すごく熱量の高い、いい話し合いができたんですよね。これだったら何か面白いことができるんじゃないかと思い、京都オーガニックアクションをスタートさせました。

ローカル×オーガニック=サステナブル

―効率化された流通システムでは無駄も無理もたくさん発生し、携わる人口も減り続ける一方なのは目に見えています。持続可能とは決して言えないですよね。

オーガニック野菜の生産でも、大量生産・大量消費を基本としたモデルや、実は環境負荷の高い生産方法もたくさんあります。でもそれって、現代においてはもう古い価値観だと思いませんか。

そうではなくて、農家さん一軒一軒の個性から生まれる、多様性のある野菜の楽しさをも発見するフェーズなのかなと。そういった野菜たちが食卓に上がることのうれしさって、やっぱり格別だと思うんですよね。それで、地産地消がなかなか成立しづらい今の農業のシステムの中で、僕たちは「ローカル×オーガニック=サステナブル」を掲げて運営しています。

持続可能を実現する兆しは、ローカル×オーガニックに見えていると思っていて。日本は、もはや食文化を失っています。味噌や醤油はもう各家庭でつくっていないし、おふくろの味といってもレトルトや化学調味料がベースになっていたりするじゃないですか。だからこそ、一度廃れてしまった食文化を再構築すべきだと僕は思うんですよね。食べることで人の生活と健康を維持し、農村の自然と文化を守ることに繋がる、そんな未来がローカル×オーガニックで実現すると考えています。

農家と八百屋を繋げるプラットフォーム作りへ

―まずは、地元でオーガニック野菜を流通させるための仕組み作りが必要ですよね。

「地場のオーガニック野菜をもっと扱いたい」と熱意を持って営業されている八百屋さんもありますが、オーガニック野菜は市場流通していないので、店舗の開店前・閉店後に各地の農家を回って野菜を仕入れて回らなければならず、本当に大変な仕事なんですね。だからこそ流入する人も少ないし、広まらない。その負担を減らさないといけないと考え、京都市から京丹後市までのエリアを回って集荷し、八百屋さんへ配達する共同物流便をスタートさせました。

スタートにあたって取り組んだのは、プラットフォーム作り。最初はGoogleのスプレッドシートを使用し、ペライチ程度の簡単なフォームを作って農家さんと八百屋さんに共有。「何日にこの野菜がどれぐらい出荷できる」と情報を上げてもらい、それを見た八百屋さんがネット上ですぐに注文できるようにしました。その後、共同物流便で野菜を集めて回り、八百屋さんに配達するという流れです。

―現在も同じようなシステムで動いているのですか?

「farmO(ファーモ)」という販売管理システムを京都オーガニックアクションの活動に合うようにカスタマイズして使用しています。基本的には全国規模で取引が行えるよう立て付けがなされたシステムなのですが、これを僕たちは、顔の見えるローカルなエリアに限定してメンバーを集め、地域の八百屋さんと農家さんとで取引を進めています。こうすることで、その地域で作られたオーガニック野菜をその地域で流通させられます。

―京都でこの取り組みがさらに活発化すれば、注目されてあらゆる地域でシステムの導入もなされるでしょうし、それに伴って各地で地産地消が促されるでしょうね。

そのために、僕たちはプラットフォーム作りに取り組まないといけないと思っていて。まずは僕たちのいる界隈でしっかりと成立させ、他の地域で展開していけばオーガニック農業のあり方も変わっていくと思うのです。

農村の自然や人々の健康を守る農業

―消費者と繋がれるような場は用意されているのですか?

京都市の中心部に、京都信用金庫運営のワークショップやセミナーができる「QUESTION」というビルがあるのですが、ここで「What’s Organic?(ワッツオーガニック)」というイベントを開催しました。

“オーガニックを知る”をテーマに、農産物や食品のマルシェはもちろん、生産者や作り手の思いが知れるトークイベントやワークショップ、心身を整えるヨガやメディテーションなど、さまざまな観点からの“オーガニック体験”ができるイベントです。

ほかにも、農家さんや八百屋さんの思いを掘り下げるポッドキャストもスタートし、HPで公開し始めました。このようにして積極的に発信し、京都のオーガニックメディアのようなものを作って、より活発化していければと考えています。

―今後は対外的な活動も積極的に行っていくのですね。

京都オーガニックアクションを始めて2年目のときに、農水省の補助金を活用して、オーガニック農業の課題解決や勉強会をするための協議会を立ち上げました。それがすごく面白く、いろんな意見も掬い上げられてとても有意義だったんですね。それをちゃんとした組織にして、さらに活動の幅を広げていくために、2022年に一般社団法人を立ち上げました。オーガニック農業によって農村の自然と文化を守り、農作物を食べることで健康的な生活を叶えられる。そんな発信をきちんとしていきたいですね。

2022.05.19
取材協力:京都オーガニックアクション