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ごみがどこに向かい、どう処理されるのか、自分の目で確認したことはありますか。ドイツのレーゲンスブルク市は2024年秋、ごみ処理施設の見学ツアーを開催しました。市担当者、施設担当者、参加した市民との対話から、環境先進国とされるドイツが抱える課題の一端が見えてきました。

市の環境課が市民向け見学ツアーを初開催

レーゲンスブルク Regensburgは、ドイツ南部バイエルン州に位置する人口約17万7000人(2023年12月時点)の都市です。世界遺産に登録されている旧市街で名を馳せるほか、レーゲンスブルク大学などの有力な高等教育機関を擁する大学都市として、かつBMWやSiemensを始めとする世界的大企業の拠点が置かれる工業都市としても知られています。

レーゲンスブルク市環境課は初めての試みとして、2024年10月から11月の平日3日間にわたり、市と提携するバイオガス発電施設、古紙選別施設、ごみ焼却施設の、3つのごみ処理施設を訪問する市民向け見学ツアーを開催しました。

引率したのは、企画担当者で環境課専門環境保護部門を率いるレギーナ・エルスナー博士 Dr. Regina Elsner です。ツアーは幅広い市民講座を提供する「VHS」のコースの一環として実施され、参加費は無料、各回10〜40人の幅広い世代の市民が参加しました。

貸し切りバスの車内の様子
市外に位置する施設へは貸し切りバスが手配された

家庭の生ゴミによる発電の課題点とは

初回のツアーは10月18日、ブリューメル Blümel 社のバイオガス発電施設で行われました。同社は1991年創業の家族経営企業で、代表のマティアス・ブリューメル氏 Matthias Blümel が約1時間半をかけて施設の説明をしてくれました。

ドイツでは、生ごみ(一般的に「有機ごみ Biomüll」と呼ばれる)は一般ごみとは別で廃棄することが求められています。レーゲンスブルク市では、野菜や果物のくず、たまごの殻、コーヒーや茶殻など、家庭から出るいわゆる厨芥(ちゅうかい)は、市内の路上に高密度で設置されている生ごみ専用のボックスに住民各自の手で投げ込まれ、毎週1回これを専門車が収集。市から南西に20km離れた自治体トイグン Teugn の農地に位置するブリューメルの施設に運搬され、バイオガス発電の原料として利用されます。

施設に持ち込まれた生ごみは、破砕、不純物除去ののち、メタン発酵槽に投入されます。ブリューメル氏によれば、発酵過程で生成されたメタンガスは、ガスホルダーとコージェネレーション(熱電供給)システムを経由してエネルギーに転換され、地域の公共送電網に供給されています。平時の施設では毎時500kWhの電力が生成されており、これは年間438万kWhの発電量で、1,200世帯超の年間消費電力量をまかなう計算になります。

メタン発酵の副産物として生まれる液肥と肥料は、地元農家や家庭向けに農業肥料やガーデニング用培養土として販売されています。エルスナー博士は「環境負荷の高いリン酸肥料や泥炭入り肥料を代替し、地域農業のエネルギー円環を閉じることは、生ごみを用いてバイオガス発電を行う重要なメリットのひとつだ」と強調します。

見学ツアーからは、生ごみを用いた再生可能エネルギーの地産地消モデルがレーゲンスブルクで確立されている様子がわかりましたが、課題もあります。ブリューメル氏が指摘するのは、運搬されてくる生ごみに含まれるプラスチック類の多さです。買い物袋や飲み物のキャップ、チョコレートの包み紙などのプラスチックは何段階もの工程で除去が試みられますが、発酵槽に混入し、堆肥の段階まで残ってしまうこともまれではなく、発電プロセスに悪影響を及ぼしかねません。

生ごみの中からプラスチックの袋を引っ張り出すブリューメル氏
積み下ろされた生ごみの中からプラスチックの袋を引っ張り出すブリューメル氏

特に後を絶たないのが、生ごみをプラスチックの袋に入れた状態で専用回収ボックスに捨てるケース。ツアー参加者からは「生分解性プラスチックなら一緒に捨ててもOKとのことだが、生分解性とそうでない通常プラスチックの見分けが付きづらい」という問題提起もなされ、議論が起こりました。

筆者の観察範囲では、生ごみの分別ルールをそもそも知らなかった、知ってはいたが真剣に捉えたことはなかった、あるいは面倒くささから実行していない、という人も多いです。行政による周知・啓発活動には改善の余地があるといえるでしょう。

古紙選別を担うZellner社

1週間後の10月25日、ツェルナー Zellner 社にて古紙選別施設の見学ツアーが行われました。1982年に古紙問屋として創業した同社は、早くから機密文書処理、電気電子機器廃棄物やプラスチックのリサイクルに携わってきた、地域の静脈産業のパイオニア的存在です。

マックス・シャイダッカー氏
同社トップのマックス・シャイダッカー氏 Max Scheidacker が1時間半の施設見学を引率

ドイツでは、家庭から出る新聞、雑誌、段ボール、雑紙などの古紙は、各集合住宅敷地内に設置された専用回収ボックスに廃棄するのが一般的です。レーゲンスブルク市では毎年約8,000tの古紙が分別回収され、市中心部から約3km離れたドナウ川沿いの港湾エリアに位置するツェルナー社の施設に持ち込まれます。運ばれた古紙は、選別され、プレス機で圧縮されたのち、規格化された古紙原料となって製紙工場へ出荷されます。

敷地内に置かれた飲料用紙パックの塊
ベールと呼ばれる塊に圧縮された飲料用紙パック

半屋外に設置された全長約50mもの選別機では、光学センサーと作業員の目によって、大型段ボール、段ボール片、色紙、飲料用紙パック、脱墨が必要な新聞等紙類などの異なる規格ごとに古紙が分類されていきます。選別機の処理能力は毎時15~20tを誇り、毎日250t以上持ち込まれる家庭由来の回収古紙、および印刷工場などから出る産業古紙が、ここで処理されます。

敷地内を見学する来訪者の様子
来訪者用ベストを身につけ古紙ヤードを見学。選別機に上ることもできた
選別機の一部
高速でベルトコンベア上を流れる古紙

ツアー冒頭は会議室にて質疑応答が行われ、参加者からは、ごみの計量方法、取引価格、分別方法の地域差、分別意識徹底における学校教育の重要性など、多くの質問が投げかけられました。

環境保護意識が強く、特に若い世代はサステナビリティへの関心が高いと指摘されることも多いドイツ社会ですが、市担当者のエルスナー博士は、ドイツでは“新しいモノを買うこと”が今でも重要な娯楽であることは間違いなく、最近の中学・高校生の間でも、分別やごみの削減を気にかけることは“クールなこと”とは認識されていないとの見解を示し、「大量消費を前提とする社会の意識が変わらなければならない」と語りました。

「その他のごみ」で発電する超自治体組織ZMS

11月8日にツアー最終回として訪れたのは、シュヴァンドルフ廃棄物利用組合 Zweckverband Müllverwertung Schwandorf(ZMS)のごみ焼却施設です。ZMSは1979年に創立された、レーゲンスブルク市を含むバイエルン州東部の17の自治体が加盟する公益社団法人で、域内約189万人の住民の「その他のごみ」や粗大ごみなどを自治体の枠組みを超えて処理しています。1日に輸送する廃棄物の量は約1,500tで、カバー面積は15,000㎢(日本で2番目に大きい都道府県である岩手県と同程度)。その広さはドイツ最大級を誇るそうです。

ZMSのカバー領域の地図
域内の廃棄物は各拠点でプレスされて専門コンテナに詰め込まれ、主に鉄道網を通じてシュヴァンドルフに集積される(画像: ZMS提供)

ツアー参加者は会議室でウェルカムドリンクのレセプションを受け、プレゼンテーションと質疑応答を経たのち、施設を見学しました。

ごみの山を見上げるツアー参加者
搬入された廃棄物はまずピットと呼ばれるエリアに集められ、クレーンを使って焼却炉のホッパに投入される
焼却炉内部を覗き込むツアー参加者
焼却炉内部を覗き込むツアー参加者

ZMSの焼却炉は、下から空気を送り込みながら火格子(ストーカ)の上でごみを移動させて燃焼させる、日本でも最もメジャーなストーカ式を採用(Gegenlauf-Überschubrost-System)。24時間稼働する全連続式で運転されています。焼却炉は4つあり、最大の第4号では毎時23tが、1~3号では毎時12.5tが焼却されます。排ガスは浄化システムを通って有害物質が除去され、大気中に放出されます。

焼却時に高圧蒸気として生成された熱エネルギーは施設稼働用に利用されるほか、プロセス蒸気として隣接工場に、電気として公共の送電網に提供されています。また近隣の温水ブール、病院、学校などの商業施設や公共施設の暖房システムにも回収エネルギーが提供されており、2023年の1年間では1.1億Lの灯油が代替された計算になるそうです。焼却灰は鉄スクラップおよび非鉄金属を回収されたのち再資源化されており、2023年最終処分場に送られた焼却残渣は0を記録しました。

見学ツアーは市民への啓発効果が非常に高い

見学ツアーの全日程を通じて印象的だったのは、参加した市民らが施設担当者に積極的に質問していたことです。この日も、焼却炉の稼働に一部用いられる石油燃料は代替すべきではないのか、どのような有害物質が生成されどのくらい空気中に放出されるのか、リサイクル可能なごみは選別されているのかなど、クリティカルかつ専門性の高い質問が多くなされました。

ごみの素材の違いによる燃焼効率の差とそれに応じた廃棄価格の差について質問が出たときは、ごみをバングラデシュやインドに投機する不法行為に手を染める組織がドイツにも存在することが指摘され、ごみ処理を安価に請け負う業者への注意が呼びかけられる場面も。エルスナー博士は、「一番良いごみは、そもそも出さないことだ」と話し、消費行動の見直しを呼びかけて、ツアーは終了しました。

EUが「欧州グリーンディール」政策を発表し、2050年までのカーボンニュートラル達成を掲げたのは2019年。レーゲンスブルク市は翌年2020年に「ゼロウェイスト戦略」を策定し、サーキュラーエコノミーを推進しています。ゴールのひとつには、当時一人当たり年間300kgと試算されたリサイクルされていない家庭ごみの量を、マイナス83%の50kgにまで削減するという野心的な数値目標も含まれます。

2024年に初の試みとして開催された今回のごみ処理施設見学ツアーも、市のゼロウェイスト戦略に位置づけられる施策でしょう。総参加者数が100人に満たない小規模なイベントではありましたが、自分の目で見てもらうことによる市民への啓発効果は非常に高いと感じました。同ツアーは2025年も開催予定だそう。レーゲンスブルク市の今後のさらなる取り組みに期待します。

取材協力:
レーゲンスブルク市環境課 Umweltamt, Stadt Regensburg
ドイツ語の理解はパスカル・マキ氏 Pascale Macchi の多大な助力を得た