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リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの移行が進む中、環境に関連する情報管理や二酸化炭素排出量の削減などの対策において、これまでの「企業単位」から、より細かい「製品単位」で管理・報告することが求められるようになっています。
中でも、サーキュラーエコノミーを実現するための具体的な施策として、製品のサプライチェーン全体のトレーサビリティを確保し「持続可能な製品の標準化」を進めるために、欧州を中心にデジタルプロダクトパスポート(以下、DPP)が推進されています。

サーキュラーエコノミードット東京は、昨年6月に行ったDPPのソリューションベンダー Circularise社の取材に始まり、DPPの実装に向けた国内外の動きに注目しています。社会の実装に先駆けてDPP事業を推進している企業を紹介していきます。

サプライチェーンの透明性を担保するDPP

DPPとは、 個別の製品の原材料調達からリサイクルに至るまでの、製品ライフサイクル全体に関する情報が記録されたデジタル証明書です。

これまでは、例えば再生材を使った製品について、どのような由来の廃棄物からどんなサプライチェーンを経て辿り着いたのか、その製品に関する原材料情報、カーボンフットプリント、再生可能資源の利用率など、正確なデータはブラックボックスでした。

そこで、製品の環境性能を明確にし、サプライチェーンのトレーサビリティを確保するために必要な情報を一元管理できる仕組みとして、DPPが注目されているのです。

欧州ではDPPの導入に向けた動きが本格化

透明性のある循環を生み出すための施策として、EUを中心に、DPPに向けた法律の整備が進んでいます。日本企業においても同様に、EU市場向けに輸出する製品にはDPPの対応が求められると考えられています。

2022年3月、欧州委員会がサーキュラーエコノミーアクションプラン(循環型経済行動計画)の一環として作成した「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」が今年7月に施行され、原則としてバッテリーや衣類、化学品など製品全般へのDPPが義務化される方針が打ち出されました。

DPPの導入時期や、管理するデータの粒度(単位)などについては産業別に範囲を拡大していく予定とされており、建材廃棄物や繊維など、廃棄物量の多いカテゴリーが優先的に検討されています。

その第一歩が、2026年に施行が予定されている電気自動車(EV)用バッテリーなどの産業用バッテリーを対象とした「バッテリーパスポート」です。

2027年にはバッテリーパスポートの義務化を予定しており、EU域内で販売されるすべての電気自動車、軽輸送手段、産業用バッテリー(2kWh以上)には、固有のバッテリーパスポートの取得が必要となる見込みです。

また企業に対しては、環境性だけでなく、資源採掘における労働環境や児童労働の課題解決など、人権問題への責任ある調達にも役立てることができるようになります。

関連記事:DPP(デジタルプロダクトパスポート)の開発【オランダ 】

画像参照:https://www.circularise.com/dpp

DPPに期待されていること

1. 製品のトレーサビリティと透明性の向上

DPPを通じて、製品の製造過程・使用履歴・リサイクル可能性などの情報が可視化され、消費者や規制当局が製品の履歴を簡単に確認できるようになります。
これにより製品の品質や安全性に関する信頼性が向上し、不正な製品の流通や品質不良のリスクが低減することが考えられます。

2. サステナビリティの促進と資源循環の強化

製品に関する詳細な情報(素材、製造過程、リサイクル性など)が一元化されることで、企業や消費者がよりサステナブルな製品やサービスを選択することが容易になります。
また、製品がどのような素材で作られているかが明確になるため、リサイクルや再利用を促進し、資源の効率的な循環利用が進みます。

3. 企業の責任強化と規制遵守

DPPの導入により、企業は製品に関する詳細な情報を提供する義務を負うことになり、環境への影響や社会的責任に対する透明性が高まります。また、製品の設計段階から廃棄に至るまで、規制遵守を確実にするための監視が強化され、企業の社会的責任が明確に求められるようになります。

DPPにおける課題

1. 標準化と互換性の確保

DPPが効果的に機能するためには、業界全体で共通のデータ形式や仕様が必要ですが、現在は企業や業界間で規格や技術基準にばらつきがあります。標準化の欠如は情報の互換性を欠き、データの整合性が取れない原因となり、DPPの普及を妨げる要因となります。

2. 導入コストの負担

DPPを導入するには、企業側がシステム開発、データ収集、管理インフラの整備に多大なコストとリソースを投入する必要があり、欧州においても、参加企業から政府に対して「導入にかかるコストを政府に支援してほしい」という声も上がっています。特に中小企業にとってはこれが大きな経済的負担となり、導入のハードルが高くなる可能性があります。

また、DPPを導入することで消費者の購買にどれほど影響を与え、売上に効果があるかは不明瞭です。日本は欧州と比較して環境性で製品を選択する消費者の割合がまだ低い中、DPPの導入・運用コストを賄えるほどの効果を狙うことは難しいと考えます。

3. プライバシーとセキュリティの懸念

DPPには製品の製造履歴やサプライチェーン情報、場合によっては消費者データなどが含まれるため、データのプライバシーやセキュリティの管理が重要です。これらの情報が不正アクセスやサイバー攻撃にさらされるリスクがあり、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。そのためには、標準化の推進、支援策の充実が求められます。

特集ではDPPを推進する企業の取り組みをご紹介

欧州では、DPPを中心に製品ライフサイクル全体のデータを統合することにより、資源効率を最大化し、廃棄物削減や再利用の促進を目指しています。すでにテスラとアウディがEV車のバッテリーパスポートの実証実験を実施、フィリップスが照明製品に対してDPPを活用するなど、企業への導入も進んでいます。

次のDPP特集記事では、欧州のDPP開発スタートアップと業務提携し、日本市場への展開を進める丸紅株式会社に、サーキュラーエコノミーにおけるトレーサビリティシステムの役割や、欧州と日本の動向の見通しについてお伺いします。