徳島の山あいにある上勝町は、いまやゼロ・ウェイスト運動を象徴する町として世界から注目を集める存在となっています。しかし、かつては20年以上にわたって、公然とごみの野焼きが行われていました。
上勝町にはごみ収集車が走っておらず、町民は町に一つのごみ集積場にごみを持ち込み、13品目45種類に分別して出来る限り資源化します。現在のリサイクル率80%超は、日本の全国平均19.6%という数字を考えれば驚異的。
この記事では、なぜ上勝町がゼロ・ウェイストの町になれたのか、これまでの歩みや、最先端のサーキュラーエコノミーを体感できるゼロ・ウェイストアクションホテルのオープン、次なるステージ「新ゼロ・ウェイスト宣言」に向けての挑戦などについてお伝えしながら、よりよい町と暮らしの作り方、そして資源循環について考えていきたいと思います。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
なぜ日本のごみリサイクル率は低いのか
日本では、ペットボトル、缶・瓶、段ボール、新聞紙などリサイクルできる資源は分別し、地域で決められた方法でごみを出しています。ごみの分別ルールが徹底しているので、世界的に見てもリサイクル率が高いと思っている方もいるかもしれませんが、実は日本のリサイクル率はEU加盟国と比べるとかなり低い方であると言わざるを得ません。
例えばドイツ、スロベニア、オーストリア、オランダ、ベルギー、リトアニア、ルクセンブルクではリサイクル率が50%を超えているのに対し、日本のリサイクル率は20%にも満たないのです。
日本とEUとではリサイクル率の計算方法に違いがあることも理由の一つですが、一番の原因はごみの処理方法にあります。
グラフが示す通り、日本のごみ焼却率は世界的に見ても極めて高いと言える数値。実は日本のごみ処理方法が焼却に頼っているのには、土地の少なさが関係しています。日本には埋め立てに使える土地がないため、焼却することで体積を減らそうと考えたのです。
日本でリサイクル率を高めるためには、ごみの30~40%を占めるとされる有機性ごみを焼却処理せずにリサイクルすることが必要。日本は今、ごみ処理のあり方を考え直さなければならない時期に直面しているのかもしれません。
やむにやまれぬ事情から始まったゼロ・ウェイストへの挑戦
徳島市内から車で1時間、勝浦川上流に位置する人口約1500人の上勝町は、2003年に日本の地自体として初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を提唱した町。町民が持ち込んだごみは分類して出来る限り資源化され、現在のリサイクル率は80%を超えています。
ではなぜ上勝町がゼロ・ウェイストの町になれたのでしょうか?
上勝町の人々は昔はほぼ自給自足の生活をしており、生活に必要なものは木や竹で作っていたためほとんどごみは出ませんでした。しかし戦後、プラスチックなどの工業製品が普及し始め、家庭では処理しきれなくなってくると大規模な野焼きが始まったのです。
1975年前後から20年以上、公然とごみの野焼きが続きましたが、県からの指導を受けて野焼きを廃止し、1998年に焼却炉を導入しました。しかし、ダイオキシン類対策特別措置法の施行により3年足らずで閉鎖に追い込まれることに。
そうした状況の中で、経済的にも環境的にも負荷のかからないごみ処理方法を模索し、行きついたのが「資源化すること」でした。10種類にも満たない分別の自治体が多い中、当初は細かい分別に反対する声もあったと言います。ですが、町ではそうした意見に耳を傾け、できるだけ住民に負担のかからない方法や、前向きに取り組んでもらえる仕組みを考え続けることで住民のモチベーションに繋げることに成功したのです。
努力は「見える化」して還元する
上勝町のごみ分別は13種類45分別。ごみ収集車はなく、町民は自家用車で町内唯一のゴミステーションまで持ち込みます。
①まだ使えるものは「くるくるショップ」へ
自分では使わなくなったけど、まだ使える“もったいない”物は、ゼロ・ウェイストセンター内にある「くるくるショップ」に持ち込むことができます。
ショップ内の展示品は、誰でも無料でお持ち帰り可能。
②生ごみは各家庭で堆肥に
ゴミステーションでは生ごみの受け入れはしていないため、住民はコンポストや生ごみ処理機を購入し、各家庭で堆肥化します。
③分別エリアで持ち込んだごみを分別
持ち込んだごみは分別エリアで細かく分類されます。
住民の努力はしっかり還元
細かいごみの分別はどうしても負担になります。そこで町では、協力してくれた人には
努力を「見える化」して還元することに。
例えば住民が各家庭で生ごみを堆肥化する電動生ごみ処理機を購入する際、費用の多くは町が持ち、住民の負担は1万円のみ。集積所でごみを分別するごとに「ちりつもポイント」が付与され、ポイント数に応じて日用品や学童用品と交換できるシステムも制定しました。
ランドマーク「ゼロ・ウェイストセンター」の開設へ
2020年までにごみの焼却・埋め立てをなくすというゼロ・ウェイスト宣言から17年、節目となる2020年にはかつてごみ集積所があった場所に「ゼロ・ウェイストセンター」が作られました。ゼロ・ウェイストセンターには、ごみの分別や保管を行うゴミステーションのほかに、リユース施設「くるくるショップ」や、ゼロ・ウェイストの考え方が学べるホテル「WHY」などが併設されており、新しいランドマークとして注目を集めています。
「WHY」では、宿泊者も町に住む人と一緒にゼロ・ウェイストアクションに参加することで、最先端のSDGsを学ぶことができます。
近年は日本国内はもちろん、海外からも視察や取材が訪れるようになり、観光客や移住者、県外からの新規事業者も増えたのだそう。これは、ゼロ・ウェイストを推進することで町全体が活性化し、ブランド化されたことを意味しています。
上勝町が掲げた新たな「ゼロ・ウェイスト宣言」とは
上勝町は2020年、新たな「ゼロ・ウェイスト宣言」を提唱しました。2030年までの実現を目指す新たな目標は以下の3つ。
① ゼロ・ウェイストで、暮らしを豊かにする
② 町でできるあらゆる実験やチャレンジを行い、ごみになるものをゼロにする
③ ゼロ・ウェイストや環境問題について学べる仕組みをつくり、新しい時代のリーダーを輩出する
新しいゼロ・ウェイスト宣言の提唱の背景には、ごみの焼却や埋め立ての量が減った一方で町民一人当たりのごみの排出量は増えているという現実があります。使い捨て容器や通販の梱包材など、便利な暮らしから出るごみはどうしてもなくなりません。そこで、次に取り組むべき課題を「そもそもごみを出さないライフスタイルをつくること」に設定し、ごみをどう処理するかではなく、ごみを生み出さない仕組みづくりへとシフトチェンジすることにしたのです。
上勝町では惣菜店やレストラン、米店などで積極的に量り売りを行っています。容器を持参すれば前出の「ちりつもポイント」に合算できる仕組みを作り、使い捨て容器や梱包を減らす取り組みを進めています。どうしても燃やさなければならないものの一つである使用済み紙おむつを減らすため、子どもの産まれた家庭には布おむつセットをプレゼントする制度も開始。使い方の説明を通して、ごみの減量だけでなく子育てのサポートも行っています。
また、上勝町は、町内の事業者だけでなく様々な企業と提携を進めることで、社会の経済システムにゼロ・ウェイスト精神を浸透させるためのチャレンジも始めています。「この小さな町から、ゼロ・ウェイストの輪を世界に広げていきたい」…さらなる目標に向けて、上勝町の挑戦は続きます。
町と住民が手を取り合うことがゼロ・ウェイストへの第一歩
上勝町は日本の自治体で初めてゼロ・ウェイスト宣言を提唱した町として注目を集める存在になりました。しかし、最も注目すべきなのは、今できることを町民自らが取り組んでいること。そしてそれを誇りに感じながら共に手を取り合う町の姿勢です。
ただ強制やお願いをするのではなく、住民にとって苦痛にならない仕組みをどう作るかを町が真剣に考えて試行錯誤を繰り返しながら進めてきたからこそ、消費者にできる限界に近づくほどのリサイクル率を実現できたのだと思います。
ゼロ・ウェイストの町はトップダウンでは作れません。町民との距離が近い小さな町だからこそ成しえたことだと言われればそれまでですが、町と住民が手を取り合ってよりよい暮らしを創造していこうとする姿勢は、見習うべきポイントが多くあるはずです。
ゼロ・ウェイストへの第一歩は、どんな町、どんな社会にしたいのかという具体的な目標を、住民と共有すること。日本のリサイクル率はここ何年も横ばいが続いています。この状況を打破するためにも、各自治体が本気の施策を打ち出す時が来ているのではないでしょうか。