記事を読む

今や老若男女問わず、スキンケアやメイクアップを施す時代。街のドラックストアや百貨店、あちこちで美容関連商品を見かけると、人々は単純な容姿への拘りに留まらず、健康で豊かなライフスタイルの構築を目指す、ウェルビーイングの要素も感じるようになりました。

今回は「正直品質」を掲げ、無添加化粧品と健康食品などを製造・販売している株式会社ファンケルにインタビューを行いました。同社は「美」と「健康」の領域を中心に、世の中の「不」の解消に取り組む中で、容器包材の環境負荷軽減にも長く向き合っています。20年に渡るヒット商品「マイルドクレンジングオイル」のボトルは2004年度比約39%減の18.2グラム。軽量化により廃棄プラスチックだけでなく、輸送にかかるエネルギーの削減にも貢献しています。

これらの取り組みや事例、化粧品における容器包材の役割と目指すべきサーキュラーエコノミー、循環モデル、そして課題について、株式会社ファンケルの開発担当者の方々にお聞きしました。

※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。

無添加化粧品に向き合い40年、利用者の声を反映し続けた先に容器包材の取り組みがあった

株式会社ファンケルは1980年、創業者池森賢二氏が肌荒れに悩む妻の為に、小さな1週間分の密封容器(バイアル瓶)に入れた防腐剤がない無添加化粧品を製造したところからスタートします。当時は化粧品がひとつの女性の嗜好品となったものの、化粧品のせいで肌荒れを起こすことが社会問題にもなっていました。防腐剤などの添加物は商品製造から使い切るまでの長い期間、製品の質を担保するという意味では重要ですが、一方でそれらが肌に合わない消費者もいます。

商品を最小のサイズにすることで、長い商品サイクルを短くし防腐剤を使用せずに使い切る。とてもシンプルな商品設計は以降、長く同社に根付きます。それはどんな時も消費者の声に耳を傾ける企業理念によるもので、今回取材した容器包材の取り組みもきっかけは同じだったそうです。

担当者 取り組みは30年以上しています。アイシャドウパレットの4色あるうち1色先になくなってしまう事って女性にとってあるあるですが、それを容器を捨てることなく中身だけを入れ替えられる、レフィル式にして欲しいという声があって開発に至りました。当時はまだ珍しい売り方だったと思います。

無添加化粧品の高い研究成果が功を奏し、化粧品の他、サプリメントなど健康食品でも多くのヒット商品が生まれる中、同時並行で商品を包む容器包材にも力を入れます。

化粧品における容器包材の役割と重要性

グループ会社の容器包材を一手に引き受ける総合研究所化粧品研究所容器開発グループでは、これまで無添加化粧品を守る容器本来の役割と、求められる環境負荷の低い容器のせめぎ合いに向き合い続けたと言います。化粧品における容器の役割とは一体どのようなものでしょうか。

担当者 元々の容器の役割は商品の劣化を防ぐことです。化粧品が劣化する要因は主に、紫外線など光にあたる、空気に触れ酸化する、高温など。劣化のスピードは保管状況に大きく左右されます。例えば防腐剤などケミカルなもので劣化のスピードを遅らせる方法もありますが、これは無添加でない化粧品に入るものです。

今回取材した総合研究所  化粧品研究所 容器開発Gの方々。

つまり容器を薄型にする、もしくは新素材にするという取り組みは、内容物の劣化を早める可能性が高く、内容量の少ない商品を通販で販売するという商品設計も、輸送における環境負荷を高めてしまうとも考えられます。

担当者 ファンケルグループとしては内容物を守るための自社基準があり、容器包材の企画から検証までを一貫して私達が責任を持って行っています。また、環境対応と容器本来の役割が両立しづらいという課題がありますが、無添加化粧品そのものにも進化があるようです。

担当者 無添加なので、詰め替えすると雑菌が混入してしまったりと、当初ファンケルの商品そのものが詰め替えに向きませんでした。実は容器の工夫と言うより、処方設計*の工夫が近年進歩しまして、そういった進歩に応じてリニューアルを重ね、防腐剤なしで、雑菌の繁殖を防ぐ能力が高まり、詰め替えが可能になりました。

*原料の組み合わせ、製造工程等を検討し、化粧品を作る、中身の設計を指す。

ちなみに、今回取材で訪れたファンケル総合研究所(神奈川県横浜市)では容器包材の設計や機能を確認する実験・検証を行える機械を備えていました。化粧水や乳液の一回の適切な使用量を取り出せる口径を検証、様々な温度環境を再現し容器と内容物の耐久性を実験。商品の使い勝手の良さはサステナビリティへの貢献と表裏一体。一方で品質を保持する責任を果たす事も重要であり、容器包材の設計は針に糸を通すようなものだと感じました。

4Rを軸とした網羅的かつ野心的な取り組み

では同社の目標と取り組みを紹介します。容器包材におけるプラスチックについて、REDUCE(プラスチックを減らす)、REUSE(繰り返し利用する)、RECYCLE(資源にする)、RENEWABLE(代替素材を使用する)の基本の4R対応を行っています。ファンケルグループ全体でのプラスチックを使用した容器包材における4R対応は2030年までに100%を目指していますが、2021年度には43%に到達しました。

また、4Rのうち、RENEWABLE(代替素材を使用する)にあたる、植物由来・再生由来プラスチックの使用率は2030年までに30%を目標とし、2021年度には17.6%に到達しました。

この4Rのうち、同社が長年注力し成果を出してきたのは主に、REDUCE(プラスチックを減らす)、REUSE(繰り返し利用する)。先述したマイルドクレンジングオイルのボトル軽量化、詰め替えパウチの採用、ケースを繰り返し使用するレフィル容器の採用などで、業界をリード。日本パッケージングコンテストで適正包装賞をこれまで2回獲得しています。

RECYCLE(資源にする)、RENEWABLE(代替素材を使用する)についても2017年以降積極的な取り組みを行っています。2017年にマイルドクレンジングシャンプー、ボディウォッシュのボトルに、今では多く見られるバイオマスプラスチックであるバガス(サトウキビの搾りかす)から作られたバイオPEを採用しました。

ボトルやポンプ部、蓋までそれぞれに適した4R対応素材を採用している。

また、既存の容器包材の部品を再生プラスチックに切り替える取り組みも行っています。化粧品の品質を守る為に設計された容器は非常に複雑で、それぞれの部品に役割があります。部品の役割を果たしつつそれらに見合う4R対応の素材は一律には出来ないと言います。

担当者 4R対応は容器包材の一部でもバイオマス・再生プラスチックに切り替えれば4R対応としている為、43%と言っても実際には更なる改善の余地があると思っています。2030年までの100%達成は勿論ですが、全部品で何かしらの4R対応が出来る様にしていくべきと考えています。

2019年にはキリンホールディングス株式会社と業務提携を行い、部品の一部をペットボトルキャップ由来の再生プラスチックに置き換えました。

また2021年より自社回収によるリサイクルにも取り組み、ファンケル一部店舗で容器を集め協力会社を通じて植木鉢などにリサイクルをしています。

嗜好品としての価値を売る商品での環境対応の壁

紹介したプラスチックの容器包材における取り組みは網羅的で、且つ先進的であることが分かりましたが、同社が設定している目標値には達していません。またいち消費者としても、「環境と人」編集部としても更に野心的な取り組みを求めたいところです。

まず取り組んでいる4R対応の進捗状況と課題について伺いました。

担当者 特にバイオマスプラスチックなどで、容器包材の一部でも4Rの視点を取り入れ易くなったことは感じていますし業界全体で環境対応のスピードを早めていると思います。

ですが、衛生的かつ美しいデザインが要求される容器包材の開発にはかなり時間がかかるとも感じています。化粧品の容器には複合素材も多く、そこをどうしていこうかという課題になります。容器にかけられる開発費も各社さんそれぞれ限界もあると思いますので、技術革新が早く進むように業界問わず協力していくべきです。

化粧品というのは、ブランドの付加価値を売る、嗜好品としての役割もあります。そういう意味では環境対応とデザインは相反するところがあり、いくら衛生的で化粧品の容器包材に適した再生プラスチックを集めても、例えば色に融通が利かずダークな色にしかならない場合、高価格帯の美白美容液には適さないという現実があります。

純粋な美容に対するニーズと環境価値へのニーズ、ビジネスとしてはそれぞれに見合った容器包材や製品になるようにマーケティングしていく必要があります。

また、同社で行っている店頭回収リサイクルについて、現在はごく限られた量であることもあり、使用済み化粧品容器由来の植木鉢として横浜市の小学校へ寄贈されていますが、その出口にも課題があると言います。

担当者 今の寄贈という形も地域に貢献出来る活動ですが、本来ならこの再生プラスチックを自社商品の容器包材に使用する事が理想です。もしくは良質なペレットとしてどこかに商品化してもらうなど、この点の目利きや上手い出口の選定が難しいです。

今回の取材を通じて、化粧品業界に限らずメーカーのサーキュラーエコノミー実践にはまだまだ厚い壁があると感じました。ファンケルでは今後、プラスチック以外の素材への代替や、リサイクル素材の採用拡大、それらを達成する為に企業の枠を越えた協業を目指すとしています。

担当者 化粧品そのものの処方設計も含め、どこが環境負荷となっているかを適切にジャッジするのが非常に難しいところです。その辺りは世の中の流れも合わせて会社として上手く判断しながら目標値に合わせていく。でも確実に目標達成する野心的な試みは成されるべきだと考えています。

本誌では今後も、サーキュラーエコノミーにまつわる多種多様なボトルネックについて解決法を模索していき、スピード感を持った変革に寄与し得る情報を伝えていきます。

2023.8.31
取材協力:株式会社ファンケル
https://www.fancl.jp/index.html