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日本各地で耕作放棄地が増え、雑草や害虫の発生や野生動物の侵入、災害時の危険性増加などさまざまなリスクが発生しています。株式会社バイオマスレジンホールディングスのCEO・神谷氏は、そんな問題と真摯に向き合いつつ、環境にやさしいバイオマスプラスチック「ライスレジン」を作り上げた人物です。

氏が着目したのは、日本をはじめアジア圏で広く親しまれている「お米」。この「ライスレジン」は従来のプラスチックと比べおおよそ7割のCO2削減効果が見込まれ、カーボンニュートラルに貢献することが期待されています。日本からアジア、そして世界に向けて発信する同社の取り組みをインタビューでお届けします。

※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。

CO2削減効果7割のプラスチック「ライスレジン」

株式会社バイオマスレジンホールディングス 代表取締役CEO 神谷雄仁/ 商業施設開発のコンサルタント、食品商社で化粧品・健康食品原料の開発などを経てバイオマス関連事業に参加し、2005年に全身となるバイオマステクノロジー社創業。2017年11月にバイオマスレジン南魚沼、2020年3月にバイオマスレジンホールディングスを設立。

―どのような経緯で創業に至ったのか教えていただけますか。

2005年に行われた「愛・地球博(愛知万博)」で、生分解性のプラスチックが発表されたんですね。当時は食品系の会社にいたこともあって、アメリカではトウモロコシから生分解性プラスチックを作るという話も聞いていて。「なるほど。穀物のこういった使われ方もあるのだ。」と感銘を受けてから数年を経て、農水省もバイオマスに取り組んで技術開発をするという流れが出てきました。「これは、今後環境事業に注目が集まるのでは。」と起業に踏み切った、そんな経緯ですね。

日本のみなさんへストーリー性のあるご提案をしたい思いもあったので、米どころでもある新潟県南魚沼市でスタートしたのですが、最初は失敗の連続で。ここ最近やっと時代が変わってきて、お米でできたプラスチックという、ほかにはない素材を評価いただいています。

―最初からお米を原料にされていたのですか?

いえ、元々は蕎麦殻や籾殻など処分されるしかないものを原料としてアップサイクルする、という形で事業を展開していました。ただ、続けていくのはやはり難しくて。実現性と経済性を鑑みてお米ならいけるのではないかと、そちらへ舵を切っていきました。

―お米に可能性を感じたのはなぜですか?

日本全国で収穫できるからです。一方で全国的にお米の消費量がどんどん落ちていっていて、かなり余ってしまっている。耕作放棄地が増えていることも知っていましたので、もっと新しいことをしていかないと将来困るのではないか、との思いもありました。

それにお米はCO2を吸って生育していくわけなので、カーボンニュートラルで育てられるんですよね。現在私たちがつくっているお米が原料のプラスチック素材、ライスレジンはお米の比率が最大70%、石油系が30%となりますので、バージンプラスチック素材に比べておよそ7割のCO2削減効果があります。

参考:脱炭素とカーボンニュートラルって何?

お米の配合率を変えればさまざまな用途で使用可能

―ライスレジンは普通のプラスチックとどう違うのでしょうか?

色味は完全な透明ではなくて、少しアイボリーがかっています。香りが残っていることもあって、おもちゃなんかは「お米の香りがするね」と言われています。また、先ほど7割のCO2削減効果があると申しましたが、プラスチックは用途によって本当にいろんな物性があるので、例えば電子レンジにかけられるものならお米の配合率は24%程度、食器なら30〜25%程度など、さまざまな配合率の素材があります。

ちなみに、お米が多く入ることでよりお米の性質が出てきやすいです。配合率51%のライスレジンを使っているおもちゃは、半分お米なので少し重量があってお米の香りも楽しんでいただけます

―お客様の反応はいかがですか?

そうですね、SDGsの文脈で、サステナブルなものを積極的に使おうという流れもありますし、昨年プラスチック削減の法律*もできた関係でたくさんお声がけいただけています。具体的にはビジネスホテルの歯ブラシや髭剃り、自動車の内装材などにも使われ始めました。

*プラスチック資源循環法。設計から廃棄処理に至るまでプラスチックのサーキュラーエコノミーへの移行を進める

参考:この先どうなる?プラスチックのリサイクル

農業の課題解決にもつながっていく

―お米作りの課題についても伺えますでしょうか。

まず消費量が減って余っている、ということが挙げられます。農家さんも作りたくても作れないというジレンマを抱えていて、やむなく耕作放棄地となっている場合もあるようです。ですので、今のお米の価値を別角度から見直す必要があると思っていて、我々のライスレジンで新しい選択肢を提供したいという思いがあります。

ライスレジンの原料としているお米は、法律上「工業用品」ということにはなっていますが、食用のお米と生育方法はほとんど変わらないです。田んぼは一度作付けをやめてしまうと再び始めるには4年ほどかかることもあるので、我々のお米を作ることで水田としても残しておける。非常に意味のある活動だと評価もいただいています。

―産地などにこだわりはあるのですか?

最初はどんなお米でも関係なく取り扱っていたのですが、だんだん出来上がりにバラつきがあるのに気づいて。どうやらお米の状態や品種が原因らしいと判明したんです。食べるお米も品種によって粘り気に違いがありますし、新米か古米かだけでも味わいに差が出るのと一緒ですよね。そこで、例えば出口の製品価格が高くてもいいものを使いたいというのであればブランド米で統一したり、安ければ安いほどいい場合にはいろいろ混ざったもので作ったりと、使い分けをするようになりました。

これはプラスチックのリサイクルにも通じる考え方なのかなと思っていて、リサイクルもいろんな状況でいろんなものが回収されてくるので、すべてのものを同じような工程で循環させていくのは無理がある。一方で「こういうものだけしか使いません」となると、原料が集まりにくくなるし事業の持続性の観点からもいただけません。ですのでライスレジンによるリサイクルにおいては、「回収してきたものの品質にバラつきがある」ことを前提に、製造のコントロールをしていくのがポイントなのかなと思います。

使い終わった後はどうリサイクルされていく?

―私たちはリサイクル業界に身を置いているので、ライスレジンは最終的にリサイクルできるかどうか気になるところです。リサイクルについてはどうお考えですか?

ライスレジンだけを回収して粉砕し、もう一度製品化するということは問題なくできますし、具体的な取り組みとしては、ライスレジン製品をリサイクルして子どもたちの文房具にしていく、という取り組みをスタートしました。

しかし前提としてライスレジンを含むバイオマスプラスチックというのは、一般的なプラスチックのリサイクルにおいては異物として阻害要因になるという正しい知識を必ずお伝えするようにしています。

また、今は生分解性の性質について求められることが多く、ライスレジンの他にNeoryza(ネオリザ)という生分解性プラスチックの素材を展開しているのですが、これも決して魔法みたいに勝手に分解していくわけではなくて、しかるべき場所でしかるべき処理をして初めて分解していくものです。まずは「生分解性とは何か」をお伝えし、理解していただくことが必要だと思っています。

参考:環境配慮をしたい人が、バイオプラスチックを使ってはいけない理由

―現在はお米が70%、石油系が30%で作られていると伺いましたが、今後お米100%でのライスレジンは目指されているのでしょうか?

お米100%だとお餅になってしまうので、ある程度は樹脂の要素を持たせないといけないのですが、現状30%は石油系です。石油系の代わりを稲藁が担えないだろうかと、稲藁など植物由来樹脂の研究開発を進めています。

地域と連携しつつ、世界でも展開

―最後に今後のビジョンを教えていただきたいです。

お米を使ったプラスチック事業をスタートし、ライスレジンをリリースしてきた中で、リサイクルや生分解性を求められる段階に入ってきましたので、そのあたりの対応をまずは早急に進めていきたいです。

そして本質的な部分では、お米の価値を改めて見出していきたい。新しいお米の用途として何か別のプロダクトをご提供できればと考えていて、日本中の米農業の復活や価値の見直しにまで広げられたらいいなと思っています。

また我々の事業は地域性が高いので、地域のみなさんとの関係性を深めて取り組むことも大事だと考えています。我々の技術を通じて新しい産業や地域の活性化に繋げつつ、新潟には新潟のやり方、北海道には北海道のやり方と、地域の独自性を見つけていく。そのようにして持続性が担保できるよう頑張っていきたいなと思いますね。

―リサイクル業者や回収業者に「こうしてほしい」などの要望はありますか?

なんらかの形で共に事業を展開できるような可能性を見出したいなとも思います。従来のプラスチックのリサイクルルートに乗せることができないため、リサイクル業者さんとしては素直には賛同できないという面もあるかと思います。そうした気持ちの上で理解していただきながらネットワークを作っていって、コミュニティが広がっていくことで意味のあることができるのかなと思います。

―最後に、世界での展開はどのようにお考えですか?

我々がお米を使ったのは非常にアジア的な穀物だから、ということもあるので、その地域ならではのものをいかに活用していけるかが重要だと思っています。例えば中東だったらデーツなど、その土地で多数流通しているものでビジネス化すべきかと。

今ブラジルや北米などで技術連携のお話もいただいていて実際にビジネスも進んでいますので、我々の技術がソリューションのひとつのなるのではないかなと思います。

取材協力:株式会社バイオマスレジンホールディングス
https://www.biomass-resin.com/