皆さんが日々出したごみは、回収車によって清掃工場へと運ばれます。日々あまり目にせず知る機会も少ない清掃工場ですが、なかには環境についての啓発と市民との交流を行う先進的な施設もあります。
2017年に新施設としてリニューアルした東京都武蔵野市の「武蔵野クリーンセンター」は、市民が集まるコミュニティスペースを兼ね備える洗練された建物で、同年にグッドデザイン賞を獲得しました。
さらに2020年、新センターに隣接する旧施設がリノベーションされ、環境をテーマとして新たな価値を創り出す空間「むさしのエコreゾート」として生まれ変わりました。
従来の「清掃工場」の認識を変える「武蔵野クリーンセンター」と、環境について考えるリノベ施設「むさしのエコreゾート」について、武蔵野市環境部ごみ総合対策課 クリーンセンター担当課長 三浦さんと、武蔵野市環境部環境政策課 環境啓発施設担当課長 白石さんにお話を伺います。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
オシャレな清掃工場とは
-まずはこの施設について教えて下さい
はい。ここ武蔵野クリーンセンターは武蔵野市内唯一のごみ処理施設で、可燃ごみ・不燃ごみ・粗大ごみ・危険有害物の4種類を処理しています。
弊センターは旧焼却設備の老朽化に伴い建替えることになり、周辺住民との協議を経て2017年に防災および地産地消エネルギーの拠点としての機能が付加された新クリーンセンターとなりました。
最新技術を惜しみなく使った先進的な施設で、ごみ処理の流れを自由にご覧頂ける見学者コースとイベントができるオープンスペースを兼ね備えています。
市民の皆さんがごみ問題に向き合えるように一般に開かれた施設という点が評価され、同年にグッドデザイン賞を受賞しました。
さらに、新センターへの移転によって空いた旧施設をリノベーションして、2020年11月より「むさしのエコreゾート」がオープンしています。
-「むさしのエコreゾート」とは?
設立の経緯から説明いたしますと、旧焼却設備は耐用年数を迎えましたが、建物としてはまだまだ寿命がありましたので、旧施設を活かす方法を市民の皆さんと協議し、実質10年近くの話し合いの末に2020年11月4日にオープンしたのがエコreゾートで、クリーンセンターの歴史を継承し、市民参加・市民提案を軸に環境啓発活動を担います。
-オシャレな公園や美術館のような印象でしたが、主に環境啓発活動を担う施設なんですね。
はい。エコreゾートは市民の皆さんに開かれた施設で、ごみをはじめ環境について共に考え、行動・活動することを目的としています。既存施設の天井高を活かして展示やイベント、ワークショップを開催できるフリースペースや、いつでも廃材工作ができる ものづくり工房、カフェスペースやスタディールーム小など7つの機能を備えており、どなたでもお使い頂けます。入場は無料ですので、ぜひご利用いただければと思います。
成り立ちそのものが市民参加
-住民の皆さんとの交流をとても大切にされているんですね。
はい。清掃工場というのは一般的に、清掃車が家の前を毎日通ったり、臭いがしたりで住民の皆さんにとって中々受け入れづらい存在なのだと思います。弊所は長い年月をかけながら、周辺住民の皆さんにその辺りをご理解頂いた上で成り立っている施設ですから、関係性を大事にしています。
特に、このクリーンセンターは40年近く前に旧施設が建てられたんですが、それ以前は武蔵野市のゴミを三鷹の清掃工場へ送っていました。そちらは昭和40年代の工場でしたので公害問題など近隣住民との軋轢があり、武蔵野市内に清掃工場を新設するにあたり住民の皆さんと何年間も協議した歴史があります。
なので、今も周辺住民とのコミュニケーションを特に大切にしていますし、エコreゾートの設立に関しても市民参加という基本コンセプトが根底にあるので、そこは今後も変わらないと思っています。
環境啓発に特化した施設は都内にも似た施設がありますが、市民の皆さんとの議論を土台として「参加型」を強く意識してやっているのが他所との大きな違いだと感じております。
-実際にエコreゾートのオープンから1年と少し経ちましたが、いかがですか?
あいにくコロナ禍でのスタートになりましたので、残念ながら当初予定していた環境啓発の案の数々がまだ実現できておりません。ですが、エコreゾートのオープン前から続けてきたむさしの環境フェスタをはじめとしたイベントの開催や施設見学の実施などは時勢を考慮しながら続けてまいりました。
意思の面で言えば、私たちは大きく法制度を変える事はできませんので、地道ですが、ここから武蔵野市全域に啓発・発信をすることで、皆さんの環境意識を広げていく身近なきっかけとなれればという思いで1年経ったという感じです。
-環境フェスタなどのイベントはどのように運営していますか?
運営は基本的に職員が行っておりますが、それだけでは視野が狭くなってしまうので、学識者と地域企業、市民団体さんによる「運営会議」でご意見を頂きながらやっています。
環境フェスタはもう今年で14回目なんですけど、やはり、弊所だけですと来場者にしか見て頂けないので、今は外へと広げるため駅前でポップアップイベントを開いたり、Webの活用など試行錯誤しながら展開しています。
他にも、2018~2019年には武蔵野クリーンセンターにて、エコツーリズム事業の実証実験の一つとして見学コースの中にバーを設けてごみ処理を見ながら地域のクラフトビールや、廃棄食材などを活用したおつまみなどを提供する「ごみピットバー」なんていうユニークなイベントを開催したりもしました。
こちらはコロナ禍や採算性の問題でこれから継続するかは分かりませんが、国内外からの反響が大きかったですね。
-これまでも武蔵野クリーンセンターでイベント開催をして行ってきた環境啓発活動が、エコreゾートという新たな施設によってパワーアップして行きそうですね。
啓発活動におけるデザインの役割
-施設のデザイン以外にもチラシなどのデザインセンスも洗練されていますね。ビジュアルを重視していらっしゃるんでしょうか?
啓発というのは成果が見えづらいんです。だからこそ行政として手にとってもらえるよう、デザインに凝ったりにお金をかける必要があるんです。
ただ反面、その成果を測る方法にはアンケートなどがありますが、啓発活動の結果になる心の変化だとか行動の変化というのは測り辛いものなので、見えづらくとも地道に続けていく必要があるかなと思っています。
-なるほど。グッドデザイン賞受賞の工夫とはデザインといえば、エコreゾートのオープン前から武蔵野クリーンセンターはグッドデザイン賞を受賞していますがその理由は何ですか?
いくつかあるんですが、大きなところで言えば外観デザインと機能のデザインの2つあります。
外観のデザインについては、見た人に「この地域に住みたい」と言ってもらえるような優しいデザインを目指しました。歩道と一体化した開放的な広場や、高さを抑えて親しみやすい施設外観にすることで市民の皆さんが気軽に立ち寄れる、クリーンセンターを知ってもらえるような工夫をしております。
機能面での目玉の一つがごみ発電です。「エネルギーの地産地消」を推進しておりまして、ゴミを燃やした蒸気でタービンを回して発電しています。
発電した電気は弊所はもちろん、向かいの市役所と総合体育館、市内の小中学校に送電しています。
弊所で電気をあまり使わない夜間に電気を貯めて昼間に使用したり、災害時にもごみ処理と発電ができるような工夫を行うことで電気の地産地消を図っており、発電によって年間2億円の削減が可能になっています。
また、蒸気は発電以外にも冷暖房や温水プールの熱源としてサーマルリサイクルされています。
-外観デザインと機能デザインの両面が評価されての受賞だったんですね。最後に、今後の展望はいかがですか?
展望と言うよりは、クリーンセンターは安全安心な施設でないといけないというのが第一です。
しかし、実を申し上げますとリチウムイオン電池の処理過程での出火が何度かありました。本来リチウムイオン電池は危険有害物として出してもらうので、正しく分別して頂けているなら問題ないんですが、これが不燃ごみに混ざっていると破砕機にかけられてる過程で発火してしまいます。
なので、弊所では感知器やスプリンクラーを増設して出火対策をしており、消防を呼ぶようなことがないよう引き続き安全安心で務めていく事がまず第一です。
それを踏まえての展望ですが、リチウムイオン電池の分別について国にも色々と要望しているんですが、なかなか法整備が進まない。
一方で年々リチウムイオン電池の廃棄件数が増え続けている状況ですので、分別の徹底を含めて、皆さんにもっとごみについて知って頂けるよう、むさしのエコreゾートを拠点として環境啓発を引き続き行っていきたいですね。
-ありがとうございました。
2021.12.20
取材協力:武蔵野クリーンセンター むさしのエコreゾート
https://musashino-ecoresort.com/about/