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品川区立環境学習交流施設「エコルとごし」は、自然豊かな戸越公園内にあり、体験型展示や多彩なイベント・講座で、環境を楽しみながら学べる施設です。また、区民や公園を利用される方々の憩いと交流の場としても多くの方に利用されています。

その建築は都内公共施設で初めて「Nearly ZEB」認証を取得。基準となる建築物と比較し、省エネ・創エネ含め98.5%のエネルギー量削減に成功しています(令和5年度実績)。

その「エコルとごし」の建築や施設で行われている環境学習について、「エコルとごし」の指定管理者であるアクティオ株式会社の中藏 康之 館長にお話をお聞きしました。

年間約70講座 区民に開かれた環境学習施設

ー「エコルとごし」が建設された背景について教えてください。

この場所には以前、戸越公園の管理事務所がありましたが、老朽化による建て替え計画が立ち上がっていました。同時期に制定された品川区環境基本計画(2018年3月)に基づいて、次世代を担う子どもたちをはじめとする区民が環境の保全について関心や理解を深められる場づくりの必要性が高まったことから、環境学習施設の建設に至りました。

中藏 康之 館長
戸越公園は肥後国藩主細川家の下屋敷の一部であり、薬医門(正門)の隣に位置するエコルとごし(エコルとごしホームページより引用)

それまでの品川区の環境学習は、区が地域のNPOに委託し、年間数十回のワークショップなどを開催していましたが、このような環境学習の拠点はありませんでした。現在は、私たちアクティオ株式会社が「エコルとごし」の指定管理者となり、運営しています。

ーなぜ品川区は施設を建設する経緯に至ったのでしょうか。

環境課題はとても壮大で、「どこから取り組めばいいのだろう」と思ってしまいがちです。品川区としては、環境学習がより身近なところで行われ、気付きを得られる場を作りたいと考え、映像展示や常設展示で体感しながら環境を学ぶだけでなく、建物自体からも環境への配慮を学べることを目指したと聞いています。

とりわけ、ZEBリーディング・オーナーという認証を目指したのは、その取り組みが区民にとって、効果をより分かりやすく見える化するためです。例えば太陽光発電は、これまでも学校の屋上などで行われてきましたが、区民が具体的な数値や効果を実感できるような仕組みはありませんでした。

ZEBリーディング・オーナー認証(エコルとごしホームページより引用)

エコルとごしでは、リアルタイムで各設備の実績が見えるモニターを設置しています。また、昨年度は、基準となる建築物と比較し、省エネ・創エネ含め98.5%のエネルギー量削減に成功しており、このような成果を発信することで区民にも効果を実感してもらえるようになっています。

施設丸ごと環境学習となる省エネルギー建築

ー「エコルとごし」の建物はどのように環境対策がなされているのでしょうか。

建物自体では10の仕組みに分類しています。太陽光パネル・蓄電池の設置やLED照明、人感・昼光センサーの設置、エコガラスの採用など、創エネルギー・省エネルギーの技術は決して目新しいものではありませんが、非常に効果的です。太陽光パネルは屋上に288枚、年間平均で1日当たり215kwhの発電量です。これは、一般家庭の約11世帯分の消費電力にあたります。

館内で配布している「エコルとごしの建物のひみつ」に関するパンフレット(エコルとごしホームページより引用)
屋上に設置された太陽光パネル

建物の南側・東側にのびる約3mの「庇(ひさし)」も、空調の省エネに貢献しています。夏は強い直射日光を遮り温度の上昇を妨げ、冬は低い位置から自然光が入ることで、室内を暖めます。

3階には菜園デッキとコンポストがあり、植物の生育を観察できる

特に特徴的なのは、空調設備に地中熱利用を行っていることかと思います。地面下の温度は年中通して約17℃で、夏は涼しく、冬は暖かい、安定した熱源になります。この夏や冬の外気温と地中の温度差を利用し、空調設備の負荷軽減につなげています。

ー内装材にはどんなこだわりがあるのでしょうか。

内装材の木材には品川区が交流する全国7つの自治体のほか、地産地消の観点から東京・多摩地区の建材が使われています。隣接する戸越公園の樹木との親和性が高く、利用者の心地よさを重視しました。また、階段の壁面や会議室の壁面は土佐漆喰が塗られています。

施設内には「どのような環境への工夫がされているか」「木材がどこから来たのか」が分かる掲示が多くあります。エントランスのエコ見える化モニターは、発電状況や電力使用量を見える化しています。

館内で施設の工夫が確認できるプレート(エコルとごしホームページより引用)
エネルギー利用や雨水利用についてリアルタイム表示されたエコ見える化モニター

体験から関心につながる環境学習

ー「エコルとごし」の環境学習の特徴について教えてください。

3階の環境学習フロアは、映像展示・常設展示・メッセージ展示の3つのエリアに分かれており、自分たちと環境課題の関わりを映像や展示を介し、感覚的に体験できます。映像展示は、床・壁一面のダイナミックな映像空間で、都市と自然の「バランス」や「いきもの」とのふれあいを体験できます。

現在は地球温暖化を防ぐために出来ることをゲーム感覚で学ぶ「バランスプラネット」と海・川や陸に住むいきものにタッチして触れ合うことが出来る「いきものタッチ」の2種類を上映しています。

3階 映像展示
「バランスプラネット」ではバランスバンドを付けて、3つの力を使って環境を守るミッションを達成していく

常設展示の「トイカケのジカン」は時間軸をテーマに、ゴミやエネルギーがどのように使われ、それが環境にどのような負荷をあたえるか、環境を守るために何ができるかを学ぶことができます。映像展示より解説が多く、大人もじっくり回り楽しめるスペースです。

1秒コーナーでは、ほんの短い時間に世界や日本、品川区でどんな環境変化があるのか、どんな取り組みができるのかを気付ける展示となっている
海外産食品が国産食品より温室効果ガス排出量が多いこと(「フード・マイレージ」)をお買い物体験を通じ学ぶ体験コーナー

ー年間約70講座のワークショップはどの様な内容でしょうか。

私たちが実施するワークショップや講座の他、品川区を拠点とする企業や教育機関、NPO団体などと連携し、地域で身近に地球環境を考えるきっかけを提供しています。戸越公園の自然も活用しながら、品川区の自然を観察し、自然の大切さを経験出来るワークショップもあり、「エコルとごし」ならではだと思います。

ー「エコルとごし」の今後の取り組みを教えてください。

「Nearly ZEB」認証の建築を多くの人に知ってもらい、再生可能エネルギーの活用や建物の省エネルギーについてより身近に感じてもらうため、今後も多くの方に開かれた施設にしていくことが重要だと思います。その点では現在も、毎週末「エコルとごしの魅力とZEB関連施設を巡るツアー」を行っていますので、今後も多くの方に建物を見てもらえる工夫を続けていきたいです。

大きなエコガラスからは戸越公園の自然が見渡せる(エコルとごしホームページより引用)

また品川区環境基本計画を推進する中で環境学習は重要な役割を果たすと考えています。地域の様々なセクターの方々に協力いただき、環境学習の拠点と言えば「エコルとごし」となるように多様なコンテンツを展開していきたいと考えています。

エコルとごし
https://ecoru-togoshi.jp/