外食産業から排出される食品廃棄物の削減が課題となる中、ワタミ株式会社は食品ロスゼロ、食品リサイクル100%を目指し、全国各地でプロジェクトを展開しています。
昨年(2023)年度からは、本社のある東京都大田区でも新たに地域資源循環の活動を開始。東京都の補助事業にも採択されたこの取り組みを成功させ、現在さらに規模を拡大しています。本記事では、その事業内容、成果、今後の展開などについてご紹介します。
ワタミで都内初の「食品リサイクルループ」
ワタミ株式会社(以下、ワタミ)が2023年度に実施したのは、大田区内の5店舗*にて食品廃棄物の発生抑制及びリサイクルを行う実証実験。東京都の補助事業、「サーキュラー・エコノミーの実現に向けた社会実装化事業」の採択も受けています。この取り組みにより「食品リサイクルループ」の構築を実現し、2024年7月現在、首都圏の他の店舗の拡大にも成功しています。
【実証実験に参加した5店舗】
・三代目鳥メロ大鳥居駅前店(居酒屋)
・焼肉の和民大鳥居駅前店(焼肉屋)
・居食屋渡美(居酒屋)
・から揚げの天才大鳥居店(テイクアウト)
・bb.qオリーブチキンカフェ大鳥居店(カフェ/テイクアウト)
食品リサイクルループとは、食品リサイクル法に基づく取り組みの一つで、工場や店舗で排出される食品残渣を肥料・飼料にリサイクルし、それらを活用して育てた農畜産物を店舗に戻す仕組みを構築。再生利用事業計画の申請し認定を得ることで一般廃棄物の域外配送が可能となる廃棄物処理法の特例を受けることができる取り組みです。特例を受けることでより広域での取り組みが可能となり、収集運搬を効率よく行うことができます。
ワタミが実際に構築した「食品リサイクルループ」は、次のような体制です。
店舗内で排出された食品廃棄物を、リサイクル業者・株式会社アルフォにて飼料化。それを配合飼料メーカー・フィードワン株式会社にて採卵養鶏用の飼料に加工します。飼料は株式会社タカムラの採卵農場にて使用され、生産された卵は株式会社八千代ポートリーを通して店舗が購入。食材として利用することで、食品廃棄物が再び資源として循環します。
ワタミでは、名古屋や新潟、京都など全国各地でこの「食品リサイクルループ」を構築してきましたが、東京都内で取り組んだのは初めてです。多くの事業者との連携など、実現までにはたくさんの苦労やハードルがあったといいます。どのように乗り越え、実現まで漕ぎ着けたのでしょうか。
営業企画部長柳原拓海氏、営業企画部店舗サポート課長大月祥恵氏、SDGs推進本部課長藤田優弥氏、実施店舗の一つである三代目「鳥メロ」大鳥居駅前店・店長神谷健氏にお話をうかがいました。
食品リサイクルループ成功のカギは「廃棄物の計量」と「鶏卵」
――今回、東京都の補助事業を活用して、食品廃棄物の発生抑制及び食品リサイクルに取り組もうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
ワタミでは、エコファーストの約束として「循環型社会の実現に向け、廃棄物の発生抑制と 資源循環を推進」を宣言しています。
食品廃棄物の発生抑制のためには、まずは店舗で食品廃棄物がどれくらい出ているのか、実態を把握する必要がありました。そのため店舗でも簡単に計量ができ、かつ少スペースに収納ができる計量器の開発を株式会社寺岡精工と検討を重ねていたとき、タイミングよく東京都と大田区から補助事業を紹介いただきました。
また、都内で「食品リサイクルループ」を構築すべくその方法を探っていたところ、本社のある大田区内に、株式会社アルフォの食品廃棄物の飼料化センターがあることから、そこで食品リサイクルループ構築のための実証実験も含めて、補助事業を活用して取り組みを前進させたいと考えました。
――食品リサイクルループの構築は、海外でも難易度が高いと言われています。難しかった点を教えてください。
課題はたくさんありましたが、特に「食品廃棄物を運ぶ」と「鶏卵を店舗に戻す」の2つのフェーズに苦労しました。
1つ目は、食品廃棄物を店舗からリサイクル施設へ運搬する部分で、大きな課題がありました。物流業界は今、大変な人手不足のため、運送事業者を探すのが非常に難しかったですね。トラックがあってもそれを運転できるドライバーが足りず、引き受けてもらえないこともありました。
そうした経緯もあり、自社で廃棄物運搬を担う会社を設立する、食品廃棄物を冷凍して回収頻度を下げるなど、さまざまな代替案を検討しました。どちらもコストや設備の問題で難しく、実現には至りませんでした。最終的には運送事業者を探す方法に絞り、粘り強く交渉することで契約することができました。諦めずにあらゆる可能性を俎上に上げて検討したからこそ、解決できたと実感しています。
2つ目は、リサイクル飼料で生産した卵(鶏卵)を店舗で買い取る部分の課題です。
まず、フィード・ワンが製造している飼料(食品廃棄物からリサイクルした飼料を含む配合飼料)を、どこの養鶏生産者が使用しているのか調査する必要がありました。そして、その鶏卵の仕入れルートをワタミ仕入部と株式会社八千代ポートリーが協働して構築しました。
課題も多くありましたが、様々なお取引業者様の協力により無事ループを完成し、スムーズに運用することができています。現在は、国への再生利用事業計画の申請を準備しています。
――ワタミと言えば自社栽培の有機野菜が有名です。食品廃棄物のリサイクルでは、堆肥化して野菜を作る選択もあったと思いますが、なぜそうしなかったのでしょうか。
ワタミは自社農場にて、有機野菜を栽培しています。堆肥化した場合はそれを自社農場で使用する形になりますが、食品廃棄物から製造した堆肥はさまざまな残渣が混ざっています。トレーサビリティを担保することができず、有機野菜としてJAS認定を受けることが難しくなります。このため、ワタミでは堆肥化と野菜栽培でのループ構築は難しいのが現状でした。
――なるほど、それで飼料化なのですね。食材として鶏卵を選んだのはなぜでしょうか。
今回構築した食品リサイクルループは、国の認定を受ける前提で取り組んでいました。そのため、店舗から排出される食品残渣量などに加え、リサイクル飼料で生産された卵の最低買取量も決まっています。
店舗では出汁巻き玉子など、鶏卵を使用した人気メニューが多くあるため安定して注文が入ります。また、卵は賞味期限にも余裕があり大量仕入が可能なこと、卵の種類を変更しても味の変化が出にくいことも、鶏卵を選択した大きなポイントでした。
上記の意味で、鶏卵は食品リサイクルループを構築する上で、最も効率的な食材だと考えています。
――現場のリアルなお話ですね。食品リサイクルループを構築するためには、生産する食品選びも大切だということがわかりました。
食品リサイクルを実施しながら、廃棄物コスト削減にも挑戦
――食品廃棄物を飼料化したことで、コストに変化はありましたか。
都の補助事業で行った大田区内での取り組みでは、食品リサイクルを実施しながらも、廃棄物に関するコストを減少することができました。
食品リサイクルに取り組む前は、可燃ごみ(食品廃棄物を含む)を毎日回収していました。今回、可燃ごみと食品廃棄物を分別することで、いわゆる「生ごみ」が可燃ごみの中から無くなり、「可燃ごみ=腐らないごみ」となりました。
また、全廃棄物を計量することで、廃プラをはじめとした産廃類は、「実はそこまで多く出ていなかった」ことが分かりました。これにより、毎日回収していた可燃および産廃の回収頻度を、週7回×2種類(可燃・産廃)から、週4回(可燃)+週2回(産廃)まで減らすことができました。
食品リサイクル(生ごみ)は週6回の回収を維持しつつ、可燃および産廃の回収頻度削減により、コストメリットを出すことができました。
――素晴らしいですね。他の事業者のお手本になりそうです。
また、その他にも良かった点があります。それは、店舗で廃棄物量が見える化されたことで、不思議と実際の廃棄物量も減っていることです。
今後は生ごみの冷凍保管や可燃・産廃の圧縮保管等でさらに回収頻度を削減し、メニュー開発や持ち帰り運動で廃棄量の削減を行っていきたいと考えています。
このように、「計量」と「データ保管」ができるようになったことは、今後につながる非常に大きな一歩となっています。
店舗でしっかりと廃棄物の分別を行い、連携しているリサイクル事業者や飼料配合業者に良いものを作っていただく。採卵農場ではリサイクル飼料を活用して、ワタミが仕入れられる高品質のものを生産していただく。そして、最終生産物を自分たちで買い取りお客様に提供する。それぞれが役割と責任を果たして食品リサイクルループを回していくことに価値があり、それは短期的なコストの増加以上に意味があると考えています。
――食品廃棄物をリサイクルするには、分別も重要になります。店舗ではどのように行っているのでしょうか。
食品廃棄物の分別を開始する際は、まずは分別しやすい環境、ハード面を整備しました。
店舗で食品残渣が頻繁に排出される場所は、客席と厨房の2箇所です。その付近に食品残渣専用のごみ箱を設置し、できるだけスムーズに分別できる仕組みにしています。
ワタミでは、今までも環境教育に熱心に取り組んできました。今回の食品リサイクルの取り組みも、アルバイトを含むスタッフたちが関心を持ち取り組んでくれています。
今回の取り組みで手間が増えましたが、環境整備すること、また店長である自分が率先して分別するように心がけました。
リーダーが態度で示すことで、一人ひとりが少しずつ理解を深めてくれ、今では分別が定着しています。
――仕組みと熱意の両方が必要になるのですね。毎日の食品廃棄物の計量はどうしているのでしょうか。
今回の都の補助事業で、ワタミが株式会社寺岡精工に依頼して開発し、独自の計量機を導入しました。従来品に比べて小型でスペースをとらず、狭い店舗でも無理なく配置することができます。
さらに、廃棄物計量をすると、計量結果がクラウド上に記録される仕組みになっています。手作業での集計なども必要ないので、とても便利です。
機械の操作も非常にシンプルで、イラストなどでわかりやすく計量できる設計になっています。
――実際に食品廃棄物を計量した結果を見て、どのような感想を持ちましたか?
予想よりもたくさん排出しているのだなと感じました。食べ残しについても、数値にしてみると普段自分たちが持っている肌感覚より多い印象でした。
一方で、食べきれないから持ち帰りたいという方も増えていて、全体的には以前よりもお客様の環境への意識は高まっていると感じます。店舗にテイクアウト用容器の用意があることを知らない方もいるので、店員から「もしよかったら持ち帰りますか?」といったお声がけを積極的に行っています。
東京都の補助制度の取り組みでは、大田区と協働して「食べ切り応援団」というお客様への啓発活動も実施しました。こうした地道な活動を行いながら、今後もお客様とコミュニケーションを図り、食品ロスを削減していきたいと考えています。
課題を乗り越える秘訣と今後の展望
――お話をうかがっていると、今回の取り組みに携わっているみなさんの、並々ならぬ情熱を感じます。そこまで熱心に取り組めるのはなぜでしょうか。
ワタミは、社員への環境教育に非常に力を入れています。入社時、定期研修時などに必ず環境に関する内容を学びます。飲食業界でこれほど環境に対して注力している企業は、あまり多くないのではと自負しています。
その根底には、社員一人ひとりの意識を高めることが一番の環境対策、という考えがあります。社員が家庭を持ったとき、地域など外の社会と関わりをもったときに、仕事で学んだことや経験したことを活かしていく。それが波及して、社会貢献につながると考えています。
こうした理念のもとで働く私たちには、環境にプラスになることに全力で取り組もうという意識が、自然に芽生えるのかもしれませんね。
――今後の展望を教えてください。
大田区の5店舗でスタートした本プロジェクトは、連携いただいた会社やスタッフの尽力もあり、現在都内・首都圏の26店舗まで拡大することができました。
連携しているリサイクル業者の株式会社アルフォによると、食品廃棄物の受け入れ容量にまだ余裕があるそうなので、今後は都内の参加店舗をさらに増やしていきたいと考えています。
そのためにはまだクリアしなければならない課題もありますが、全力で解決策を探していく所存です。
ワタミでは、全国でこのような食品リサイクルループを構築しており、それら全てを合わせると40店舗が実施しています(2024年3月現在)。今後も有望なリサイクル施設のある地域には新たなループを作り、地域資源循環の輪を広げていく予定です。
全店舗での食品廃棄物削減と食品リサイクル100%を目指し、日々取り組みを前進させていきます。
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取材協力:ワタミ株式会社
https://www.watami.co.jp
Watami Sustainable Report2023
https://www.watami.co.jp/csr/report/pdf/2023/environmental_report_2023.pdf