前編では、立ち上げが難しいリサイクル領域でのスタートアップに、廃棄物・金融・プラント設計の高度な専門チームで挑戦するアーキアエナジー株式会社の成り立ちについて伺いました。後編である今回は、その核となるバイオガス事業自体の仕組みと、高レベルで実現させている資源循環がこの社会に果たす役割と可能性について深堀りしていきます。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
バイオガス発電の仕組みはヒトの体と同じ
ー食品廃棄物からバイオガス発電を行うプロセスを教えてください。
このプラントの強みの一つが、スーパーやコンビニから出る賞味期限切れの食品廃棄物などを容器包装(パッケージ)のまま搬入できることなんです。容器包装ごとまずは破袋分別機で中身だけ自動で取り出します。
それをメタン発酵に適した成分に調合し流動性を上げて、酢酸などの有機酸を生成し、メタン発酵タンクに送ります。タンクの中にはメタン菌がいて、36度〜40度に温度調整された中で有機酸を分解し、その際にバイオガスが発生するんです。
そのガスを発電施設で電気と熱エネルギーに変換し、電気は再生可能エネルギーとして電力会社に供給し、熱は施設内で有効利用しています。
ーメタン発酵に適した成分というのは具体的にどんな状態なんですか?
これがヒトの体と一緒で、炭水化物・タンパク質・脂質の三大栄養素、このバランスが発電効率にダイレクトに影響します。炭水化物過多よりタンパク質がしっかり入ってる方が良いけど、でもタンパク質ばかり増やすと消化不良が起こるとか、脂質が多いと、人で言う所の、皮下脂肪が付いたような状態となり、発酵状態が悪くなったり、そこのバランスをとることが重要ですね。
この西東京リサイクルセンターの場合、ベストは炭水化物6・タンパク3・脂質1の割合くらいで効率よく発電ができる感じです。あとはメタン発酵の場合、固形分量を10%くらいに最終的に調整する必要があるので、乾物や粉物なんかが多いと相当量の水を加えて流していくってところも、ヒトがパンをたくさん食べたら牛乳を飲みたくなるのと一緒ですよね。
食品廃棄物の受け皿としてのバイオガスプラント
ー混入すると困るものはありますか?
やっぱり食品由来じゃない紙とか金属類とかの異物は困りますね。あとは脂質が多いものとか、殺菌作用のあるもの。以前、液体状の廃棄物の中にワインの防腐剤が結構な濃度で入っていたことがあって、それでメタン菌が死滅するという事故がありました。それから1年近く菌の活動が不調で、あれは困りましたね。
そもそも食品リサイクルの場合、栄養素の有効利用という観点から①飼料化、②堆肥化、③熱利用の順に付加価値が高いとされてるんですが、この序列に則るとバイオガスは一番下の熱利用なので、「受け皿」みたいな立ち位置というか、液体から個体まであらゆる食品の廃棄物がきます。
確かにリサイクルの中では受け入れられる間口は広い方なんですが、こちらは事前にサンプルをもらって評価しているので、それ以外のものの混入は困りますと伝えているのですが、やはり廃棄物の場合どこまでがOKという線引きが難しい面がありますので、知ってか知らずか色々と入れられがちっていうのはありますね。
ーそもそもメタン菌っていうのはどういうものなんですか?
メタン菌はいろんな種類があり、それぞれの特性が分かれるため、食品メタンとか畜産メタン、下水(汚泥)メタンなど、それぞれの原料によって分解の得意不得意があって、培養していくと分解に適した菌が勝ち残って増えていきます。ですから、例えば食品廃棄物のバイオガスプラントを下水メタンから立ち上げると時間がかかるので、同じ食品メタンをどこかからもらってきて培養します。
ちなみにここのメタン菌は、食品廃棄物の処理を行っている工場から購入してきました。東京都大田区出身なので、東京生まれ東京育ちのシティボーイですね(笑)
電気・肥料・プラスチックのトリプルループ
ー発酵後に出てくる残渣はありますか?
発酵した後は消化液という、97%ほどが液体で残りが固形の廃液が出て来ます。固液分離機で脱水をおこなうのですが、液体の部分は排水処理をかけて下水放流し、固形の方は「はむらのちから」という肥料にして当社で販売しています。それも100%食品由来ということで、「特殊肥料登録」という高度な認定を受けています。つまりさっきの食品リサイクルの序列でいうと②堆肥化、③熱利用がこのプラントで実現できるってことなんです。
この肥料を例えば廃棄物の排出元スーパーさんの調達先農園で使ってもらうことで、食品のリサイクルループができます。さらに、ここで作った電気を買ってもらうエネルギーのループも加えて、リサイクルのダブルループが実現可能なのがここの特徴です。
ーそれは画期的ですね。となるとこちらでは埋立焼却ゼロの完全な資源循環ができるということですか?
あとはプラスチックですね、最初に分別する容器包装の廃プラが出てくるんですが、将来的にはそこも循環させてトリプルにすることも可能だと思っています。
というのも今、世界的に再生プラスチックの需要が非常に伸びていますよね。サステナブルやエシカル消費が主流になっていく中で、商品の価値を保つために一定の割合で再生原料を使っていく流れがあると思います。
ー廃ペットボトルなんかが代表的ですが、メーカー側で再生原料を確保する動きを背景に廃プラスチックは取り合いという状況です。
はい、ただそれは工場由来などの綺麗な廃プラの話で、こういった食品の包装容器類は水分から油から血液から、様々な汚れが付着しているので焼却するしかなかったんですよ。
でもこういうのもリサイクルにチャレンジしていかないと、将来的に原料の確保ができなくなるという危機感を持つメーカーさんや商社さんもいて、そこと組んでやっているのがここで出る廃プラを洗浄して販売するという計画です。
こういった雑多な廃プラの洗浄は、排水処理コストを考えると従来は採算が合わなかったんですが、バイオガスプラントの場合すでに排水処理施設が入ってるんで、洗えるんです。だから将来的には汚れた廃プラを積極的に受け入れて、洗ったものをそういう再生原料として売るという商売が実現すれば、完全にこのプラントって廃棄物が出なくなるし、廃プラも加えてトリプルループも視野に入るようになります。
受け入れた廃棄物のうち、だいたい13%ぐらいが廃プラで出てきます。結構な量が出てそれの焼却コストがかかってたんですが、洗って再生原料になれば買い取るよというところも出てきているので、そこの期待は大きいですね。
バイオガスをもっと身近に
ー今後について、生活者の方にメッセージなどありますか?
将来的には、一般家庭にもどんどん色々なリサイクルの選択肢が生まれていって、生ごみを焼却するっていう時代では無くなっていくと思います。そういう社会に向けて、我々としては生活者の皆さんと自治体の理解をいただきながら事業を行なっていくのが大前提としてあります。そのため、近隣の小・中学校へバイオガスの出前授業ということもさせていただいております。
それと同時に、2050年カーボンニュートラルを目指すため企業としてはコストと環境価値の両立というのをやっていかなければなりませんよね。生活者と距離が近いスーパーとかコンビニのような小売店でも、例えばポテトチップスのバーコードをスマホで読み込んだら製造過程のCO2排出が高いものと低いものがわかるようになって、いずれそれが買う側の価値判断の一つになっていくでしょう。
そういった時に、我々の持つダブルないしはトリプルのリサイクルループというのは、廃棄物削減とCO2フリーの電気の紐付けだけじゃなく、PR効果も一緒についてくるという形にできますし、実際にそのような事例も増えてきていますので、こういったメディアを通じた訴求というのも、今後は積極的にやっていきたいと思っています。
ーありがとうございました。
2023.01.17
取材協力:アーキアエナジー株式会社
https://archaea-energy.co.jp/