私たちが日常生活で出す「ごみ」は、どのように処理され、どこへ行くのか。そんな疑問を持ったことはないでしょうか。
実は、ごみはその地域や種類によって処理方法が異なります。そこで、埼玉県戸田市にある「蕨戸田衛生センター組合」を訪問、業務課の石塚課長補佐と篠田技術主査にお話を伺い、時代とともに変化するごみの種類やどのような課題があるのかを取材しました。
同組合では、生ごみから堆肥を作り花苗と交換するリサイクルフラワー事業も行っています。
蕨戸田衛生センター設立の目的と事業内容
—施設が設立された目的や事業内容を教えてください。
蕨戸田衛生センターは、蕨市と戸田市の一般廃棄物を処理するため1959年(昭和34年)に設立され、市民の皆さまの快適で衛生的な生活を維持する目的で運営してきました。ごみ焼却施設、粗大ごみ処理施設、リサイクルプラザ、し尿処理施設、リサイクルフラワーセンターの5施設があります。
ごみ焼却施設には、1日あたり90トン処理できる焼却炉が3炉あります。通常時には2炉を運転して、1日に約160トンの可燃ごみを焼却処理しています。資源物を中間処理するリサイクルプラザの搬入量は1日約20トンです。衛生センター全体では、組合職員と委託業者の職員を合わせると毎日100名以上がごみ処理やリサイクルに携わっています。
—環境に配慮した安全で安定的な廃棄物の処理を行っているとのことですが、具体的にどのような処理方法でしょうか。
環境への影響が大きいごみの焼却については、焼却時に発生する燃焼ガスを集塵装置(バグフィルター)や活性炭を使用して有害物質や臭いを吸着させて取り除き、法令よりもさらに厳しい自主管理基準値を設けて監視しています。煙突から放出される排ガスが煙のように見えることがありますが、主に水蒸気であり、基準を満たした状態となっています。
焼却炉の熱で「電力の地産地消」
—焼却炉の熱はどのように利用されていますか。
ごみを燃やしたときに出る熱の力で蒸気を発生させ、蒸気タービン発電機によって電気を作り出しています。施設全体で使用する電力の大部分(令和5年度実績で約97%)をまかなっているほか、余った電力を電力会社に売却し、令和5年度には余剰電力の売却による収益が約4,950万円となりました。
売却した電力は、電力会社を通じて蕨市・戸田市の公共施設の電力として割安の料金設定で利用されています。ごみ発電によるものとしては国内初の取り組みとして2013年からスタートし、私たちはこの取り組みを「電力の地産地消」と呼んでいます。
—リサイクルプラザの役割や、資源としての価値を高めるために市民ができることはありますか。
リサイクルプラザでは缶・びん・ペットボトル・プラスチック製容器包装・紙類(その他の紙類)など資源物の選別や圧縮等の中間処理を行い、再商品化事業者(リサイクラー)に引き渡しています。資源物を新たな製品の原料として利用しやすい状態にする役割があり、資源を有効活用し循環型社会の構築を目指すためにも大切な事業です。
分別のルールを守って排出していただくことで資源としての価値が高まり、資源物の売却益はごみ処理に使われる費用の支出削減にもつながります。
—リサイクルプラザでの処理に課題はありますか。
現状では、缶・びん・ペットボトルをビニール袋に入れたままの状態で回収カゴに入れられている場合も多く、選別工程で袋から出す作業が生じ、処理の負担となっています。
また、プラスチック製容器包装についても手選別で異物や不適物を取り除いていますが、大きなビニール袋の中に小さな袋が何重にも入っていると、袋を開けて中身を確認する作業に時間がかかり、効率が悪くなります。高いレベルのリサイクルを実現するためには不適物の少ない原料が求められますので、市民の皆さまの適正排出へのご協力が欠かせません。
急増する充電式家電製品問題
—近年問題になっているごみの種類は何でしょうか。
特に問題になっているのが、リチウムイオン電池などの二次電池(充電式電池)が使われる、モバイルバッテリーやハンディーファンなどの充電式の家電製品です。電子タバコやワイヤレスイヤホンといった小型の製品も増えています。これらは電池を取り外せない一体型やプラスチックで覆われた電池が多く、不燃ごみやプラスチック製容器包装に紛れてしまい、破砕処理などの衝撃で発火するトラブルが起きています。
不燃ごみや粗大ごみは機械で細かく砕きますが、その中にカセットコンロやアウトドア用のガスボンベ、スプレー缶が入っていると爆発事故の原因となり大変危険です。
皆さまはごみ収集車にごみを投入して巻き込んでいく様子を見たことがあると思いますが、その際にも同様に発火や爆発の事故が起こる危険性があり、全国的には収集や処理が停滞する事態も発生しています。2024年9月7日 日本経済新聞の記事によると、リチウムイオン電池が分別されずに捨てられ、ごみ処理時に発火する事故について、2022年度に1万6千件を超え、火災により一部稼働停止に追い込まれたごみ処理場もあるとしています。
市民の皆さんに配布するごみの出し方のパンフレットに記載している分別方法は、そうした問題を防ぐための大切な案内ですので、ご理解とご協力をお願いいたします。
—事業系ごみについての課題はありますか。
当組合では定期的に事業系ごみの搬入検査を実施していますが、受け入れ基準外の産業廃棄物や資源物が多く混入している状況です。そのため令和6年10月から事業系ごみ袋のデザインを変更し、事業系ごみ袋に「排出できないもの」を表記して、分別の参考にしていただけるようにしました。
受け入れ基準の詳細は当組合ホームページ「事業者の皆様へ」でも発信していますので、ぜひご確認いただきたいです。
地域住民と取り組む「ごみの資源化」
—続いて、生ごみから堆肥を作り花苗と交換するリサイクルフラワーセンター事業とはどのような取り組みですか。
衛生センターに搬入される可燃ごみのうち、生ごみの割合は約3割です(令和5年度)。水分の多い生ごみは焼却炉の燃焼効率を下げてしまうため、リサイクルフラワーセンターでは蕨市・戸田市の約850の登録世帯に専用の生ごみバケツをお貸しして、集めた生ごみを堆肥化して、焼却せずに資源化しています。
米ぬかを主体としたぼかし(発酵促進材)を混ぜながら生ごみを溜める方法で、生ごみから生産した堆肥を使って年間約11万鉢の花苗を育て、生ごみの入ったバケツと花苗を交換する取り組みを続けています。
—リユースできる家具の「再生家具売払い」が興味深いですね。
搬入される粗大ごみの中には、まだまだ使える、リユースできる家具がたくさん含まれています。そのような家具を取り上げ、再生工場で清掃・補修して市民の皆さんに廉価で売払いを行っています。会場での入札のほかインターネット入札や、地域情報サイトを運営する株式会社ジモティーと協定するなど、再生家具の利用推進を図っています。
リサイクルプラザに約250点の再生家具を展示し、年に3回、2月・6月・10月に「再生家具売払い」を開催していますので、市民の方々にはぜひご来場いただきたいと思います。
循環型社会の構築に資する施設を目指して
—今後の展望や力を入れていきたい取り組みについてお聞かせください。
まず安定した処理を継続することがありますが、その上で資源化できる品目を増やし、焼却処理量を減らすことに注力しています。
ごみの処理に伴う環境影響はプラス面でもマイナス面でも一般の社会活動の中では大規模になります。そのことを私たち職員が真剣に受け止め、温暖化防止や持続可能な社会の実現に向けて、環境負荷を低減したりエネルギーや資源物をより有効に活用したりする改善を実直に進めていくことこそが大切だと思います。
すべての取り組みは「ごみの適正排出」が基本となりますので、市民や排出事業者の皆さまには今後ともご理解とご協力をお願いいたします。
蕨戸田衛生センター組合では、ごみに対する認識や環境に関する理解を深めてもらうため、施設見学・視察も受け入れています。詳細はホームページでご確認ください。
http://www.warabitoda-e-c.or.jp/