「フライターグ」は、廃棄されるトラックの幌(ほろ。荷台を覆う布)を素材にして作られたアップサイクルバッグのブランドです。今でこそ、日本でもタイヤやビニール傘など様々な廃材を使ったアップサイクルバッグが誕生していますが、フライターグはパイオニア的存在です。30年以上前に、スイスで創業しました。
現在もヨーロッパで根強い人気を誇り、世界にもファンを増やしています(日本には4店舗)。フライターグ製品はすべて、チューリッヒ本社でデザインされています。そして本社にて、30人以上のスタッフが幌の解体、洗浄、裁断などを行っています。先日、そのサステナブルなビジネスの現場を垣間見てきました。
兄弟のふとした試みが、大ヒット
フライターグは、創設者兼経営者のマルクスとダニエル兄弟の名字です。若かったグラフィック・デザイナーの2人が、「自宅アパートの窓から見えていた、幹線道路を走るトラックの幌でメッセンジャーバッグを作ってみてはどうだろう?」とひらめいたことが起業のきっかけでした。幌に加えて車のシートベルトなども使い、すべて再利用の素材で作られたバッグは同じ柄が2つとありません。
当時、スイスで一般の人たちの環境保護への関心は近隣のヨーロッパの国々や日本よりもはるかに高かったとはいえ、ファッショナブルなエコバッグは普及していませんでした。フライターグの先見性は、ファッションと環境の両面で「革命を起こした」といわれています。

「R」のマークを付けて売り切る活動も


フライターグの工場は、市内のNŒRD商業ビルの中にあります。現在、ここに20以上のクリエイティブな企業が入居しています。フライターグは約15年前に、近くに構えていた工場をここに移転しました。今の工場は1万450 m²(3100坪以上)と広く、バッグ製造の最適化を目指して設計してあります。
工場見学の前にビル内の店に寄りました。通常の商品が並んだ一角に、検品を通らなかった機能的な問題のない製品や廃盤予定のモデルが低価格で買える特設コーナー「Rarities」がありました。タグには「R」が刻印されています。フライターグの大型バッグは300スイスフラン(約5万9000円)以上することもあり、購入を検討している場合に「R」製品もよいかもしれません。この店舗では修理も受付け、大型の旅行用バッグのレンタルも行っています。
フライターグ初の循環型バックを開発
幌で作られた製品は修理して長く使い続けても、素材そのものはリサイクルできず、最終的には廃棄される運命にあります。同社はその点に着目し、リサイクル可能な素材(単一素材)を独自に開発しました。このシリーズMono[PA6]は、バッグパック、小型のミュゼットの両方とも素材はポリアミド6(略してPA6。ポリアミドの別名はナイロン)のみで、生地からジッパーやバックルまで約12個のパーツで作られています。使用後に各店舗へ返却されたら丸ごと砕き、溶かして加工し、再び新しいバッグに生まれ変わります。

フライターグ初のこの循環型バッグは、一昨年および昨年発売になりました。同社の持続可能性への取り組みにおいて、新たな一歩となりました。
フライターグには、廃棄された未使用のエアバッグ(B級品)を使ったシリーズもあり、同社は新しいモデルを開発するために、様々なリサイクル素材を常に探しています。
巨大な幌を1枚ずつ解体


いよいよ工場です。材料の主役となる中古のトラックの幌はヨーロッパ内から調達(購入)しており、その量は年間最大270トンにも上ります。赤系や青系の幌が一般的なため、回収される幌も赤や青が中心です。とはいえ、デザインにメリハリをつけるため、他の色も徹底的に探し、希少な色には割増料を払っているそうです。幌は解体する前にまず有害物質の検査を行い、健康や安全に影響がないか確認していることを初めて知りました。
幌には金具、ベルト、バックルなどが付いているため、まずはそれらを切り離します。それらは作業場のリサイクル用の箱に集めます。巨大な幌を大まかに切り分け、洗浄の工程へと進みます。
洗浄は、水や電気を節約しながら


洗浄は3台の洗濯機で行われています。下記のように、洗浄での環境配慮は完璧ともいえるでしょう。
■電気:再生可能エネルギーを主要電源とする「エネルギーミックス」を使用
■水:ビルの屋根から集めた雨水(地下に35万ℓ分の貯水槽あり)や、最終のすすぎで使ったほとんど汚れていない水を再利用➡➡➡1年に約400万ℓの水を節約
■温水化:水は60℃~65℃に温めて洗う。洗浄時の排熱を変換し、次の洗濯で使う水を温めている
■洗剤と油分除去剤:環境に優しい最高品質の製品を使用
洗浄が終わると、幌は乾燥室に吊るされます(旧工場では電動乾燥機を使用していた)。ここで使われる温風エネルギー量はごく少量だそうです。30分して乾いたら、どのバッグのデザインに適しているかを決め、モデルごとに幌をまとめます。
端材を抑えて裁断
バッグの形にするための裁断は、大きいテーブルに幌を1枚ずつ広げて行われます。私が訪問した時は3人の裁断職人がいて、1人は15年働いているベテランでした。3人とも透明なテンプレート(型板)を幌に置き、カッターナイフで1つずつ素早く切り抜いていました。バッグがどのような柄になるかは裁断職人の手にかかっています。端切れを最小限にするのも、裁断職人の重要な仕事です。
数年前からは、大型の裁断機が導入されています。レーザーで、いくつものテンプレートを幌全体に配置すると、大型の自動カッターで切り出される仕組みです。手作業また機械作業で出た端切れは、小物の材料にします。奥では、スタッフが端切れを裁断していました。


次は縫製です。縫製はヨーロッパ3か国のパートナーに委託しています。長年に渡り信頼関係を築いてきたため、縫製工程をスイス国内に移す予定はないそうです。
縫製後、工場に戻ってきた完成品は入念な品質検査を行います。その後、様々な色調の製品を混ぜて箱詰めし、世界中の直営店や販売パートナーへ出荷されます。
リペアステーションを増加

工場内のリペアステーションも見学しました。破損の具合により、可能な限り修理しています。ミシンが並ぶ横には、バックルやジッパーの引き手などを収めたスペアパーツの棚がありました。これらのパーツは、購入者自身でバッグを修理したい場合に無料で提供しています。スペアパーツは店頭でも受け取れ、オンラインでの注文も(送料のみ払う)できます。
一般の人たちに、社食も開放

フライターグの工場見学(英語またはドイツ語)は、誰でも参加できます。毎月第1水曜日(13時~)開催で、9名までの見学は予約不要です。料金は1人20スイスフラン(約3900円)ですが、丁寧にエコバッグが作られる様子を間近で見られるのは、まさに貴重な経験。フライターグのファンでなくても一見の価値があります。
もう1つのおすすめは、ビル内の社員食堂でのランチです。11時半~13時まで入居者以外も利用できるので、ぜひ、スイスの食材を使った食事をしてから工場見学に参加してみてはいかがでしょうか。
顧客に開かれたこうした活動ができる企業は限られていますが、エコの価値をさらに社会に広げていく上で役立つことは間違いありません。
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