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テーブルに並ぶ、一膳の竹割り箸。食事を終えたその瞬間、たいていはゴミ箱に捨てられてしまいます。そんな“使い捨ての象徴”ともいえる割り箸に、新たな命を吹き込む取り組みが、京都で話題を集めています。

2023年に創業したスタートアップ企業「TerrUP(テラップ)」は、使用済みの竹割り箸を回収・加工し、おしゃれなインテリアとして再生させるアップサイクルメーカーです。

今回は、その背景やプロダクトへの思いについて、代表の村上勇一氏にお話を伺いました。

TerrUP代表の村上氏(以下画像はすべてTerrUP提供)

割り箸がオシャレなインテリアに生まれ変わる

― まず、使用済みの竹割り箸がどのようにしてインテリアになるのか、その工程を教えてください。

ホテルや飲食店で使用された割り箸を回収し、まずは簡単な選別を行います。その後、割り箸を樹脂で固め、100度のオーブンで約1時間熱処理していきます。熱処理を終えた板はプレス機で圧縮し、必要に応じて加工を施し、家具や小物にアップサイクルされるという流れです。基本的には、オーダーメイドで手作業中心に行っています。

― なぜ、そもそも竹割り箸に注目されたのでしょうか?

私自身の話になりますが、一度社会人を経験した後、大学院でマーケティングや会計など、ビジネス全般について学びました。その中で、昨今のビジネス環境においては、自然環境への配慮を含めた事業活動が求められていると実感し、持続可能な事業への関心が高まっていったんです。

同時に、飲食店で働いていた経験から、大量に捨てられる割り箸の現状を目の当たりにし、「これはまだ使えるのではないか」と感じたことが、取り組みの出発点になりました。

実は、日本で流通する竹製の割り箸の約99%が輸入品で、年間約43億膳が消費されています。その多くが一度使われただけで廃棄されている。そうした現実を前に、「この素材を再生できないか」という発想が自然と湧いてきました。

印象的なホテル内アップサイクルの実現

― 現在の商品展開はどのようなものがありますか?また、印象に残っているプロジェクトはありますか?

現在は、テーブルを主力製品としながら、形状やデザインの幅を広げています。最近では、SNSやウェブサイトのQRコードを刻印した、おしゃれな店舗用POPも人気です。過去には、一輪挿しや小鉢、ボードゲームなど、“木で作れるものならとにかく試してみよう”とさまざまなアイテムの試作にも取り組んできました。

中でも特に印象に残っているのが、2025年初めに「ホテルカンラ京都」さまからご依頼を受けたプロジェクトです。ホテルで実際に使用された竹割り箸を活用し、QRコードをレーザーで刻印した館内POPを制作しました。

シンプルなデザインで空間によくなじみ、お客さまからも大変好評とのこと。もともとホテル内で使用されていた割り箸を活用していることも、ストーリー性があり、楽しんでいただいています。

驚きと共感から広がる取り組み

― 開発や原料の調達にあたって、特に苦労した点はどこですか?

最も苦労したのは、まず使用済みの割り箸をどうやって集めるかという点です。回収には分別や保管スペースが必要で、お店側にとっては負担になる部分もあります。さらに、人の口に触れたものなので衛生面への配慮も欠かせません。

ですが、完成した製品を見せたり、事業の意義をしっかり伝えることで、次第に共感していただける飲食店やホテルが増えていきました。技術面では、当初は木材や樹脂の取り扱いに詳しくなかったため、京都の樹脂卸や産業技術研究所の協力を得ながら、試作を重ねてきました。

― 取り組みに対して、周囲からはどのような反響がありますか?

「これは本当に割り箸なの?」と驚いてくださる声が多いですね。日常的に捨てていたものが、美しく再生されることに感動されたり、ごみの削減に直結することから、環境意識の高い方々にも支持されています。

イベントなどにも積極的に参加しており、その場でTerrUPを知っていただけるだけでなく、イベント内で発生する竹割り箸を回収する仕組みにもつながっていて、双方にメリットがあると感じています。

“割り箸の分別が当たり前に”TerrUPのこれから

― 今後、TerrUPとして目指すビジョンや展望について教えてください。

現在は京都を拠点に活動していますが、割り箸の廃棄は全国的な課題です。将来的には、各地域ごとに回収・製造・流通の仕組みを整備し、地域循環の輪を広げていきたいと考えています。

また、ワークショップなどを通じて、より多くの方に“再利用の可能性”を体感していただける機会も増やしていければと。

近年では、大手企業様への導入も少しずつ進みはじめており、取り組みに対する信頼も着実に積み重ねつつあります。こうした連携を通じて、製品としての品質や実用性にもさらに磨きをかけていきたいですね。

最終的には、ペットボトルなどの分別が当たり前になったように、“割り箸の分別”も日常の一部として根づく社会の実現に寄与できればと願っています。