リサイクル素材としての紙コップの問題点
ふだん私たちが何気なく使っている紙コップ。しかしリサイクルを考えた場合、紙コップは資源価値の高い「純粋な紙」ではありません。内側に耐水性・耐油性のある樹脂コーティング(プラスチック)が施されているため、少しやっかいな混合素材の資源なのです。
さらにリサイクルの際に問題となるのは、内側に付着した飲料の残渣(残り)です。コーヒーやジュースなどの強い匂いや色が付着するため、古紙原料としてはさらに質が低くなり、普通の白い紙と比べて取引価格が著しく下がります。そのためほとんどの自治体では可燃ごみとして焼却処分されますが、自治体によっては資源ごみとして扱われるなど、居住地によってルールが違い、消費者が混乱する曖昧な資源のひとつです。
日本では紙コップは基本無地、あっても企業ロゴの印刷などですが、EUの規制があるヨーロッパでは紙コップに「プラ製品」の表示を見かけます。


世界で廃棄される紙コップの量は、日本国内だけでも甚大なものです。調査によれば、2020年の日本国内の主要なカフェチェーンで約3.6億個の紙コップが使用されたというデータがあり、このほとんどが焼却され、大量のCO2排出のもととなっているという厳しい現状があります。
ただ最近では、プラと紙を分離する再生紙技術が進み、使用済み紙コップも古紙として受け入れる製紙会社もあり、紙コップの再資源化が進んできました。しかしそれでもなお残渣があるものは敬遠されます。残渣をなくすためには使用後の「洗浄」という一手間が必要になります。
紙コップ問題に取り組む企業が続出
このような紙コップ問題を問題視する企業の一部では、社内の休憩所等での紙コップの使用について見直しを行う例も増えており、洗浄によるリサイクルや、紙コップをやめてリユーザーブル(再使用)カップの採用などに取り組んでいます。(ただし、リユーザブルカップを使用するにしても社内外での「洗浄」が必要になります)
つまり、紙コップの廃棄削減の取り組みは、「洗浄してリサイクル」または「紙コップを使用しない(リユーザブルカップ採用)」の二つに分かれています。今回は、「洗浄してリサイクル」の事例をご紹介します。
カフェ、企業のほか、紙コップがたくさん使われる場所として「イベント・展示会」があります。特に飲料関連のイベントでは、試飲用に大量の紙コップが使われます。しかし様々なブース出展者がいる中で、リユーザブルカップ採用は現実的ではありません。
そんな中、今年から紙コップのリサイクルの取り組みを開始したコーヒーの展示会があります。
約10万人が集うコーヒーの祭典
「SCAJ」(ワールド スペシャルティコーヒー カンファレンス アンド エキシビション)は、 一般社団法人日本スペシャルティコーヒー協会が主催するアジア最大規模のコーヒーの展示会です。スペシャルティコーヒーに特化したB to Bイベントとして毎年開催され、2025年度の「SCAJ 2025」は、9月24日(水)~27日(土)、東京ビッグサイトにて開催され、4日間で延べ96,823名のコーヒー関連事業者やファンが集まりました。

20年の歴史を持つSCAJは、これまでも環境負荷の低減を中心にSDGsに関する活動を少しずつ進めてきましたが、SCAJ 2025ではSDG sの取り組みを強化、再資源化する目的で、出展者ブースや競技会で発生する抽出後のコーヒー粉や使用済み紙カップなどを回収しました。
会期中約22万個の紙コップが使用
会場のほとんどのブースがコーヒーの試飲を提供することもあり、会期中約22万個の紙コップが使用されると想定されています。これを再資源化するため、今回は、試飲で使用された紙コップを出展者および来場者の協力によって回収が行われました。

会場内の一角に設置された洗浄ステーション。ここで利用者に使用済み紙コップをすすいでいただき、乾燥ラックに置きます。スタッフがそれらを回収し、資源は加工施設に搬送して紙や布製品へとアップサイクルされます。カフェラテなどに使用される牛乳パックも回収対象としています。
展示会期間中には、使用が見込まれる約22万個の紙コップのうち約7万個(全体の3分の1)と、牛乳パック全体の20%の回収を目標としています。
ポイントは紙コップの洗浄
洗浄・回収コーナーは、来場者出入り口のわかりやすいところに設置されていました。




よりよい未来のための、小さくて大きな一歩
日々当たり前のように使っているけれど、それがどこに行くのか誰も気にもかけない。紙コップは、身近だけれど社会に潜む「見えない大量廃棄」のひとつかもしれません。しかしそういった身近な課題だからこそ、解決のためには私たち一人一人の意識の持ち方が大きく関わってきます。
今回のSCAJ で実際にリサイクルされた紙コップは全体のごく一部かもしれません。来場者もお目当てのコーヒーに気を取られ、その存在すら気づかなかった方も多いでしょう。
しかし主催者が、展示者や来場者に呼びかけ「洗ってもらう」という一手間の協力を呼びかけたことは大きな一歩だと思います。
これをきっかけに、「紙コップをただごみ箱に捨てる」ということに疑問を感じる人が増え、ごみ箱のそばには小さくても洗い場があるのが当たり前、という社会になっていけば、ムダな廃棄を出さない、燃やさない、よりよい社会が実現するのではないでしょうか。
試飲を伴うイベントの主催者の皆さんには、ぜひ後に続いてほしいと願っています。

SCAJのサステナブルな取り組み
https://scajconference.jp/visitor/sdgs