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「サーキュラーBASE美女木」をご紹介する記事Vol.2の今回は、今回使用した循環型リノベーションの工夫についてご紹介します。(話:新井遼一/ 新井紙材株式会社 代表取締役)

解体業者も交えてコンセプト共有

サーキュラーBASE美女木は、サーキュラーエコノミーを体験できる施設として当初からサーキュラーな考え方を取り入れたリノベーションを行うことを決め、どうしたら廃棄物が最小にできるか、どうすれば資源の循環利用ができるかなど、将来解体するときのことを設計段階から考えていました。リサイクルが難しい素材を避ける、自然由来の材料をなるべく使用する、解体時に再利用可能な工法を採用するなどやりたいことはいろいろありました。

しかしこういった建築方法は、日本ではほとんど事例がなく、手探り状態です。私は建築は素人ですが、サーキュラーエコノミーに関する知見があることから、設計士さんや施工業者さんと同じチームの一員として加わるような形で話し合いながら進めました。

一般の建築と違うのは、廃棄を出さないために解体場面が非常に大事であるということです。そこで、設計が固まり工事チームが決まった段階で、解体業者さんを含め皆さんに集まっていただき、サーキュラーな建築とは何か、そのコンセプトを全員で共有しました。これをしっかりと行ったことで、現場の作業が変わり、良い結果が生まれたのではないかと思います。

解体現場での「分別」を徹底する

まず最初に行うのは既存の建物の解体ですが、その際になるべく廃棄物が出ないようにするため、現場での分別を徹底して行いました。通常は解体にかけられる期間は短いので、とにかく早く壊して、素材がごちゃ混ぜの状態で廃棄するのが普通です。しかしそれをせずに、木材、鉄、プラスチック、畳など、現場で細かく分別を行いました。そして素材の種類毎に搬出することで、確実にリサイクルされることを担保しました。

リサイクルができない素材を避ける

また、廃棄物削減も徹底的に考えていました。一般的な工事では、石膏ボードや断熱材などリサイクルが難しい素材が大量に廃棄されます。しかしこの施設ではそうした素材を極力使わず、再利用可能な木材をメインに使っています。その木材も、輸送に伴う二酸化炭素排出を減らすため、埼玉県産の木材をメインとした国産木材を使用しました。さらに、解体時に出た木材をそのまま再利用できるよう、釘を使わない工法で壁を貼っています。

上下を板で挟む形にし、釘を使わない壁

断熱材にはセルロースファイバーを使用

断熱材には、一般的なグラスウールの代わりに、新聞紙をさらに細かくした「セルロースファイバー」を使用し、壁の木枠の中に幕を張るようにして流し込んでいます。これはまだ一般的な工法ではありませんが、弊社が日々扱っている紙資源を活用しているということもあり、今回採用しました。

紙由来のセルロースファイバーを大量に使用

同じ断熱材を天井にも張っていますが、最低限の仕上げにして隠さず、あえて見せるようにしています。無駄をなくすために、綺麗に見せるだけのなにかをやらない、というのがコンセプトの一つです。
また、床材にはマーモリウムという自然由来の素材を採用しました。

無駄を省く発注により建材使用率は94%

建築の現場では、余剰材料の発生を抑えることも重要です。一般的に、材料の不足を避けるため多めに発注し、余ったものは廃棄することが多いのですが、この工事では発注量をギリギリまで抑え、建材使用量の94%という高い精度で材料を発注してもらいました。

さらに余った材料は廃棄せず、予定している二期工事や家具製作に転用する予定です。

建築コストが最大の課題

今回の循環型リノベーションにあたってのさまざまな工夫を説明しましたが、これらは技術的に難しいことはほとんどやっておらず、材料をなるべく余らせない、無駄な仕上げをしないなど、誰でもやろうと思えばできることをやっています。ただ、職人さんは普段やり慣れていないところもあったため時間がかかり、また一般建築より建材などのコストがかかったのは事実です。
コストの問題はサーキュラー建築の最大の課題ですが、今後これが広がるにつれて緩和されていくことを期待します(コストに関しては、先日行われたオープニングイベントでのトークセッションで詳しく語られています。まもなくレポート記事が出る予定です)。

いずれにせよ、今回の改修は循環型リノベーションのひとつの実証実験としての役割は果たせたのではないかと考えています。

また、ふだんは社内会議や社員の休憩場所として使っていますが、かつての暗い社員寮からまったく新しいスペースの誕生に、一番喜んでくれているのはもちろん社員です。2階に上がってここで昼食や休憩を取る社員が日に日に増えました。
ここを活用することで、社内はもちろん社外のさまざまな方面にインパクトが広がっていくことを期待しています。

和室の部屋が中心だったかつての社員寮
開口部が大きく明るい部屋になり、社員にも大好評

サーキュラー美女木では、リサイクルやサーキュラーエコノミーを学ぶ場として、視察者受け入れを開始します。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。

<サーキュラーBASE美女木>
埼玉県戸田市美女木4-7-2 新井紙材株式会社 埼玉事業所 2F
https://maps.app.goo.gl/zhuxsjg78aiJQYvs5