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北海道・恵庭市にある「えこりん村」は、敷地総面積150ヘクタールの体験型施設です。その広さは、東京ディズニーランドのテーマパークエリア、およそ3個分におよびます。ハンバーグで有名なファミリーレストラン「びっくりドンキー」を展開する株式会社アレフが運営し、羊の放牧やキャンプサイト、そして幼児から小学生までを対象にした環境学習など、多彩なフィールドとプログラムを備えています。えこりん村は観光施設でありながら資源循環の仕組みが動いており、その本質は“楽しむ”だけにとどまらない、びっくりドンキーの環境経営を体現するフィールドでした。

「食は人を良くする」を体現する羊の物語

アレフの創業者である故・庄司昭夫氏は、「食」という字が“人を良くする”と書くことに注目し、食を通じて人の健康に寄与することを企業の使命としました。えこりん村は、創業者の理念が具現化されている施設です。

えこりん村を象徴するのは、広大な放牧地で伸び伸びと過ごす最大1,000頭の羊です。
ここで飼育している羊は観賞用ではなく、最終的には食肉として札幌市内の飲食店などに出荷されます。

「びっくりドンキー」で使われるハンバーグの牛肉が、ニュージーランドやオーストラリアで牧草を中心に食べて育った放牧牛であるように、北海道でも同じ発想で、草で育てた健康な家畜を育てたい――その挑戦の答えのひとつが、この放牧羊なのです。

広大な敷地で最大1,000頭の羊が伸び伸びと育つ

生ごみから草へ、草から羊へ〜循環のしくみ~

えこりん村の羊を支えているのは、“循環”で育った牧草です。

敷地内のたい肥場には、札幌市内にあるびっくりドンキー11店舗から、生ごみ資材が集められます。畜舎の敷料や糞などと、この生ごみ資材を混ぜ合わせてたい肥を作ります。
発酵温度は60℃以上で、出来上がったたい肥を触ってみると、さらりとしていて嫌な匂いはありません。このようにして年間およそ120トンのたい肥がここで作られ、放牧地にまかれて牧草が育ちます。SDGs推進部の安西みゆきさん、弗田寛さんに案内していただきました。

茶色い部分が、店舗から集められた生ごみ資材

「レストラン→生ごみ → 堆肥 → 牧草 → 食卓」という循環が、ここでは日常の営みとして回っています。観光施設の裏側で実際に資源循環が動いていることが、えこりん村の大きな特徴です。

レストランから回収された生ごみ資材

長靴をはいて“SDGs”に向き合う社員たち

このような循環の現場に立つのは、机の上で環境活動を企画するスタッフや外部委託企業ではなく、長靴を履いて実際に生ごみ資材や堆肥と向き合う社員です。

アレフの環境対応の特徴は、CSRや広報の一環として“語る”のではなく、現場の社員が自らの仕事として“やり切る”点にあることを前回の記事で述べました。えこりん村での堆肥づくりはその象徴であり、堆肥が牧草となり、羊を育て、食へとつながる循環は、こうした地道な作業の積み重ねによって成り立っています。

巨大な「とまとの森」で感じる生命の強さ

えこりん村を訪れた人に強い印象を残すのが「とまとの森」です。

温室いっぱいに枝を伸ばすのは、わずか1本の茎からシーズン中に2万個もの実をつけるトマトの樹。
水耕栽培で環境を整え、わき芽は一切取り除かず、トマトの生命力をそのまま生かし引き出しています。

昨年初冬に種から育てたというトマトは、取材した8月中旬時点で、茎の太さが直径8.2センチメートルと庭木のような太さで、そこから伸びた枝の広がりは9.6メートルに及びます。すでに9千個を超えるトマトを収穫したと案内板に書かれていました。

とまとの森は、自然や植物の驚異的な生命力に圧倒される場所です。
えこりん村は食をつなぐ取り組みに加え、「生命の可能性を感じる農のフィールド」をも備えています。

一粒の種がここまで立派に育つ
2024年は26,000個のトマトが収穫された

学びの場としてのえこりん村

えこりん村は、子どもたちにとって「遊びながら学べる」場としても高い評価を得ています。修学旅行や校外学習の受け入れを積極的に行い、毎年全国から多くの学校が訪れます。

さらに「えこりん村学校」と題して、毎週土曜日には親子で参加できる2時間の体験プログラムも開催。羊の世話や野菜の収穫、クラフト体験など、週替わりで多彩な内容が用意されています。親子で一緒に体を動かしながら学ぶことで、子どもはもちろん大人にとっても循環型社会を実感する機会になっています。

加えて注目したいのが「えこりん村の子どもたち」という半年間にわたる学びのプログラムです。
「野菜」「米」「森」「羊」の4つのコースから好きなテーマを選び、仲間とともにじっくり取り組むスタイル。家畜の世話や森の手入れ、米作りなどを通じて、自然と共に生きる暮らしを丸ごと体験できるのが大きな魅力です。

大自然に囲まれた北海道であっても、共働きで子どもと自然の中で遊ぶ時間がなかったり、親世代が生き物や野外での遊び方を知らなかったりする現実があります。昔なら遊びの中で自然に身についた感覚が、今は家庭だけでは得にくくなっている――だからこそ、えこりん村のこうしたプログラムは、現代の子どもたちにとって貴重な体験の場となっているのです。

えこりん村学校の様子

外食企業が育てる“循環のフィールド”

えこりん村は、食をつなぐ取り組み、社員が長靴を履いて地道に取り組む現場、そして1本の茎から2万6千個の実をつけるとまとの森や、子どもたちが自然と深く関わる教育プログラムなど、多彩な仕組みを通じて「食は人を良くする」という企業理念を体現しています。

そして何より注目すべきは、こうした施設を外食産業であるアレフ社が運営している点です。外食産業の延長線上に「資源循環のフィールド」を築き、地域や次世代に開いている姿勢は、他に例を見ない取り組みといえるでしょう。

第1回で紹介したアレフ本体の“語らず、やり切る”環境経営と並び、えこりん村はその実践を社会に体感させるフィールド。サーキュラーエコノミーを30年近く前から取り入れる環境企業、アレフ社のもう一つの顔がここにあります。