サーキュラーエコノミー先進国オランダの第二の都市ロッテルダム。欧州一の貿易港を擁する同市に2015年にオープンした起業家支援施設「BlueCity(ブルーシティ)」は、巨大スイミングプール施設をリノベーションし、サーキュラーエコノミーやバイオエコノミーなど環境系のスタートアップのハブとなっています。CE.T欧州企業特集の第二弾は、同施設のオープンと同時期に起業し、現在は量産化を目的としたパイロット工場の設立に向けて資金調達をしている「Fruitleather Rotterdam(フルーツレザーロッテルダム)」社のインタビューです。
プール施設をリノベしたインキュベーション「BlueCity」
2015年、港湾都市・ロッテルダムにオープンしたインキュベーション施設「BlueCity 」は、1988 年から 2010 年まで営業したリゾート施設「トロピカーナ」をリノベーションし、サーキュラーエコノミーの実現化のためのスペースとして活用されています。
かつてディスコフロアがあった場所にはリサイクル材を90% 使用したオフィス棟を建設。地下室の「BlueCity Lab(ブルーシティラボ)」では、3Dプリンターでプロトタイプの作成できる工業スペースや小規模な工場スペースがあり、入居企業が設備を入れて製造しています。リノベーションは現在も続いており、宿泊施設等の建設も予定されています。Bluecityは、「最も持続可能な不動産プロジェクト」(2020 年) や「Daan Dura 賞」(2022 年) など多くの賞を受賞しています。
同施設に入居する「フルーツレザーロッテルダム」の共同経営者の一人、Hugo de Boon(ヒューゴ・デ ・ブーン)氏を訪ねました。
廃棄マンゴーを使った課題解決型ヴィーガンレザー
―まず、御社について教えてください。
私たちの事業は、食品廃棄物と汚染された皮革なめし産業の2つの社会課題の解決です。マンゴー由来の代替レザーは環境に優しく、動物を殺すこともありません。
食品廃棄物の中でも、特に果物は輸送時に傷みやすく多くが廃棄されています。マンゴーは、サイズが大きくて繊維が多く、種は1つだけなので取り出しやすく、多様な素材にしやすい果物です。まずは完璧な製品を完成させるために、ひとつのフルーツに集中したほうが良いと考えマンゴーからレザーを作ることを決めました。
学校の課題から始まったビジネス
―どのようなきっかけで事業を始めたのですか。
私の経歴はフルーツレザーとは全く関係なく、ロッテルダムのアートアカデミー(ウィレム国王学院)から始まりました。学校からストーリーやコンセプトを作るという課題が出され、現在の共同代表と取り組みました。どんなプロジェクトをやってもよかったのですが、課題のゴールは「テレビに出るような作品を作ること」だったため、全国的から注目されるような作品を出さなければなりませんでした。
―そういうことだったんですね。
まずはブレインストーミングをしたのですが、その頃、「サステナビリティ」がとても注目される話題になっていました。私たちの学校はロッテルダム市場の近くにあったので視察したところ、多くの廃棄物を目の当たりにし、これらの廃棄物を使って何かできないかと考えました。
その後、私たちは学校の課題に合格すると多くの方から問い合わせを頂きました。オランダのテレビに出ることはできませんでしたが、ディスカバリー・チャンネルや日本のZIP(朝のニュース番組)にも取り上げていただきました。露出が多くなり、色々な方に興味を持って頂けたので、よし、これは学校の課題から会社にするタイミングだと思いました。
―8年前、既にオランダではサーキュラーエコノミーが話題になっていたんですね。
はい。オランダでは、私たちが購入した食品の約5%が捨てられています。また、オランダは農業大国ですが、生産した果物の45%は食べられずに廃棄されてしまうため注目されていました。中でもマンゴーの輸入の10%は輸送中に捨てられてしまいます。他国間の輸送に時間を要しますし、コンテナに栓をし忘れたり船の中が暖かすぎたりして腐ってしまうのです。そして、最終的には輸入量の10%という、膨大な量が港で廃棄されます。
ヴィーガンレザーができるまで
―廃棄物からどのようにレザーを作るのか、その工程を教えてください。まずは港で廃棄マンゴーを買い取るのでしょうか?
いえ、廃棄マンゴーは無料で仕入れています。企業は廃棄物を捨てるのにお金(処理費)を払わなければなりません。私たちが無料で引き取りに行くことで、私たちは資源を手に入れることができてハッピーだし、企業は処理費を払わずに処分できるのでハッピーなんでです。
―Win-Winですね。Bluecityの工場では、どのように加工するのでしょうか?
私たちの工場でまず、マンゴージュース用の大きな機械で種を取ります。そして皮と果肉を潰して、巨大なスムージーにします。それを大きなタンクに入れて発酵させます。発酵が進むと上の方に繊維が浮き出て、水分が下へと分離するので繊維をすくい出します。電気や暖房で水分を蒸発させることなく、自然な方法で水分を取り除いています。その後、繊維に自然由来のバインダーを加え、型に流し込み、大きなベーキングトレイに入れてオーブンに入れれば完成です。
最後はレザー仕上げのパートナーを通して、コーティングを施します。今のところ、コーティングにはポリウレタン、つまりプラスチックが少し入っています。しかし、コーティングは素材の最終的な構造と品質のために欠かせません。例えば、クロコダイル革の様に見せたいのであれば、プレスしてクロコダイルの模様を、牛革に見せたければそのような模様をプレスします。
―コーティング以外は天然素材なんですね。
現在の最終製品の構成は、約76%がマンゴー繊維とバインダーで、その上に約14%にあたるコットンの層、残り10%が水性ポリウレタン・コーティングです。
公的な財政支援の活用から次の段階へ
―会社を設立したのは8年前ということですが、商品開発から販売に至るまでどれぐらいかかりましたか?
8年です(笑)私たちは常に素材を進化させ続けています。最初に試作したものは、ドライマンゴーのみでした。バインダーもコーティングもせず、ただマンゴーをオーブンに入れていました。それから何年もの間、私たちは改善を繰り返してきました。例えば、レザーのバッグに使われるとしたら、強度が必要になります。レザーのバッグを持って雨の中に出かけたとしても、ボロボロになってはいけないですから、どうすれば各商品に求められる特性に到達できるかを考えています。そのように実験を繰り返し、発展させてきました。
将来はより強度のある素材を開発し、車の座席シートなど10年、20年と長く受け継がれるものに使っていただけるようにしたいです。
―靴やバックのサンプルを見せていただきましたが、最終製品まで制作することもあるのですか?
私たちは素材を作ることにベストを尽くしています。個人的に家具を作るのは得意なのですが、私はファッションには疎いので バッグや財布のデザインはできません。そのため現在は素材の販売に限っており、デザイナーや企業が私たちの素材を使って最終製品を作っています。
―これまで政府や市からの財政的な支援は受けましたか?
はい。そのおかげで現在のような材料を作ることができましたし、製造のための機械を買うこともできました。財政的な支援を受けると、その際の目標を達成するために一定の期間が設けられます。政府も同じアイデアに絶えず資金を投入することはないので、今後は自分で投資家を見つけなければならない段階にきています。現在は量産のパイロット工場を持つために大きな投資が必要な段階です。
また、ブリュッセルにある欧州委員会(EU)が後援するプログラムとも話をしています。このプログラムは、持続可能な企業が事業計画を改善し、財務計画や投資計画を改善し、適切な投資家を見つけられるように支援するものです。
Bluecity卒業はスタートアップの成長の証
―ところで、BlueCityにはどのような経緯で入居したのでしょうか?
実は彼らが私たちを見つけてくれたんです。というのも、私たちがこのプロジェクトに参加した当初は、新聞にもたくさん取り上げられていたし、ラジオにも出演していたので。仕事をするスペースを探しているなら会員にならないかと誘われ、入居を決めました。そのタイミングではまだ、Bluecityも建設中の段階でした。
Bluecityに所属するスタートアップは、事業が成長するとパイロット工場、そして自社工場という風に、事業の成長に合わせて卒業をしていきます。コロナ禍やウクライナ戦争によるエネルギーの高騰で撤退した企業も多く、私たちはBluecityの中でも最も初期から残っている2社のうちの1社です。
―Bluecityではどのようなサポートが受けられるのですか?
広報面でのサポートが大きいです。例えばBluecityへの訪問者に私たちを紹介してくれたり、イベントでのプレゼンの機会を紹介してくれたり、ネットワークを広げてもらえます。また、コミュニティ企業とのネットワークができ人脈が広がったことも良かったです。
―では、最後に現在の課題と今後の目標について教えてください。
私たちは実証実験を終え、生産量を拡大する段階にいます。パイロット工場の建設も検討しており、2025年にパイロット工場を1つ、2030年に大規模な工場を建設し、すべて自動化して年間12万枚のマンゴーレザーを製造したいと考えています。多くの資金が必要になりますので、投資家を見つけることが目下の最大の課題であり、目標です。
また、海外に進出することも考えています。日本の大企業からも問い合わせをいただいており、廃棄物に対する意識の変化を感じています。私はアジアが本当に好きで、日本にも行きたいところですが、日本のマンゴーの生産量はそれほど多くはありません。アジア圏では、台湾がマンゴーを多く生産しています。海外でも何かを立ち上げることができれば、とても素晴らしい挑戦だと思います。