「Good Ethical Company」のビジョンの元、サプライチェーン全体で未来にやさしい空間づくりを共創する「エシカルデザイン」について、内装業界に先駆けて取り組んできた株式会社船場(以下、船場)。その先見性と実践力が結実したのが、2021年から毎年開催している「ETHICAL DESIGN WEEK(エシカルデザインウィーク)」です。業界の枠を超えた共創パートナーとともにエシカルな活動を社会へ発信し、未来を考える参加型イベントとして注目を集めています。
今回は、船場本社を訪問してエシカルデザインの実践例を見学するとともに、エシカルデザインウィーク開催の背景や今後の展望について、Ethical Innovation Hubプランニングマネージャー本田洋介氏、チーフプランナー佐々木和久氏、所長の福島正和氏、EAST事業本部本部長の神戸暁氏にお話を伺いました。
リサイクル率99%を実現した自社オフィス
船場本社オフィスはエシカルデザインの考えに基づいたサーキュラーリノベーションを実現し、「日本空間デザイン賞2021」サステナブル空間賞受賞をはじめとした様々なアワードでも評価されています。Ethical Innovation Hub佐々木氏の案内で見学させていただきました。




—オフィスの随所にエシカルデザインの工夫が見られますね。
はい、このオフィスリニューアルでは、既存家具の約80%を転用、廃棄物リサイクル率99%を達成しました。当社のデザイナーが自ら施工して、設計段階から「解体」を考えてデザインすることで、ニーズに合わせて形を変えながら空間を活用していくことを意識しています。また、「エシカルマテリアル」として約100社の建材・原材料メーカーから情報収集、素材収集したマテリアル展示スペースも設けています。
—いつ頃から取り組まれているのでしょうか?
2020年頃から「エシカルマテリアル」のリサーチ、素材収集を行なってきました。エシカルがまだマイナートレンドだった頃にスタートしているので、社内外で共感を得られるまで奔走しました。従来、内装サンプルはメーカーのカタログや小さなサンプルで選ぶことが一般的でしたが、船場のマテリアル展示スペースでは、実際に触れることのできる原材料から展示し、使い終わった後のリサイクル方法や再生資源の活用を研究する活動も発信しています。

ゼロウエイストの鍵は徹底した「現場分別」
—空間プロデュースされた施工・解体現場での資源循環についてもお聞かせください。
施工現場で排出される廃棄物の「現場分別」に特に注力しています。独自の視点から「8品目」を重点的に分別し、排出から収集運搬、中間処理までを集計。現場で出た全廃棄物量のうち、マニフェストの排出品目ごとに分別した割合を一次リサイクル率として定義して、2024年にはリサイクル率94%を達成しています。これは業界では非常に高い数値で、現場分別の徹底により後工程でのリサイクル効率を大きく向上させることができます。

マイナートレンドから"当たり前"のデザインへ 「エシカルデザインウィーク」の誕生
オフィスを見学させていただき、船場社内での実践的な取り組みがエシカルデザインを体現し、社内外へ発信する場所としてのオフィスリニューアルにつながっていることを実感しました。続いて、「エシカルデザインウィーク」開催の背景について詳しく伺いました。
—エシカルデザインウィークを始められたきっかけを教えてください。
私たちは空間創造を通じてエシカルデザインをどのように実装していくか、さまざまな取り組みを始めていました。初期の段階では、空間の中でエシカルをどう表現し、それによって人々にどのような影響を与えられるかを探求していました。メーカー、デザイナー、クリエイター、異業種の方々とも意見を交わしながら、数年間かけて検討を重ねてきました。
そうした取り組みの集大成として、2021年に第1回目のエシカルデザインウィークを開催しました。当初は業界向けのイベントでしたが、2023年には一般の方々も参加できるイベントとして青山で開催し、より社会に向けて発信していくことをテーマにしています。2024年には業界の輪を広げ博展さん(株式会社博展)と原宿で共催し、課題解決への取り組みを加速させる場としました。
—具体的にはどのようなイベント内容ですか?
建築・空間創造の分野だけではない業界の枠を超えた共創パートナーとともに、トークセッションや、循環型事業モデルの展示、ワークショップ、音楽イベントなど体験しながら資源循環や空間づくりに触れられるコンテンツを実施しました。

業界の枠を超えた共創パートナーとの連携
—多くの共創パートナーが参加されていますね。
2024年開催時には78社もの共創パートナーに参加いただきました。パートナーの多様性と連携は、このイベントの核心部分です。サーキュラーエコノミーやエシカルな分野で活動されている方々は、まだ規模が小さかったり新しい取り組みが多いため、単独でのPR力が弱い場合が多いんです。
そこで私たちは、みんなで集まって発信することで、より大きな話題性を生み出し、外向きに発信できる場を提供したいと考えました。エシカルデザインという、かつてはマイナーだったトレンドを力強く社会に発信していくためには、多くのパートナーの存在が不可欠なのです。
—共創パートナーはどのように募っているのでしょうか?
個々のパートナーが持つ素晴らしい技術やアイデアを、連携によって事業として昇華させることが重要で、イノベーションの最大のポイントだと考えています。そのため、私たちは独自の「サーキュラーデザインマップ」を作成し、サプライチェーンを軸にパートナーを集めています。例えば、木工の技術に優れた工場があり、熟練の家具職人がいて、革新的な家具デザイナーがいて、それを流通に乗せるプラットフォーマーがいる。こうした連携が、新たな価値を生み出すのです。
また、産学連携の観点から、未来を担う学生たちの参加も重視しています。大学生や高校生など、若い世代の参加を積極的に呼びかけています。彼らの視点や発想が、新たなイノベーションの種になると考えています。

—展示の方法にも工夫があるそうですね。
従来の展示会のようにブースで区切るのではなく、異なる業種の展示を隣り合わせにすることで、パートナー同士の対話を促進しています。これにより、思いもよらないコラボレーションやアイデアが生まれることを期待しています。
セルフプロデュースによる熱量の高いイベント運営
—イベントの運営は外部に委託せず、自社で行っているそうですね。
エシカルデザインウィークはセルフプロデュースで行っています。社員約100人が参加して内製で作り上げています。これは非常にハードルが高く、マネジメントも大変なのですが、私たちの想いを直接形にできる点で大きな意味があります。
例えば、カンファレンスの企画では、単に有名な講演者を呼ぶのではなく、異業種の方々を組み合わせたユニークなセッションを作り上げています。これは外部に委託しては実現できない、私たちならではの企画です。セルフプロデュースの苦労は確かに大きいのですが、その分、イベントの熱量も高くなります。来場者の方々にも、その熱意が伝わっているようで、滞在時間が非常に長いのが特徴です。一般の方でも、ふらっと入った方が1時間以上滞在されることも珍しくありません。
予想を上回る反響と今後の展望
—これまでの開催を通じて、どのような反響がありましたか?
2024年のエシカルデザインウィークでは、約6,000人の来場者を記録しました。そのうち一般の来場者が約5,000人で、企業担当者よりも一般の方々に多くの反響があったのは驚きでした。これは、サステナビリティやエシカルな取り組みへの関心が、一般の方々の間でも急速に高まっていることの表れだと感じています。特に若い世代の方々の積極性には目を見張るものがありました。
また、イベント後にさまざまな企業や団体から問い合わせをいただくようになりました。エシカルデザインに関する相談や、次回のイベントへの参加希望など、反響は私たちの予想を上回るものでした。

—今後の展望についてお聞かせください。
エシカルデザインを特別なものではなく、当たり前のデザインにしていきたいと考えています。そのために、共に未来の空間づくりを考えていく場として、エシカルデザインウィークを発展させていきたいと思います。
—ありがとうございました。

2025年も開催が計画されている「エシカルデザインウィーク」。同社の理念と実践を社会に開いていく場であると同時に、多様なパートナーとの共創を通じて新たなイノベーションを生み出す場でもあります。今後の展開に、ますます期待が高まります。
▶株式会社船場 公式サイト
https://www.semba1008.co.jp
▶ETHICAL DESIGN WEEK 専用サイト
https://www.semba1008.co.jp/lp/ethicaldesignweek_2024