ファストファッションが人気を博し、次から次へと新しい服が店頭に並ぶ昨今。多くの人が大量生産大量消費の波に今まさに飲み込まれている最中ですが、そんな流れに一石を投じる人がいます。
Syncs.Design株式会社の代表・澤柳さんは、服をデザインするだけでなく、使い終わった服を回収し土に埋めて地球へと還元する、循環型モデルをスタートさせた人物です。一体どんな素材を使っているのか。 デザインの工夫は。今後のミッションは。など、気になることをたっぷり伺ってきました。
※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。
現代のアパレル業界の仕組みへの違和感
―まず事業内容から教えていただけますか。
Syncs.Designはデザイン会社で僕自身がファッションデザイナーなのですが、3年ほど前から“土に還る”をテーマに据えたSyncs.Earth(シンクスアース)という活動に取り組み始めました。最後の最後で土に還らせる、その過程の中で循環型社会を目指していきたいという思いがあります。
服やプロダクトを提案する中で大切にしている事は、誰かの日常に“循環”を取り込むためのスイッチ役になりたいということです。Syncs.Earthの服を1着持っていることで新しい価値観が育まれ、例えば「環境のためにペットボトルを買うのをやめてみようかな」という行動に至る、そんな第一歩のためのスイッチになれればなと考えています。
―現在のビジョンやミッションに辿り着いたきっかけは。
ファッションデザイナーとして学生の頃に自分のブランドを立ち上げてコレクションなども行っている中で、外部の企業さんとも仕事をするようになり、アパレルの生産について知るようになったんです。当時、約10年前はファストファッションが台頭してきていて、大量生産大量消費の流れがどんどん進んでいました。ものづくりのスピード感が格段に早くなり、服がものすごいスピードで消費されていくことにデザイナーとしてすごく葛藤を覚えました。さらに、我々が製造する過程でも無駄なものがたくさん出て廃棄物が多くなるばかりでした。そんな中で何かできないかと思うようになり、“土に還す”というテーマに辿り着きました。
―循環型のモデルはいつ頃から考えていたのですか。
最初はファッションデザイナーとして、デザインだけで解決しようとしたのですが、どうもそれだけで解決する問題でもないなと。業界全体を押し上げるようなカルチャーを作らなければならないと感じるようになりました。そこでいくつかプロジェクトを試してみる中で、“土に還す”というものがあり、天然素材であれば土に還るだろうと、実証実験からスタートしました。アパレル業界は「サステナブル」など言葉だけが先行することが多く、実際はやらない、もしくはそのような素材を仕入れるだけ、というような上辺だけ整えることが多いのですが、そうならないようにきちんと実証を行っています。その上で実際に我々が畑を運営する、というところに至り、土壌への影響を常に考えて土に還しています。
―どのようなカルチャーを作りたいとの思いがあるのでしょうか。
今って服やものを所有して消費する世界だと思うのですが、実は資源って誰のものでもないですよね。私は地球の資源を使わせてもらっていると考えています。そんな考えから、最終的にものを手放していけるような流れが作れないだろうかと思っており、作りたいカルチャーはシェアリングする文化に近いかもしれませんね。そのきっかけを我々のつくる服が担えればいいなという思いがあります。
土に還すために使えるもの、使えないもの
―具体的にどのような取り組みをされているのかを教えていただけますでしょうか。
ファッションの業界は、メーカー・縫製工場・素材屋さんなど分業制が基本で、メーカーは商品を仕入れる部分のみ、縫製工場などの製造業は作っているものがどのような消費をされるものなのか知り得ない現状がありますので、我々はまずその全てに関わっていこうと。「つくる」「つかう」「すてる(還す)」という服の一生に携わることを大切に運営しています。
まず「つくる」の部分についてですが、少しでも有害なものが含まれていたら土に還ったとしても土壌に影響が出てしますので、ここはかなりこだわっているところです。生地をはじめ糸なども含めて素材一つひとつきちんとトレーサビリティのとれたものを使ったり、労働問題もクリアしたものであったりと、取捨選択をしながら土壌に還しても問題ない素材を使っています。
参考:【アパレル】ファッションは環境に悪いって本当?【4つの問題点】
―素材、例えば布を製造する中でも科学的な処理がなされているものは多くあるのですか。
ほとんどそのような素材といっても良いです。最近はオーガニックコットンも比較的手軽に入るようになってきたのですが、化学染料などを使って染めちゃったりするんですよ。そういった染料を使っていてもオーガニックコットンだといえてしまう現状があります。土には還るかもしれないけれど、土壌への影響という部分ではまだ明確ではないので、我々としてはそういった素材は使えません。
―生地にはオーガニックコットンを使っていても、縫製の糸はポリエステルだったりすることもあると聞きました。
はい、アパレルの闇みたいなところですよね。オーガニックコットン100%とはなっていても、縫い効率がよくて安いという部分で縫い糸は基本的にポリエステルが使われています。それでも全重量の5%以内であれば品質表示に記載しなくてもいいことになっているので、「オーガニックコットン100%」と表示されてしまう。ただ、その服を土に埋めるとポリエステルの部分は未来永劫残ってしまいます。
―Syncs.Earthで使われている素材はどういったものなのですか。
オーガニックコットンと、和紙を使っています。我々が使っている和紙はマニラで自生しているマニラ麻からできたもので、麻といってもバナナの木のような大きなものなんですね。これを紙にしてからスリット状にし糸にすることで服の素材を作っています。人工的な針葉樹林の木ではなく、自生している木を使って作っているのもこだわりです。和紙は生分解性がすごく高く土壌にも還りやすいんですよ。
着古せば回収する「循環購入」を取り入れる
―次に「つかう」という部分についても教えていただきたいです。
生分解性の高い服をいくら作ったとしても、使い方が重要だと思っていて。これはある程度お客様にゆだねなければいけない部分ではあるのですが、我々発信で「こういった使い方はどうですか。」とご提案をしています。それが「循環購入」というレンタルの仕組みです。
我々の元に服を返していただくことを前提に、通常の購入より少し安い金額で購入していただけます。地球の資源を使って形にしたものがお客様の手に渡り、使い古したら土に還る。そんな、お客様を巻き込んだ循環構造の仕組みとなっています。
―返却された後、土に還す工程でコストがかかるかと思いますが、どのように採算をとっているのでしょうか。
循環購入は何年経ったら回収するなど取り決めはしておらず、完全にお客様の任意なので、一概には言えないのですが、今の時点で回収できている服はまだ着られるものがほとんどなんですね。状態の良い服は藍染めや一定の基準を満たした草木染めで染め直し、EC上で再ラインナップしているので、原価ゼロから収益性が出る、という部分ではメリットがあるといえます。染め直しはお客様自身でも行えるように、これもEC上で染め屋さんをおすすめして、お客様ご自身で染め直してもう一度着ていただくことも推奨しています。リメイクもできる範囲で行っています。
―ものを大事にするという意識や価値観を持ってもらうことが第一ですか。
そうですね。大前提として服は長く着てもらいたい。そんな普遍的なデザインをしながら少しづづ商品はバージョンアップしていっています。返していただかなくてもいいという気持ちもありますし、デニムのパンツなんかは世代を超えて使っていただけるものですので、なるべく長く着ていただけるようにご提案しています。
―循環購入と通常購入の割合はいかほどでしょうか。
循環購入がほとんどで、通常購入は1割程度です。循環購入を始めてからまだ2年も経っていないぐらいですので、現状はほとんど返ってきていない状況です。
回収した服は土壌に還し、作物を育てる
―最後に「すてる(還す)」について教えてください。
我々の根底の部分になります。最後の最後、もう着られないとなったときに土に埋める。時間の経過とともにその服を微生物が食べて土壌を活性化させ、作物が育つ。人が着ていたものが土に戻り、そこでできたものを口に入れる、そんな循環を可視化していきたいなと考えています。
―御社の運営している畑でないと土には還らないのですか。
そうとは限らないのですが、例えばホームセンターに売っているような殺菌済みの観葉植物などの土のポットなどに入れても微生物がいないので還りません。また、土に還るからといって安易に別の場所に持っていって埋めるのは不法投棄にもなりますのでもちろん推奨していません。やはり自分たちの目に見える、管理している場所でしっかり還していくことが大事ですね。
―還したいときには、どのようにしたら良いでしょうか。
畑は「Syncs.Lab(シンクスラボ)」という、土壌作りから服を土に還して作物をつくり、できたものを収穫してみんなで食べるというコミュニティを運営しています。耕作放棄地だった農地をお借りして我々が運営している形になります。耕作放棄地は全国にあるので、コミュニティの活動を全国に広めていきたいと考えています。
―どのくらいの期間で土に還るのでしょうか。
時期によっても変わりますが、和紙の服は夏に約3週間ほど還りましたね。当初、畑でできた作物を返却してくださったお客様に還元していきたいと思っていたのですが、「自然農法」という耕さず肥料や農薬も使わない耕作方法で育てているので、なかなか生産が安定しないことが課題です。私自身も農業初心者ですので、会社メンバーで実証を重ね様々な方に教わりながら実践しています。
トレンドという概念に縛られないデザイン
―長く着るものという前提がある中で、デザインについてはどのようにお考えですか。
ファッション業界は大きく「春夏」と「秋冬」に分かれているのですが、我々のブランドに関してはそのくくりはいらないかなと思っていますし、正直トレンドというもの自体にも違和感があります。デザイナーはアイデンティティの表現としてコレクションを発表しているのに、ビジネスの人たちがそれを勝手にトレンドという流れの中に入れている気がしていて……。もちろんファッションはアートではないと考えていて人が着てはじめて成り立つと考えており、着心地やフィット感などは世の中の流れがあると思うので、それを自分の中であくまでベーシックに落とし込んでいく。ECに並んでいるプロダクトも、首周りや着心地など世の中の流れを鑑みながら少しずつバージョンアップしています。
参考:ファッションの喜びと業界の闇 現状打開の3rd Wayを探る
―土に還るものしか使えないという制約がある中で、ファスナーやゴム、ボタンはどうしているのでしょうか。
貝のボタンは使っています。石灰質の貝は酸性に傾いた土壌を調整する効果もあります。ファスナーやゴムは使えないのでゴムの代わりに紐でしばるようにするとか、かなり制約のある中で工夫しながらデザインしています。
―今後はどのような活動に注力される予定ですか。
そうですね、メインはECとなりますがここ最近はBtoBのコラボなども進めています。アパレルのメーカーさんにもこの取り組みを知ってもらいたいとの思いもあって、2022年は共感していただいたメーカーさん何社かとのコラボも実現しました。例えばピンクハウスさんはイベント用のドレスを作らせていただくなどしましたし、ある著名なアーティストさんの服のブランドとのコラボでは、メディアで大きく取り上げていただくこともありました。
―最後に今後の展望をお聞かせください。
アパレル業界全体を変えるのはまだまだ難しいとは思います。ですので、環境や消費、循環を考えるきっかけとなるべく、まずはクローゼットの1着を土に還る服にすること。そのために日本だけでなく世界に向けても発信を続けていきたいなと思っています。
それと同時に還す場所も必要になってくるので、我々が今運営している東京の畑だけでなく、全国にコミュニティを広げてその土地の若者が参加し、作物を育てるような流れにしていかなければと。例えば長野県で服を使った人は長野県のコミュニティで土に還す、そんな地産地消のようなコミュニティを広げていきたいです。農業と服との両軸で、運営していかなければならないなと考えています。
2023.03.09
取材協力:Syncs.Design株式会社
https://syncs-earth.com/