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サーキュラーエコノミーの取り組みが進むフィンランド。そこで2023年6月末、ビジネスパーソン向けにフィンランド・ヘルシンキにてサーキュラーエコノミー視察ツアーを主催しました。NIIMAAR社にてサーキュラーデザインのワークショップや、繊維リサイクルの工場であるRESTER社の視察、循環型経済の移行への取り組みの現場をめぐる3日間。視察ツアーの様子をご紹介します。

※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。

3日間の視察ツアー

「環境と人」では、サーキュラーエコノミーの取り組みが進むフィンランドにて、ビジネスパーソン向けの視察ツアーを「生活感度研究所」と共催にて行いました。フィンランド国内はもちろん欧州内のサーキュラーエコノミーシーンを牽引する企業や国の研究機関、老舗の北欧家具メーカー、スタートアップなど、多様な企業や施設を視察。サーキュラーエコノミーの現場を肌で感じていく企画です。また、視察だけでなく、毎日レクチャーや参加者それぞれの振り返りを行う時間を確保。たくさんの情報量をその場で整理する機会を提供させていただくのも本視察ツアーの特徴です。

1日目「サーキュラーデザインと北欧家具のサステナビリティ」

現地集合・解散の当ツアーは、一日目は、ヘルシンキの「顔」とも言える「ヘルシンキ大聖堂」で参加者全員が集合。すぐ近くにある築200年超の元デパートの建物をリノベしたコワーキングスペース「Sofia」の会議室でサーキュラーエコノミーおよびフィンランドの基本情報のレクチャーと参加者の皆さんの自己紹介を行いました。

伝統的な建物を使ったフィンランドらしいコワーキングスペース「Sofia」

昼食のあとはヘルシンキ市内のデザイン会社NIIMAAR社に移動、サーキュラーデザインのレクチャーのあとはワークショップを行い、チームに分かれてサーキュラーデザインを考えるなど、実践的な内容となりました。

代表のEnniさんによるワークショップの様子

参加者の声「特に印象に残ったのは、サーキュラーデザインのお話しです。サーキュラーエコノミーを考えていますとどうしても環境のことばかりを考えてしまいますが、環境だけではなく利用者のことを考え、いかに利用者にとって利便性のあるよのを作るかを考える必要性を感じました。ワークショップもとても楽しいひと時でした。私たちはビルトインコーヒーのアイデアを出しましたが、ワークショップに参加する人の組み合わせだったり、サーキュラーエコノミーの重要ポイントのうち、どの部分をピックアップするかなどで、最終的なアウトプットも変わるのだろうと思い、サーキュラーデザインを取り入れたプロダクト作りの可能性を感じました。」

そのあとはセカンドハンドファッションブティックの視察。そして75年の歴史があるフィンランド家具メーカーLundia(ルンディア)のショールームでCEOカッリさんから長寿命とサステナビリティについてお話を伺いました。

参加者の声「Lundiaのようなすでに国内シェアを大きく占め歴史ある企業がサーキュラーエコノミーを取り入れた事業を展開されるのは、フィンランドの他企業に対しても大きな影響があると感じました。国産材の活用は日本でも課題になっており、Lundiaの取り組みは日本の企業にとっても参考になると思います。「フィンランド人はなかなか買い替えをせずに、一度買ったものを長く使い続ける習慣がある」という姿勢も、日本人も学べる点だと感じました。」

2日目「フィンランドのCE研究開発最前線」

二日目は、2019年「公共図書館アワード(2019 Public Library of the Year Award)」を受賞したヘルシンキ中央図書館「Oodiオーディ」に集合、先進的な施設の見学のあと会議室で振り返りミーティング。そのあとエスポー市にある“北欧のスタンフォード”アアルト大学へ移動。学内を見学し、敷地内のビジネススクールでのビュッフェランチでは日本人卒業生や現役留学生との交流も行いました。

アアルト大学エリアは大学や研究所などのアカデミックと、それをベースにしたスタートアップ施設や企業が集積する場所です。一行はその一角にある「国立標準研究機関VTTフィンランド技術研究センター社(VTT Technical Research Centre of Finland Ltd)」へ。

VTTでは、サーキュラーエコノミーのヘッドであるInkaさんにVTTの取り組みを、食と建築に関してのサーキュラーエコノミーの取り組みはそれぞれの研究員の方にプレゼンしていただきました。VTTは2000人を超える社員のうち、博士号取得者が32%を占めるというアカデミック集団です。あらゆる分野の研究開発が行われており、企業やスタートアップと連携して数多くの次世代の優良企業を生み出し、産官学連携が盛んなフィンランドのハブとなる存在です。

VTTサーキュラーエコノミーのヘッドであるInkaさんのプレゼン

参加者の声「国の機関としてここまで研究をされていることに感銘を受けました。プレゼンは食と建築という分野でしたが、他にも数多くの分野で研究が進められているので、民間企業としても動きやすいところがあるのではと感じました。国の機関がサーキュラーエコノミーにこれだけ力を入れていることを肌で感じ、フィンランドの国の本気度を感じることができた良い機会となりました。」

そのあとはKampiセンターにある、欧州最大規模の「MUJIフィンランド」を訪問。マネージングディレクターの高木さんに、文化が全く違うヘルシンキ、それも一等地1000坪の店舗を運営するにあたっての課題とその解決についての貴重なお話をいただきました。

MUJIフィンランドの店内

高木さんのリアルな話にすっかり聞き入る参加者たち

参加者の声「ヨーロッパ最大面積の店舗があまり物を購入しないフィンランドにあるというギャップと、その中で無印ブランドを浸透させるためには「日常生活の一部になること」「通っていただくこと」という発想に衝撃を受けた。 「コト体験」の提供は観光分野でもここ数年言われ続けているが、イベントを実施するとなりがち。ただ、それでは一過性で終わってしまうのは観光業界でも同様で悪戦苦闘しているのが実態である中、通い続けていただくためにローカルサプライヤーの開拓やコミュニケーションの場づくり、無印以外の商品も修理する等、素晴らしいアイディアだと思う。 滞在中、自身の買い物も含めて様々な店舗を訪れたが、一番気分の上がったお店だったし、商品を見ていてワクワクした。日本に無印と比べても、もっとゆっくり見たいと今回ほど思ったことはないかも、と改めて感じる。 サステナブル・サーキュラーエコノミー=環境負荷となりがちだが、地域生産者の活性、文化承継等、環境以外の面からのアプローチも目から鱗のアイディアで、また高木さまのお話を伺いたいと感じた。」

3日目「繊維のサーキュラーなエコシステム」

3日目は早朝より貸し切りバスにてヘルシンキ郊外へ。「テキスタイル(繊維)のエコシステム」をテーマに工場見学を行いました。サーキュラーを形作るループの鍵となる、廃棄衣料を分別、裁断し再繊維化する「RESTER」の工場では、廃棄されたユニフォームや産業用テキスタイルの繊維化までのラインの見学、さらにそれがどのようにアップサイクルされるかの説明を受けました。

再生繊維でできたVilikkala 社のアップサイクル商品

そのあとパイミオにある、フィンランドの代表的な建築家アアルトが設計した結核療養施設(現在はアアルト建築のショールームとして運営)を見学。機能を失った建物でも壊さず、新たな生かし方をしているのは、フィンランドではよく見かけます。

ランチのあとは、RESTERのエコシステム(バリューチェーン)の一社であり、「環境と人」のフィンランド最初の取材先であるVilikkala 社を訪問。CEOのヤリさんに、再生繊維を使った強化フェルト事業についてのプレゼンと工場見学をさせていただきました。

エコシステムの一社である家具メーカーに同居するVilikkala社

ヤリさんの熱いプレゼンを受け、参加者からも質問多数。

1月に環境と人の取材で同社を訪問したときにはちょうどスタートしたばかりで、ドイツ製の中古のラミネートマシンだけあった工場も、わずか5ヶ月で、環境素材フェルトの壁や椅子用シートなど、様々な新商品ができており、サーキュラーエコノミービジネスのスピード感を感じることができました。

参加者の声「エコシステムの中でRester社と情報共有したり、織る技術のある企業の力を活用して、その技術をプロダクトに反映させたりするお話を伺い、エコシステムがまさに生態系のように機能されているように思いました。当社はエコシステムは構築出来ているのですが、情報共有や他社の強みを活かす活動は、御社のように出来てはいません。御社を習い、エコシステムのパートナー達と共創し、社会的に価値のあるプロダクトを生み出したいと思います。」

ヘルシンキに戻り、再びオーディ図書館の会議室にて皆さんの3日間の「振り返り」プレゼン。同じ体験をしながらも、参加者それぞれの背景や知見で、全く違う視点でのアウトプットになることに驚きます。

それぞれの成果について語る参加者の皆さん

こういう言い方は変かもしれませんが、様々な業種の皆さんと共有した時間を通して、主催者側も大変勉強になる3日間でした。参加された皆さん、本当にありがとうございました。

今後もサステナビリティをテーマに欧州を中心に視察ツアーを行います。「環境と人」ではこれからも視察のみならず、学びの機会を提供していく予定です。