プラスチックは我々の想像以上に、必須の素材として社会の節々に浸透しています。使い捨てが減っていくのは時代の流れですが、完全な脱プラスチック社会というのは現実的ではないでしょう。例えば物流の世界では、一般にあまり知られていない「ストレッチフィルム」という資材があります。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

これは、トラックや倉庫に積んだ荷物が崩れないよう巻きつける、巨大サランラップのようなものです。ラップと同様、再利用ができないので、一度使ったら捨てるしかない上、ほとんどの物流現場で使用されるため、日々大量に廃プラスチックとして発生しています。
しかし、比較的綺麗でまとまった量が出るためマテリアルリサイクルがしやすく、再生ペレットとして再びプラスチック製品の原料となることが多い資材です。

再生ペレットは安いことに価値がある?
石油由来のバージンペレットと比較して、どうしても取りきれないホコリや汚れによって、強度や透明度といった品質にハンデのある再生ペレットの優位性は、価格であると言われてきました。
海外のユーザーの多くは「バージンより安い」という理由で再生ペレットを使うので、必然的にその価格は原油価格と連動することになります。

バージンペレットを作るのに石油化学というプロセスが必要なのと同様、再生ペレットには回収・加工というリサイクルプロセスが必要です。
よって、リサイクルに関わる事業者の収益は、原油価格(=需要)に依存することになります。市場によって価格が決定するのは当たり前ですが、通常の製品は需要に合わせて生産を減らせるのに対し、リサイクル製品の生産を減らすと、未利用の廃プラスチックが増えてしまう問題があります。
リサイクル製品が売れれば回収が進む
逆に言えば、リサイクル製品の市場が広がれば、廃プラスチックの回収が進むということです。ストレッチフィルムから再生ペレットを製造する、株式会社ファーイーストマテリアルの田上社長はこう言います。
「本来、選別すればリサイクルできるものが、例えば現場の手間がかかるといった理由で廃棄物にしているのが現状だと思います。」
排出企業側としては、価格次第で手間=コストをかけるかどうかを決めるのが一般的です。

実際に、中国が高価格で廃プラスチックを買い集めるのをやめた2018年以降、国内の産業廃棄物処理業者において受入容量の逼迫と処理価格の高騰が観測されています。
さらに、2020年はコロナ禍のためプラスチック生産工場の停止、原油価格の凄まじい変動、貿易の混乱などが世界的に起きた関係で、ほとんど荷物が動かない状態でした。
「再生ペレットの輸出・国内両方販売していますが、2020年は輸出に関してはもうつくってもいりませんという状況で、マテリアルリサイクルは安定した需要と価格がないと継続できないと痛感しました。」

このような廃プラスチックを巡る近年のジェットコースター相場により、排出企業側の意識にも変化の兆しが見えます。
「その中でも国内向けは価格も量も変わらなかったんです。そのユーザーさんは、国内の廃プラスチックから作った製品であることに意味があるということで、こちらの事情もある程度飲んでくれていて。だからそこに力を入れていますね。」
再生ペレットを使い慣れない国、日本
原料の地産地消であればこうしたリスクを最小限にできるため、今後、国産の再生ペレットを使う企業が増えてくる可能性があります。しかし、そこには課題もあります。
「EUだと規制で必ず何割か再生ペレットを使わなければならなかったり、それが企業のCSRに繋がってたりするのに対して、実は日本企業はあまり再生ペレットを使い慣れていないんです。
品質が不安定になりやすい再生ペレットが入って不具合が発生した場合、たとえそれが使用上全く問題の無い、ごくごく軽微な不具合であったとしても、お客さんに納入できないみたいな、特有の潔癖さというか。今のところ、EUのような規制もないですし。」
また、国内で作った再生ペレットの多くが中国、東南アジアに輸出されている一方、プラスチック製品製造のためバージン原料を輸入している現状と、国の政策にも課題があると言います。

「わざわざ補助金入れて再生ペレットを作って、それを海外に出しちゃうっていうのは、ちょっと引っかかりますよね。やっぱり国内でリサイクル製品の需要を喚起したり、ユーザーに対するメリットを出したりという面で、国のサポートがあるといいですね。」
では、再生ペレットを使ったリサイクル製品とは具体的に何でしょうか?
「弊社の再生原料はごみ袋の製造に使われることが多いです。使用後は捨てるだけなので、再生ペレットを使いやすいんです。まだ業務用がメインですが、最近は徐々に一般からの問い合わせも増えてきています。」
つまり、私たちが日々の生活の中で再生ごみ袋を選ぶことが、再生ペレットの需要拡大に貢献し、プラスチックリサイクルの促進に繋がるということです。
しかも、バージン品と同じような価格であれば、選ばない理由は最早無いと言えます。ごみ袋に限らず再生プラスチック製品を見かけたら、環境に対する具体的なアクションとして選んでみてはいかがでしょうか。
サーキュラーエコノミーの視点から

ファーイーストマテリアルのビジネスにより、家庭に様々な商品を届ける物流現場で発生する「ストレッチフィルム」を回収し、再生ペレットへの加工を通じて再生原料を使ったごみ袋として企業・家庭へと循環させています。
必要不可欠なものとして出てきてしまう廃プラスチックを有効活用し、新たな石油資源の使用を削減している点では、極めて重要な役割を果たしています。
一方で、サーキュラーエコノミーが目指す循環の輪は閉じておらず、再生ごみ袋は焼却されてしまうため、素材の延命というリサイクルの限界に留まっているとも言えます。
サーキュラーエコノミー実践という視点では、例えば再生原料を使ったストレッチフィルムの製造が挙げられます。この点について田上社長によると「現在試作中」とのことですので、近い将来に再度取材したいと思います。
2021.04.20
取材協力:株式会社ファーイーストマテリアル