富山湾・七尾湾に面する七尾市を拠点に、国内に複数の拠点を持つ株式会社エフラボの取り組みについて、前後編にわたってお送りしています。
修繕ビジネスの最先端
—エフラボさんのビジネスモデルについて改めてお聞かせください。
椅子の修繕事業を核として、椅子にまつわる幅広いニーズに対応しており、特注の造作ソファ製作や、20社以上に渡るOEM製造も行っています。事業の構成としては、それぞれ約3分の1ずつの割合となっています。
「椅子」に特化した専門性を追求してきたことが、私たちの成長の大きな要因になっていると感じています。
—椅子修繕のお客様は、どのようなところが多いのでしょうか?
主な依頼先は、飲食店やホテル、旅館、オフィス複合施設など、大規模な商業施設が中心です。近年では、環境配慮の観点から、メンテナンスしながら長く使うという選択をする企業や施設が増えています。このような背景から、椅子の張り替え需要は年々高まっています。定期的に同じ椅子を張り替えするのであれば、履歴データを活用できるため、新品購入と比較して費用を抑えられることがあります。特に東京や大阪近郊では需要が旺盛で、飲食店や公共施設からの依頼が着実に増加しています。
一方で、個人のお客様にも対応しています。直接工場へ椅子を持ち込まれる方もいらっしゃいます。1脚単位の修理から数千脚におよぶ大規模な修繕まで柔軟に対応できることが、当社の大きな強みです。
—創業当時のご苦労などあればお聞かせください。
創業時、椅子修繕という分野そのものがまだ知られておらず、事業として軌道に乗せるのは簡単ではありませんでした。職人の確保は最大の課題でした。ものづくりの現場が中国など海外へ流出した時代背景もあり、創業メンバーは2人だけ、最初は職人がわずか数名という小規模なスタートでした。
しかし、能登には古くから伝統的な技術を持つ職人が多く存在し、地域のものづくり文化の豊かさを感じていました。木製建具や組子細工などの高度な技術と、ものづくりへの情熱を持ちながらも、需要の減少によって仕事を失いかけている職人たちが数多くいる現状を目の当たりにし、その技術や熱意を椅子の修繕という新たな形で活かせる場を作りたいと考え、それを基盤に修繕をビジネスとして確立しました。
—職人技術を活かし、椅子修修繕に特化した仕組みを作るために、どのような工夫や取り組みをされていますか?
修理専門の工場自体が非常に珍しいのですが、特に椅子に特化したワンストップ型の再生工場はほとんど存在しません。この独自の仕組みを実現するには、職人技術を最大限活かす体制づくりが欠かせませんでした。具体的には、日本全国の協力工場と提携することで輸送コストを抑えつつ、必要とする場所に直接サービスを届ける仕組みを整えています。
自社の強みは、職人集団がものを作れる工場だということです。加えて新しい素材や製作方法への挑戦がしやすい柔軟な姿勢も評価され、単なる製造だけでなく、企画や開発段階から依頼してくださるお客様と、よい関係を築けています。
日本のものづくりの系譜を紡ぎ続ける
—震災からのこの1年を振り返ってみて、どのように感じていますか?
本当にあっという間でした。行動力やスピード感が強く求められる1年だったと感じています。共助の意識が強い地域柄もあり、災害時の段取り力や予期せぬ事態への対応力のすごさを改めて実感しました。地域の方々の粘り強さや柔軟な対応には、心から敬意を抱いています。
しかし一方で、交通事情や人口減少といった長年の課題が、震災によって加速されている現状も否めません。能登が完全に復興するには、多くの時間と努力がまだまだ必要だと思います。そうした現状を目の当たりにしながらも、地域全体で一歩ずつ前に進む努力を重ねていく必要性を強く実感しています。
—今後の目標があればお教えください。
震災から1年が経ちますが、加速してしまった課題の解決には至っていません。効率化し技術を守るだけでは未来に繋がらないと痛感しています。
今後の私たちの目標は、日本のものづくり技術を次世代へ継承し、その価値をさらに広げていくことです。課題への対応と同時に新しい価値を生み出す「次世代型ものづくり」を実現する必要があります。地域の若者と協力したり、遠方の技術者や企業と連携するなど、デジタル技術を活用した製造プロセスの改革に取り組むことはこの一例といえます。
エフラボの工場の復興は少しずつ進んでいますが、まだまだ元通りとはいかず、地域全体を見ると復興にはまだまだ遠い状況です。こうした現状に向き合いながら、
「技術を守るだけでなく、地域の未来も築く」
という視点を大切にしていきたいと思います。