前編では「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」というフィロソフィー(企業哲学)を軸に、健康食品からバイオ燃料まで既存の枠にとらわれず様々な挑戦を続ける株式会社ユーグレナの事業について伺いました。
後編にあたる今回は、そんな幅広い挑戦を可能にするユーグレナ社の企業哲学について触れていきます。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
「Sustainability First」という哲学
ー2020年から企業哲学として「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を大きく掲げていますね。
はい。2020年は弊社にとって創業15年という年だったんですが、ちょうど使用済み食用油とユーグレナから抽出された油脂等を原料として製造したバイオ燃料「サステオ」の供給が開始された年でした。
その際に社を刷新しよう、コーポレートアイデンティティ全てをロゴから何から全部変えようというプロジェクトが始まりました。そこで生まれたユーグレナ社のフィロソフィー(哲学)が「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」です。
この言葉は「バングラデシュを救いたい」というユーグレナ創業の気持ちと一緒だと思います。ただ、創業当時はサステナビリティという言葉に耳馴染みがなかった。
なのでユーグレナっていうツールを社名にしたんですが、それから15年経って、食品が事業化し、化粧品が事業化し、いよいよバイオ燃料の供給が始まるというタイミングで改めて「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」という言葉をフィロソフィーに据えました。
ーフィロソフィーを刷新した事による効果は感じますか?
僕たちが常にその意識を持って事業に取り組めることが一番大事なことだと思ってます。特に今コロナ禍で出社が当たり前ではなくなった時代なので、遠隔で働く仲間たち(ユーグレナ社では一緒に働く従業員のことを「仲間」という)に「SDGs」「脱炭素」「持続可能性」など色んな言葉で伝えようとしても伝わり切らない。だから一つだけ「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」という心の持ちようだけを共有することで、自分の担当する事業商品をどう伸ばしていくか考えられるんだと思います。
サステナビリティ・ファーストを掲げる覚悟
ー「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」って打ち出すと色んな所から突っ込まれると思うんですが、どう回答されてますか?
まず一番大事なのは目一杯回答するっていうことです。企業の広報対応でよく見るのが、ツッコミを受けないように受けないようにっていう姿ですが、そうじゃなくて、ツッコミが入るってことは社会に向けて「これってどうなんだろう?」って問題提起ができている状態だと思っています。
例えばバイオ燃料ってまだ生産量が少なすぎて、カーボンニュートラルに寄与できる部分はまだ多くないんです。でも、だからって使っていかないとデータが集まらないし、その上で議論していかないと延々と前に進んでいかないですよね。だからこそ弊社の広報活動は多くの情報を出しています。
それによって多くのお問合せを頂くんですけども、1つ1つきちんと対応していくことによって外の意識が変わっていく。意見を交わすことによってその人の意識も変わっていくと思っていて、それを含めて僕たちが「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」で進めていくって気持ちでやっています。
ーなるほど。まさに企業のあるべき姿だと感銘を受けます。一方で他の企業はなぜサステナビリティ・ファーストにすると言えないのか、そこに今の社会の問題があると思うんですが、なぜだと思いますか?
私が他社さんと関わった経験で言えば、「自分たちが世界を救うだなんておこがましい」っていう気持ちがあるんじゃないでしょうか。でもほとんどの会社ってその時々の社会課題を解決しようとして起業した経緯があるので、本当は様々な形で社会課題に関わっているはずなんです。それを認識して社会を良くするのは僕たちの1つ1つの業務なんだって認め合うのが大事だと思います。
それが出来てないのが一番の課題だと思ったからこそ、批判を受けてでも「僕たちはこれは良いことだと思ってやってるんだけど、どう思う?」って社会に投げかけ続けるのが、僕たちのできることかなと思っているところです。
ー頂く意見の中には批判的なものもありますよね。
バイオ燃料に関して言えば、たまに「宣伝目的でやってるだけじゃないか」と言われたりしますけど、いや僕たちバイオ燃料「サステオ」を作るのに10年以上かけてるんですけど…って思っちゃいますね(笑)
燃料に限らずバイオ技術って今日思いついたら明日できるってものじゃないので回収までにすごく時間がかかる投資なんです。でもそこにチャレンジし続ける人が必要だし、そういう人たちがいるって事は皆さんに知ってほしいと思いますね。
ー大企業すら「小さなことからコツコツと」みたいな姿勢の会社がまだ多いというのが現状だと思いますが、そういう会社がサステナビリティ・ファーストと言えるようになるためにはどうすればいいでしょうか?
動き出しが遅いところって大きいところだと思うんですよ。人数が多ければ意思決定に時間がかかりますから。でも、逆にそこが動けばめちゃくちゃ世の中が変わると思います。
そもそもユーグレナ社がなぜ新しい事業にどんどんチャレンジしているかっていうと、僕たちはベンチャースタートアップで、歴史ある大企業と較べるとまだまだすごく小さな会社だからです。だからこそ僕たちがまず飛び込んで前例を作って、それを見た大企業が「一緒にやろうよ!」ってなったら、その瞬間に急拡大すると思うんです。
「最初に橋を渡るのが怖いんだったら僕たちが先に渡ります。そのかわり渡り方を見せたら次はもっと大人数で一緒に渡りましょうよ」っていう風に、啓蒙したりして意識を変えるんじゃなくて、私たちが先陣を切ってみせれば必ず一緒にやれると思ってます。
例えばバイオ燃料に関して言えば、JRバス各社さんで弊社の燃料を使って頂いてるんですけど、JR各社さんの中で中国、四国、東北とどんどん広がっています。「出来る」って分かれば皆さん飛び込めるし、自分も世界を救うような良いことができるって気付いてもらえると思うので、その気づきに遭遇できる場面をたくさん作りたいと思ってます。
ー組織としての意思決定に時間がかかってるだけで、中の人たちは課題意識を持たれてるという印象でしょうか。
経営レベルでも担当者レベルでも環境意識を持っているけれど、社内でそれを話し合う機会がないんじゃないでしょうか。SDGsなり環境配慮なりを話す会議がなかったり、専門の部署を作ってそこに押しつけてしまってるみたいなことがあると思います。
そこで例えばユーグレナ社のリリースしたニュースが会議の中で話題に上げれば、それが話をするきっかけの1つになると思いますので、そのきっかけ作りに貢献できたらいいなとは思います。
お客様以外のステークホルダーとの関わり方について
ー青汁で有名なキューサイさんを子会社化したそうですが、PMI(合併後の統合プロセス)で企業文化や意識の統一など行いましたか?
ユーグレナ社はキューサイ以外にも多くのグループ会社に加わって頂いてるんですが、違うことが良いこともあれば一体になることで良いこともあるので、必ずしも同じ文化が必要とは考えていません。そもそもSDGsって17個も項目があるので、同じ意思決定ルールでやっていくと無駄に時間がかかってしまいますよね。
ただしサステナビリティ・ファーストであるかどうかは大事なので、そこはグループになって頂く上で考慮している部分ではあります。
ー個人投資家の割合が非常に多いと聞いていますが、株主との対話で意識されていることはありますか?
そうですね、たくさんの個人投資家の方から応援いただいている会社であるっていうのはすごく自覚しております。
やっぱりまだまだバイオ燃料っていうのは供給できているだけで事業化できているわけではないんです。なので株主の皆さんへ配当という形ではお返しができていないのも重々理解しているので、だからこそ「ユーグレナ社を応援しててよかった」って言ってもらえる状況を作っていく必要があると思ってます
どういうふうにすれば、投資家の皆様のためになるかっていうのは常々考えていて、だからこそ昨年の株主総会では日本初の「バーチャルオンリー株主総会」にチャレンジしました。
リアルでの対話が大事なのはもちろん理解していますし、ただ単に「日本初」を狙ったわけではなく、バーチャルオンリーにすることで距離を圧縮できるんだったら、それは挑戦する価値があると考えての実行でした。
これがユーグレナ社らしさだと思っていて、新しいことにチャレンジする会社を応援してほしい、バーチャルオンリー株主総会に最初にチャレンジした会社であることも誇ってほしいという事です。もちろんリアルで会いたい方もいると思いますので、そういう方には違う場面を作っていく事もしていますが。
バランスをとる事も大切なんですが、思い切ったことをやるっていうのも同じく大切ですよね。誰もチャレンジしなければ社会は変わっていかないので、僕たちのチャレンジしていく姿勢を様々な場面で見せていければ、というつもりでやっています。
ーなるほど。企業文化がすごく伝わってきました。
さまざまなチャレンジを可能にする風土とは
ーまた少し事業の話に戻りますが、この先控えているというバイオマス分野の開発について少しお聞かせ下さい。
バイオマスプラスチックの一種である「パラレジン」を作っています。ユーグレナからパラミロンという特有成分を抽出してプラスチックを作る研究を進めており、サンプルはもう出来上がっているので、いかに量産していくかを考えています。
バイオマスプラスチックって生分解性(土に還る性質)や環境への優しさが注目されがちですが、硬さの問題もあると思っています。どういう事かというと、従来の石油系プラスチックって硬くも作れるんですが、それを生物由来のプラスチックで再現するのが難しいんです。例えば紙パックについてるストローの代替ってすごく大変で、バイオマスプラスチックの比率が高いストローは柔らかいので刺さらないんですよ。ぐにゃってなっちゃう。
ですが、パラレジンはそれを解決できる可能性がある。硬いプラスチックを作る可能性があるので、パソコンとかカメラの部品にも使えるかもしれません。そこに向けてチャレンジしています。
ー国が推奨してるバイオマスプラスチックですがリサイクル業との相性が悪くて、リサイクルする際に、石油以外の成分のバイオ素材が紛れ込むとうまくリサイクルできず全部ゴミになってしまうんです。そのあたり何かお考えはありますか。
当社はまだ事業化まで出来ていないので、そこまで具体的な手立ては今ありませんが、そこは必ず考えていかなきゃいけないですよね。今聞いて思ったのが、石油でできた合成紙が古紙に紛れ込んで困っているのでメーカーが注意喚起してるみたいな話を聞いていて、僕たちも将来そういう問題がやって来るんだなと実感しました。
ープラスチックだけでなく培養土など様々な研究をされていますが、そのチャレンジ精神を支えるものとはなんでしょうか。
新しいモノを作るっていうのは弊社に限らず色んな会社さんもやっていると思いますが、普通は量産できるまで供給しないんです。ですがユーグレナ社は「一回使ってもらおう、食べてもらおう」ってやってしまう。飛ばせる手順ならどんどん飛ばして前に進めようっていうのが、僕らの行動指針(ユーグリズム)のひとつ「7倍速」です。
ビデオやDVDを早送りしていくと、コマが飛び飛びに見えるけど粗筋はなんとなく分かりますよね。それと同じく、削減できる手順はどんどん減らしてやっていきましょうって考え方がチャレンジを支える要素の1つだと思います。
ー非常にスタートアップ魂がある感じですね!
ありがとうございます(笑)
ー最後に、今の社会に求められてるのは事業の成長と社会課題の解決、この両立だと思っているんですが、これを実現するためにはどうしたらいいでしょうか?
できないと思わない、だと思います。
できないと思ってると永遠にできないままなので、社会が良くなっていくことが自分たちの事業なんだって決めることだとが肝心なんじゃないでしょうか。
そもそも「事業」って出来なかった事を出来るようにする事だと思っていて、例えば「こういうものがあったらいいよね」を作るのと同じだと思うんです。
だから「こういうものがあったらいいよね」って思考を、より社会や環境のことに配慮した「こういうものがあったらいいよね」にしていくのが大事だと思っていて、それによって自分もできるんだ、チャレンジしていいんだって思える人が1人でも増えていくと、社会はどんどん変わっていくのかなと。
やっぱり、誰か一人のヒーローが社会を作ってくれるという思考をやめないといけないと思います。
-ありがとうございました。
取材協力:株式会社ユーグレナ