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木造ビルの高層化が進んでいます。従来、柱や壁などに木材を使用する木造建造物は低層住宅が中心でしたが、近年、強度と耐火性に優れた国産木材が開発され、中高層の建設が可能になったことが背景にあるようです。

木板複数枚を組み合わせた「CLT(直交集成板)」はコンクリート並みの強度を誇ります。内部にモルタルや石膏を組み込んだ柱は、炎に数時間さらされても耐えられる性能を持っています。技術開発の進展、さらには外国産材の価格が一部で高止まりしているのに加えて、地球温暖化防止に向けた温室効果ガス削減の動きが後押ししています。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

木の香りがするマンション

東京都江東区の木場駅近くに、外壁に木材をふんだんに使った12階建ての木造マンションが建っています。1〜4階は鉄筋コンクリート中心で、5〜11階には耐火性に優れた木の柱が使われています。共用部分の天井や壁、床にも木材が使われていて、ヒノキやスギの香りがほんのりと漂います。

2020年2月に完成したマンションは、竹中工務店など複数の会社が社宅として利用しています。居住者からは、「テレワークなどで共用スペースを使用するときは、森の中にいるような温かみを感じる。仕事の効率も上がっている」との声が聞かれます。
 
こうした木造の中高層ビルは各地で増えています。三菱地所は2019年3月、仙台市泉区にCLT材を床材に採用した10階建てのマンション「PARKWOOD高松」を完成。東京都内では、2022年6月に東急不動産が、木・鉄骨のハイブリッド耐震システムを採用した13階建ての「COERU SHIBUYA(コエル・シブヤ)」を完成させています。

新建材「CLT」は、複数枚の板の木目が直交するように交互に重ねて接着させ、コンクリートに匹敵する強度を実現しました。
内閣府の統計では、CLTを使った建設件数の累計は、内閣府の統計で、2019年度に479件、2020年度に619件、2021年度に779件。2022年度は960件強になる見通しで、確実に増えています。

高層ハイブリッド木造ホテル

三菱地所は2021年10月、札幌市内に国内初の高層ハイブリッド木造ホテル「ザ・ロイヤルパークキャンバス札幌大通公園」をオープンし、話題になりました。

同ホテルは11階建て。1〜7階は鉄筋コンクリート造、8階は鉄筋コンクリートと木材を組み合わせたハイブリッド造。9〜11階の高層階部分が木造で、北海道産の木材を大量に使用。
「エシカルでサステナブルなライフスタイルホテル」がキャッチフレーズで、脱炭素や地産地消といった環境への配慮をアピールしています。

国内林業最大の課題はコスト

高度成長期以降、鉄筋コンクリートなどが多く使われるようになり、安い外国産木材にも押され、国産木材は行き場を失いました。林野庁の試算では、補助金なしでは立ち行かない状況です。機械化が不十分で、高コストな体質が課題になっています。

戦後に植林した木の多くが樹齢50年を過ぎ、利用時期を迎えています。一般的に、樹齢50〜60年を経過すると、二酸化炭素の吸収力が急減。伐採しなければ苗木を植えることもできず、森林維持・再生のサイクルが止まりかねないのです。

担い手不足も深刻です。国内では、世代交代で所有者が不明になるなど、管理が行われていない森林も多いのです。林野庁は2019年度から、こうした森林を意欲ある事業者につなぐ制度を本格的にスタートさせました。市町村が仲介役になり、所有者の確認や事業委託の意向調査を進めています。

「ウッドショック」で国産木材復権か?

木材を「使う側」の不動産大手などが国産木材の調達に動く背景には、外国産材を巡る市況の不安定さがあります。2021年はコロナ禍からの経済回復で米国の住宅建設ブームが起こり、価格が急騰。「ウッドショック」と呼ばれました。

一時沈静化に向かうと思われましたが、2022年はロシアのウクライナ侵攻に伴う経済制裁の影響で、再び高騰。調達さえ困難になりました。

現在、ウッドショックの頃より輸入材は1割ほど下がったものの、まだ国産木材の方が安いという状況が続いています。従来は輸入材の方が安く、材料も豊富でしたが、ウッドショックを機に国産材を見直し、積極活用に転じた会社も少なくないようです。

総合木材会社の新設

木造の中高層ビルは鉄骨造などと比べて10〜30%費用が高くなると言われています。木材は山林所有者や製材、加工、販売など関わる事業者が多く、中間コストがかさみます。そのコスト削減のための取り組みも始まっています。

三菱地所などは2020年、木材の生産から販売を総合的に手掛ける新会社を設立しました。2022年5月には、森林資源が豊かな鹿児島県で、加工工場を本格稼働させています。

2022年6月には、鹿児島県湧水町の製材工場が本格稼働を始めました。ここでは、直径30センチを超える丸太の大径木、つまり育ち過ぎて大きくなった丸太を主に扱っています。加工しづらいため価格は2割ほど安く、コストを抑えた国産材活用に道筋をつけました。

ほかにも、三井不動産は、北海道に保有する約5000ヘクタールの森林から伐採する木材を、国内のオフィスビルやマンションの構造材として使う計画。竹中工務店は、三井物産など複数の山林所有者と契約し、国産材の確保を進めています。

脱炭素化の流れ

木造は、鉄筋コンクリート造に比べて、加工時に排出される二酸化炭素が少ないと言われています。

林野庁によると、木造住宅の建築時の二酸化炭素排出量は、鉄骨や鉄筋造に比べて4割削減可能です。また、木を燃やさずに建材として使用することで二酸化炭素を貯蔵したまま固定できるほか、新たに植樹することで、山林の二酸化炭素吸収量を増やすメリットもあるのです。

政府は10年以上前から建造物への木材利用を促進してきました。戦後に植樹されて利用期を迎えた森林資源の有効活用が主な目的でした。2010年、公共施設を対象とした「木材利用促進法」が施行され、公共施設の木造率(床面積)は、約10年間で6%ほど増えました。

最近では、脱炭素の潮流も加わっています。2021年10月施行の改正「木材利用促進法」では、基本理念に「脱炭素社会の実現」を明記。公共施設だけでなく、民間の建造物も木材利用促進の対象に加えられたので、木材の開発費用の助成など、国や自治体からの支援を受けやすくなりました。

「あべのハルカス」を超えるビルも

脱炭素化の流れを受けて、国内では今後、木造ビルの建設ラッシュが見込まれます。

三井不動産などが2025年に東京都中央区に17階建てのオフィスビルを、第一生命保険と清水建設が2025年以降に東京都中央区に12階建てオフィスビルを、東京海上ホールディングスが2028年度に東京都千代田区に20階建てオフィスビルを、それぞれ計画しています。

さらに住友林業は、現在日本一高いビル「あべのハルカス」(大阪市、300メートル)を超える350メートルの木造ビルを2041年に建設する構想を打ち出しています。
同社は、高度の耐火・耐震性能といった技術面に加えて、木の空間が集中力に及ぼす効果など、心理面の研究にも取り組んでいるようです。

今後、脱炭素化に貢献しないオフィスは、大手企業や外資系企業に見向きもされなくなるでしょう。国産材の利用は環境配慮へのアピールになっており、脱炭素化の流れは、国産材にとっては好機ともいえます。とはいえ、構造材のすべてを木材でまかなうことは技術的にも難しく、さらなる技術革新やコストダウンも求められています。

林業の盛り上がりは、地方創生にもつながります。先進国でも高い森林率を誇る日本。やり方次第では、世界で市場を拡大することができるのではないでしょうか。

参考文献

竹中工務店の最新木造・耐火技術を結集した12階建てRC+木造建築が竣工:プロジェクト(1/2 ページ) - BUILT
シンプルで端正な姿が美しい 三菱地所 わが国初のCLT高層「高森」完成
木・鉄骨のハイブリッド耐震システム「木鋼組子®」を国内初採用の13階建てビル 「COERU SHIBUYA(コエルシブヤ)」2022年6月竣工 ~多様なニーズに対応する新しい時代のコンパクトビルシリーズ第一弾~|オフィス|都市事業
CLTを活用した建築物の竣工件数の推移
北海道産木材を活用 国内初の高層ハイブリッド木造ホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」開業
森林経営管理制度(森林経営管理法)について:林野庁
建ててみましょう! 木造で
脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称:都市(まち)の木造化推進法):林野庁
木造超高層ビルは建つか 住友林業が打ち出す構想とは:高さ350メートル - ITmedia ビジネスオンライン