記事を読む

サーキュラーエコノミーや温室効果ガス排出量削減の観点から、更なる廃棄物の再資源化が求められています。廃棄物は本来、適切に分別できれば、100%近いマテリアルリサイクル率を実現することも不可能ではありません。

それでは、なぜ多くの廃棄物が焼却や埋め立てに行き着いているのでしょうか?そこには、現状のごみ処理場では、人手や設備の問題で廃棄物の選別を徹底しきれないという課題があります。この課題を解決するために、廃棄物の受け入れから選別までを全自動化で行っているのがフィンランドの廃棄物処理企業「Remeo Group Oy」です。

そこで今回の記事では、Managing DirectorのJohan Mild氏を訪問し、同社がこの大型投資を実施するまでに至った経緯や、フィンランドの廃棄物処理に関して伺ったインタビューをお届けします。

※この記事は旧サイト(「環境と人」)からの移行記事です。

2020年に世界初となる最新施設を導入

ーRemeoが2020年に建設した最新施設では、どのような処理がされていますか?

私たちが「メガ」と呼んでいるその施設は、建物の中に2つの直線ラインがあります。これは他のヨーロッパの地域の処理設備とは少し異なります。ヨーロッパにある一般的な処理施設では、30〜40種類の工程に分かれて、廃棄物の処理が行われています。しかし、私たちの施設では、廃棄物がラインに入ってきて、そのまま一連の流れで、センサーやロボットアームを使いながら選別をしています。

2つあるラインのうち、1つ目のラインは「建設・解体(以下、C&D:Construction and Demolition)」の廃棄物を選別しており、2つ目のラインは「産業・商業(以下、I&C:Industrial and Commercial)の廃棄物を選別しています。

画像出典:Remeo社のプレゼンテーション資料

画像出典:Remeo社のプレゼンテーション資料

施設では年間 25万トンの C&D 廃棄物、12万トンの C&I 廃棄物、また、10万トンの木材廃棄物を処理できる計算になります。

ーRemeoに処理を委託しているのは、どのような企業・団体が多いですか?

取引先は民間から行政まで多岐に渡りますが、RemeoではC&DとI&Cのほとんどを自社で選別処理しています。しかし、ごく一部ですが、行政から委託されている廃棄物、バイオガス、金属類などは、収集運搬業務のみで、廃棄物の選別処理は行っていません。

ーRemeoはどのように収益を得ていますか?

主にゲートフィー(Gate Fee:廃棄物処理施設が廃棄物を受け入れる際に発生する費用)、選別処理後の素材の売却益、さらに、収集運搬の費用が売上の中心です。

ー廃棄物のトレーサビリティについて教えてください。

廃棄物の受け渡しの際に、量や種類、運び先などの情報を記載した書類(日本でいう「マニフェスト」)を使って、トレーサビリティを確保しています。この書類の運用をシステム上(日本でいう「電子マニフェスト」)で行うこともできます。

この書類に関しては、フィンランドの廃棄物に関する法律でかなり厳しく規制されているため、システムで調べれば、どの廃棄物がどれくらい、どこに、いつ運ばれ、処理されたかが明確になります。

約500名の社員でフィンランド全土の約1万箇所から廃棄物を回収

ーRemeoの事業規模はどのくらいですか?

昨年の年間売上は1億1,100万ユーロでした。まだまだ巨大な企業とまでは言えませんが、フィンランド企業の中ではかなり大きい方です。社員数は約500名で、保有しているトラックは約230台あります。

今でこそこのような事業規模になっていますが、10年前のRemeoはただの廃棄物収集運搬請負業者でした。当時は悪臭を漂わせながら、ごみを回収する企業で積極的に働きたいと考えている人は、それほど多くありませんでした。しかし、今では若い世代の方が環境問題に関心があり、それを仕事にしたいと思っています。時代とともに、廃棄物業界も変わっているなと実感しています。

ー廃棄物の処理を委託されている取引先は何社ありますか?

一般家庭からも廃棄物を回収しているので、それを合わせると全部で1万箇所近くから回収していると思います。私の自宅の廃棄物もRemeoが回収に来ているので、私自身も取引先の1人と言えますね。

民間企業で言うと、2,500〜3,000社くらいの取引先があると思います。これには零細企業や個人商店も含まれます。

ー小さな会社や個人でも契約できるのですね。

はい。契約可能です。Remeoのコールセンターには20人以上のスタッフがおり、日々のお問い合わせや回収依頼に対応しています。

リサイクル率90%超え!Remeoのごみ選別・処理技術

Remeo Group Oy Managing Director / Johan Mild氏(右)

ーフィンランドではどのようにごみ分別が行われていますか?

フィンランド政府は各家庭や企業でのごみ分別を推奨していますが、これは時間の無駄です。Remeoはテクノロジーで効率的にごみ選別をすべきだと考えています。例えば、同じプラスチックでも複数の種類に分別することは、簡単なことではありません。しかし、ロボットやAIを活用すれば、全て自動で選別可能です。これを実現することは、Remeoの使命です。

昨年、改正されたフィンランドの廃棄物に関する法律によって、一般家庭からごみを排出する際には、生ごみとプラスチックの分別が必須になりました。これは全世界的に見ても稀な例です。しかし、将来的には、生ごみもプラスチックも何でもごちゃ混ぜにごみを捨てて、Remeoが全ての選別を機械化したいと考えています。

ー機械で選別した方が精度も高いでしょうか?

その通りです。Remeoが選別処理したC&D廃棄物は70%以上をリサイクルできています。選別ラインを通す回数を増やせば90%以上まで上げられることは実証済みですが、コストと天秤にかけた際、この割合が最もバランスが良いことがわかりました。

しかし、現状フィンランドのI&C廃棄物のほとんど全てが焼却処分されています。実際には、焼却する必要のない廃棄物も焼却しているのです。

一方でRemeoでは、少なくとも30%はリサイクルできています。このリサイクル率を高めて、再資源化を推進するのもRemeoの使命だと考えています。

ーフィンランドでも使い捨てプラスチックが問題視されていると思いますが、どのように再資源化されていますか?

ここにも、ごみ分別を各家庭に委ねていることに起因する大きな問題があります。プラスチックにも複数の種類があり、それぞれを適切に選別できれば、再び高品質なプラスチックとして、再資源化を実現できます。

しかし、現状としては、ごみ分別が完璧ではないため、低品質なプラスチック製品しか生み出せていません。ごみ選別を機械化することで、この問題も解決できます。

約60億円の設備投資により2倍近くの生産性向上に成功

ー廃棄物の選別作業を機械化することで、生産性が向上しましたか?

リサイクル率という意味で、機械化により生産性は飛躍的に向上しました。先ほどC&D廃棄物のリサイクル率は約70%とお伝えしましたが、以前は30〜50%程度でした。つまり機械化に成功したことで、2倍以上もリサイクル率を上げることに成功したのです。

これにより、焼却処分に回す総量が減り、コスト削減に成功。さらに、リサイクル率が上がったことで資源売却できる総量が増え、収益アップにも成功しました。つまり、コストを削減しつつ収益を上げられたので、2つの意味で生産性が上がりました。

また、一般的にI&C廃棄物は100%焼却処分されていますが、Remeoでは30%はリサイクルできています。つまり、ここでも30%の収益アップに成功しています。「メガ」には4,000万ユーロ(約60億円)近い投資をして、この設備を揃えましたが、生産性は確実に上がっています。

ー他の国でも同じような選別ラインを導入している事例はありますか?

アメリカやドイツでも大規模な選別ラインを導入している事例がありますが、全自動ではなく、大勢のスタッフがラインに並び、人海戦術で選別を行っています。

しかし、Remeoの選別ラインには、誰もいません。機械化で全自動で選別しています。例えば、選別ラインにプラスチックが流れてきたら、センサーがスキャンして、アームやエアプレッシャーでピックアップします。

通常、廃棄物を扱う業務は、どうしても危険と隣り合わせになりますが、全自動にすることで安全性も向上するのです。

サーキュラーエコノミーの実現に向けて廃棄物業者が担うべき2つの役割

ーサーキュラーエコノミーの実現において、廃棄物処理業者はどのような役割を果たすべきだと思いますか?

サーキュラーエコノミーに関しては、我々が果たすべき役割はとても大きいですが、主に2つの役割があると考えています。

1つ目は「CO2排出量を減らすこと」です。産業廃棄物を処理する際には、リサイクルすること自体が重要視されがちですが、そうではありません。我々が重要視すべきことは、廃棄物の量を減らすことでも、適正にリサイクルすることでもなく、最終的なCO2排出量を減らすことです。そのためには、廃棄物の選別を徹底して、高いレベルで再資源化を繰り返すことが重要です。

2つ目の役割は「プラスチックを高いレベルで再資源化すること」です。サーキュラーエコノミーについて議論する際に、プラスチックは問題視されがちですが、それは使用済みのプラスチックが海や川など、本来あるべき場所ではない、間違った場所に行き着く量が多いからです。本来、プラスチックは高いレベルでリサイクルすれば、20回も繰り返し再資源化できる、とても優秀な素材です。

この2つの役割を我々が果たすことで、サーキュラーエコノミーの実現に大きく貢献できると考えています。

ー近年増えている「環境配慮型プラスチック」についてのご意見を伺えますか?

従来のプラスチックはうまくリサイクルすれば、20回は再資源化できます。しかし、例えばバイオプラスチックは2回が限界です。ただこの点、バイオプラスチックはまだ新しい技術なので、今後さらに進歩していくとは思います。

プラスチックを石油に戻す(ケミカルリサイクル)という議論もありますが、これはエネルギーの無駄遣いです。プラスチックとして使うのであれば20回も再資源化できますが、石油に戻してしまうと、燃料として燃やされて1度でなくなりますよね。プラスチックを石油に戻すためには、多くのエネルギーを使います。CO2排出量の観点から見ても、プラスチックを石油に戻すよりも、プラスチックとしてマテリアルリサイクルする方が良いです。

フィンランドでRemeoの競合になる廃棄物処理企業とは?

ーEUを中心にグローバル展開する大手廃棄物処理企業「ヴェオリア」のフィンランドにおける動きはどうですか?

ヴェオリアの支社は現在フィンランドにはありません。しかし、傘下である「スエズ」の支社が2016年までフィンランドにありましたが、撤退しました。当社もスエズ資本だった時期がありますが、現在は100%フィンランド資本の会社となっています。

ーヴェオリアはなぜフィンランドを離れたのでしょうか?

フィンランドの人口は約550万人で、彼らにとっては市場が小さすぎたのでしょうね。今は北欧ではなく、アフリカやアジアに目を向けている印象です。

ーフィンランドはヨーロッパの中で、サステナビリティのトップリーダーだとお考えでしょうか?

そう思っていますが、リサイクル率を見てみると、オランダやドイツ、イギリスの方が高いのです。とはいえ各国で算出方法が異なるため一概には比較できませんが、Remeoとしてもフィンランド国内のリサイクル率を向上させるためにできることは、まだまだあると思っています。

ーフィンランド国外への進出も計画していますか?

はい、将来的には海外進出も計画しています。しかし、しばらくはまだフィンランドに注力する予定です。

企業が掲げるCO2削減目標の実現をサポート

ーRemeoが抱えているビジネス上の課題について教えてください。

廃棄物の受入に関して課題を抱えています。設備を効率的に稼働させるためにも、廃棄物を受け入れる量を増やさなければいけませんし、受け入れる廃棄物の種類も管理する必要があります。

C&D廃棄物の中には、プラスチックもあれば、100kg以上ある大きな石もあります。これらを受け入れる前に、事前選別することで、機械の精度が高まります。

あとは、この設備の生産性を落とさないために、常にメンテナンスをすることも大変な作業ですね。

ーフィンランドではカーボンフットプリントに配慮している企業も増えていますか?

フィンランドでは、5年ほど前までは一般的ではありませんでしたが、近年は、カーボンフットプリントに配慮した企業が増えています。

カーボンフットプリントに配慮することで、資金調達の面で大きなメリットがあります。サステナブルな産業に積極的に出資したいと考えている投資家も増えています。Remeoは環境改善に貢献する企業ですので、資金調達がしやすいと言えます。

しかし例えば、石油産業に関わる企業などでは、多額の資金調達が容易ではなくなっています。

ーRemeoの今後のビジョンについて教えてください。

先ほど申し上げたように、廃棄物業界でCO2削減を推進していきたいです。これまでは我々も「ごみ箱一杯でいくら」というビジネスをやっていました。しかし、その先には価格競争で疲弊する未来しかありませんでした。

そこから脱却するため、会社全体の方針として「廃棄物を処理する」から「CO2排出量の削減をサポートする」というビジネスに転換しようと行動しています。メガへの投資もその一環です。

さらに、近年注目が集まっている「カーボンハンドプリント」という、企業の製品やサービスをユーザーが利用することで、どれくらいCO2排出量を削減できているか、環境にポジティブな影響を与えているか、という数値の算出にも可能性を感じています。

企業にとってCO2削減は急務です。それをRemeoに依頼すれば、削減の目標値や排出している廃棄物の種類、量をヒアリングして、最適な削減プランを実現可能です。今後は、今以上に多くの企業のサポートを行い、今以上に多くのCO2排出量の削減に貢献できる企業になっていきたいと思います。

ーありがとうございました。

2023.05.26
取材協力:Remeo Group Oy