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飲み終わった牛乳びんを規則正しく箱の中に入れていく。昭和50年頃までの日本では「洗って何度でも使うこと」が当たり前でした。

明治26年から、容器と向き合い続けてきた株式会社トベ商事。容器の変遷と共に歩んできた同社ですが、使い捨て文化の到来を経てもなお、びんを洗って使う「洗びん」を続けています。

ペットボトルの登場による時代の変化、そしてサーキュラーエコノミーの視点を取り入れたリユースのあり方とは何なのか?同社の代表取締役社長 戸部智史さん、代表取締役会長 戸部昇さん、リユース容器推進課 課長 岩田耕治さんにインタビューを行いました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

歴史は明治26年まで遡る

―まずは貴社の事業内容について教えていただけますか?

戸部智史 株式会社トベ商事は、使用済みのびんのリユースや缶・ペットボトルの資源化などを通じて、循環型社会の実現を目指す企業です。

創業は明治26年。国産ビールの誕生と共に高まるびんの需要に目を向け、びんを回収・洗浄して再販する「びん商」から事業がスタートしました。昭和38年頃には、独自開発した「洗びん機」を使うようになります。

転機が訪れ始めたのは昭和50年代。高度経済成長期に入り、使い捨ての時代に突入していきます。びんのリユースだけでなく、ペットボトルや缶も取り扱うようになり、リサイクル事業にも取り組んできました。

創業から約130年、時代に合わせて変わっていく容器と共に、私たちの事業内容も広がっています。

(左)代表取締役会長 戸部昇 / 公益社団法人東京都リサイクル事業協会副会長、東京包装容器リサイクル協同組合代表理事、板橋区資源リサイクル事業協同組合代表理事を兼務。1970年 東洋大学経済学部を卒業後、合資会社戸部商事に入社。2003年 株式会社トベ商事 代表取締役社長に就任。2020年 同 代表取締役会長に就任。(右)リユース容器推進課 課長 岩田耕治

―現在の事業の比率で言うと、びんとペットボトル、それぞれどのくらいの割合で取り扱っていますか?

戸部昇 圧倒的にペットボトルが多いです。売上の構成比でいくと「洗びん」は10%程度。ここまでペットボトルが台頭してくるとは、思ってもみませんでした。1Lのペットボトルが出てきてから3年ほどで、あっという間にびんとペットボトルが入れ替わっていきました。

―昔は生活に根付いていた「洗びん」の利用が減り、なぜペットボトルが主流になったのでしょうか?

戸部昇 飲料容器がペットボトル化したのは1983年ごろからです。ペットボトルは軽量で運搬しやすいこともありますが、当時、1Lびん入り飲料の販売には1本30円程度のデポジット(保証金)がありました。新しいびんの値段は60円ほどするため、飲料メーカーはその半分の価格を預かり保証金として付けることで、びんの返却を促していました。

飲料メーカーがデポジットを上乗せしてお客さんに販売。お客さんが飲み終わったあと、販売店に返却すると30円の保証金が戻るという、合理的な返却システムです。しかしすでに日本でも使い捨て容器が多くなっていました。スーパーマーケットの出現です。

そこで売られている牛乳や醤油、缶入飲料などはすべて使い捨ての容器です。仮にびん入り容器でもワンウェイびん、リターナブルびんであっても返却できないシステムです。この社会的変化により、飲料メーカーにびんが戻る量が年々減少し、新しいびんに飲料を充填するため採算性が低下したことからも、ペット容器に転換した経緯があります。

リターナブルびんの仕組み

―リターナブルびんの回収・再販の具体的な仕組みについて教えてください。

岩田 もっとも一般的な一升瓶は、販売店・流通さんが消費者から回収する場合と、行政が消費者から回収する場合の2つのパターンがあります。いずれも「びん商」に戻ってきたびんは、我々の「洗びん工場」で洗われ、中身を詰める酒類・食品メーカーに再販されます。

傷などが原因でリユースできないびんに関しては、工場で砕かれ「カレット」というびんの原料になり、また新しいびんにリサイクルされていきます。

その一方で、生協等の宅配サービスで使われている調味料やジャムなどの食品に使用されるびんに関しては、各家庭まで届けた物流の担当者が、そのまま家庭(組合員)から回収して頂けます。
我々が洗びんし、ボトラー(調味料等の生産者)の希望の本数を再販、また商品として生まれ変わっていく流れです。他にも、飲食店チェーンが各店舗で発生するオリジナルのお酒の空きびんを流通を介して回収しリユースする例もあります。

ー一般市場から回収してくる一升びんと、生協や飲食店など限られた範囲から回収してくるびんがあるんですね。

岩田 大きく分けるとその2つですね。生協や飲食店など狭い領域でのリユースシステムは、非常に効率がいいんです。回収率は70%前後にのぼります。

リユースシステムの成功の鍵は?

ー回収してきたものを洗びんするか、それとも砕いて原料にするか、その選別の基準は?

戸部昇 びんそのものの耐久性による部分と、「再販先があるか」という経済的な部分と2点ポイントがあります。

1つ目は、たくさんの使用に耐え得る強度があるかどうか。何度も使うためには、ある程度の重さがあり肉厚であることが重要です。わかりやすく「リターナブルマーク」がついているものもありますが、例えついていなくても、強度のある「ビールびん」などは大体洗っています。

もう1つは、再販先があるかどうか。再販先がなければコストがマイナスになってしまうので、洗いません。よく使われる一升びんはある程度買い手が見つかりますが、小さなサイズのびんなどはあまり需要がないのが現実です。

先ほどの生協の例のように、買取先が明確だと非常にありがたい。洗った後、確実に需要があるかどうか。リユースを成立させるためには、とても重要なポイントです。

ー回収しても再販しにくいものは、具体的にどのようなびんですか?

戸部昇 ワインボトルのほとんどは再販できず、カレットになる場合が多いですね。ワイン業界にリユースシステムの提案も行っていますが、ワインボトルは色や形、デザインもさまざまなため、まずはそこを統一しないと実現が難しいんです。

せめて日本のメーカーだけでもびんが統一されれば、リユースできると思うのですが…。ワインの色をきれいに見せるためや、紫外線防止など、消費者のニーズに合わせたこだわりもあるので、そう簡単にはいきませんよね。

ヨーロッパではびんの利用が復活してきている

ー海外のびんのリユース需要はいかがですか?

戸部昇 ヨーロッパではびんが戻ってきている風潮を感じます。SDGsという言葉が出てきたとき、日本では歴史的な経緯から、「埋立場のひっ迫を解消するためにごみを減らす」ことに目が行きがちでしたが、ヨーロッパでは「環境保全」が一番に据えられました。ただごみを減らすだけではなく、環境を守るためにいかにリユース・リサイクルできるか。そのスタートの違いが影響している気もしますね。

ドイツではペットボトルもリユースしているんです。びんと比べると中身のフレーバーを吸着してしまう性質があるため、同一の飲料に限りますが。匂いセンサーを備えて分別して、洗ってリユースしています。
リユースの観点ではびんより劣る部分はありますが、それでも実現できているのは面白いですよね。

ー消費者が新品やきれいなものを求める日本とは、かなり異なりそうですね

戸部昇 ドイツだと牛乳瓶を100回くらいリユースするんですが、傷がついていても消費者もメーカーもあまり気にしないから成り立つんです。ペットボトルは多くて30回。何回リユースしたかレーザーで印をつけていて、30回を超えたら砕いてペットボトルの原料にリサイクルするそうです。

根本的に日本と考え方が違うんですね。

日本でのびんの復活は?

ー海外でのびんの再需要の動きを見て、日本でも復活の兆しはあるのでしょうか?

戸部昇 もう使い捨て社会に慣れてしまったから、逆戻りするのは難しいでしょうね。ただ、どんな容器であってもリユースのシステムを作る必要はあると思っています。

先程の生協の例は、お客さんがちゃんとびんを返してくれて、かつ新しいびんを調達するよりも「リターナブルびん」を使った方が安く済むからこそ成り立っています。このように、行政に頼らなくても実現できる事例を、コツコツ作り上げていくしかないんじゃないかな、と思います。時間はかかりますが。

容器リユースのこれから

ー今後、トベ商事はどんなことに挑戦していきたいですか?

戸部智史 現在のSDGsの風潮を受けて、企業から求められるリユースやリサイクル需要も多様化してきています。例えば、小ロットでの洗びんは一度に多くのびんを洗うよりも割高ですが、一本の単価が上がってしまったとしても「リターナブルびん」を使いたいと言ってくれる企業もいるんです。

そうした多様なニーズに一つひとつ応えていきたいですし、一過性で終わらない持続可能なリユース・リサイクルシステムを企業と共につくり上げていきたいです。

―最後に読者の方々に一言、メッセージをお願いします。

戸部智史 「リターナブルびん」をそもそも知らない方も多くいらっしゃると思います。私たちに身近な生協や酒屋の裏側では、実はこんな仕組みが回っていたんだと知ってもらうだけで価値があると思っています。この取材が何か次のきっかけにつながると嬉しいです。

―ありがとうございました。

取材日:2022.09.26
株式会社トベ商事
https://www.tobeshoji.co.jp/