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サステナブルな社会を実現するには、使う素材から製造方法まで多くの技術革新が不可欠です。最近のファッション業界では、廃棄されるリンゴを使った合成皮革「アップルレザー」が注目されています。見た目や機能性は動物の革製品とほとんど同じですが、植物由来の合成皮革を使えば家畜が減り、二酸化炭素の排出を抑えられるとして、環境問題の解決策のひとつとして選ぶ人も少なくないようです。

エシカル商品フェアなどでイタリア産など海外発の商品が多く流通してきました。近年は国内でも商品開発の動きが広がっています。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

アップルレザーとは

動物の皮を使わず、リサイクル繊維や植物由来成分を用いて製造した革素材を「ヴィーガンレザー」と呼んでいます。アップルレザーは、ヴィーガンレザーのひとつ。

近年、世界的に環境保護や動物愛護に対する関心が高まっており、動物由来・石油由来の皮革製品に代わる素材として注目度が上昇しています。ヴィーガンレザーの市場規模は、今後大きく成長するとも期待されています。

アップルレザーは、本来であれば捨てられてしまうはずだったリンゴの芯や搾りかすを乾燥、粉砕し、レザーの風合いを損なわないように適切な分量の樹脂と配合されることによって誕生しました。食品廃棄物の削減などにつながるほか、従来のヴィーガンレザーよりも石油由来の原料の使用を抑えているため、より環境に配慮されているといわれています。

手触りは本物の革そっくり。軽量で伸縮性があって扱いやすく、水や汚れに強いという合皮の特徴を有しています。安価とはいえませんが、使っているうちに、素材に味が出てくるところも魅力です。

イタリア産など輸入品から

これまでエシカル商品フェアなどでよく見かけたのは、海外産の輸入アップルレザーでした。たとえば、服飾雑貨販売の「LOVST TOKYO(ラヴィスト・トーキョー)」(東京・目黒区、唐沢海斗代表)が扱っているのは、イタリア・フィレンツェ近郊にあるMabel社のアイテムです。

ヨーロッパでも有数のリンゴ産地イタリア北部の果樹園では、年間220万トン以上のリンゴが収穫されても、そのうちの5万トン以上が廃棄され、異臭の原因になっていたそうです。この廃棄されていたリンゴを使ってアップサイクルするアイデアが生まれました。

Mabel社のアップルレザーは、ヴィーガンレザーの中でも高品質の樹脂を用いることで耐久性にも優れていて、履物や車用シートにも採用されているといいます。

生地の生産の際に用いる水の95%が再利用され、環境負荷の少ない循環型の生産体制を推進しています。

なお、販売している「ラヴィスト・トーキョー」は、まだ使える資源を無駄にしない「循環するものづくり」を事業の軸にしており、リンゴのほかにも、野菜やフルーツをアップサイクルした植物由来のプロダクトを展開しています。ちなみに、ブランド名には、「愛(Love)」を持って「ヴィーガン/多様(Vegan/Variety)」な考え方を「1番(1st)」に尊重する文化を東京から発信するとの思いが込められているそうです。

国内でも進む商品化

こうした中、近年は国内でも商品化する動きが活発化しています。

イタリア産の植物由来レザーアイテムを展開していた「ラヴィスト・トーキョー」ですが、唐沢代表は、素材の調達における二酸化炭素排出量を考えて、地産のローカル資源活用の可能性を模索してきました。

そして、青森県のJAアオレン(青森県農村工業農業組合連合会)と合成皮革を製造する共和ライフテクノ(徳島・鳴門市)の協力を得て、国産アップルレザー「aplena」の開発に着手、2023年4月に商品をリリースしました。

JAアオレンでは、年間に約20,000トンの原料リンゴを集荷・加工、そのうち約6,000トンが搾りかすなど残渣として排出されていました。これを合成レザーの一部の原料として活用することで、石油由来の原料の使用を抑え、動物にも地球環境にも配慮したレザーが誕生しました。

表面の樹脂層にはポリカーボネート系樹脂を採用しており、劣化の度合いを測る試験で10年以上の高耐久との結果が出ています。

長野県飯綱発「国産りんごレザー」

2023年5月、長野市のスタートアップ企業「SORENA(それな)」が、「国産りんごレザー」と名付けたバッグと財布のインターネットでの受注販売をスタートさせました。「国産りんごレザー」の素材は、リンゴの生産が盛んな長野県飯綱町で、ジュースやシードルを作る際に出る搾りかす。今までほとんど廃棄されていたものです。

創業した伊藤優里代表は信州大学を卒業後、フルーツ加工会社に就職。ところが、働いていて違和感を持ったことが2つあったそうです。1つは輸入に頼り過ぎていること、もう1つはフードロスの問題でした。

2児の母となって次世代に安心な未来をバトンタッチしたいとの思いが強くなり、起業を決意しました。2019年、台風の影響で長野のりんご農園が大きな被害を被ったことも、起業の決意を強く促しました。

2021年、SORENAを設立。試行錯誤して「りんごレザー」で信州ベンチャーコンテスト奨励賞などを獲得。長野県飯網町の「地域の財産を無駄なく輝かせつづける」という精神に惹かれて同町と話し合いを重ね、ついに「りんごレザープロジェクト」をスタートさせました。2022年6月には、飯綱町、合成樹脂製品製造の共和レザー(静岡)と3社共同開発契約の締結へと進展しました。共和レザーは国内シェアトップクラスの自動車内装材メーカーです。

現在は、飯綱町が町内の醸造施設などからリンゴの搾りかすを仕入れ、町の施設で乾燥、粉砕作業を行います。バッグなどに仕立てているのは長野市の革製品メーカー。一つずつ手縫いです。(下記に掲載した「トートバッグができるまでのイメージ」を参照)

「地域循環型社会が叫ばれている折、リンゴの町の象徴的な取り組みになるのでは」と、町の担当者も期待しています。ふるさと納税の返礼品としても扱うようになりました。

一般的な合成皮革より丈夫で、重さはわずか250グラムほど。とはいえ、財布は約3万円、バッグは約6万円で、決して安価ではないのですが、売れ行きは上々のようです。

実は、伊藤代表は事前リサーチも怠っていませんでした。自社サイトでの販売に先がけて、2022年12月、クラウドファンディングサイトの「Makuake」で財布を約1か月間紹介したところ、目標額10万円をはるかに超えて約250万円を達成。応援購入のサポーターが101人集まり、手応えを感じていました。

「長野県には素敵な場所と人、そして資源があります。自分ができるところから始めれば、同じ思いを持った世界中の人たちとつながるきっかけになるはず……」と、伊藤代表。

販売サイトでは、名刺入れやキーケースなど、少しずつアイテムが増えています。

青森の「リンゴテックス」

リンゴ産地の青森県でも、同様の動きがあります。

「アップサイクルでサステナブルな未来を創造する」というビジョンを掲げるスタートアップ企業「アップサイクル」(青森県青森市)は、県産のリンゴの残渣を再利用して合成皮革にする技術に「RINGO-TEX(リンゴテックス)」と命名しました。

代表の藤巻圭氏は、東京で美容師として活躍した後医療関係の仕事に従事、青森の魅力を発信していきたいと、故郷に戻って起業しました。

2022年10月には、同社製のヘッドレスカバーが、サステナビリティをテーマにした全日本空輸の特別塗装機「Green Jet」に採用され、話題になりました。

さらに、青森県出身の人気タレント、王林さんがプロデュースするアパレルブランド「What Is Heart (WIH=わいは)」で、アップルレザーがバッグとキャップに採用され、2023年4月から「ライトオン オンラインショップ」で販売されています。今後、オリジナルの一般向け商品のラインナップも増えそうです。

藤巻代表は、地域と経済に循環を生み出すことで青森の発展のため邁進し、「青森のリンゴ農家を救える企業を目指す」と意気込みます。

リンゴ以外の素材も

海外では、アップルレザーのほかにも、キノコやサボテンなどを使った合成皮革商品が生産され、エルメスやアディダスなどの大手ブランドでも使われ始めています。

アディダスは2021年4月、キノコの菌糸体を使ったレザー代替素材「Mylo」の試作シューズを公開しています。

キノコの根には、菌糸体と呼ばれる綿のような繊維が生えています。この繊維を使ったレザー代替素材「Mylo(マイロ)」を開発したのが、アメリカのスタートアップ企業「ボルト・スレッズ」。アディダスのほか、英ファッションブランドのステラ・マッカートニーやカナダのスポーツ衣料がMyloを使った製品の開発や販売を進めています。

日本でも土屋鞄製造所(東京・足立)が2022年12月、Myloを使った小型の財布を販売、ランドセルやバッグも開発しています。

植物由来の原料から作り出すヴィーガンレザーには、ほかに、パイナップル由来やバナナ由来、サボテン由来など様々あります。パイナップル由来は、収穫時に出るパイナップルの葉を有効活用。バナナ由来は、バナナの茎の繊維が利用されます。耐久性も撥水性も期待できます。

サボテン由来は、サボテンの葉を粉末にして作られます。サボテンは少ない水で栽培することができ、二酸化炭素も吸収してくれる環境にやさしい植物です。

消費者や投資家の意識の高まりを受けて、環境を配慮した商品づくりに動き出す企業は今後も増えていくに違いありません。ヴィーガンレザーもファッションアイテムだけでなく、日用品などにも広がっていくのではないでしょうか。

参考文献
LoVst-Tokyo
ついに国産!廃棄りんご由来のアップルレザー「aplena(アプレナ)」が、植物由来のレザーアイテムを展開する『LOVST TOKYO(ラヴィストトーキョー)』からデビュー
Rerigo
共和レザー株式会社
長野県飯綱発・日本で初めてのりんごレザーを使った財布を12月22日(木)期間限定販売開始!
appcycle
青森りんご配合ヴィーガンレザー『RINGO-TEX』が、ANAの特別塗装機「ANA Green Jet」にて採用決定
人気タレント王林、青森)県知事の夢へ向かい 青森の魅力を発信するアパレルブランドをローンチ!
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