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サーキュラーエコノミーの取り組みでは、環境改善とともに経済成長も求められています。では、全国の事業者の約10%が集まる東京都は、どのようにサーキュラーエコノミーに取り組もうとしているのでしょうか。今回、その推進主体の一つである東京サーキュラーエコノミー推進センターを訪問し、お話をうかがいました。

推進主体「東京サーキュラーエコノミー推進センター」

東京サーキュラーエコノミー推進センターは、令和4(2022)年4月、公益財団法人東京都環境公社内(以下、公社)に新設されました。都民や事業者等への情報発信や具体的な取り組みを支援することで、サーキュラーエコノミーの実現を目指しています。

具体的な事業として、資源の循環利用に関する相談をワンストップで受け付ける「相談・マッチング事業」、サーキュラーエコノミー実現に向けた事業者向けの補助事業、Webサイト「TOKYOサーキュラーエコノミーアクション」やシンポジウムなどの情報発信事業を実施しています。

事業内容について、センター長の小川潤氏、行動変容支援チーム若木広宣氏にご説明いただきました。

左から小川氏、若木氏

――相談・マッチング事業では、具体的にどのような支援を行っているのでしょうか。

サーキュラーエコノミーに取り組みたい都内の事業者や自治体を対象に、実践に向けたアドバイスや補助制度の紹介、他事業者とのマッチングなどを実施しています。

サーキュラーエコノミーに取り組まれる事業者には、スタートアップ企業も多く、単独で事業を開始するのはハードルが高いため、ともに実施できるパートナー企業を探している、紹介してほしいなどの要望も多いですね。

例えば、新しくオープンするカフェのオーナーさまからのご相談で、使い捨てではなく繰り返し使えるリユースカップを導入したいがどうしたらいいか、などがあります。こうしたケースでは、具体的にリユースカップのサービスを提供している事業者を紹介しています。

――年間どれくらいの相談数がありますか。

令和5(2023)年度は、52件のご相談がありました。ご相談の内容に応じて業界団体や連携できそうな事業者を紹介し、具体的な取り組みにつながった事例などもありました。

また、ご相談の中で当センターが実施する補助事業「サーキュラー・エコノミーの実現に向けた社会実装化事業」を紹介し、ご応募いただいたケースもあります。

やる気のある事業者を支援することで、新しい社会事業が生まれるなど、可能性を感じています。

【事業者向け】4つの補助事業の内容

――事業者向けの補助事業の内容について教えてください。

令和6(2024)年度の事業者対象の補助事業は、次の4つです。5月から募集を開始しています。

①資源循環・廃棄物処理のDX推進事業

産業廃棄物処理業者を対象に、DXを活用したサーキュラーエコノミーに資する新たな事業構築を補助。AI配車による収集ルート効率化などを想定。

②サーキュラー・エコノミーへの移行推進

プラスチック資源循環に向けた2Rビジネスや水平リサイクルの社会実装・事業拡大に取り組む事業者を支援。リユースカップの製造や洗浄のための経費、消費者へのポイント付与など普及啓発の費用などを補助。

③小売ロス削減総合対策

スーパーマーケットなどの中小規模の小売事業の食品ロスへの対策を支援。食品ロス発生抑制のための需要予測システム、量り売り用機器、食品廃棄物のコンポスト設備の導入費用などを補助。

④サーキュラー・エコノミーの実現に向けた社会実装化事業

地域密着型のサーキュラーエコノミーの実現に係る取り組みと、その社会実装化を支援。原則として複数の事業者・団体等が連携した取り組みであることが補助の条件。

※令和6(2024)年度の補助事業の募集の詳細については、下記をご覧ください。

https://www.circulareconomy.metro.tokyo.lg.jp/subsidized-business

――④の「サーキュラー・エコノミーの実現に向けた社会実装化事業」(以下、社会実装化事業)は、事業者の連携が前提となっているのですね。どのような背景があるのでしょうか。

こちらの補助事業は、以前(令和4/2022年度)は「サーキュラーエコノミーの実現に向けたモデル事業」という名称でした。昨年度から新たに現在の「社会実装化事業」となりましたが、その目的は変わらず、モデル的な事業や実証事業を支援することにあります。

社会への波及効果という観点から、単独ではなく複数の事業者や団体が一緒に取り組むことが重要であると考え、連携を原則としています。また、「地域密着」を掲げていますので、事業者に加えて自治体との連携も重視しています。

事業者、自治体、都民が連携・参加できる仕組みの構築を支援することで、サーキュラーエコノミーへの着実な実践を後押ししたいと考えています。

――実際に実証事業を支援して、手応えを感じている点はありますか?

この2年間で、さまざまなタイプのモデル事業を支援してきました。みなさん独自の視点でプラスチックや食品ロス削減を捉えていて、新しい可能性が詰まっていると感じています。

補助事業について説明する小川氏

また、実績報告書も公開しているため、それをご覧いただいた他の事業者から相談・マッチング事業の窓口にご連絡いただくことも増えました。採択事業者が開発したリユースカップを使ってみたい、自社も連携先として一緒に事業をできないかなど、新しいつながりが生まれています。こうした広がりも、非常に意義があると考えています。

――相談事業や補助事業の他、情報発信やネットワーク作りにも積極的に取り組まれていますね。

事業者向けには、「サーキュラーエコノミーサロン」というイベントを年間5回ほど開催しています。回ごとにテーマを設け、関連する事業者や自治体の方々30〜80人程度が集まって、活発に意見交換や交流をしています。

補助事業(社会実装化事業)で実証実験を行った事業者をお招きし、取り組みを紹介することもあります。サロンでの出会いが新たな事業に発展する可能性も考えられますので、こうした交流・意見交換の場も大切にしています。

一方で、サーキュラーエコノミーを推進していくためには、需要側、サービスを利用する一般市民の意識や行動変容を促すことも重要です。そのためのアプローチの一つとして、大学生と連携した動画配信を行っています。

環境への関心が高いZ世代に興味を持っていただくことで、リユース商品やサービスを積極的に選択してもらえるよう、発信を続けていく予定です。

取材協力:
公益財団法人 東京都環境公社 環境共生部
東京サーキュラーエコノミー推進センター
https://www.tokyokankyo.jp/circular-economy/

採択事業者へのインタビュー【株式会社RINNE

令和5(2023)年度、「社会実装化事業」に採択され、実際にモデル事業を実施している事業者を取材しました。

株式会社RINNE RINNE PROJECT代表 小島幸代氏(左)とアシスタントプロデューサー山浦あかり氏(右)

東京都「サーキュラー・エコノミーの実現に向けた社会実装化事業」の令和5年度採択事業者の中から、株式会社RINNE(以下 RINNE社)をご紹介します。今回採択されたRINNE社の事業は、身近なプラスチックの家庭ごみ(ペットボトルや弁当容器、梱包材など)のアップサイクル商品開発及び体験ワークショップの開発です。

台東区小島に拠点のあるRINNE社は、2019年から廃棄物や不要になった素材をクリエイティブに利用する活動を行ってきました。同社が運営する「Rinne.bar(リンネバー)」では17種類以上あるメニューの中から好きなキットを選んで、ドリンクを飲みながら気軽にアップサイクル製品を作り、ものづくりを楽しむことができます。

RINNE社には全国から不要になった布や手芸用品などの素材が寄付として送られてきます。寄付の理由は様々ですが、例えば高齢になり、もう手芸ができなくなった家族が所有する素材を誰かに役立ててもらいたいというものなどがあります。そういった素材をRINNE社のスタッフが仕分けをして、アップサイクルしやすいようにキット化しています。このように、同社では創業当初からクリエイターと素材をつなぐ循環事業を行ってきました。

アンケートに書かれた寄付者の素材にまつわるストーリー

RINNE社ではこの採択をきっかけに、これまでの素材にプラスチックを加えました。家庭のプラごみを再利用したアップサイクル体験を通じて、使い捨てプラスチック等に対する理解を深めることで、参加者のプラスチックごみの削減意識を醸成するプロジェクトに取り組んでいます。

プラスチックアップサイクル製品の試作例

RINNE社の今回のプロジェクトは、商品開発にとどまらず、地域のイベントや学校での啓発活動も行っています。都内の教育機関でのワークショップ実施や地域イベントでの出店など、さまざまな形で地域社会との関わりを深めています。

台東区主催のまちづくり講座の一環として行われた「まちカレ祭り」でワークショップを実施
新渡戸文化小学校(中野区)でのワークショップの様子

東京都の補助事業を終えた今後の課題は、「ワークショップのブラッシュアップと販路拡大です。教育機関や自治体の環境部門に働きかけるなど、環境教育の体験コンテンツとして地域を中心にモノ作り体験の機会を広げていきたいです」と小島氏は語ります。

RINNE社の取り組みは、地域そしてクリエイターを巻き込んだサーキュラーエコノミーに向けた一歩として多方面から注目されています。

Rinne.bar リンネバー(RINNE社運営店舗)
〒111-0056 東京都台東区小島2丁目21−2
つくばエクスプレス・都営大江戸線「新御徒町駅」A4出口裏通り、徒歩1分
営業時間 水曜日、木曜日、金曜日、土曜日、日曜日 13:00-22:00 ( L.O. 21:00)
https://www.rinne.earth/