2022年4月1日、プラスチック資源循環法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律=プラスチック新法)が施行されました。
先に細田衛司・中部大学教授へのインタビュー記事「サーキュラーエコノミー、成功の条件とは?」を掲載しましたが、その中で日本におけるサーキュラーエコノミーの先進事例のひとつ、姫路市のケースをご紹介しました。姫路市が、伊藤園、遼東石塚グリーンペット、キンキサインと連携して、「域内ペットボトル資源循環型リサイクル(水平リサイクル)」に取り組もうという試みでした。プラスチック新法施行に先んじて行動を起こした動きとみることができます。
細田教授が挙げられた事例については、先の記事ではご紹介できなかったけれども、とても参考になりそうなケースがいくつかあるので、今回まとめて取り上げてみたいと思います。
※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。
4月施行のプラスチック新法について
これからご紹介する事例には、プラスチック新法の施行との関わりが深いケースがあります。プラスチック新法について簡単におさらいしておきましょう。
プラスチック新法では、生産から廃棄まで、プラスチック製品のライフサイクル全過程を通して、プラスチックを資源として循環させることを目指しています。
新法には主に3つのアプローチがあり、
①プラスチック製品をできるだけ丈夫で長持ちさせる、あるいはリサイクルしやすい設計にする
②フォーク、歯ブラシなど12種類が特定プラスチック使用製品に指定され、削減が求められる
③使用済みプラスチックの回収やリサイクルを促進する
といった方法で、プラスチック危機に対応しようとしています。
神戸市をフィールドに16社が協働、「神戸プラスチックネクスト」プロジェクト
家庭から出るプラスチックごみは全国的に急増しており、コロナ禍の2020年は、直近10年で最多になりました。
プラスチックの回収・リサイクルは、一社だけでは回りません。サーキュラーエコノミーで重要とされるのは、いかにパートナーシップを組むかです。先の姫路市の事例と同じように、連携協力の取り組みとして注目されているのが、「神戸プラスチックネクスト~みんなでつなげよう。つめかえパックリサイクル~」というプロジェクトです。
これは、神戸市、日用品メーカー、小売、リサイクラー(再資源化事業者)16社が協働して、つめかえパックの「水平リサイクル」を目指すもので、プラスチック新法施行の半年前の2021年10月、全国に先駆けてスタートしました。
回収する対象は、洗剤・シャンプー・台所や住まいのお手入れ製品など日用品のつめかえパック。メーカーは問いません。
日用品の製品全体に占めるつめかえパックの比率は約8割と高く、プラスチック使用量削減に大きく貢献してきました。その一方で、つめかえパックはさまざまな特性を持つ多層構造のフィルムからできているので、これまで身近なプラスチック製品にリサイクルされることが少なく、中でも使用済み製品を再び同じ製品にリサイクルする「水平リサイクル」は難しいとされてきました。
こうした状況のもと、神戸市をフィールドに同じ志をもつ企業が競合の壁を超えて協働するプロジェクトが立ち上がりました。水平リサイクルに挑戦するだけでなく、それをさらに神戸発で全国に広がる活動へと推進しようと意欲的です。
プロジェクトは、回収とリサイクルの2段階から成り立っています。「つめかえパックの回収」では、持続可能な回収スキームを構築すること、次いで「つめかえパックのリサイクル」では、新しい循環経済のビジネスモデルを構築することを目指します。
手順は以下のように進められます。
まず、「つめかえパックの回収」では、
①小売4社が市内75店舗で回収する。初年度の目標は5トン、将来目標は10トン。
②店舗への配送戻り便などを活用して集め、収集を効率化。環境負荷を低減する。
続く「つめかえパックのリサイクル」では、
③日用品メーカー10社がリサイクル試験を通じて課題や技術を共有し、水平リサイクルを目指す。よりリサイクルしやすい、つめかえパックの素材や形状などについて議論を続ける。
④水平リサイクルしたつめかえパックを製品化し、市内店舗で実証販売する。
⑤さらにアイデアを出し合い、市民に還元するリサイクル製品を検討していく。
消費者は、使い終わったつめかえパックを洗って乾かし、ウエルシア薬局、コープこうべなど、市内75店舗に設置された回収ボックスに持参します。回収に協力すれば、つめかえパック1枚につき神戸市の公式アプリ「イイことぐるぐる」ポイントが50ポイント(5円相当)付与されるという仕組みです。
回収後は、大栄環境グループの六甲リサイクルセンターで集約して選別、リサイクルを実施した後、和歌山市内にある花王和歌山工場のパイロットプラントで再製品化の実証を行う計画です。もちろん、参加企業間でノウハウを共有していきます。
今回のプロジェクトを監修した神戸大学の石川雅紀名誉教授は、「つめかえプラスチック容器の水平リサイクルは、サステナブル社会に向けた投資を誘発し、生産者責任の自主的な拡大を通じて日本が循環型社会に変わっていく一つの先導的事例になるだろう」と、期待を寄せています。
日本は世界でもっともつめかえ容器が市場に普及していることから、プロジェクトでの成果はグローバル展開するメーカーにとってもインパクトは大きく、プロジェクトの行方が注目されています。
なお、プロジェクトの参加企業は以下の通りです。
ウエルシア薬局、生活協同組合コープこうべ、光洋、ダイエー、アース製薬、花王、牛乳石鹸共進社、コーセー、小林製薬、サラヤ、P&Gジャパン、ミルボン、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング、ライオン、アミタ、大栄環境。
プラスチック新法施行を見越して、再生プラスチック板「リプラfボード」を生産
三重県鈴鹿市の南出株式会社は、リサイクル材の再生プラスチック板「リプラfボード」を誕生させています。これは、木材に変わる安価で軽く、丈夫なプラボードです。
木材と同じく、裁断、くぎ打ち、ビス止め、塗装、溶着ができます。電化製品や車部材の良質なプラ廃棄物を利用しているので、屋外使用でも劣化しにくく、耐久性に富む点が特徴。場所に合わせて幅や長さなどサイズを自由に調整、連結も容易です。組み立てや分解も簡単です。エコなプランター、システムコンテナとして早くも大活躍しています。
ごみからメタノールの製造に成功~三菱ガス化学の取り組み
三菱ガス化学とJFEエンジニアリングは、2022年3月、二酸化炭素(CO2)を原料としてメタノールを合成するCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization:二酸化炭素回収利用)プロセスの実証実験を共同で行い、清掃工場の排ガスから回収したCO2をメタノールに転換することに国内で初めて成功したと発表しました。
清掃工場は、東京・調布市にある「クリーンプラザふじみ」。JFEエンジニアリングが建設し、運営業務を担っています。CO2の回収率は90%以上、回収したCO2の純度は99.5%以上。三菱ガス化学新潟研究所で、この回収したCO2を用いてメタノール転換試験を実施し、成功しました。
メタノールは、さまざまな化学製品の基となっています。最終的に自動車や家電の部品、建材などに使う樹脂の原料や塗料原料になりますが、近年、特にバイオマス由来のCO2と、再生可能エネルギーから生産した水素を用いた脱炭素効果の高いグリーンメタノールが、クリーンエネルギーの有力な素材として注目されています。
三菱ガス化学は国内でのメタノール販売の最大手。中東やトリニダード・トバゴに生産拠点があります。日本は年間需要量の約170万トンをすべて輸入しており、多くは天然ガスが原料です。
同社は、2030年までにメタノール年産10万トン規模を目標に掲げています。新しい製法でのメタノール価格は従来と比べ数倍高くなりますが、「コスト低減の技術が確立してからでは出遅れる。先手を打って稼働させる」というのが、同社の方針のようです.
船の大きさや輸送距離にもよりますが、現在の量を輸入するには年10万~15万トン程度のCO2が発生しているとみられています。国内生産が実現すれば、タンカーで運ぶ際に発生するCO2も減らせるというわけです。素材面での環境配慮を求める企業が増えていることに対応する構えです。
また、廃プラスチックを加熱して発生するガスを原料にメタノールを製造する技術の研究も進んでいます。廃プラからメタノールをつくり、プラスチック原料に再利用。来年2023年にもライセンス販売をスタートさせるといいます。
同社は、2050年に国内のメタノールすべてを「環境循環型」に置き換え、CO2を年間250万トン削減する構想を掲げており、サーキュラーエコノミーの実現に向けた取り組みを強化しています。
細田教授は、「いまは採算が取れなくても、将来に向けて先行投資するパイオニアスピリットが素晴らしい。企業は自らの創意工夫でマーケットを開拓していくひとつの手本です」と、評価していました。
三菱ケミカルなど3社によるサプライチェーン構築に向けた実証実験
「サーキュラーエコノミーを進める際に大切なのは、サプライチェーン(あるいはプラダクトチェーン)上のトレーサビリティ(履歴の可視化)をチェックして、しっかり品質を担保すること。欧州では、サプライチェーンの過程での異物混入に対して非常に厳しい目を光らせています」と、細田教授は指摘していました。
トレーサビリティの信頼性を高めるサプライチェーン構築に向けた実証実験として、同教授が紹介してくれたのが、三菱ケミカル・大日本印刷・リファインバースグループの3社による取り組みです。
三菱ケミカルは素材メーカー、大日本印刷は原料を調達してパッケージを製造、リファインバースグループは再生樹脂事業を手掛けるなど、それぞれ役割が異なります。3社がサプライチェーンでつながって、石油由来プラスチックの代替となるバイオマスやリサイクルなどの持続可能な資源を活用するためには、原材料の使用量などの管理・追跡は欠かせません。
そこで3社は連携して、オランダのサーキュライズ社の情報管理システムを導入しました。サーキュライズ社は、パブリックブロックチェーンを利用し、原料から最終製品まで追跡するサプライチェーン・トレーサビリティシステムを開発しています。機密性の高い独自の暗号化技術によって、サプライチェーン内の各企業の機密情報や公開情報を管理・共有することができるといいます。
素材メーカーはいま、「単品の提供」から「ソリューション型」のビジネスへと転換を進めています。新たな社会の仕組みづくりでも果たすべき役割は大きいといえそうです。
まとめ
プラスチック新法の施行に伴い、自治体や企業の取り組みがいろいろみえてきました。現在は採算が採れなくても、将来に向けて先行投資するという企業もあるようです。一社では困難だけれど、競合の壁を超えて何社かが連携すれば、対応できるというケースもありました。今後、自治体でも企業でも、サーキュラーエコノミーに対して前向きなところとそうでないところの差が益々開いていくような気がします。
消費者の側も、しっかり取り組んでいる自治体や企業を積極的に後押ししていくようになれば、社会の好循環が生まれるに違いありません。