3Dプリンティング技術や次世代リサイクル技術を用いて、革新的なソリューションを提供するベンチャー企業のコンソーシアム「The One Project」が湾岸諸国に進出しています。
昨年の取材の続編として、湾岸諸国での活動と各国のリサイクル事情について、The One Project 共同創業者のPhillipe-Daniel氏にインタビューしました。
ベンチャー企業がコンソーシアムを組み、次世代リサイクル技術でソリューションを提供
—改めて貴社の事業について概要を教えてください。
The One Projectはベンチャー企業が連携し、移動可能なリサイクルステーション「マイクロライン」を開発したり、産業用の大規模な3Dプリンターを開発するなど、次世代のリサイクル技術を用いたソリューションを提供しています。
例えば、ナイキやユニリーバなどの一般企業をはじめ、カタール政府などの政府機関と協力し、廃棄物を調査し、廃棄物をリサイクル素材に変換し、サプライチェーンにどう戻すか、ということを調査しています。現在、ベルギーのアウドスベルゲン(Oudsbergen)に拠点を置き、年内にアムステルダムに新たにできるインキュベーション施設「Van Gendt Hallen」への移転を予定しています。その建物全体の廃棄物の循環システムも、私たちが担当する予定です。
輸送性が高い3Dプリンターに着目。3Dプリンティング市場は順調に成長
—なぜ3Dプリンターに着目したのか、教えていただけますか?
私たちが3Dプリンターに目をつけたポイントは「輸送性」です。遠く離れた場所に容易に設置できるので、砂漠やロシアの寒い場所でもプリンターを稼働できます。船にも乗せられます。加えて、3Dプリンティング市場は現在成長している市場でもあります。
—椅子などの家具も3Dプリンターで製造しているんですね。
「ネバーエンディングファニチャー」と名付けた製品の開発にも注力しています。施設管理会社や家具レンタル会社と協力、レンタル可能な家具などを提供し、いつでも回収してリサイクルすることができるようにしています。主にB2Bで、大きなオフィスビルなどに提供しています。
現在、オランダ最大のオフィス家具レンタル会社とアウトレット契約を開始しています。家具の素材自体は私たちの所有物とし、レンタル後は返却してもらい、リメイクして再販することも可能です。
3Dプリント技術を用いれば、持続可能な方法で、コスト効率の高い技術で製造できますし、大量生産する必要もありません。加えて、希望通りの製品を作ることができます。
若手デザイナーとのコラボレーションが生み出す無限の可能性
私たちの3Dプリンターには、ロボット技術や統計プログラミングが用いられています。3D印刷物の小型化も挑戦しているところですが、ボートからエアリフト用や風車の羽まで製造できます。また、ベルトコンベアを導入も検討しており、3Dプリンターで連続印刷することが可能になります。
—競合他社と異なる点はありますか?
現在市場には競合他社が多くいますが、私たちのユニークな点は、3Dプリンターに興味を持つデザイナーに実際に製品を触ってもらう機会を作っている点です。ベンチャースタジオと似ていますが、一般的に多くのデザイナーは3Dプリンターを用いたデザイン法を知らないため、私たちのスタジオに1〜3週間滞在し、無料で製品を用いてプロトタイプを開発するサポートをしています。
イタリア・ミラノ出身のデザイナーの事例では、非常にクリエイティブな低予算のテーブルを作りました。
このように、若いデザイナーが市場で活躍する人数を増やせますし、さまざまなベンチャー企業で活躍してくれます。カタールでは約15名のデザイナーが、オランダのプロジェクトでは10名のデザイナーが活躍しています。UAEのアブダビ首長国では5名のデザイナーが活躍し、車も作ったりしています。
—コラボレーションをしている別のグループが3Dプリンター用のソフトウェアを開発したのですね。
ドイツ出身のグループであるDittoが3Dプリンター用のソフトウェアプラットフォームを開発しました。オンラインでも利用できます。ソフトウェアはシンプルなデザインソフトウェアで、自分で印刷物をデザインでき、見積もりもすぐに確認でき、それをプリンターに送信して独自のカスタムされたニュアンスで印刷物を作れます。
無制限利用のオプションを選択した場合、3D印刷物をコントロールするために AI を使用し、機器に合わせて完全にカスタマイズできます。そのため、顧客ニーズに合わせた特注製品を作ることが可能になり、これは家具製造業者がB2BだけでなくB2Cとして市場に参入する機会にもなり得ます。
事例としては、ナイキの家具プロジェクトなどで、Dittoとプロジェクトを続けています。他には、UAEのアブダビやロシア、ベルギーのブリュッセルなどのプロジェクトも一緒に行っています。
顧客の課題を包括的に解決するソリューションを提供し収益化
—どのように収益を得ているか教えていただけますか?
収益モデルは、製造業ではありません。コンサルティングを行い、ソリューションを提供することで収益を得ています。
私たちのグリーンテクノロジー単体で収益を得ようとするのではなく、ますはプロジェクトとして立ち上げるのです。動物園や大学、政府など、さまざまなプロジェクトを行っていますが、どの事例も事前コンサルティングから始め、顧客が目指すことをどのように実現できるかていねいに擦り合わせを行っています。現在取り組んでいるカタール・ドーハのプロジェクトもそのうちの一つです。
カタール・ドーハで挑戦する、地域のリサイクル素材を活用した「模型都市」
今、カタール政府と都市全体の模型を3Dプリンターで作るというプロジェクトを進めています。
彼らからは、私たちの3Dプリンターを購入するだけではなく「インフラも合わせたプロジェクトとして対応したい」という要望がありました。したがって、カタール政府が 3Dプリンターを購入することに加えて、3Dプリンターで用いる素材を作る製造ラインも購入し、リサイクル技術も合わせて購入してもらうプロジェクトとなりました。
カタール政府が私たちを選んだ理由は、リサイクル材を使用しているからです。彼らはリサイクル材料を用いた3Dプリントを希望し、最終的にはカタール国内の廃棄物からリサイクル素材を作れるようにしたいと考えています。そこで、私たちのリサイクル設備がさらに貢献するのです。
実際に今回も、通常の3D印刷物では48℃もある外気温に耐えられないため、ドーハの土漠の砂を用いて耐熱コーティングした資材を使用しました。
現在、カタールのほかにもスロバキアやアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ首長国でも進めていますが、ドーハの事例は、国の予算をグリーンテクノロジーや持続可能性に関する活動のみに費やすのではなく、持続可能な方法、具体的に実現可能なサービスに支払ってもらうことができた、非常に良い例だと思います。
繰り返しになりますが、3Dプリンターを持っているだけでなくリサイクルの技術も持っているため、廃棄物を製品へとリサイクルでき、その循環を継続できます。
国として、環境問題・持続可能性への国民の意識を高めるだけでなく、国として環境を考慮した持続可能な社会基盤を実装できた事例の一つだと思います。
2030年まで湾岸諸国が3Dプリンティング産業の有力市場
—今後、3Dプリンティングの有力な市場はどこだと考えますか?
中東、UAEやサウジアラビアなどの湾岸諸国の市場では、多額の予算をかけて大きなプロジェクトを行っています。新技術へも寛容で、持続可能性について非常にモチベーション高く取り組んでいますし、スピード感がまったく違います。
最近ではとりわけサウジアラビア市場が魅力的です。我々のやる気や製品の品質、そして新技術にフォーカスしてくれ、機会を与えてくれます。例えばUAEやサウジアラビアでは、2030年までに全建物の3%を3Dプリントで作ることを目標とするなど野心的な目標を掲げています。また、リサイクルに関しても大きな関心を示しており、インフラなど多額の投資を始めています。ちなみにロシア市場もウクライナ戦争開戦前までは、3Dプリンティング市場にとって非常に良い市場でした。
また、アフリカ市場と湾岸諸国市場は、特にプラスチック製品の消費の面で成長している市場であるため、多くの投資が行われると予測しています。湾岸諸国ではふんだんな予算が確保され、水道会社、プラスチック会社に多額の投資を行っています。私の予想では、サウジアラビアが今後2~3年の間で最大の市場になると思います。したがって、湾岸諸国はとりわけ2030年まで、その後アフリカへとターゲットが動いていくと予測します。
—ちなみに日本市場はどのように見ていますか?
日本人は、オランダ人も似ていますが、ルールを守る国民性なのでリサイクルの活動はしやすいと思います。
自動車産業でいえば、BMWが自社の生産ラインからリサイクルされた材料を使って3Dプリントした部品を利用する方向に進んでいます。トヨタがそれを採用するかはわかりませんが、日本は組織的に環境問題や持続可能性に取り組んでいくと思いますので、今後に期待しています。
さまざまな国で環境配慮・持続可能性に対する取り組みが行われていますので、私たちの次世代リサイクル技術や3Dプリンティング技術を用いて、課題を解決していきたいと思います。
The One Project
https://www.theoneproject.eu/