記事を読む

ポリフェノールが豊富なことで知られるワイン。抗酸化作用があり、一般的に健康に良い栄養素として認知されています。そんなポリフェノールはワインやサプリメント等によって身体の内から摂る場合だけでなく、外から塗る形でも美容効果があるとされています。

今回はワイン用ぶどう生産時の副産物であるツルから美容成分を抽出し、美容乳液を作っているEarth∞You(アースアンドユー)さんから、こだわりのエシカルコスメができるまでの変遷や想いについて、サーキュラーエコノミーの観点よりお伺いしました。

※旧サイト(環境と人)からの転載記事です。

ワイン生産時の副産物から生まれたエシカルコスメ

―行っている事業について教えてください。

鈴木氏 長野県上田市で育てられているワイン用ぶどうの副産物をアップサイクルし、エシカルコスメを製造・販売しています。

ワイン用ぶどう栽培時には、ツルをはじめとしたさまざまな副産物が生まれます。ツルは剪定後、基本的には放置や焼却により畑に戻っていきますが、焼却は二酸化炭素の排出に繋がっています。

―なぜこの事業を始められたのですか。

北林氏 新卒で就職活動をしているときから、コスメの商品開発・マーケティングは憧れの一つで、酒類会社に就職してからもずっと頭の片隅にありました。ものづくりにこだわることで、お客様に喜びや笑顔を届けられる、そんな観点から、お酒とも共通点があると思っていました。

商品アイデアのベースになったのは、勤務先(大手飲料メーカー)でのプロジェクトです。当時、社会課題解決と事業の両立を推進するCSV戦略の部門にいて、健康・環境・地域コミュニティといった社会課題をベースにした新規事業を考えるようになりました。そのときに自ら提案したのが、ワイン生産時に出る副産物に着目したコスメの新規事業でした。

それが2018年のことでした。その後、諸事情によりプロジェクトは中止となったのですが、個人的にあきらめきれなくて。その後、妻の美容ニーズを聞いていくうちに、結果的にコンセプトから原料・商品に至るまで開発をやり直し、2021年にぶどう畑のある地域の活性化にも繋がればと、長野県上田市で夫婦二人で起業しました。

地球も人も美しくなる、こだわりの商品とは

―Earth∞Youの商品にはどのようなものがありますか。

北林氏 現在大きく3種類の商品があります。メインは「美容乳液」です。美容液と乳液双方の役割を果たしてくれるものです。もう一つが「美容クリームパック」で、夜寝る前に塗る、朝起きてからパックとして使う、アイクリームの代わりに使うといった幅広い使い方ができます。

その他、2023年8月から発売を開始した商品、「レザーコスメティクス 革製品用ケア乳液」です。すべての商品に共通してレスベラトロールを配合しています。

人の肌だけでなく、レザー商品のお手入れにも有効で、販売開始したレザーコスメティクス

―なぜワインのレスベラトロールに着目されたのですか。

北林氏 前職では「健康」の領域に特に注力していたということもあり、ワインの研究者の方から成分に関するいろいろなお話を聞いていました。中でも、ワインに含まれるポリフェノールの一つである「レスベラトロール」という成分がいかに健康に良いかという話も聞いていました。

レスベラトロールとはポリフェノールの一つの成分名です。抗酸化力が強いだけでなく、さまざまなエイジングケアに良いとされているのですが、調べれば調べるほど、こんなに幅広く肌に良い効果を及ぼす成分はなかなかないのでは、と思ったんです。

ワインを飲む、サプリメントとして摂取するといった身体の内からの摂取が良いだけでなく、肌に塗ったりと外から摂った場合も健康に良いとの研究結果が出ていると教えてもらい、着目しました。しかも、このレスベラトロールは、ぶどうの果実より枝葉やツルに多く含まれています。

―なるほど。ぶどうのツルはなぜ剪定して捨てられているのでしょうか。

鈴木氏 ぶどうは蔓植物なので毎年新しいツルができて新しい実ができます。そのため、ワイン用ぶどう生産のために、ある程度の高さまでツルはカットされます。あまりツルを伸ばすのに栄養を使ってしまうと実に栄養が入らなくなってしまったり、風通しが悪くなったりしてしまうんです。

剪定され焼却された枝やツルは炭になり、肥料として畑に戻っていくことはできます。ただその際に二酸化炭素が発生するということで、日本だけでなく世界中のワイン用ぶどうの生産地で二酸化炭素の排出が問題になっています。

ツルの剪定後のワイン畑の様子

―アップサイクルによって独自原料を作る上でのメリットやデメリットはありますか

北林氏 畑の状況、例えば、除草剤も肥料も使わず、植物が生命力強く育っている様子などを直接、目で確かめながらナチュラルな租原料を入手できる点です。結果としてオリジナリティのある原料を開発・配合できます。一方で、副産物を自らの手で下処理をしていますし、手間はかかっています。

また、産地、品種、栽培方法、採取部位、加工方法など、さまざまな視点で工夫をした結果、開発当初から2年もかかって、レスベラトロールを高濃度に抽出することに成功しました。化粧品として仕上げるまでには、原料の確保、抽出だけでなく、その肌効果と配合量の関係を第三者機関に調べてもらうなど、さまざまな観点での試行錯誤が必要になってきます。

天然由来100%かつオーガニック認証取得可能という限られた成分スペックのなかで、商品の香りや使い心地など、多くの配慮が必要でした。

製造段階でのこだわりはありますか。

北林氏 人の肌にどれだけ良いのかどうか、という点にもこだわりました。自分たちも使い手として満足のいく量をたっぷり配合しよう、となったのですが、その「たっぷり満足のいく」量についてがかなりの検証が必要でした。

どういった検証なのでしょうか。

北林氏 シミの原因となるメラニン生成酵素「チロシナーゼ」が100%元気な状態の試験管に、原料を濃度を変えて入れてみるという検証です。酵素の働きが弱くなると効果があるということになりますが、当初の予定より16倍ほど多く原料を入れると、酵素の働きが約9割抑えられるということが確認できました。

―さまざまな手間がかかった、こだわりの商品なのですね。コスメ商品は2つとも「Cosmosオーガニック認証」を取得されていますが、そこにはどのようなこだわりがあるのですか?

鈴木氏 自分自身、オーガニックやエシカル商品がもっと広まってほしいとよく思っていました。オーガニックな食べ物についてはよく聞きますが、化粧品類等は「本当に効くのか?」という観点で、食品に比べあまり広まっていないように感じています。だからこそ、エシカルなコスメが広まっていくためには、オーガニックであることを認証で示すことや、ケミカルなコスメに負けない効き目や満足感が大事だと考え、エビデンスに基づいたものづくりにこだわりました。

北林氏 オーガニックコスメの定義って曖昧なんですよね。私たちは最初から世界基準のエコサートグリーンライフのオーガニック認証「Cosmosオーガニック認証」を取れるように想定して、工場選びにもこだわってものづくりをしていました。実はその中でも人によっては染みたり刺激を感じる成分もあるようで、試作品を自分たち自身の肌で実験しながら改良を重ねました。

長野県上田市のぶどう畑の様子

―どんな方に使っていただきたいと考えられていますか?

鈴木氏 私は夫のような美容に関するバックグラウンドはなくて、ワイン業界で勤めてきました。そのため商品開発にあたって、美容が好きな人だけをターゲットにするというより、自分たちのライフスタイルに近い方にぜひ使っていただけたらと思っています。

商品に共通しているテーマとして「使いやすい」「面倒でない」「シンプルなスキンケアができる」というのが挙げられます。

また、男性の方にもよく使っていただいています。コロナ禍でオンライン会議が増えた結果、自分の顔をよく見るようになり、スキンケアの重要性に気付く人が増えたのではないでしょうか。

―今や多くの男性向け化粧品がありますよね。

北林氏 でも、男性向けに作られたものが、必ずしも全員の好みや肌に合っている訳ではなかったと思うんです。例えば、香りが強かったり、スースーするものは乾燥しやすかったり。

鈴木氏 シンプルだけど満足感が欲しい方や、エイジングケアをしたい方、忙しい方、ジェンダーレスに使いたいという方におすすめです。夫婦やカップルでも一緒に使えるというのは意図して作っています。何をしたらいいのか分からないという方にもおすすめです。

地球も人も美しくなる、無限の循環を目指して

―現状抱えている課題はありますか?

北林氏 圧倒的に知名度の問題ですかね。ぜひ多くの人に体験してもらえるといいなと思っています。実際に直接お話ししたり、テスター等で体験してもらえるとより良さが伝わるので、まずは少しでも多くの方に試してもらいたいですね。

鈴木氏 ものづくりやコンセプト、ライフスタイルに共感していただける方に仲間として関わっていただけると嬉しいなと思っています。

―化粧品を作られている1メーカーとして、リサイクル業界に対する理想はありますか?

鈴木氏 理想として強く思っているのは日本酒業界の瓶のリサイクルシステムで、これは素晴らしいものだということです。世界で見てもサステナブルで先進的な容器と業界だと言われているらしいんですよ。美容業界でも、R瓶やリユース瓶による循環システムが入ってくれるといいのかなと思います。

北林氏 日本酒業界は、共通のボトルを作って、ラベルだけで差別化が図れているという土壌ができているのがすごいですよね。

―本日は貴重なお時間いただきありがとうございました!

2023.07.24
取材協力:アースアンドユー株式会社
https://earth8you.jp/