2025年5月、香港で開催された「APAC ESG Summit for SMEs 2025」。アジア太平洋地域の中小企業(SMEs)が直面するESG(環境・社会・ガバナンス)課題に対し、その解決に向けた最新の国際動向や現場での取り組みを共有する場として、多くの専門家や経営者が一堂に会する場です。このセミナーに、当社(株式会社サーキュラーエコノミードット東京 / 新井紙材株式会社)代表取締役の新井遼一が登壇の機会をいただきました。

主催団体である香港工業総会(FHKI:Federation of Hong Kong Industries)は、1960年に設立された香港最大の産業支援組織で、製造業をはじめ、さまざまな業種の中小・大企業が加盟しており、政策提言、スタートアップ支援、国際的ネットワーキングといった幅広い活動を展開しています。ESGサミットは、同団体が2022年に立ち上げた戦略的イニシアチブの一環であり、今回で第3回目の開催を迎えました。地域産業界の持続可能性推進における重要な対話の場として、年々その注目度を高めています。
本記事では、当社代表がパネルディスカッションで共有した日本における循環型経済の取り組みをはじめ、他の登壇者との議論内容やサミット全体で浮かび上がったキートピックをもとに、アジアの中小企業が今後どのようにESG経営を実践していくべきかについてまとめてご紹介します。

国際規制の潮流と香港・アジアの現状
サミット冒頭では、グローバルなESG規制の動向が紹介されました。2023年に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がIFRS S1/S2を発表し、EUや香港でも同様の開示基準が導入されつつあります。2025年以降、上場企業だけでなく中小企業にも情報開示やサプライチェーン全体でのCO2排出量管理が求められる時代が到来します。
特にEUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)やCSRD(企業サステナビリティ報告指令)など、域外企業にも影響する規制が強化されており、香港やアジアの中小企業も早期対応が不可欠です。会場では「規制はリスクであると同時に、イノベーションや新規ビジネスの機会でもある」との声が多く聞かれました。
日本の循環型経済の実践例を紹介
パネルディスカッションでは、弊社代表の新井遼一が登壇し、日本の中小企業による循環型経済の先進事例を紹介しました。

まず、建設廃材の石膏ボードをリサイクルし、同等品質の新製品として再生するスタートアップ「GYXUS」の事例を紹介。地元の建設会社や廃棄物処理会社が出資し、地域ごとにリサイクル工場を設立することで、真のローカル循環型サプライチェーンの実現を目指しています。

次に、プラスチックリサイクルの事例として、品質向上により大手自動車メーカーの厳しい基準を満たす再生プラスチックを供給する中小企業の取り組みを紹介。大手メーカーの要請に応じて中小企業が技術革新を進め、結果として新たな市場機会を獲得しています。
新井代表は「循環型経済を導入するには、まず自社を含むサプライチェーンで何が廃棄されているかを把握し、再生技術を持つパートナーと連携することが重要」と強調。日本では、SMEが地域コミュニティの主導役となるパターンと、大企業のサプライヤーとして高品質なリサイクル材を提供するパターンの両方が見られると述べました。
パネル全体の議論と今後の展望
他のパネリストからは、AIやデジタル技術の活用によるサプライチェーンの効率化、ESG金融の進展、政策支援の重要性などが語られました。特にAIは、製造現場の不良率低減やエネルギー最適化、データ収集の自動化など、SMEのESG対応を加速させる鍵と位置付けられています。
一方で、規制対応の煩雑さやコスト、データ管理の難しさ、人材育成の課題も指摘されました。これに対し、官民連携や業界横断の知見共有、サステナブルファイナンスの活用など、多様な解決策が提案されました。

最後に、サミット全体を通じて「ESGは単なる規制対応ではなく、レジリエンスと成長の戦略的ドライバーである」との認識が共有されました。香港・アジアの中小企業がグローバル市場で競争力を維持するためには、循環型経済やデジタル変革を積極的に取り入れ、持続可能なサプライチェーンを構築することが不可欠です。
本サミットは、ESGを巡る国際的な潮流と現場の実践をつなぐ貴重な対話の場となりました。今後も中小企業の現場から生まれるイノベーションと、政策・金融・技術の連携が、アジアの持続可能な成長を牽引していくことが期待されます。